Fate/Game Master   作:初手降参

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とうとう対策されましたね先輩!?

 

 

 

 

 

黎斗とマシュ、そしてネロは、連合首都の城を駆け抜けていた。飛び掛かってくる魔物は全てスパルタクスに一任し、とにかくスピード重視の特攻であった。

 

そして三人は、一際大きな部屋へと、音を立てて転がり込む。

 

 

   バンッ

 

「……やれやれ、君達は静かに部屋にも入れないのか」

 

「レフぅ……!!」

 

 

レフ・ライノールがそこにいた。そして、その隣には黒い筋肉質な男が黙って佇んでいる。

 

 

「その、男は……?」

 

 

ネロが呟いた。何かを感じ取ったのだろうか。彼女は、その男とは初対面であったが……その男が何か、いや、その男が何()()()()を察していた。

 

 

「流石は腐っても皇帝、とでも言っておこうか。そう、このサーヴァントは、建国を成し遂げた王、ロムルス」

 

「……!?」

 

 

愕然とするネロ。何があったのか、その姿には邪悪な何かが染み付いているように思えた。まるで、彼が黒い泥のような何かに無理矢理姿を変えられているようだと思った。

そしてそれは外れではない。

 

レフが黎斗に向き直る。

 

 

「48人目のマスター檀黎斗、私はこれでも寛容な方なのだよ。道具でしかないサーヴァントの戯れ言だって、一応は聞いていたさ。そして思い付いたのだよ」

 

 

堂々と朗々とそう語るレフ。傍らにはロムルスが立っている。だがそれは、最早本来のロムルスではない。

 

 

「そこにいるロムルスは、常日頃から『世界(ローマ)は不滅だ』だの『人間(ローマ)は不滅だ』だのほざいていたが、それを()()()()()()()と思ったわけだ。つまり……」

 

「まさか、そんな、神祖を……!?」

 

 

レフの告げる言葉に、ネロは困惑を隠せない。まあ当然であろう。目の前で尊敬する人物を好きに改造した、と言っているのだから。

 

 

「ロムルスを反転(オルタ化)させる事で、『世界(ローマ)は不滅だ』を、『自分(ローマ)以外は不滅ではない』に書き換えたのさ。そう、貴様がどんな不死身の力を持っていようと!! このバーサーカー、ロムルス・オルタに一度倒されたなら、その不滅性は途絶えただの屍になるのさ!!」

 

 

勝ち誇るレフは、ロムルス・オルタは不死身をも殺すと明言した。それに相対するゲンムは……

 

 

「……何、だと……?」

 

 

いつもの剣幕も浴びせかける罵声も無く、呆然と立っていた。

その姿がおかしくて仕方無かったのだろう、レフは彼を更に煽る。

 

 

「ハハハ!! 所詮お前も、変な能力を持っただけの役立たずの俗物にすぎん!! もう加減は無しだ、死ね!!」

 

「くっ……あり得ない……こんなのあり得ない……!!」

 

「さあ行けロムルス・オルタ!! 非常に下らないが、お前の(ローマ)を見せてみろ!!」

 

「ゥロオオオオオオオオマァアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 

理性の欠片も見られない号哭。ネロは悔しげに唇を噛み、黎斗は顔に怯えすら浮かべる。

戦闘兵器と化した偉大なる男は、今、剥き出しの脅威であった。

 

 

「そんな……神祖……」

 

「嫌だ……死にたくない、まだ、死にたくない……!!」

 

 

変貌した姿に戸惑うネロ。その気圧に怯える黎斗。そしてマシュには、何も出来ない。

 

 

「ローマッッッ!!」

 

 

国造りの槍が降り下ろされ、マシュは反射的に目をつむり……

 

 

 

 

 

   ガシッ

 

「……え?」

 

 

攻撃が来ない。

 

マシュはその状況を疑問に思い、顔を上げる。

 

 

「おお圧政者よ!! 汝を抱擁せん!!」ゴゴゴ

 

「……セプテムッッッ!!」ゴゴゴ

 

 

追っ手を全て片付け終わったのであろうスパルタクスが転がり込んできて、ロムルスの槍を受け止めていた。

 

その槍を身に受けながら笑うバーサーカー、そしてその巨躯を貫かんとするバーサーカー。

 

マシュは意識を強く持った。

今のうちに。ここまでの連戦で限界が近いであろうスパルタクスがいる内に、二人を元に戻さなければ。

 

 

「ああ、神祖、神祖……」

 

「……ネロ陛下、聞こえますかネロ陛下」

 

「ああ、余はどうすればいいのだ、余は、余は……」

 

「……ネロっ!!」

 

「はひいっ!?」ビクッ

 

 

恐慌状態にあったネロが、マシュに叫ばれビクリと震え上がる。マシュは彼女の両肩に手をおき、ネロの目を見て、告げた。

 

 

「確かに、陛下の困惑も最もでしょう。ですが!! (ロムルス)は過去の遺物です。今の皇帝は、今、ローマの皇帝は貴女です!! 他の誰でもない、貴女です!!」

 

「っ……」

 

 

スパルタクスとロムルスが殴りあっているのと、黎斗の呟きと、レフの高笑いが入り雑じる戦場で。

されどマシュの声は何者にも掻き消されず、ネロの中にストンと落ちる。

 

 

「神祖を越えましょう。それは貴女にとっても人類にとっても、神祖にとっても、救いとなります」

 

「余は……」

 

「この連合の兵士は、人々は、誰一人として笑っていませんでした。ローマとは違っていました。だから……貴女は剣を取るべきです。それは間違っていません」

 

 

ネロは一瞬の逡巡の後に、迷いを振りきるように首を振った。

 

 

「……そうだ、ああ、そうだな!! 相手が何であっても、余は、余のなすべきことを成そう」

 

 

そうとだけ言って、ネロは剣を拾い上げ、ロムルスに向かっていく。

 

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「来たか、ネロ(ローマ)よ!!」

 

「神祖、行くぞ!!」

 

「はははははは!! まさか圧政者と肩を並べようとは!! だが今回はいい、いいぞ!! 共に愛を放とうではないか!! 我が愛はっ、爆発する!!」

 

 

 

「……黎斗さん」

 

「何でだ、何でだ、何でだ……」ブツブツ

 

 

マシュはスパルタクスと合流したネロを少し見やってから、黎斗にも声をかける。黎斗は何かを考え込んでいる様子で、壁の側で座り込んでいた。

 

 

「おかしい、こんなの絶対おかしい……」ブツブツ

 

「……檀黎斗!!」ガツン

 

「うぐはぁっ!?」

 

 

盾で脳天を殴り付ける。辛辣。

 

 

「何をする!!」

 

「貴方こそ何をしているんですか!! あなたは自分の優位が無くなったらすぐに逃げ出すような人だったんですか!?」

 

「うぐっ」

 

「私は信じています!! 黎斗さんも本当は、強いだけじゃなくて、信念と優しさのある人だって!! だから!!」

 

 

それだけが、マシュが彼にできる励ましだった。これまで彼の事なんてこれっぽっちも分からなかったが、それでも彼を信じることは出来る。

 

黎斗はその声をうけて、また、ニヤリと笑った。

 

 

「は、はは……ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!!」

 

「黎斗さんっ……」

 

「そうかそうか!! そうなら仕方がないなあ!!」

 

『ガッチョーン』

 

 

彼は立ち上がり、ガシャットを取り出す。その目には、狂暴で、それでも芯のある爛々とした輝きが戻っていた。

 

 

「このシナリオは消去する。変身……!!」

 

『バグル アァップ』

 

『デンジャラス ゾンビィ……!!』

 

 

白い怪物、再臨。

ゲンムはネロの元へ走り込みながら、そのドライバーを操作する。

 

 

『クリティカル デッド!!』

 

 

沸き上がる死霊。ネロは飛び退き、スパルタクスはロムルスを押さえつける。

 

 

「が、はがぁっ……!?」バタバタ

 

「圧政者よ!! 死ね!!」

 

 

その一言を発した後に、死霊は弾け燃え上がった。二人は炎に包まれ、焼かれていく。

 

 

   ドガアァァァァァンッ

 

 

「やったか!?」

 

「いや、まだです!!」

 

 

後方から走り込んできたマシュが盾を構える。炎の先を見据えれば、まだ立っている男が一人。

 

 

「全て、全て……全て全て全て全てぇっっ!! 我が槍にこそっ、通ずッッッ!!」

 

「下がってください皇帝陛下!!」

 

 

ロムルスが、炎の中で声をあげた。彼はまだ耐えていたらしい。彼らを試さんと耐えきったらしい。

だからこそそれに応えるべきだ、と言わんばかりに、マシュは勇気に満ちていた。

マシュがネロの前に立った。足は少し震えているが、その目には確かな決意があった。

 

盾を握る手に力がこもり、そして。

 

 

すべては我が槍に通ずる(マグナ・ウォルイッセ・マグヌム)っ!!」

 

「うおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

部屋の全体から大樹が伸びる。竜のように力強く、蛇のようにしつこく、鞭のようにしなやかに動き三人を狙うそれは、一束に纏まって強力無比な一撃を産み出す。

 

対するマシュは、その攻撃を前にして、ついに。ついに。その宝具の鱗片を見せた。

 

 

   ガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

「ああああああああああああっっ!!」

 

 

叫ぶ。そして力を籠める。強く堅く、強く堅く。もっともっともっともっと。

守るべき物がある。守るべき人がいる。受け止めるべき悪がある。だから。

 

 

「ああああああああああああッッッ!!」

 

   カッ

 

 

光の壁が展開された。

大樹は弾かれ、千切れ、崩れていく。

ロムルスはまだ、木々を操作するのに躍起になっていた。だから、攻めきるならば今しかない。

 

 

「今です!!」

 

「分かっておる!! 行くぞ黎斗!! 遅れるなよっ!!」

 

「むしろお前が合わせろっ!!」

 

『ガシャコン ソード!!』

 

 

マシュの背後から飛び出したネロとゲンムが、共にその必殺の一撃を構える。

ネロの剣は熱く炎を纏い。ゲンムの呼び出した剣にも、熱き騎士の力(プロトタドルクエスト)が装填されて。

 

ロムルスに駆け寄り、その刃を振り上げる。普段ならばあり得ない共闘。

 

二人が叫んだのは、奇しくも同時だった。

 

 

童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)!!」

 

『タドル クリティカル フィニッシュ!!』

 

「「はああああああっ!!」」

 

   ズジャアァァンッ

 

 

揃った一閃。炎は二筋の煌めきとなって。

 

越えるべき敵を討ち果たす。

 

 

   ドサッ

 

「……見事。よく、(ローマ)を乗り越えたな」

 

 

膝をついたロムルスは、狂化も解けて、優しげな顔を浮かべる。

 

 

「……眩い、愛だ。ネロ。……永遠なりし深紅と黄金の帝国。その全て、お前と、その後に続くものに託す」

 

「神祖……」

 

「忘れるな。ローマは、世界(ローマ)は、人間(ローマ)は、永遠だ。どうか……」

 

 

そこまで言って、ロムルスは消滅した。最後まで満足げな顔を浮かべていた。

 

 

「やった……か……!!」

 

「敵性サーヴァント、バーサーカー、ロムルス・オルタを撃破……後は……!!」

 

 

レフに目を向ける。今は感慨に浸る暇はない。

レフは三人を感嘆と好奇を持って見つめていた。

 

 

「……まさか、あれが負けるとは。やはりサーヴァント等に頼るべきではないな。まあ、あれを倒した程度で、勝ったとは思うまい?」

 

「プッ!! 節穴の分際でよくもまあ堂々としていられるなぁレフ・ライノール!!」

 

 

そう返すのは当然ゲンムだ。剣の切っ先をレフに向けそう言い放つ姿は、先程までの弱気な男の見る影もない。

 

 

「ぐっ……強がっていられるのももう終わりだ、貴様らはここで滅びる」

 

「全く面白い成長を遂げるものだな!! まさか神を見逃しておきながらまだそんな事をほざけるとは!! ここで滅びる? バカめ、節穴ごときではもうどうにもならなぁい!!」

 

 

煽りの応酬。最大の困難(ロムルス)を乗り越えた黎斗に、最早怖いものは無かった。

 

 

「結末は確定している!! 今さら貴様が動いても無意味!! 無能!! 貴様のミスで人理は救われるぅ……節穴に今さら鼻紙を宛がおうと無駄でしかなぁい!! あはぁ……♡」

 

「黙れ黙れ黙れ黙れぇっ!! 私を虚仮に出来るのもこれで最後だ!! 今ここに!! 我が王の寵愛を!!」

 

 

レフは実に苛立たしげにそう叫んだ。聖杯を握りしめて……いない手を掲げて。

 

 

「……え?」

 

「ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!! なぁにが王の寵愛だ!! 所詮節穴を取り替えもしない無能か!!」

 

「貴、様……まさか……!?」

 

 

レフの手にあった筈の聖杯は、ゲンムの手に握られている。

何があった、レフは思考する。辺りを見回し……気づいた。

 

 

「別の、使い魔……!?」

 

 

黒い死霊が、一つ残っていた。

そう、クリティカルデッドの死霊は、纏めて爆発させるだけの使い方しか出来ない訳ではない。ゲンムのイメージ通りに動くのだ。

 

そして、その死霊はレフを羽交い締めにし動きを封じる。

 

 

「止めろ、よせ、何をっ!?」

 

「どうせ還るなら……痛いのを貰っていけ……!!」

 

『ガシャコン スパロー!!』

 

『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』

 

 

矢が放たれ、無数にレフに突き刺さって。

 

 

「ああ、くそ、この……人間の分際で……!!」

 

   ドガアァァァァァンッ

 

 

木っ端微塵に弾けとんだ。

 

───

 

そして、しばらくして。

 

 

「うむ、よい働きであった。……おまえたちも、消えるのだな」

 

「はい。……ありがとうございました。……ブーディカさんには、結局会えませんでしたが」

 

「そうだな。……寂しいな」

 

「はい」

 

 

マシュとネロが、そう話していた。

黎斗は黙って、ローマの空を見上げている。

 

 

「正直残念だ、無念だ。まだ、余は何の報奨も与えてはいないというのに……お前たちならば、臣下より、もっと別の……いや、やめておこう」

 

「……私たちの行き先にも、きっと、ローマはありますから」

 

「……ローマは世界だ。世界は不滅だ。例え病もうと傷もうと、世界は決して終わらない。だから、別れは言わぬ。礼だけ言おう。……ありがとう。そなたらの働きに、全霊の感謝と薔薇を捧げる、とな」

 

 

そして、二人はその言葉を聞きながら、青い光に溶けていった。

 

───

 

 

 

 

 

「……くそ、まさかこんなことがあるなんてな」

 

 

黎斗はマイルームに引きこもり、破壊してしまったゲーマの修理を行っていた。そして、何かを呟いている。

 

 

「これは予想外だ。アレの製作も、早めた方がいいかもしれない」

 

 

そう言う彼の近くの書類には、ガシャットの設計図が──




ロムルス・オルタ

レフ・ライノールが、呼び出したロムルスを対ゲンム用に魔改造したサーヴァント。
元々ロムルスはバーサーカー適正を持っていた為、それをベースに色々と反転を加え、独自のローマ哲学を変質させる事で「自分(ローマ)以外は不滅ではない」を作り出した。
最終的にはネロとゲンムに真っ正面から斬り倒され、やろうと思えば復活も出来たが、彼らの(ローマ)を讃えて消滅した。

ステータス

筋力A 耐久A+ 敏捷A 魔力D 幸運B 宝具A+

保有スキル

天性の肉体(C)
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。このスキルの所有者は、常に筋力がランクアップしているものとして扱われる。

皇帝特権(A)
本来持ち得ないスキルも、本人が主張する事で短期間だけ獲得できる。該当するスキルは騎乗、剣術、芸術、カリスマ、軍略、等。ランクがA以上の場合、肉体面での負荷(神性など)すら獲得する……筈なのだが、今回は対ゲンム用に自己暗示の獲得が強制されている。この力で、周囲にまでローマ哲学を基準とした空間を広げ、ゲンムを殺せるようにしていた。

七つの丘(A)
自ら「我が子」と認めた者たちに加護を与える。七つの丘とは“ローマ七丘”、すなわちローマの礎となった七つの丘を指す。パラディウムの丘に城壁を築き、その地がのちのローマの中心都市となったと伝わる。

狂化(A)
バーサーカーのクラススキル。全ステータスをランクアップさせるが、理性の大半を奪われてしまう。

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