はしゃぎすぎじゃないですか先輩!?
黎斗とマシュは、第二特異点である古代ローマの街を歩いていた。隣では、先程戦場を共にしたネロ帝が歩いている。
「──私たちが探しているのは、聖杯という──」
「──聖なる杯が、余のローマを──」
軽く情報を交換した。聞く限り、どうやらこの特異点ではネロの治めるローマとそれを脅かすもう一つのローマが争っているらしい。そして、先程まで二人は丁度ネロの軍と共にその敵と戦っていた。
「──取り合えず、まずは余と共に来るがよい。我が館にて、ゆっくりと話すとしよう」
マシュの状況説明が終わる。ネロに特に不快そうな色はなく、マシュは内心で肩を撫で下ろした。……偉い人との会話とは、何時も疲れるものである。それも、世界の命運がかかっていれば尚更だ。
彼女自身、
因みに、黎斗はローマに入ってからずっとドヤ顔で腕を組んでいた。
「……あの、どうしましたか黎斗さん? ずっと黙ってますけど」
「いや、いい街並みだなと思っていただけさ」
黎斗は呑気なことに、建築の壁を触りながら感嘆の息をついている。いとおしそうに壁を撫でる様は、まるで我が子を優しく触るようで……それが一層気持ち悪い。
「そうであろうそうであろう!? おぬし見る目あるな!!」
「ああ、これを作った技師は非常にいい腕だったのだろうな」
「うむ!! というのもだな、じつはこの建物は──」
しかもそれに合わせてネロ帝もはしゃぎはじめた。
マシュの心労はまだまだ続く。ため息が漏れた。
───
その日はかなり忙しかった。エトナ火山にターミナルポイントを設置しに行ったり、帰ったら帰ったで疲れを癒す暇もなく、歓迎の宴がそれは盛大に行われたり。
しかも各所で黎斗が尊大極まりない発言を行うものだから、マシュは事態の収拾に追われていた。そしてかなり疲弊していた。
神祖とないう人物の話を始めたとたんに『神は私だ』なんて言ったときには、思わず盾で殴ろうかとした位だ。
結局マシュが安心して床につけたのは、深夜2時を回ってからだった。
そして翌日。
「ハーハハハハ!!」チャリンチャリン
「ちょっ、待ってください先輩!?」
その日は晴れていた。照りつける太陽の元、一行はガリアへと遠征する途中であった。
……しかし、マシュやネロは馬に乗っての移動であったが、黎斗だけは
「いくらスピード出しても、うっかり足を踏み外して落馬したことは誤魔化せませんよ!?」
「ハーハハハハ!! そんなことは無かった!! ハーハハハハ!!」チャリンチャリン
泥を巻き上げながら走るその姿に、マシュは冷や汗を隠せない。彼の車輪は微妙に左右に揺れていた。
絶対転ぶ。あれ絶対転ぶ。確信は出来たが、声に出すことは出来なくて。
「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」
ズコッ
「黎斗さーん!?」
───
「はぁ……はぁ……」
「あんな無茶するから……」
大体2時間の後。そんなこんなで、黎斗とマシュはガリア遠征軍の野営地にやって来た。
そして黎斗は、ここに待機していたサーヴァント……スパルタクス、ブーディカとの顔合わせを終え、取り合えず怪我を直すため休むことにする。
そうして、ようやくマシュに安息の時間が訪れた。
「本当は君達の力を確かめたかったんだけど、今日は無理そうだね。残念」
「すみません……」
黎斗が去った後で、なんだか居心地悪く、一人済まなさそうにしているマシュに、ブーディカが声をかける。
「別に、あんたは悪くないから良いんだよ」
「はい……」
そう応対するマシュ。ブーディカは何かに勘づいたようで、ぼんやりとしたマシュのその顔を覗きこんだ。
「……ふむふむ」
「……どうか、しましたか?」
「ほうほう、なるほど」
「……?」
「いろいろ複雑な事になってるんだねぇ、あ、よくみたらめんこいねぇ!!」
マシュの疑問に答えることなくブーディカは一人納得し、マシュを暫く見つめたあと、彼女を抱き締める。
「こっちおいで、ほらよしよし」
「え、ちょっ」
「よしよしよしよし」
「な、何を」
突然の出来事に硬直し、顔を赤らめるマシュ。未だにブーディカが頭を撫でている。
柔らかかった。よくわからないが、ふわりとした香りがした。
「私にとって、あんた、いやあんた達は妹みたいなもんさ。遠い時代からよく来たね!! それに……なかなか強そうだ」
「そんな……」
「いやー、ネロ帝の味方って聞いてたからちょっと身構えてたけど安心安心!! 今はとってもいい気分!! よーし、お姉さん料理作っちゃう!!」
「え、ご飯なんてそんな」
「いいのいいの、よく食べて、よく寝る。それが元気の元ってもんさ。今向こうで寝てるだろうマスターさんにも効くってもんよ」
……マシュにとって、これが初めての他のサーヴァントとの触れ合いであった。
冬木では黎斗が一人で突っ走り、ラ・シャリテでも黎斗が一人で殲滅してしまったから、マシュは後ろで黙ってついていくことしか出来なかった。それは頼もしかったとも言えるが、寂しかった。
故にマシュの中では、一層ブーディカへの信頼感が高まっていた。
───
その夜。
「で、どうしてこんなところに呼んだのかな? お姉さんに何か相談?」
「……」
「さっきは怪我してたけど、もう治ったみたいで良かった良かった。でも勝負は明日にしよ? マシュちゃん寝ちゃったし」
「……」
時は深夜。場所は森の奥深く。立っているのは黎斗とブーディカの二人だけ。
周囲が寝静まったのを見計らって、黎斗がブーディカを連れ出したのだ。
「んー……じゃあ、もしかして恋バナ? お姉さんに何でも聞いてね? 私そういうのイケる口だから」
「……ブリタニアの勝利の女王、ブーディカ」
「やっぱりマシュちゃん? 可愛いよねあの子」
黎斗は後ろ手に隠していた、ガシャコンバグヴァイザーに手を伸ばす。
「でもまだマシュちゃんの方が黎斗君に好意をあまり持ってないから……」
チャキッ
「……御託は不要だ。死ね」
ブァサササッ
「……え?」
ドサッ
全身の力が抜け、思わずその場に膝をつくブーディカ。目の前にいるのは、紛れもなくさっきまでいた黎斗。
……騙していたのか、いやまさか、そんな筈はない。だって、一緒に戦う仲間の筈。
それに一緒にいた彼女は、マシュは確かに……じゃあ、なんで私の体は痺れている?
ブーディカの思考力がだんだんと落ちていく。視界が暗く狭まっていく。見上げてみれば、彼女のその姿に心底満足げな顔を浮かべながら、黎斗がバグヴァイザーを腰に装備していた。
『ガッチョーン』
「変身……!!」
『バグル アァップ』
『デンジャラス ゾンビィ……!!』
───
夢を見ていた。
マシュ・キリエライトは夢を見ていた。
『患者を救いたい…ドクターとして当然だ』
檀黎斗がいた。何処かの部屋で、白衣の誰かと話をしていた。
かつてロマンが、サーヴァントとマスターは互いの記憶を夢に見る……そんな感じの事を言っていた。つまり、これは彼の記憶なのだろう。
『しかし、私も飛彩君と同意見だ。犯罪者を救う前に、私達にも果たすべき使命がある』
そう語る姿は理知的だった。
もしかしたら、彼も本当はこんな感じで、人理焼却という悲劇に見舞われたからこそあんな風になってしまったのかもしれない、そう思った。
突然、マシュの夢にノイズが走った。
『多#の$\はや%を&2いさ。%^されない@々\\と53を与*る……それが5@ムという3%タ<>..8トの%命&!#7てそれを実$させ#神919が*に5る32#1か9#あ!!』
……頭が痛い。焼けるように痛い。凍るように痛い。痺れたように痛い。とにかく痛い。痛い痛い痛い痛い。
これ以上この記憶に触れてはいけない、彼女の霊基が叫んでいる。
頭が本当に、割れそうなくらい、何度も、何度も、痛みが襲う。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い──
「あああああっ!? ……はぁっ、はぁっ……」
マシュはそこで目を覚ました。
『大丈夫かマシュ?』
「ドクター……いえ、大丈夫です。怖い夢を見た、だけですから……それより、先輩は?」
『……それが……何者かにジャミングされていてね。君の様子をみるのがやっと、他は全部砂嵐しか見えない……全く、何も見えないんだ』
マシュの心に、一つすきま風が吹いた。
───
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
「
鎌に変形したガシャコンスパロー、その刃がブーディカの呼び出した車輪に突き立てられる。
勝利の女王の車輪、その堅さは伊達ではなく、ゲーム病にかかり満身創痍のその体でも、辛うじてゲンムの凶刃を食い止めていた。
「ねえどうして!? どうしてこんなこと……こんなことするの!?」
「お前が知る必要は無ぁいっ!!」
更に車輪に鎌が食い込む。……もうブーディカには限界が近づいていた。
「教えてよ!! お願いだから!! 困ってるなら私、力になるから!!」
「大人しく……死ねええええええええええっ!!」
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
咆哮と共にガシャットを挿し直し、キメワザを重ねがけするゲンム。
そして。
バリンッ
ズシャッ
「か……はぁっ……」
『会心の一発!!』
「……」
守護の車輪は砕け散った。凶刃はその勢いのままに女王の胸元に突き刺さる。血が彼女の体に線を描いた。
……無言のゲンムが見送るなかで、ブーディカは静かに消滅した。
書きにくいパートは高速化かけて飛ばしていくスタイル
これシリアルでいけるか? 普通にシリアスじゃないか?