Fate/Game Master   作:初手降参

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命絶つほどの覚悟

 

 

 

『ハリケーン スラッシュストライク!! フゥフゥフゥ!!』

 

風王鉄槌(ストライク・エア)!!」

 

   ザンッ

 

「「ぐっ……!!」」

 

 

それからまたしばらくして。

モードレッドとトリスタンは、共に追い詰められていた。兜は欠け妖弦は切れ、相手の攻撃を受け止めることも出来ずに転がる。

 

 

「っ……おいトリ公!! お前押し負けてるのかよ!!」

 

「ああ、貴方もそうではないですか……私は悲しい」

 

     (パィン)

 

「……最早音すら出なくなってしまいましたか」

 

 

トリスタンはため息をついては、しきりに空を見上げていた。

 

 

「雑魚はもう散らし終えたぞ、残りはお前達だけだ!!」

 

「……何故か半分くらいの兵が攻撃せずに何か作ってたけど取り合えず倒しといたわ!! 何にせよ、痛い目見せてあげる!!」

 

 

さらに、そこに避難誘導と粛正騎士の殲滅を終えた百貌のハサンと三蔵、アーラシュが戻ってくる。

 

 

「……次はもっと頑丈になってたらいいな!! でもまあ……仕事はしたからまあいいか!!」

 

「何を言ってるのだ、貴様らに次はない!!」

 

 

トリスタンと背中合わせになり剣を向けるモードレッドを、百貌のハサンが分裂して包囲する。

しかし……二人の騎士は笑っていた。

 

 

「ふ、それは貴殿方も同じです、山の翁」

 

「父上は決してお前らを赦さねぇ。なにしろ邪魔がなければとっくに計画は終わってた!! だから……」

 

「……その酬い、無念と共に受け入れる時です」

 

「……どういうことだ?」

 

 

気にかかる事を言われた。この状況で、円卓にまだ手があるとでも言うのか?

 

 

「今から降るものは獅子王の裁き。聖槍ロンゴミニアドによる浄化の柱。……見たことはあるでしょう? 大地を抉り取ったクレーターを」

 

「っ……!!」

 

 

しかし、トリスタンの指摘で思い出した。

東の村への道中に存在していた巨大なクレーター……あれを作る一撃が、今からここに降ってくる。

 

 

「そん、な……」

 

「えっ、嘘じゃろ……!?」

 

「残念ながら本当なのですよ。寸分の違いもなく貴方がたの上に落ちてきます。一切の痕跡なく浄化致しましょう」

 

「それが……それがアーサー王の所業なのか?」

 

「無論!! 正気でなく粛正が許されるか!! ヒトを残さんがため、我が王は聖断された!! 裁きに情はいらぬ、我が王は、人の心を切り捨てた!!」

 

 

トリスタンはそう言い切った。その潰れた眼には、王に対する後悔と忠義、そしてそれから生まれた命絶つほどの覚悟が映っていて。

 

 

「と、とにかく逃げなきゃ!!」

 

 

恐怖で腰が抜けかけの三蔵が逃げ出そうとする。聖槍の攻撃を食らえば、きっと一溜まりもない。彼女は山の麓へ降りようとし……

 

 

 

 

 

「鉄の戒め!!」

 

    ガガガガガガガガガガガガ

 

「っ……!?」

 

 

その刹那、西の村全体を囲むように、あの黒い鎖が展開された。建物に絡み付き柱を経て大地を真っ直ぐに這う鎖は、瞬く間に頑丈な壁となって。

そしてその壁の向こうに、先程まで影も無かったアグラヴェインが立っていた。

 

 

「……逃亡は不要だ。貴様らはここで死ぬ」

 

「アッくん!? これは……」

 

「……まさか、粛正騎士の動きが悪いと思ったら実はこの鎖を設置するための仕掛けを作っていたとはな。こりゃ、一本とられたか」

 

 

鎖の壁を見上げながら、何かを悟ったように舌を巻く藤太。三蔵は未だにおろおろしている。

モードレッドとトリスタンはどこか自慢げで、鎖の壁の向こうにちらつくアグラヴェインも安堵を浮かべていた。

 

 

「だが、いいのか? この鎖に囲まれたら、お前たち円卓の騎士でも抜け出せないぞ?」

 

「ハッ!! 今更なんで死を恐れる!! これはな、オレたちごとお前達を殺す一世一代の大勝負だったんだよ!! 父上の槍の準備が整うまでオレ達が足止めして、その間にアグラヴェインが逃げられないように細工して、皆纏めて消え失せる。塵一つ残さないよう二度射ちだ!! 簡単で分かりやすいよな!!」

 

「なっ──」

 

 

モードレッドはそう言いながら、心底愉快そうに笑っている。彼女は非常に満足していた。敵を纏めて片付ければ、きっと王の部下の中でも唯一無二の活躍が出来る。……トリスタンがいるのはなかなか気にくわないが、最期くらいは気にしないことにしよう、と、彼女はそう思う。

 

 

「なあアグラヴェイン、父上から何か伝言はあったか? なああったか?」

 

「……『ご苦労だった、トリスタン卿、モードレッド卿』……とは言っていたな」

 

「くぅっ……っ!! やっと、やっと父上に、褒めて貰えたっ……!! よーし、今のオレは百人力だ、全員逃がしはしねえからな!!」

 

 

そう言いながら聖剣を握る手に力を籠めるモードレッド。それを見ながらアグラヴェインは静かに問う。

 

 

「……おい、山の翁一人とマスターの姿、ギャラハッドの盾の少女と皇帝の姿が無いが」

 

「ああ、いくらかは東の村に行ったぜ!! 後はどこかに隠れちまった!!」

 

 

モードレッドはあっけらかんと言いながら赤雷を纏った。トリスタンも剣を抜き、構える。

……アグラヴェインはほんの少しの間、愕然としていた。

 

 

「おい……隠れるのは仕方ないとしても、東の村に行っただと!? まさか漏らしたのか?」

 

「ん、言うなって言ってたか?」

 

「っ──!?」

 

 

汗の垂れる頭に手をやるアグラヴェイン。しかし彼はすぐにその汗を拭い、何でもないように取り繕った。

 

 

「……まあいい。私も最後の手段を用意している。残った奴等は私達がなんとかしてみせよう。だから……二人は存分に死んでいけ。そこの連中を道連れにしてな」

 

「おう!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 

「いや、いや、いや……!!」

 

 

逃げ場の無い環境に置かれて誰よりもパニックになっていたのはエリザベートだった。生前の末路からして逃げ場の無い空間というものが苦手だった彼女は、迫り来る死という存在に怯えていて。

彼女に手をさしのべるウィザードの腕すらも掴めず。

 

 

「速く逃げるぞ!! ほら!!」

 

「う、あ、やだやだやだやだぁ……!!」

 

「何言ってるんだ、ほら早く立って……!!」

 

 

「だから逃がさねえよ、我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

 

隙を見て放たれる暴力の奔流。そのウィザードは咄嗟に、聖剣の標的にされていながらも動けなかったエリザベートをその身体で庇い……倒れ付した。

 

 

「が、あっ……っ……!!」

 

   バタッ

 

「あ、っ、子ブタっ!?」

 

「晴人さんっ……!!」

 

 

……どうやら、脱出するにはもっと騎士二人を消耗させなければいけなかったらしい。もう残り時間は幾ばくも無いが、それでも足掻こうと多くのサーヴァントが飛びかかっていく。

 

 

妄想幻像(ザバーニーヤ)!!」

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

「もう諦めろ、燦然と輝く王剣(クラレント)!!」

 

 

全員が焦っていた。終わりは近い。その前に終わらせなければ、と。

 

 

「……あと少しだけ、二人を抑え込んでくれ」

 

「アーラシュさん……?」

 

 

……そんな戦局を俯瞰し、そして天を睨んでいたアーラシュ・カマンガーは突然言った。偶然彼の隣まで下がっていた信勝が、思わず彼に目を向ける。

 

 

「……今から一度だけ、あの槍を射ち返す。再充填の間に皆逃げろ」

 

「そんな事が出来たんですか!?」

 

「おう。()()()()()()()()がな」

 

「……えっ?」

 

 

淡々と、しかし笑顔で彼はそう言った。そのまま彼は弓を上に向ける。

 

 

「いいんですか、それで?」

 

「ああ!! それで皆の笑顔が守れるなら、何度でも死んでやる。……まあ一度きりしか機会は無いけどな」

 

「っ……」

 

 

……信勝は彼を止められなかった。己を犠牲にして一人でも多くの仲間を助けようとしているアーラシュを勝手に止めるなんて、それは自分勝手が過ぎる気がした。

 

 

「……そうですか。なら……僕も手伝います。何かあったら僕が食い止めますから、最高の一射をお願いします」

 

「ノブ!!」

 

「ノブ!!」

 

「……承った。こりゃ、恥ずかしいところは見せられないな」

 

 

ちびノブと共にアーラシュを守る体勢に入った信勝。やって来る粛正騎士を足止めし、少しでも多くの時間を稼がんと風を飛ばす。

そしてその隣で、アーラシュは天に向けた弓を引き絞った。

 

 

「──陽のいと聖なる主よ。あらゆる叡智、尊厳、力をあたえたもう輝きの主よ。我が心を、我が考えを、我が成しうることをご照覧あれ」

 

 

……天の彼方に一筋の光が閃いた。それこそがロンゴミニアドの一撃、大地を消失させる人には過ぎた力。

 

 

「さあ、月と星を創りしものよ。我が行い、我が最後、我が成しうる聖なる献身(スプンタ・アールマティ)を見よ。この渾身の一射を放ちし後に……我が強靭の五体、即座に砕け散るであろう!!」

 

 

それに相対して、弓兵は矢を放つ。

 

 

流星一条(ステラ)!!

 

 

 

 

 

衝撃は凄まじかった。あまりの耳鳴りで、音すらも聞こえなかった。

目を開ければアーラシュはもういない。しかし、その他の全員は、消えていなかった。

 

 

「……お見事でした。星を砕く技、そして貴方の生きざまの一端。この不肖織田信勝、しかと見届けました」

 

 

一つ礼をする信勝。そしてそのすぐ後に、彼は姉を回収せんと戦場に舞い戻る。

時間は作られた。既に疲労困憊の信勝でも強引に鉄の戒めの壁を抉じ開けられる位には。

 

 

「姉上、逃げますよ、急いで!!」

 

「しかしあの鎖はサーヴァントでは触れぬぞ!?」

 

「僕は()()()()()です!! ほら晴人さんも立って!! この時間を無駄にする訳には行きません……!!」

 

───

 

「黎斗どの!! あちらの村をご覧ください!!」

 

 

呪腕のハサンが悲鳴にも近い声を上げる。一通りの騎士を吹き飛ばした東の村の面々は、西の村に降り注ぐ光の柱を目に焼き付けた。一度目は柱を矢が相殺した。しかしその暫く後に降り注いだ二度目は、何にも阻まれずに突き刺さる。

 

 

「……まさか、あのクレーターを量産していたあの一撃か」

 

「……まさかとは思うが、向こうは全滅していない、よな?」

 

「さあ……何にせよ、あの光は美しい」

 

 

衝撃波に少なからずよろめきながら、黎斗は恍惚の表情を浮かべていた。そんな彼にアヴェンジャーが声をかける。

 

 

「おい。さっきまで戦っていたあの鎧のサーヴァントはどこにやった?」

 

「それが、遊んでいたら逃げられてしまってな」

 

「何ですとっ!?」

 

 

……てっきり倒したと思っていたサーヴァントのメンバーは黎斗を二度見する。何故あの圧倒的状況から逃がすことが出来るのだろう、そう思いながら。

 

 

「……マスター、もしかしてわざと逃がした?」

 

「……さあ、どうだろうな」

 

───

 

 

 

 

 

光の柱が鎖の中の全てを焼き払った時。間一髪で鎖をすり抜けて出てきた晴人は砂ぼこりにむせながら、足の痛みに顔をしかめながら辺りを見回す。

 

 

「……今、誰がいる?」

 

「いるわよ、子ブタぁ……」

 

「私もです……」

 

 

まず、砂まみれのエリザベートと、左腕が効いていない静謐のハサン。特にハサンの方は、倒れ混んだ晴人を庇ってモードレッドの剣を受けていたせいかダメージが大きい。

 

 

「わしはいるぞ!! 信勝もじゃ!!」

 

「はい!!」

 

 

次に声を上げた織田の姉弟は、ハサンの現状に比べれば健康そうに見えた。とはいえ、信長ともう一人を脱出させるために限界までちびノブを召喚した信勝にはもう戦う力は無い。

 

 

「私もいるわよ。でも、藤太は……」

 

 

そしてそのもう一人は、体は健康だが精神的にボロボロだった。

 

 

「……」

 

『ガルーダ プリーズ!!』

 

 

晴人は何も言わない。大体の事は理解できた。

自分達はまんまとしてやられた訳だ。自分は変身できそうに無いほどのダメージを追い、しかも脱出時の鎖の圧で足がひしゃげている。

 

ガルーダを飛ばすので体力的にも精一杯。……取り合えず彼は、魔力回復のためにも体を休めることにした。

 

───

 

「さっきの、さっきの光は、まさか……!?」

 

 

そして、村人達と共に避難していたベディヴィエールとネロは、西の村に突き立つ光の柱を見てから半狂乱になるマシュを押さえ込むのに必死だった。

 

 

「放してっ、下さいっ!!」バタバタ

 

「落ち着けマスター。……今は待つしか出来ない」

 

「でも、あそこは村人全員の故郷だったんですよ!! それに、サーヴァントの皆さんもまだ残ってる……!!」バタバタ

 

「今は待つのだマスター!!」

 

「そうです!! ここは、何とかこらえて下さい……!!」

 

「うっ……くっ……」

 

 

涙は流れない。それでも、悲しみはとめどなく。

 




現在の戦力

黎斗(ゲンム)
アヴェンジャー
ラーマ、シータ
ナーサリー・ライム
呪腕のハサン

晴人(ウィザード) ※戦闘不能かつ片足故障
エリザベート ※メンタルブレイク
信長
信勝 ※体力切れ
三蔵 ※メンタルブレイク
静謐のハサン ※左手故障

マシュ(シールダー) ※戦闘不能
ネロ
ベディヴィエール ※大体回復済み

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