Fate/Game Master   作:初手降参

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鉄の戒め、土の拘束

 

 

 

その翌日。捕らえられたハサンの仲間を救出するために西の村にベディヴィエールを残して旅立った一行は、砂嵐に吹かれながら砂漠を歩いていた。

 

……いたはずだったのだが。

 

 

「……で。こいつはどうするのだ?」

 

「うう、ひっく。怖かった、怖かったよぉ……なんで、なんで人が弱ってるときに、こう、ぐわーって襲ってくるのよぅ……」

 

 

その途中で一人の少女を拾ったため、かなり足止めを食らっていた。

 

 

「あたし何もしてないのに……あ、ごめん嘘、ちょっと水場は独占したけど、他の分も残してたのにぃ……もうやだぁ……」

 

「……置いていくか?」

 

「いや、サーヴァントとしてはトップクラスの霊基だ……とドクターが言っています」

 

「うむ、しかし……」

 

「ひとりぼっちで現界しちゃうし、菩薩さまの声聞こえないし、霊体化はなんか気持ち悪いからしたくないし……うぅ……」

 

 

周りでハサン達やマシュが唸っているが、少女はそれを無視して泣きわめく。ついでに言えば、黎斗と晴人は何故か沸いていた巨大な竜を倒して解体して、ドラゴンステーキを作りながら少女の声を聞いていた。

 

 

「これというのも悟空たちに暇を出したから……でも仕方ないよね、あの馬鹿弟子たちあんまりにもだらしないから!!」

 

「え……もしかして、この人三蔵法師? えぇ……」

 

 

焼き上がったステーキを少女に差し出しながら戸惑う晴人。彼のイメージとは、その三蔵は少しばかりずれすぎていて。

 

 

「そうよ、あたしは玄奘三蔵!! 御仏の導きでこの地に現界したキャスターのサーヴァント!! 半年前どこかに召喚されて、導きのままにシルクロードを渡ってやってきたわ。聖地の異常という未曾有のピンチを止めるためにね!!」

 

「……そこまで特異点が広かったのですか? 何処からシルクロードを渡って来ました?」

 

「うーん……それは、よくわかんない。というか正直、このあたしは天竺帰りのあたしだからちょっと面倒だなって思ったけど……御仏の導きだし仕方ないよネ!! いただきます!!」

 

 

返事もそこそこにドラゴンステーキに手をつける三蔵。あれ、仏教って肉良かったっけ? と今になって晴人は考えていたが、美味しそうに食べているので、まあ気にしないことにした。

因みに黎斗は未だに火に向かって、全員分のステーキ、それに加えて持ち帰り用の干し肉まで作らされている。

 

それを横目に、マシュはさらに質問する。そんなに長く滞在しているなら、聖都の事を知っていてもいいはずだ。

 

 

「では……獅子王の聖都のことを知っていますか?」

 

「もちろん。というか、賓客扱いで二ヶ月くらいあそこにいたし」

 

「何だと?」

 

「えっ……聖都に、滞在を?」

 

「ええ。快適だったわよ? みんなのびのびしてて、笑顔で、悪人が一人もいなくて……でも出てきた。あたしの居場所じゃなさそうだったから」

 

「……」

 

 

よくわからない理屈だった。三蔵はドラゴンステーキを平らげて晴人に食器を渡す。

 

 

「ごちそうさまでした。ええと、助けてくれてありがとう。感謝するわ……うん、貴方たちに協力します」

 

「本当か!?」

 

「……いいんですか? 私たちは聖都と敵対しますよ?」

 

「……大丈夫。だって私は、きっと貴方たちに協力するためにここまで来たから!!」

 

 

やはりよくわからない。しかし味方になるなら僥倖だ。幸先は良いように思われた。

 

───

 

そして日が沈んだ頃に、彼らは目的の砦へと辿り着いた。救出するのは静謐のハサンと、元々三蔵の同行者だったらしい藤太というサーヴァントだ。

 

 

「……ここか、騎士の砦は……哨戒の兵は外壁に十人城壁の上に十人って所だな」

 

「首尾こそ固いが、なに、見張りは夜目も利かぬただの案山子。恐れるに足りぬわ」

 

 

そう言いながら砦に侵入しようとする百貌のハサン。しかし辺りを見回していた三蔵がそれを引き留める。

 

 

「……待って。この砦のみんな、緊張してる。あたしたちの襲撃を知ってるみたい」

 

「何だと? いや……そうだな」

 

「警戒はされるのは、まあ当然だな。ああ、敏感でなければむしろバグだ」

 

「まあそうですな。ここは、しばらく隠れて様子を見ましょう。緊張も長くは持たないはず……ん?」

 

 

突然呪腕のハサンが振り向いた。見える範囲には何もいないが、彼は寧ろその向こうを、物の判別も出来そうにないくらいの遠くを睨み付ける。

 

 

「ん、どうかしたのか?」

 

「……聞こえますな、こちらに向かってくる馬の足音が。この分なら……最速で向かって静謐とトータを助け出したとしても脱出時にかち合いますぞ」

 

「……拷問目的の可能性がある。その面に強いサーヴァントもいるのだろう?」

 

 

黎斗の唱えた推測は誰にも否定出来なかった。となると、ここは最悪の事態に備える他無い。

百貌のハサンが、少し考えて切り出した。

 

 

「……ここは二手に別れるぞ。片方は脱獄の手伝い、もう片方はやって来る馬の部隊の陽動、だな」

 

「うむ、それで行く他ないな」

 

───

 

『フォール プリーズ』

 

   スタッ

 

「……凄いな。あっという間に地下牢だ」

 

 

砦に侵入したのは晴人、黎斗、呪腕のハサン、そして三蔵。残りの三人は外で待機している。

晴人の魔法で地下牢に侵入した彼らは、無数に枝分かれした道を前に懐を漁っていた。

 

 

「随分と道が分かれているな。地下迷宮か?」ゴソゴソ

 

「そうだな。暗くて湿っぽくて、なんか凄い嫌な所だ」ゴソゴソ

 

「……何してるの?」

 

「まあ見ておけ」

 

 

……そして二人は、それぞれの使い魔を呼び出して。

 

 

『ガルーダ プリーズ』

 

『ユニコーン プリーズ』

 

『クラーケン プリーズ』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ギリギリチャンバラ!!』

 

『ジェットコンバット!!』

 

『ドラゴナイトハンター Z!!』

 

 

同時に現れたのは晴人のプラモンスターと黎斗のゲーマ。彼らはそれぞれの道に入り込み、闇のなかに掻き消える。

 

 

「これだけいれば、態々それぞれの道を探る必要もあるまい」

 

「へー、凄いのねぇ」

 

 

 

……三分経過。

ずっと息を潜めて隠れていた一行の元に、晴人のユニコーンが戻ってくる。

 

 

「どうだった?」

 

『ヒヒーン!!』プルプル

 

「……見つかった。急ぐぞ」

 

 

晴人がそう言いながらガルーダとクラーケンを回収し、再び走り出すユニコーンを追いかける。黎斗もゲーマを回収し、他の二人と共に追いかけ始めた。

迷いなく走る一行。彼らは牢の近辺に潜むゴーストの類いも無視して、最短距離でサーヴァントの牢まで辿り着く。

 

 

「……おっと、止まりましょう。牢の前に守衛と思われる敵影がいますな。で、牢の中にはサーヴァント」

 

「……不意討ちが望ましいな。操真晴人!!」

 

「はいはい」

 

 

牢の前にいるのは巨大な岩の怪物。黎斗が晴人に指示すると同時に、晴人はこっそりオレンジの指輪をはめて。

 

 

『スモール プリーズ』

 

「走れ、ユニコーン!!」

 

 

そして、小さくなった彼はユニコーンに飛び乗り、怪物の股をすり抜けて牢に侵入、その中で元のサイズに戻った。

いつの間にか侵入されていたことに驚愕し、怪物が牢に視線を向ける。

……その瞬間に、彼の心臓は潰されていた。

 

 

妄想心音(ザバーニーヤ)

 

   グシャ

 

───

 

「……そろそろ馬が到着するぞ。私は兵士を誘導する、騎士は任せた」

 

「分かりました」

 

『ガッチョーン』

 

「変身!!」

 

『Transform shielder』

 

 

その頃、ネロとシールダーは迫り来る馬の軍団を相手に立っていた。並び方を見るに、どうやら中心の黒い鎧の男が円卓の騎士のようだ。

 

 

「……どなたかな、君達は」

 

「……仮面ライダーシールダー。その命貰います!!」

 

『Buster brave chain』

 

「はあっ!!」

 

 

先手必勝、相手がまだ馬から降りないうちに盾を振りかぶるシールダー。その一撃は黒い騎士の鼻面まで迫り……しかし届かない。

 

 

「鉄の戒め!!」

 

   シュルシュルシュルシュル ガッ

 

───

 

「……ごめんなさい。もう、この人は死にます」

 

「なんで俺は余命宣告されてるんだ?」

 

 

その頃。救出したサーヴァント……俵藤太のいた牢の近くにあった、最も深い牢にいた静謐のハサンをも立て続けに救出した黎斗たちは、何とも言えない光景に直面していた。

静謐のハサンの鎖を外した晴人に、疲れで力が上手く入らないハサンが倒れこんでしまったのだ。

 

 

「ごめん、なさい……助けにきてくれたのに、私、また、殺して……」

 

「……?」

 

「……いや、操真晴人は毒では死なない。死ぬはずがない。死なれては困る……何しろ、そいつは私の作ったゲーム(機械)だ」

 

「……え?」

 

「うん。ほら、普通に立てるし」

 

 

後悔にうち震えていた静謐のハサンは、平気で立ち上がる晴人に驚愕する。それまでの彼女の知らなかった、自分が接触しても死なない人物。それは新鮮な驚きで。

 

 

「ハッハッハ、良かったじゃないか」

 

「……とにかく脱出するぞ。マシュ・キリエライトと百貌のハサンでは正直円卓は荷が重い」

 

 

晴人から目をそらし、そう言って立ち上がる黎斗。ここまで道は覚えている、迷うことはない……はずだった。

しかし、部屋から出ることは叶わない。何故ならば。

 

 

「……それは性急というものだ。休息ならここで取っていけばいい。こんにちは諸君、ようこそ私の尋問室へ。盗人だろうと遠方からの客に変わりはない。歓迎する、遥かな天文台からのマスターよ」

 

「円卓の騎士、アグラヴェイン……!!」

 

 

既に、円卓の騎士がここまでやって来て、そして廊下に立っていたから。

 

 

「っ、マシュちゃんはどうした!!」

 

「……あのギャラハッドの盾の少女か。よくやっていたよ、鉄の戒めで縛られてなおもがき、私に対してルールブレイカーを突き立て、ギフトを解除しようと試みたのだから。……まあ、私にギフトは無いので、無駄な努力となったが」

 

 

そう語る騎士アグラヴェイン。どうやらマシュは負けたらしい。恐らく百貌とネロが助けてはいるだろうが、無事とは言えないだろう。

少しだけ動揺する一行を前に、アグラヴェインの周りの騎士が剣を抜く。

 

 

「何にせよ、お前たちはみな粛正の対象だ。捕らえて、聞くことだけ聞いて、処断する」

 

「相変わらず遊びが無いのねアグラヴェイン!! だから皆に嫌われるのよ!!」

 

「それも結構、私は人間が嫌いだからね、むしろ望むところだ」

 

「……むしろ聞きたいことは何なのですかな?」

 

「色々だ。表で交戦したギャラハッドの盾の少女が姿を変えていた理由、使ってきた技の数々、そしてサーヴァントであるはずなのに全くそうとは感じさせず、しかも鉄の戒めで縛られても易々と打ち破る皇帝。用心するに越したことはない」

 

 

淡々と語るアグラヴェイン。晴人は静かに彼に狙いを定めて、不意討ち気味に鎖を解き放った。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

「っ、鉄の戒め!!」

 

   カンッ カンカンッ カンッ

 

「くっ……」

 

 

しかしそれらは、アグラヴェインの呼び出した黒い鎖に打ち消される。こうなっては、ある程度の交戦は避けられない状況にあった。

 

 

「「変身……!!」」

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

『ランド プリーズ!! ドッドッ ドドドドンッ ドンッ ドッドッドンッ!!』

 

 

変身するゲンムとウィザード。黄色いランドスタイルになったウィザードは、少しでも時間を稼ごうと部屋に蓋をする。

 

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

 

土の壁が競り上がり、騎士達のいる廊下との間は分かたれる……しかしすぐに、それは騎士達によって打ち破られた。

 

 

   バンッ

 

「ノータイムで突破かよ……!!」

 

「私の粛正騎士は……かつて宮廷で逆上し、多くの同胞を斬り殺して遁走した愚か者を参考にして強化してある。浅ましい狂犬の剣だが、お前たちにはふさわしい。やれっ!!」

 

「……相手してあげよう」

 

『ギリギリ チャンバラ!!』

 

 

ガシャコンスパローを鎌の形態にして構えるゲンム。その背後で三蔵は腰を落として拳を握り、俵藤太は弓をとり、呪腕のハサンは弱って上手く立てない静謐を庇い立ちダークを構え……そしてウィザードは周囲の壁を見渡していた。

 

 

「はあっ!!」

 

   ズシャッ

 

 

騎士を斬るゲンム。隣では三蔵が別の騎士を吹き飛ばし、藤太が追い討ちをかけていた。呪腕のハサンは静謐を庇いながらダークで相手を牽制している。

 

 

「いくら倒した所で、私の部下はまだまだやって来る。早く諦めろ」

 

「まさか!! 全て倒し尽くしてやろう……!!」

 

「それは流石に無茶ですぞ黎斗どの!!」

 

「黙れ!!」

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

   ザンッ

 

 

纏めて敵を斬り伏せるゲンム。しかし彼の他の面子は、少しずつ疲れを見せ始めていて……しかも、未だに弱っている静謐のハサンも何とかしなくてはいけない。

脱出は急務だった。しかしアグラヴェインを前にした今は元の道を辿ることは無理だ。

 

 

「くっ……ねえ晴人、何やってるの!?」

 

 

焦る三蔵が少し苛立った様子でウィザードに目を向ける。考えてみれば、彼はずっと土壁に触れては何かを考えている様子で。

 

 

「大丈夫、用意は出来た」

 

『ドリル プリーズ!!』

 

『チョーイーネ!! キックストライク!! サイコー!!』

 

 

しかしウィザードは明るい声色だった。刹那、足元に魔方陣を展開し飛び上がるウィザード。その足元ではドリルよろしくエネルギーが回転していて。

そしてその攻撃は……アグラヴェインでも騎士達でもなく、尋問室の天井を貫いた。

 

 

   ガガガガガガガガ

 

「なっ……天井まで、穴をっ!?」

 

 

ドリルのキックで外まで脱出口を開通させるウィザード。彼は再び己の鎖を用いて、まだ中にいる仲間達を引き上げる。呆気に取られた騎士達は思うように動けない。

 

 

『バインド プリーズ!!』

 

   シュルシュルシュルシュル

 

 

「待て、逃がすな、追え、追えっ!!」

 

 

アグラヴェインが騎士達を急かす。その声で慌てて地下牢を出る兵士達。しかし彼らが外に出てきた時には。

……既に敵は誰もいなくなっていた。

 




ディフェーンド!!

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