Fate/Game Master   作:初手降参

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悔いも戒めも無意味

 

 

 

ウルにたどり着いたマシュ達は、出会った市民からウルの現状を聞くことに成功した。

 

曰く、自分達は魔獣からは守られていると。

曰く、ここは安全だと。

曰く、しかしそれは一日一人の生け贄が条件だと。

曰く、束になっても生け贄を要求する女神は倒せないと。

曰く、だからここにいるしか無いのだと。

 

彼女らのその声は痛ましかった。誰も彼女らを責めることは出来ない。マシュはそう確信する。そして手を差しのべた。

 

 

「でも大丈夫です、遅くなりましたが、私たちがやって来たから大丈夫。早く逃げてしまいましょう」

 

「いいえ、いいえ──ここからは決して出られない、出られないのよ!!」

 

「そんなことはありません!! もう恐怖に怯えて明日を見失う必要は無いんです!!」

 

「いやいやいや!! 死にたくない!! 貴女達はあの悪魔を見ていないからそんな事が言えるのよ!!」

 

 

しかし話に進展は無かった。恐怖に凝り固まってしまったウルの市民達は、ここからの脱出すら恐れていた。

そこに、走る足音が聞こえてくる。

 

 

   タッタッタッタッ

 

「誰か来ました!!」

 

「うむ、あれは……」

 

「ふははははははは!! 天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ!! ん? 誰も呼んでない? なら運命が呼んでいる!! ジャガーの戦士ジャガーマン、ここに見参!!」

 

 

……例の英霊(いきもの)がまた現れた。しかも大量の獣を引き連れて。

 

 

「貴様らがウルの住人と交流するのは、まあ良いことです。でも連れ出すのは許さニャい。何故ってコイツらジャガーな私の──」

 

「取り合えず倒しましょうか。変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

会話をするのも面倒だと言わんばかりにマシュは変身し、ガシャコンカリバーのトリガーを引く。この間僅かに五秒。

 

 

『Noble phantasm』

 

約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディカ)!!」

 

「え? えええええええええ!?」

 

 

現れた大量の戦車がジャガーマンやそれに連れられてきたキメラを引き潰す。その車輪で虎ミンチを作ってやろうと走り抜く。しかし……それらもジャガーマンに効くことは無くて。

 

 

   ピョコッ

 

「酷いなぁ!! やっぱり君コワイ!! それでも私はデンジャラスかつファビュラスなジャガーマン!! この程度ではビクともせぬ!!」

「くっ……やはりギャグ補正は剥ぎ取れませんか。相手が本気になれば自ずと取れると思っていましたが、そもそも本気になる理由が足りない……」

 

 

シールダーはそう呻いた。その後ろでジャガーマンを分析していたマーリンが彼女に叫ぶ。

 

 

「解析完了!! ジャガーマンは恐らく神霊の類いだ、それも高度の!! 君にある(アルトリア)殺しの逸話を強化すればいざ知らず、今は何ともし難いぞ!!」

 

 

マーリンがそう撤退を促す。……そしてそれを言い終えた直後にあることに気づいた。

 

 

「いや……それなら!! 信長、宝具だ!!」

 

「うむ、分かったのじゃ!! Everybody say!! A・TU・MO・RI!! 第六天魔王波旬~夏盛~(ノブナガ・THE・ロックンロール)!!」

 

 

動いたのは、キメラを纏めて相手していた信長だった。宝具開放、彼女の周囲で炎が燃え上がり、呼び出された骸骨がジャガーマンの顎を捉える。

 

 

「それ皆歌えぃっ!! A・TU・MO・RIィッ!!」

 

   グシャグシャッ

 

「熱盛ィッ!?」

 

 

吹き飛ばされるジャガーマン。とうとう、痛いダメージを与えることに成功した。ギャグ補正すらも塗りつぶすのは流石は対神宝具とだけある……マーリンはそう分析する。

 

しかし、彼らはジャガーマンに集中するあまり、真の女神の接近に気がつかなかった。

 

 

「ふぅ、ふぅ……失礼しました。でももう時間稼ぎは十分ね!! ()()()()()()()!!」

 

「ククルン?」

 

「くくるんとは、何だ? サーヴァントか?」

 

「──まさか!! やられた、皆逃げな──」

 

 

 

 

 

「いくわよ~? トペ・プランチャー!!」

 

「え? わし? え? え?」

 

   グシャッ

 

───

 

「兵学舎より連絡!!」

 

「ウルク北壁より連絡!!」

 

「河畔より連絡!!」

 

 

ギルガメッシュの元には、今日も今日とて大量の連絡が舞い込んでいた。彼は何時ものようにそれらに対応し、当然休む暇は無い。止まっている暇などどこにも無いのだ。

しかしそんな彼でも凍りつくような非常事態が起こっていた。

 

 

   スタッ

 

「──風魔小太郎、ニップルより帰還!! 緊急連絡!!」

 

 

ギルガメッシュの前に次に現れたのは、明日にでも残された人員の救出作戦を行おうと計画していたニップルを視察しに行かせた小太郎だった。傷だらけの彼は息を切らしながら王の前で跪く。

 

 

「どうした!? まさか──」

 

 

ギルガメッシュは息を飲んだ。

最悪の事態が起こったのだと察することは容易だった。

 

 

「……ニップル市、魔獣の群れによって壊滅!! 急遽助けられたのは二十三人、それ以外は連れ去られました!!」

 

「何だと!? まさかこんな早くにやられるとは……それだけ向こうも焦っていたのか」

 

「恐らくは。それに……」

 

 

そこで小太郎は足の包帯を取り、生々しい傷跡を見せる。サーヴァントの体でも暫くはろくに走れないだろう、そう思うくらいには痛々しかった。

 

 

「……手傷を負ったか。まあ二十三人も救ったのだ、仕方あるまい」

 

「申し訳ありません……」

 

───

 

 

 

 

 

「そんな、ことが……」

 

 

ウルでジャガーマンの後に現れた謎の女神に潰されかけて、やっとのことで退却してきたマシュとマーリンは、ギルガメッシュからニップルが落ちたという話を聞いた。

潰されてしまった信長は、信勝の所で休ませている。

 

 

「ええ……すみません、マシュさん……」

 

「いえ……」

 

 

小太郎は足を引きずりながら頭を垂れた。戦力が一つ減ってしまったというのは、このジグラット内では周知のこととなっていた。

 

……しかし。

 

ここは神代、神の現れる空間。

 

ならば、救いの神が現れない道理はなく。

 

 

 

 

 

「え、ちょっ、誰ですか!?」

 

「ああっそこはダメ開けちゃダメ入っちゃダメ!!」

 

「止めろ!! 止めるんだ!! 何としてでも通すな!!」

 

「いやだよぅ」

 

 

突然、廊下の方から見回りの兵士たちの悲鳴が聞こえてきた。

何かが迫ってきている。しかし、誰が?

 

 

「まさか、エルキドゥ……?」

 

「いや、まさか……」

 

 

足音は近づく。息が荒いのが壁越しに伝わってきて。

部屋の扉が乱暴に開かれた。

 

 

「ブゥン!!」

 

   バタンッ

 

「フフフフ……ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「黎斗さんっ!?」

 

「……誰だ、こいつを通した奴は」

 

 

(黎斗)が現れた。

 

(黎斗)が現れた。

 

ギルガメッシュが青筋をひくつかせる。マシュは愕然としマーリンは頭を抱える。そして小太郎は首を捻った。

彼らを見て黎斗は笑う。笑って……

 

 

「私は誰にも命令されなぁい……何故ならァ……アハァ……私こそが、神だからでゃあ!! ハーハハハハ!! ハーハハウッ……」

 

   バタッ

 

『Game over』

 

 

倒れた。死んだ。

ハイテンションが過ぎて発作でも起こしたのだろうか。

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……え?」

 

 

「フフフフ……フフフフハハハハハハハハ!!」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハハハハハ!!」

 

 

「……何だと?」

 

「……」

 

「……」

 

「……え?」

 

 

「私のライフは38からまた一つ減って、残り37……!!」

 

 

「ほう……不快だが、だが……ぬぬぅ……」

 

「私のライフ無駄遣いしないで下さいよ」

 

「……」

 

「……え?」

 

 

黎斗の死。伸びる土管。黎斗の復活。ライフ減少。

それらは、ギルガメッシュと小太郎には多少刺激が強すぎるもので。

 

そして黎斗は何事も無かったかのように小太郎に近づき、桜色と灰色のガシャット、そして見慣れないドライバーを取り出す。

 

 

「さて……私がここまで来てやったのには当然理由があるぅ……風魔小太郎ぅ!!」

 

「は、はい?」

 

「神の恵みを……受けとれぇぇ!!」グイッ

 

「え?」

 

 

そしてそれらを小太郎に押し付けた。

 

 

「……これは……」

 

 

桜色と灰色の二色のガシャットには、『ストームニンジャー』と名前がつけられていた。小太郎をデフォルメしたようなキャラクターが描かれている。

そしてドライバーは……小太郎は勿論、その場の誰も見たことがない、新型のそれだった。

 

バグヴァイザーを思わせるバックルだけが縦についているシンプルな形状。しかしその根本には仕掛けがあり、右側に傾ける事が出来る……かつて黎斗がWというライダーをストーキングして得た、ロストドライバーのデータを改造したものだった。

 

 

「……なるほど。マーリンめの言葉はこういうことだったか」

 

 

小太郎は未だ不思議そうではあったが、ギルガメッシュは感心したように頷いた。

よく出来ている。実によく出来ている。恐らくあれが、檀黎斗という人間の全てなのだろうと彼は理解していた。

 

そして彼は、ギルガメッシュに対して一言も言うことなく帰っていこうとする黎斗を呼び止める。

 

 

「……待て」

 

「何だ……私に命令するなぁ!!」

 

「……(オレ)の間に無断で入りながら我に対して何も言わず去ろうとする無礼、実に赦しがたい。故に、貴様を軟禁する」

 

「ちょっ、ギルガメッシュ王!?」

 

 

マシュが目を見開いた。

黎斗を軟禁しようとの言葉自体に驚きはない。当然だ。だが……檀黎斗を軟禁なんてしても止められない。

寧ろますます態度は悪くなると思うからこそ、彼女はギルガメッシュを止めようとした。それは無駄な行為だと。しかし次の言葉で彼女は黙ることになる。

 

 

「……貴様は取るに足らん俗物かも知れぬが、貴様の作るものには価値がある。軟禁ではあるが、部屋と設備は十分に都合しよう。というか、我にもガシャットを寄越せ。宝物庫に入れてやらんこともない」

 

「ほう? まあ、神の才能の産物なのだから欲しくもなるかぁ……良いだろう、君の頼みを聞いてやらないこともない」

 

「交渉は成立だな。おい、客室に連れていけ」

 

 

そうして、黎斗は先程悲鳴を上げさせた兵士達に連れられて部屋から出ていく。その顔はやはり笑っていた。

 

 

「良かったのですかギルガメッシュ王? 黎斗さんは簡単に制御は出来ませんし、はっきり言いますと倒すのも難しいのですが……」

 

「分かっている。だがあれは有効利用も出来るからな。そうだろうマーリン?」

 

「うん、そうだね。檀黎斗は本来戦うものではなく、産み出す人間だ。ああ、だからこそ彼は神なんだ。小太郎君、神の恵みを貰った気持ちはどうだい?」

 

「いや、どうだい? と言われましても……」

 

 

ピンと来ない様子で唸る小太郎。……彼の脚の痛みは、引き始めていた。

 

地面が揺れたのは、その瞬間だった。

 

───

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

「何よ何よ何よぅ!?」

 

 

大使館で一人寝転がっていたエリザベートは、突然の地響きで飛び起きた。尋常ではない揺れだった。

慌てて外を見てみれば、北壁の辺りにヒビが入っている。そしてその穴から魔獣が流入していた。

 

 

「えっ、ど、どうすれば良いのかしらぁ!?」

 

 

四つ足の獣が市に溢れ始めていた。レオニダスとアヴェンジャーが戦っているのが見える。

 

エリザベートも、ここで籠っている訳には行かないと思った。本当は逃げたかったが……それはマジックザウィザード(晴人)に申し訳が立たない、そう考えた。

だから彼女は黎斗の部屋に飛び込み、バグヴァイザーL・D・Vとプロトタドルクエスト、そして修理中のマジックザウィザードを引っ付かんで窓から飛び出す。

 

───

 

「ぬっ……北の魔獣の女神めが迫ってきているのか。マシュ!! コタロウ!!」

 

「何ですか!!」

 

「我達は入ってきた魔獣を根絶やしにしてくれる。貴様らは壁の外に出て、魔獣の女神を食い止めろ!!」

 

 

ジッグラトから飛び出したギルガメッシュは、辺りを見ると共にそう言った。顔には焦りが見てとれた。

 

 

「何をしている!! ぐずぐずするな早く出よ!!」

 

「は、はい!! 行きますよ小太郎さん!!」

 

「ええ!!」

 

 

走り出すマシュと小太郎。背後で倉の開く音が響いてくる。しかし彼らに助太刀している暇は無い。

魔獣をすり抜け家々を飛び越え、二人は北壁の外まで飛び出した。

 

そこに、女神がいた。無数の屍を踏み潰して魔獣を送り出す女神がいた。人が相手取るには巨大すぎる女神がいた。

 

 

「……大きい。大きすぎる!!」

 

 

どちらともなく声を上げる。それは、そのまま絶望だった。

既に女神によって下半身を潰されていた兵士の一人が、譫言のように何か呟いている。

 

 

「どうしましたか!? 何ですか!?」

 

「あ……あれは……ティアマト神だ……逃げろ……逃げ、な、きゃ……ティア、マト、から……俺には……まだ……」

 

 

……そこで息絶えた。マシュは彼の目を閉じさせ、エクスカリバーを構える。そして、バグヴァイザーを装着する。

 

 

『ガッチョーン』

 

「ティアマト神……絶対に許さない!!」

 

「ええ、ここで倒さないと……!!」

 

 

「……ん? 羽虫が鳴いている思えば、新しい人間だったか。人類の怨敵、三女神同盟の首魁、貴様らが魔獣の女神と恐れた怪物……百獣母神、ティアマトが姿を見せてやったのだ。平伏し、祈りを捧げるべきであろう?」

 

 

その声には余裕が滲み出ていた。兵が死んでも何とも思っていないようで……いや、実際に何とも思っていないのだろう。

だからこそ、許さない。

 

 

「誰が平伏なんてするものですか!!」

 

『Britain warriors!!』

 

「変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

マシュはいち早く変身し、ティアマトに突撃していく。その姿に恐れは無い。

死は悔しいものだ。だからこそ、ここで根元を絶つ。人々の明日を守る。その決意は、シールダーにはとうに出来ていた。

 

そして小太郎も、彼女に続く。

 

 

「……これで、良いんですよね?」

 

『ストーム ニンジャー!!』

 

『ガッシャット!!』

 

 

ドライバーにガシャットを挿し込み、彼はそれを傾けた。

 

 

「……変身!!」

 

『ガッチャーン!!』

 

『ぶっ飛ばせ 暴風!! ストームニンジャー!!』

 




新型ドライバー

早い話がガシャット版ロストドライバー。黎斗がラーマとシータ用に構想しているダブルドライバーのプロトタイプ。性能は、ボタンの代わりに出力が上がったバグヴァイザーL・D・Vに近い

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