「……黎斗さん」
「何だ、マシュ・キリエライト。……君が守護者になってこっちに来たとは驚いたよ。全く」
「……白々しい」
マシュが黎斗の部屋を訪れたとき、彼はプロトタドルクエストと見慣れない緋色のガシャットを接続して新しいガシャットを作っていた。彼にとっては、マシュが甦ったことなど大した驚きでは無いようだった。
マシュはそれに対して失望もせず、彼に近づきその目を見る。
「……黎斗さん。約束を果たしに来ました」
「……そんな話もあったな」
それだけ言って、黎斗は溜め息を吐きながらゆっくりと椅子から立った。そして懐から取り出したゲーマドライバーを装着する。
「……君の決断は知っている。君がその力でどこまで辿り着いたのか、見せてもらおう」
「言われずとも……!! 私の、やりたいこと……やりたいことは、ここにある!!」
『ガッチョーン』
マシュは黎斗を見つめながら、腰にバグヴァイザーを装着する。そして、プロトガシャットギアデュアルBを、
『Britain warriors!!』
……酷くくすんだ銀色だったガシャットギアデュアルは、マシュが電源を入れると共にカルデアスのような水色を帯び、輝く銀色に変色した。そしてそれを、彼女はバグヴァイザーのスロットに装填する。
……黎斗が満足げに口角を少し上げていた。
『ガッシャット!!』
「……それは大きな負担を体にかけるぞ、マシュ・キリエライト?」
『チューン ブリテンウォーリアーズ』
「リスクは重々承知です……それでも!! 私は……変身する!!」
『マザル アァップ』
その音と共に、マシュの眼前にナイツゲーマーとキャノンゲーマーの姿が映し出された。そしてそれらは一つになり、輝きを放ちながらマシュを飲み込む。
『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』
……マザルアップ。その声の通り、シールダーはガシャットギアデュアル使用時の二つの姿が混ざったような状態だった。
右手にはエクスカリバーが変形したガシャコンカリバー。右腕は鎧の黒い鎖が巻き付いて鎖帷子のようになり、肩にはマントがついている。左側の腰にはルールブレイカーや幾らかのナイフが並び、左足の鎧にもまた鎖が巻き付いていた。
左手首には、何かの噴出口のような穴が空いていた。左の腕には銃口が並び、肩には一つの砲門すらあった。右の腰にはガンド銃やボックスピストルが並び、足首には車輪がついていた。
まさしく、混ざっていた。マシュは、ガシャット内のブリテンの英霊達の力を、己のものとしていた。
そのことに黎斗は笑う。静かに笑う。
「……良いだろう」
『マイティ アクション NEXT!!』
「……変身」
そしてかれも、己のガシャットで以て変身した。そして、シールダーと距離をとる。
『ガッチャーン!! レベルセッティング!!』
『マイティジャンプ!! マイティキック!! マーイティーアクショーン!! NEXT!!』
「では……戦闘を始めよう」
『ステージ セレクト!!』
ゲンムがキメワザスロットを操作し、マイルームからあの工場へと移動した。
……シールダーにとっては忘れもしない、かつてプロトマイティアクションXでマシュを一方的に痛め付けたあの工場だ。
『ガシャコン ブレイカー!!』
そしてゲンムは、あの時のようにガシャコンブレイカーを剣状態にして構えた。
しかし、かつて一方的に倒されていたシールダーも、あの時よりずっと強くなった。二人は同時に大地を蹴り──
《ブリテン英霊八番勝負
最終戦 仮面ライダー・ゲンム》
「……はあっ!!」
「フンッ!!」
ズガンッ
初激。二人の剣は交差し、それだけで工場が衝撃で破壊される。二人は数秒鍔競りあい、シールダーが強引にゲンムを押し込む形で攻撃を開始する。
一歩。踏み込んだ瞬間から、シールダーは切り札を切った。
「行きますっ!!」
『Noble phantasm』
「
ガンッ ガンッ ガンガンガンッ
宝具名を唱えると共に、ガシャコンカリバーが青く煌めく焔を纏った。シールダーはその剣で何度もガシャコンブレイカーを斬りつけ、その末に破壊する。
後退し続けながら、ゲンムは笑っていた。
グシャッ
「宝具の合成かァ……アハァ……面白い、面白いぞマシュ・キリエライトォ……」
「余裕持っていられるのは今のうちですっ!!」
『Noble phantasm』
「
宝具を連発するシールダー。それだけの無茶に体が耐えられる道理はなく、シールダーのライフはジワジワと減っていく。
しかしゲンムは武器を失ってなお、そしてライフが三分の一程度になってなお、まだまだ余裕が残っていた。それを示すように、彼はマイティアクションNEXTのギアに手をかける。
「だがぁ……まだまだだぁっ!!」
ガコンッ
『N=X!!』
『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』
『デンジャラス ゾンビィ……!!』
デンジャラスゾンビがゲーマドライバーに装填され、彼は黒い障気と共にレベルXになった。……そして形勢は逆転する。
『ガシャコン スパロー!!』
「行くぞ……」
ガキンッ
鎌にしたガシャコンスパローを構えたゲンムが一瞬でシールダーに肉薄し、今度は彼がシールダーを押し込むようにしながら連続攻撃を加え始めた。鋭い刃がシールダーの体を痛め付ける。
「ふふ……ハハハハハハハハハ!!」
ザンッ ザンッ
「ぐっ……」
『Noble phantasm』
「
しかも、宝具でも歯が立たない。光弾がゲンムを撃ち抜いても、ライフは全く動かない。それがデンジャラスゾンビの特殊な在り方がもたらす無敵。
そして彼は勢いのままに工場の壁にシールダーを押し付け、その胸元を蹴りつけた状態で、必殺技を発動した。
『デンジャラス クリティカル ストライク!!』
「っ……!!」
グシャッ
……シールダーは、工場の壁ごと蹴り破られ、破壊された。
「っ……く……」
ドサッ
『Game over』
「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」
高笑いするゲンム。彼は変身を解くのも忘れて笑い続けた……それだけ愉快だったのだ。マシュ・キリエライトの歩んだ運命が。そして、その結果を産み出した己の才能が。
……だから。
彼は、油断していた。
『マッスル化!!』
「……そこぉっ!!」
ズバァッ
「ガッ……!?」
……何者かが、ゲンムの背中を両断した。
両断したのだ。ゲンムの動くことのなかったライフゲージが一気に減少する。それは本来あり得ない出来事だった。
「な……」
ズバッズバッ
さらに二度。同じ点を執拗に抉る、殺意すら感じる剣閃。
ゲンムは後ろに誰が立っているかを確認し……消滅する。
いや、誰が立っているかなど、十分に分かっていた。
『Game over』
「……」
「……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」
テッテレテッテッテー!!
地面から伸びてきた紫の土管。ゲンムはそこから再び現れる。それがコンティニュー。ゲンムの得た新たな命。
そして……同じくコンティニューを可能にした存在が、ゲンムの前に立っていて。
「やるじゃぁないかマシュ・キリエライトォ……」
「……それは、まあ。やりますよ、私も」
……倒したはずのマシュだった。彼女が、手に持ったエクスカリバーでゲンムを背中から襲ったのだ。
「……迷いなく私を不意討ちにしたなァ……だが甘い!! このマイティアクションNEXTにはコンティニュー機能が搭載されていてね。私の残りライフは38から一つ減って……」
そう言いながら黎斗は己の残機を確認し……目を見開いた。
そこにあったものは『36』の数字。そしてそれは『35』に変化する。
残りライフ、35。
「何故減った? ……そうか、君を召喚したからか!!」
一瞬首を傾げたゲンムは、マシュと自分がライフを共有しているということを察する。
しかし、まだ疑問は残っていて。
「だがまだ不可解だ……何故君が私の、デンジャラスゾンビの防御を打ち破れたのか、そして、何故倒したはずの君が戻ってきているのか!!」
「……忘れましたか? 黎斗さんも存外、アタマ緩いんですね」
「……」
『高速化!!』
マシュは高速化のメダルを回収して、一瞬で先程マシュ自身が倒された場所に移動した。そして、落ちているバグヴァイザーとガシャットギアデュアルを拾い上げる。
「私はアラヤの守護者になりました。つまり星の安全装置、カウンターガーディアン。……それと同時に私はサーヴァントになりました。つまりこのカルデア、そして特異点と名付けられたエリアはそのまま私というサーヴァントを喚ぶ最高の触媒となる!! ……つまり私は、人理が危機にあるのなら、何度でも現れる!!」
「……!!」
そう。それがマシュの最大の切り札。
マシュ・キリエライトはカルデアで生まれカルデアで育ち、そして特異点を巡ったサーヴァント。
つまりカルデアは、そしてあらゆる特異点は、アルトリアで言えばイギリスであり、ラーマで言えばインドであり、信長で言えば日本……つまり、最も縁がある土地なのだ。
そしてマシュは守護者だ。守護者は星の危機に合わせて呼び出される。マシュに意欲がある限り、彼女は何度でも一度呼び出された縁を利用して、カルデアの召喚システムに割り込み勝手に現れるのだ。
……それは別の言い方をすればつまり、ゲンムとライフを共有しているとも言える訳だった。
「さらに!! 貴方が私を倒した時点で、抑止力は貴方を脅威と認定した!! 人理修復が優先される現在は貴方の警戒は後回しですが……それはそれとして、私は貴方を上回ることが可能な状態で呼び出される!!」
「つまり、防御を無視した攻撃という訳か……!!」
守護者のシステムは、人類を守るためのもの。脅威の排除が出来ないなんて状況が起こってはならない。故に、マシュは脅威を排除できるだけの力を持って、再びカルデアに現れたのだ。
「……まだまだ行きます、私の思いはこんなものじゃない!! 変身!!」
『ガッチョーン』
『Britain warriors!!』
『マザル アァップ』
『ブリテンウォーリアーズ!!』
再びマシュは変身する。……彼女がダメージも厭わず宝具を連発していたのは、反動で死んでも復活できるから。そして彼女はシールダーとなり、ガシャコンカリバーを構えゲンムに突撃していった。
「はあっ!!」
「ぶぅんっ!!」
ガキンッ ガキンッ
火花が散る。火花が散る。刃と刃とが擦れあい熱を発する。
やはりゲンムは強かった。このままでは埒があかない……マシュはそう判断し、攻撃に変化を加える。
『Noble phantasm』
「
彼女はガシャコンカリバーを操作し、全身から勢いよく蒸気と酸性の霧を噴射した。
そして彼女はエナジーアイテムを取得しながら霧に紛れて、さらにゲンムを追撃する。
『マッスル化!!』
「はあっ!!」
ザンッ ザンザンッ ズバッ
「ぐうっ……」
……ゲンムのライフは半分ほどになっていた。シールダーのライフもまた、半分ほどになっていた。
二人は互いの顔を確認し、素早く飛び退いて距離をとる。そして、互いの最大出力を出さんと身構えた。
『Noble phantasm』
「
ガコンッ ガコンッ カンッ
「五秒で終わらせる……!!」
『N=∞!! 無敵モード!!』
黄金に輝くゲンム。
数多の光と弾を纏って白銀に輝くエクスカリバー。
そして二つは交わりはじめて──
『そこまでだっ!!』
「ッ……ドクター!?」
……そこに、ロマンが通信を入れた。モニター越しに見る彼は、明らかに青ざめていた。
『これ以上戦うな!! カルデアの魔力と電力を使い潰すつもりかい!? これ以上戦ったら今後のレイシフトが不可能になるぞ!!』
「ぅう……」
「……仕方ないか」
そこで二人は攻撃を止めた。やむを得なかった。ここで人類が詰んでしまったら意味がない。
『ガッシューン』
「……ゲームは中断だ、マシュ・キリエライト。……君の決断は面白かったよ」
『ガッシューン』
「……今に余裕なんてなくなりますよ」
しぶしぶ変身を解いた二人。彼らは黎斗のマイルームに戻ってきていて。
そしてマシュは黎斗に背を向け、少しだけ満足そうにマイルームを出ていった。
マテリアル6
彼女は世界と契約し守護者となった。自らの死後を犠牲に無限のコンティニュー権を得た。
彼女の目的は、最早人類の未来を見ることではない。ただ妄信的に人類を守り続けることだ。己が助けた人の感謝の言葉すらも省みず、彼女は次の戦場へ赴く。それはもう人間の汚点を見たくないが為。
それでも、もしマスターが正しい『先輩』であれたならば、その時には、もしかすれば──
幕間の物語をクリアしました