「とことん目立つ真似をして……全く、困ったものだ」
ガウェインを下し、聖抜を中止させた一行は、しかしそのまま聖都に攻め込む事はなく、オーニソプターに乗って退去していた。
というのも、勝手に晴人がガウェインと相討ちになり、エリザベートが人々を護衛すると駄々をこね、それにマシュやネロらが賛成し……といった様子で、難民を安全な東の村まだ護衛しようという事になったからである。
「うふふ、楽しいわ楽しいわ!! ねえもっとスピード出してもいいかしらマスター!?」
「止めておけナーサリー。下手したらマシュ・キリエライトにオーニソプターが破壊される」
現在オーニソプターに乗っているのは、運転手のナーサリーと、マジックザウィザードを修理する黎斗、彼の護衛のラーマとシータ、そしてアヴェンジャーのみ。残りは全員外だ。
「……やれやれ。あの人数の難民なら、食料もかなり減るだろう。難儀だな」
「寧ろ一回でも賄える数があるのが異常だがな。何にせよ、自分の分は確保しておいた方がいい」
「当然だ。……そもそも聖抜から逃れた五百人全員を連れていく等計算がなっていないというのに」
ちらっと外を見てみれば、五百人の難民たちが安堵を漏らしながら行進していた。
……どこに行っても、最早安息など無いのに。
「取り合えず、整理しよう。敵はアーサー王伝説に名高い円卓の騎士。首魁は獅子王……恐らくアーサー王。部下に授けているギフトは、アーサー王伝説の救世主の
「だろうな。短期決戦が望ましい。二度と同じ手は通じないだろうしな」
───
「所でマスター。余は、流石に顔面を盾で潰すのはどうかと思ったのだが」
「駄目でしたか? 一人でも多く救うためには、一秒でも速く殺さないといけない、と思ったのですが」
「いや、悪くはない。悪くはないのだ、余もスプラッタに理解が無い訳ではないしな。寧ろセネカには『スプラッター彫刻家ネロ』なんてあだ名までつけられた」
「……」
「……今の下りは余計だったな。すまぬ」
ネロとマシュは、周囲を警戒しながら難民を護衛している。幸運なことに、まだ敵の追っ手は無い。マシュはダ・ヴィンチ製のガンド銃を腰に提げながら、まだ見ぬ山村を目指す人々を見つめていた。
……その時、彼女は迫る何者かの気配を感じる。即座に銃を抜いて、気配の主へと銃口を向けてみれば。
「何者ですかっ!?」チャキッ
「……すいません、少しいいでしょうか」
「……ルキウスさんでしたか」
あの銀の騎士が立っていた。一先ずは警戒を解き、マシュは銃を持ちながらもルキウスを招き入れる。
「どうして、ここに?」
「……実は、先ほど聖都を攻略している所に出くわして、戦いを見させて貰いました。余りにも激しく戦闘していたので、乱入は叶いませんでしたが」
「……そうですか」
「お見事でした。全員を、救って……」
そうマシュを称賛するルキウス。だがその顔には、陰りがありありと見てとれた。
「何かありましたか?」
「い、いえ、何も」
「ん? 絶対嘘ついてるのだろう? 余は分かるぞ? ……何が言いたい?」
「……そんなことは」
マシュは銃を下ろした。少なくとも、今のところは彼は誰も殺さない。そう確信が持てた。
───
そして太陽は上りきる。燦々と容赦なく降り注ぐ日光の下では歩く人々を横目に、黎斗はナーサリーに変わって運転を行っていた。
「山岳地帯が見えてきたな」
「ああ……あの高さなら、オーニソプターは置いていく他無いな。一応ステルス機能はあるらしいからまあ、すぐに奪われはしまい」
向こうにつくまであと一日か二日か……そう計算するアヴェンジャー。黎斗はその横でオーニソプターのモニターを操作し……敵影を捉えた。
「……待った。サーヴァント反応だ。既にマシュ・キリエライトとルキウス、その他外にいるサーヴァントが対処を行っているようだな」
「そうか、どうする?」
「私達も出陣しますか?」
「いや、待機だ。恐らく第二陣はこちらを攻める……この拠点を落とされるのは痛すぎるからな」
───
「この早さ……貴公か、ランスロット……!!」
敵の馬の足音が迫る。何が来ているのかを察したルキウスは銀の腕を光らせ、我先にと逃げる難民達を庇うように立った。既に他のサーヴァント達も迎撃態勢を整えている。
しかしマシュは、ルキウスの言葉を聞いて少しだけフリーズしていた。
「ランスロット……?」
「どうしたマスター? 体でも痛いか?」
「……いえ。少し、頭痛がしただけです……行きましょうネロさん。皆さんを守るために、少しでも速く敵を殺します」
ネロの心配にすぐにかぶりを振って、マシュはギアデュアルBを手に構える。
『Britain warriors!! K..i:hts a<4ng knii%ii』
……しかし、ガシャットのギアは動かなかった。ナイツゲーマーになろうと力を籠めた所で、何かに引っ掛かったように、全く動かなくなったのだ。
「……え?」
『g=}gg56ghh\hjhh3}4hhhte78tttss3:ss』
「故障か!? 故障なのか!?」
「いや、それは……まさか、ガウェインが抵抗を……!?」
マシュはそれに思い至る。
プロトガシャットギアデュアルBは、イギリスに縁のある英霊を勝手に収集し力に変えるガシャット。そしてその英霊には意志が残る。
……つまり、ガシャットのB面である『Knight among knights』の中に割り振られたガウェインが、ガシャットの中で抵抗することで変身が出来なくなったのだ。
「くっ……」
「どうするマスター? ここは退くか? 別に、余だけでも何とか出来ない事はないが」
「まさか、そんなことは出来ません!! ……私も戦います。ええ、私は戦わなくちゃいけません」
それでも盾を構えて敵を睨むマシュ。戦意が失せる事は決して無かった。
そんな彼女に、後ろからやって来たジークフリートがバグヴァイザーを渡す。
「……ならば、俺のバグヴァイザーを貸そう。元より不死身の身、それに頼らずとも人々は守ってみせよう」
「ジークフリートさん……ありがとうございます」
『ガッチョーン』
「なに、礼はいらないさ」
ジークフリートは後方に下がり剣を構えた。前方にはランスロットを迎撃する部隊、後方には人々を守る部隊……知らず知らずの内に、誰かが言い出す事もなく、彼らは二手に別れていた。
「ランスロット卿、敵影、補足しました。第二陣の到着を待ちますか?」
「いや。このまま突撃する……例の『最後の希望』の姿は今のところ無いようだからな。これ以上増えられる前に、格個撃破を目標とする。第二陣には向こうにあるピラミッド型の拠点を襲わせろ」
そして、馬に乗って全速力で敵へと突き進む円卓の騎士、ランスロット率いる一団は、早朝に聖抜を中止させた賊を追跡していた。前を見てみれば、他のサーヴァントの仕業だろう沢山の火縄銃が浮いている。
「これはアグラヴェインからの指令、故にわざわざ手心をかける必要は無い。補佐官殿はこの任務が終わらぬうちは我らに聖都への入場許可は出せない、と仰せだ……全く、日中のガウェインを下した軍団相手に我々だけとは、補佐官殿は我らを使い潰したいらしいな。早々にある程度片付けて帰投するぞ」
馬はだんだんと近づいていく。敵は宝具で弾丸を一斉に放ってきたが、彼は気にする事もなく全て切り裂いて突貫した。
「なんじゃあれ!?
「ギフトの影響ですよ姉上!! 取り合えず退きましょう、敵が近すぎます!!」
それに慌てるのは弾丸を放った信長の方。既にランスロットは数メートル先まで迫っている。
あわてふためきながら距離を取る二人の後ろで、ルキウスとマシュ、ネロは敵を見つめていた。
「聞こえましたか、ネロさん? 『早々にある程度片付けて帰投するぞ』ですって」
「うむ。府抜けているな」
「ええ……敵を前にしてその様な事を言えるなど、度しがたい。……少なくとも、私は本気なのに」
「うむ、活を入れてやらねばな」
「……二人とも、無理はなさらぬように」
憤るマシュとネロをルキウスが諌める。しかし、その言葉は突っぱねられて。
「無理? しますよ? 無理しないと誰も助けられないんですから、そうするに決まっています」
「……そうですか」
敵はいつの間にか馬から降りて、三人を取り囲むように並んでいた。
「……諦めろ。投降しろ。今諦めれば、痛みなく殺せるぞ」
「断る、ランスロット卿!! 」
「っ……ベディヴィエール卿!? どういう事だ……!?」
銀の腕でランスロットを牽制するルキウス。ランスロットの方は彼の顔を見て、何かに気づいたようだった。ネロも困惑の表情を浮かべている。
「……ベディヴィエール、だと? ルキウスは偽名だったのか?」
「ネロさん、集中を。今はそれは後回しです」
マシュだけは落ち着いていた。いや、敵しか最早眼中に無かった。そんなマシュに、ランスロットはルキウスから目線を移し……やはり驚きをその目に浮かべた。
あるはずの無い、いるはずの無いそれが、そこに存在していて。
「……っ!? その、盾は? 君は、まさか!?」
「……それを知って何になるでしょうか。私はマシュ・キリエライト、これは貴方を殺す盾。それだけで十分です……変身!!」
『Transform shielder』
そしてマシュは変身した。
───
『Arts chain』
「はあっ!!」
ガンッ
盾を振り回すシールダー。相対するランスロットは、上手く本気を出すことが出来ない。愛剣を振り上げてみても、攻撃する一歩手前で躊躇ってしまう。彼の意識は何処か遠くへ向いているようにも見えた。
「くっ……まさか……」
「ランスロット卿!? 上です、上!!」
「ん……?」
粛正騎士に言われた通りに上を向くランスロット。何故か、前方にはシールダーの姿は無く。
『Buster brave chain』
「はあっ!!」
ズガンッ
次の瞬間には、シールダーの盾の側面が大地を割っていた。咄嗟にランスロットは回避していたが、避けなければ脳天を割られるのは確実だった。
「どうしましたかランスロット卿!? 我らは獅子王の騎士、今更迷いなど──」
「
粛正騎士達はネロやルキウス、そして他のサーヴァント達によって数を減らされていく。第二陣はまだ到着していない。
『Quick brave chain』
「貰った!!」
「かはっ……!?」
ランスロットの腹に、シールダーの蹴りがめり込んだ。それでも彼は戦えない。
真実を察してしまっては戦えない。
「……退却するぞ!!」
「ランスロット卿!?」
「第二陣に合流する!! 態勢を立て直す!! 総員撤退!!」
「し、しかし……」
「撤退っ!!」
結局、ランスロットは退却を選択した。シールダーがガンド銃での追撃を試みるが、それはランスロット本人に命中はしなかった。
「……逃げられましたね」
「うむ。まあ、怪我が無くて良かった!! 余は嬉しい!!」
「……そうですか」
盾は側面で攻撃するもの
メロンの君もそう言っている