「連合軍、揃いました」
運命の日が来た。聖都を攻め落とす日だ。この特異点を終わらせる日だ。
昇った太陽は戦場を煌々と照らし、荒野に並んだ連合軍と聖都前を守る聖都軍が向かい合う。
「作戦を確認する。まずサーヴァントの先行部隊が敵陣に切り込む。ある程度掻き乱した所で連合軍の護衛に回れ」
「了解した」
場のサーヴァントを集めた黎斗がそう言った。
先行部隊を担当するのはジークフリート、アヴェンジャー、ハサン二人、三蔵だ。彼らは先陣の最前列に向かっていく。
「操真晴人、エリザベート。君達は先行部隊の乱した兵の隙間を抉じ開けて、そこから先行兵団を誘導して接近し、魔法で聖都内部への活路を開く……折角私が直してやったんだ、君にはしっかり働いて貰おう」
「分かってる」
次に指示された晴人はそう笑った。黎斗のお陰で体は直されている。魔力も満タン、これなら暫くは持つだろう。
「後発部隊は殲滅を担当しろ。外からの援軍の類いが現れないよう、兵もサーヴァントも戦闘不能まで追い込むように」
「当然だな。余に任せておけ」
後発部隊を勤めるのは信長と信勝、ラーマとシータ、ナーサリー、ランスロットだ。
「そして、私とマシュ・キリエライト、そしてネロの三人は最初に中に飛び込む。内部にはいくらかサーヴァントがいるだろう。そこをまずは消耗させる。先行兵団に繋いだら獅子王の所まで飛び込むぞ」
「ええ……先に仕留めてしまいましょう」
意気込むマシュは背に担いだエクスカリバーの位置を調整しながら、盾の側面を磨いていた。
黎斗も立ち上がる。向こう側の兵達を見てみれば、城の中から追加でやって来たサーヴァント達を見て圧倒されているようにも思えた。向こうも戦力を補充してきたらしい。
「さて……ランスロット。向こうの門前に幾らかのサーヴァントがいるな。全員体が影のようになっているのは狂化の影響か?」
「……恐らく。アグラヴェインは部下に、バーサーカーの私と同じ
ランスロットは遠くを見ながらそう言った。黎斗には誰が誰だかさっぱりだったが、同じ円卓の騎士なら分かる、という解釈でいいだろう。
「……で、誰がどれだ?」
「真ん中にいる三メートル程の大男が恐らくケイ卿でしょう。基本はあんなに大きくないのですが、体から発する熱で洗濯物を乾かしたりエラ作って九日間水中で生活したり心臓の位置をずらしたりするような男ですから、まあ……」
「……最も警戒すべき相手と見ていいか?」
「いや……彼の他にも騎士はいます。ケイ卿の右の、槍を持った男がパーシヴァル卿ですね。で、反対側にいる筋肉質の男がペリノア王です。彼は我が王を打ち負かす程の実力を持っています、気をつけて」
そこまで言ってランスロットは静かになった。黎斗は向こう側の円卓の実力を計りかねているのか、暫く相手の動きを観察する。
「じゃあ、残りは……」
「……ええ、残りの円卓……ガヘリス、パロミデス、ボールスはきっと城の中にいます。気をつけて、ギ──」
「マシュです……マシュ・キリエライト」
「……すまなかったな、マシュ。健闘を祈る」
「当然です」
『ガッチョーン』
マシュは待ちきれないのか、誰よりも早くバグヴァイザーをその身に装着した。
黎斗も合わせるようにゲーマドライバーを身につける。さらに、ついでと言わんばかりにネロにタドルクエストを投げ渡した。
「変身……!!」
『マイティ アクショーン NEXT!!』
『N=Ⅲ!!』
『ジェットコーンバーット!!』
「変身!!」
『チューン パーフェクトパズル』
『チューン ドラゴナイトハンターZ』
『バグル アァップ』
「余も!! 変身!! だな!!」
『タドルクエスト!!』
「……うむ、黒いウェディングドレスか、たまには悪くないな」
そろそろ開戦の火蓋は切られるだろう。それこそ、ゲンムが一度でも空を飛んだ瞬間から。
「じゃあ、ネロさん……」
「……うむ」
竜の翼を生やしたシールダーが、一先ずネロを取り込んだ。手に持つ盾は輝きを増し、マシュは足に力を籠める。
「それじゃあ、行きましょう黎斗さん」
「ゲームマスターの私に命令するな……出陣!!」
───
スタッ
「……侵入成功」
ゲンムとシールダーは空を飛んで城壁を飛び越え、聖都内部に乗り込んだ。外では開戦を告げるように兵士達の声が聞こえてくる。
ゲンムは敵陣に鉛弾を喰らわせながら堂々と侵入したのに、誰も聖都内に戻ってこない。それはつまり……
「余程中に入れたくないのか、それとも……この中の三人に自信があるということか」
「Guurrr……」
「Uaaaa……」
「Arrrrrrrrrrrr!!」
ガヘリス、パロミデス、ボールスであろう三体のサーヴァントが、ゲンムに唸りながら飛びかかった。それをシールダーが受け流し、その盾を大振りに振り回す。
「……絶対に行きますよ。獅子王の玉座まで!!」
「当然だ」
───
「
「
ズシャッ グシャッ
「Uaaaaaaaaaaaaaa!!」
「チッ!! 馬鹿でかい上に頑丈だな」
ジークフリートとアヴェンジャーが、バーサーク・ケイの相手をしていた。隣ではバーサーク・ペリノア王とバーサーク・パーシヴァルがハサン二人と三蔵を蹴散らしている。
既にウィザードとエリザベートも、連合軍を引き連れて進軍していた。
「しかし……すまない、俺には時間を稼げる気がしない」
「オレも同意だ。なんでこいつは、どうもこう、倒せないんだか」
『ランド プリーズ!! ドッドッ ドドドドンッ ドンッ ドッドッドンッ!!』
「エリちゃん城壁まであとどのくらい!?」
「まだまだあるわよ子ブタァ!!」
ウィザードが連合軍を引き連れて突き進む。彼の目的は一人でも多く聖都内に兵士を送り込むことだ。……しかし、あまりにも城壁は遠かった。
物理的な距離は大して無い。ただ、向こうの兵があまりにも強かった。
『バインド プリーズ!!』
ブチブチブチブチィ
「くっ……」
ただの兵にしては強すぎる。エリザベートが攻撃すれば一応押し返せるが、連合軍だけだとなすすべもない。
……恐らく、奪われた聖杯でサポートがかけられているのだろう。ウィザードはそう考えた。
───
『Buster chain』
「はあああっ!!」
ザンッ
「Guurrr……」ガクッ
「ハァ、ハァ……」
シールダーが、やっとの事で円卓の騎士を一人切り伏せた時には、既に戦闘開始から一時間程経っていた。とはいえ、一時間で円卓の騎士を倒せるまでに成長したと考えれば、彼女はかつてとは比べ物にならないほど強くなっていた。
隣を見てみれば、ガシャットをジェットコンバットからデンジャラスゾンビに変更したゲンムとネロが、共同で円卓の騎士二人を吹き飛ばしている。あちらの方も勝負は決まっただろう。
ようやく、聖都内部での優勢を掴むことが出来た三人は、一旦その場に集まった。
「終わったぞマシュ!!」
「そうですか……!! にしても……どうして彼らにルールブレイカーが通用しなかったんでしょうか」
そう呟くシールダー。彼女は既に何度かルールブレイカーで彼らの狂化を取り除いてみようと試みていたが、その尽くが失敗に終わっていた。
「ううむ……」
「……恐らく、狂化は解かれてはいたのだろう。ただし、解かれると同時に再びかけられた、という仮説はどうだろうか」
「……正解だ。私が彼らを常に繋ぎ止めていたからな」
その声に反応して城の方を見てみれば、兵団聖杯を持ったアグラヴェインが立っていた。
「アグラヴェインか……君は確か、消えかけていた筈だが?」
「この身には、昨日奪った聖杯が眠っている。現界を保つなど容易いこと……そして」
その瞬間、地に伏して震えていた三人の円卓の騎士が、アグラヴェインに吸い込まれる。それによって彼の体は蠢く闇と化し、自由自在に動くようになった鉄の戒めで瞬時に三人を捕縛する。
ザザザザザザザザ
「この身デ、貴様らを処断しヨう」
「っ……!!」
両手両足を縛り上げられたシールダーにアグラヴェイン……いや、最早アグラヴェインでも何でもない、円卓の怪物が迫る。
「私が特に気に食わなイのは貴様だ、ギャラハッド。我が王に味方しナいばかりカ、こんなもノまで……」
『ガッチョーン』
「……こんなもノはイらない。これハいらない物ダ。壊してしまおう。潰してシまおう。こンなものを我が王にお見せすル訳にはいかなイ」
グシャッ
……そして彼はシールダーからバグヴァイザーを奪い取り、片手でそれを握り潰した。
ガシャットごと半ばスクラップ状になったそれを投げ捨てる怪物に、ゲンムが鎖を引き裂いて飛びかかる。
「私のガシャットをよくもぉっ!!」
「貴様ハ後だ!!」
ジャラジャラジャラ
「何ぃっ!?」
しかし彼は、地面から生えてきた鉄の戒めに足を奪われ転倒した。
……ここは既に、怪物の空間と化していた。王の敵を屠る、闇の黒騎士の空間に。
───
「ようやく……兵士が弱ってきたわ!!」
「ナイスだエリちゃん!! 皆早く、今のうちだ!!」
『ディフェンド プリーズ!!』
『ディフェンド プリーズ!!』
『ディフェンド プリーズ!!』
漸く城壁まで辿り着いたウィザードはディフェンドで土の壁を並べて即席の階段を産み出した。連合軍の兵士がそれに足をかけようとする。
「Uaaaa!!」
バァンッ
「くっ……間に合わなかったか……!!」
……しかし、横から突撃してきたバーサーク・ペリノア王に不意打ちを貰ってしまった。
既に呪腕のハサンは戦線を離脱していた。静謐のハサンの姿も見えない。三蔵は消滅しかけていた。バーサーク・パーシヴァルと相討ちになったのだろう。
そしてさらにその向こうでは、バーサーク・ケイとジークフリートが戦っている。
「仕方無いか……!!」
『ランド ドラゴン!! プリーズ!!』
「子ブタ!? それ五分しか持たないのよね!?」
「それでも……やるしかない!!」
『ダン デン ドン ズッドッゴーン!! ダン デン ドッゴーン!!』
そしてウィザードは、ランドスタイルの強化形体であるランドドラゴンに変身した。バーサーク・ペリノア王が飛びかかってくるのを蹴り飛ばして、少しでも時間を稼ぐ。
『グラビティ プリーズ!!』
「今のうちに!! 速く!!」
「でも他の兵士が集ってきてる……!!」
ペリノア王を城壁に押し付けながらウィザードが呻いた。しかし連合軍を護衛するエリザベートも、兵士の山に押されぎみになっている。
その二人の間を、一人の騎士が駆け抜けた。
「
ズバッ
「……ランスロット!! 来てくれたの!?」
エリザベートの回りが切り払われてスッキリする。怯えていた連合軍も勢いを取り戻し始める。
しかしランスロットは止まらなかった。黎斗から与えられた指示を無視して、彼がいの一番に階段を駆け上がる。そして──
───
「……さあ、終ワりにスるぞギャラハッド」
「くっ……」
怪物が、マシュの首筋に剣を添えた。その体は延々と汚染され続け、背中からは腕が三本生え、鎧は表面が溶けて障気を撒き散らし、目は赤く光り、その上尻尾まで生えていた。
そして剣は動き始め……
「
ズバババババッ
「……何、ダと!?」
しかし、空から現れたランスロットが宝具で空間を全て凪ぎ払った事により、マシュやゲンム、ネロを縛っていた鎖は全て断ち切られ、湖のような光が辺りを多い尽くした。
「また……マタ、貴様は、裏切るのか」
「……遅くなった、マシュ。無事か?」
「……ええ、何とか」
光が止んだ時には、マシュは再び立っていた。ゲンムは状況が面白いのか、黙ってランスロットを見つめている。ネロはまだ尻餅をついていた。
「……何で、来たんですか?」
「……来ないといけないと、思ったからだ」
そう言いながらランスロットが剣を怪物に向ける。
……そしてその怪物は、泣きながら笑っていた。
「親子愛、カ? 今更? ……ハハ、ハハハハハハハハハハハハ!! ……ああ、モウ、笑ウしかないナ」
「アグラヴェイン……」
次の瞬間には、怪物は地を蹴っていた。聖杯の力で本来あり得ない姿になっている怪物は、ランスロットを殺すために、それだけに全力を注いでいて。
「何故、何故そんな姿に……」
「……貴様を、殺ス、為だ……私の母親ハ、狂ってイた。いつかブリテンヲ統べる王になる、なドと。私は枕言葉に、ソの怨念を聞かされて育っタ。私は母親ノ企みで、おマえタちの席に座った。円卓など、なりたくもナかっタが、それが最短距離ダった」
怪物が剣でランスロットを斬りつけようと暴れる。ランスロットはマシュを庇うように立ちながら、何度も宝具を発動した。
「っ……
「ッガ……私ガ求めたノは、ウマく働く王だ。ブリテンをわずカでも長らエサせルための王だ。私の計画に見合う者がいれバイい。誰を王にするカナど、私にとッてはどうデモいい……ただ、結果としてアーサー王が最適ダッた。モルガンよりアーサー王の方が使いヤすかったダケダ」
語りながらランスロットを傷つけていく怪物。手が斬り落とされても怯まず、目を潰されても退かず……体が異常に再生し続けることは聖杯の効果であっても、意思が折れないことだけは聖杯は無関係で。
「私ハ生涯、女とイうモノを嫌悪し続ける。人間ナドというモノを軽蔑し続けル。愛なドといウ感情を憎み続ける。ソの、私が―――。はジメて。嫌われる事を恐レた者が、男性であッた時の安堵が、おマエに分かルか。……それガ。貴様とギネヴィアのフざけタ末路で。王の苦悩ヲ知った時の、私ノ空白が、オマエに分かルカ」
「……それは。本当に……だが、私は、もう過ちを繰り返す訳にはいかないんだ……!!」
「ホザケ。私ニハ、まだヤルベき事が残ッテイる―――報イヲ受ケル時ダ。貴様ハマタ、我ガ王ヲ裏切ッタ」
……ランスロットの剣が光を帯びる。怪物の剣が光を纏う。
そして二つは交差して。
ザンッ
ドサッ
ドサッ
怪物が倒れ、そして少し遅れてランスロットも倒れ込んだ。
「ランスロット!! どうして、こんな……!!」
「……それは、まあ……」
マシュがランスロットを抱き起こす。ランスロットは既に消滅が始まっていて、半透明になっていた。
「……
「っ……」
「……私は生前、全く父親らしい事は出来なかったが。息子を庇って死んだなら……少しは、それっぽくなったと思う」
「……」
……ランスロットは消滅した。マシュは立ち上がり、同じく消滅したアグラヴェインの痕から聖杯を拾い上げる。
丁度、城壁の外から連合軍の面々が入ってきた。それに合わせるように、城の中からも兵士が飛び出てくる。
「……行きましょう。何としてでも、人理を守ります」
「うむ!!」
「……良いだろう、君に協力してやる」
そして彼らは兵士を掻い潜り、城に足を踏み入れた。
スパルタクスかな?(すっとぼけ)
聖杯あれば行けるよなと思って調子に乗りすぎた、後悔はしていない