Fate/Game Master   作:初手降参

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誰も知らない真実

 

 

 

 

 

「さて、先ずは一杯……ケツァル・コアトル討伐、ゴルゴーン撃退による魔獣戦線勝利を祝して、乾杯!!」

 

『『『かんぱーい!!』』』

 

 

その夜、カルデア大使館にて。

そこではゴルゴーンの危機を脱し一先ずの小休止に入ったと判断したギルガメッシュの計らいで、今回の戦いに参加したサーヴァント達で飲み会が開かれていた。

ギルガメッシュ本人と、ゴルゴーンの追跡をするとだけ言って立ち去ったアナ以外の、全てのウルクに味方するサーヴァントがここにいた。

あとジャガーマン。

 

 

「いや、何で連れてきたのよ……」

 

「すまない、何とか仲間に引き入れられないかと思って……」

 

 

弁明するのはジークフリート。何を隠そう、彼がジャガーマンを連れてきた張本人。

因みにジャガーマン本人は、ケツァル・コアトルが倒されたことには純粋に驚いていたが、割と早くに切り替えてギルガメッシュ側に乗り換えている。

 

 

「……本当に裏切らない?」

 

「勿論だニャ。ククルンもいないのに片意地張る必要も無いし、何より旨い肉を奢って貰った」モッキュモッキュ

 

 

そう語るジャガーマン。

……信用しきることは出来ないが、全く信用しないこともない。取りあえずは捨て駒として保護しておくように、とギルガメッシュからは言われていた。全員がそれに習って、取り合えず放置することにした。

 

 

「うむうむ、わしの武勇伝が聞きたいか? 良いぞ? わしはな、あの翼竜を相手に苦戦していたが決して諦めず耐え続けた……辛く苦しい戦いじゃったが、諦めずにいたら例の新作がとどいてだな。バンバンシミュレーションを使用して──あれ、誰も見てない? そんなぁ……」

 

「半分はオレの働きだった筈なんだが……まあいい」

 

 

宴会は続く。あるものはくだを巻き、あるものは酔い潰れ、あるものは泣き上戸と化し……しかし、それらの会話はたわいもない事ばかりだった。とりとめのないことばかりだった。

 

 

 

 

 

「……あれ、え? え?」

 

 

……その時。疲れたのか酔ったのか、とにかく大使館の隅で崩れ込むようにして眠っていたイシュタルが目を覚まし、辺りを見回した。

周囲は武勇伝の語り合いに忙しく、彼女の異変を騒ぎ立てるものはいない。

 

 

「ねえ、そこの……マシュ?」

 

「何です、イシュタルさん?」

 

 

イシュタルは冷や汗を垂らしながら、マシュに近づいた。

 

 

「……本当に、あのケツァル・コアトルを倒したの? ゴルゴーンも?」

 

「ええ。私だけの力ではありませんが」

 

「え? え? ……本当に? どうすればいいのだわ?」

 

 

……そんな言葉が口から溢れた。

刹那マシュはエクスカリバーを構え、イシュタルの首筋に突きつける。

 

 

「……貴女、イシュタルさんじゃあありませんね? 誰ですか?」

 

「え? え? いや、いや……私は……あ、ちょっとトイレに……」

 

   ザンッ

 

「誰ですか?」

 

 

誤魔化して立ち去ろうとするイシュタルの髪を一センチ分だけ切り落とし、マシュはさらに迫る。壁にイシュタルを押し付ける。

周囲の喧騒は二人の空気に抑制され、全員の視線がイシュタルに向いていた。

 

 

「あ、私知ってる!! シャレンジで習ったわ!! その子は三女神同盟最後の一柱、冥界の女主人エレシュキガルよ!! はいここテストに出まーす」

 

「げっ」

 

 

そう言ったのは……ジャガーマンだった。ジークフリートによってケツァル・コアトルの指揮下からギルガメッシュの指揮下に移ることになった彼女は、誰よりも三女神同盟に詳しかった。

 

 

「お、おほほほほ……」バタン

 

 

イシュタル……いや、女神エレシュキガルは、正体がバレたこと、そしてそのせいでマシュの殺気が何倍にもなったことで思わず糸が切れたように崩れ落ち、気絶する。よほど恐ろしかったのだろう、股の辺りが湿っていた。

 

 

「……気絶しましたね。今のうちに始末します?」

 

「や、止めなさいよ……」

 

 

マシュが剣を納め、どうしようかと意見を仰ぐ。少なくとも、ここで始末するのはよろしくないが、かといって良くわからない状態の彼女を放置するのも微妙だ。そも、まだ彼女を仲間にして二日と経っていないのに。

 

 

「……イシュタルとエレシュキガルは体を共有していたのだろう。恐らく、豊穣の女神イシュタルと死の女神エレシュキガルは同一の神性であり、故にこそ二体同時に現れた……」

 

 

膠着した宴会の場に、自室から出てきた黎斗がそう呟きながら現れた。三階まで騒ぎが聞こえていたのだろうか。

 

 

「なら、どうしますか? 依代の少女とイシュタルを強引に分離しその神霊を殺せば何とかなります?」

 

「それは無理だろう、神性は同じでも別の存在、イシュタルの霊を殺してもエレシュキガルの霊は無事……ひょっこり現れて一突きだ。最後の手段に取っておけ」

 

 

三女神同盟の本当の最後の一柱エレシュキガル。彼女との会話は急務。マシュはどうしようかと思い悩む。どうすればエレシュキガルに会える?

 

 

「エレシュキガルに会いに行くなら、彼女自身が都市神としてあったクタ市から冥界に入るといい。明日にでも赴けばいいさ……なに、地面を思いきり破壊すれば冥界だ」

 

 

黎斗はマシュの心情を察したのかそこまで言って、自分の部屋に戻ろうとした。恐らく自分は冥界に向かうつもりもないのだろう。誰も反対はしなかった。

反対はしなかったが、マーリンが彼を呼び止める。

 

 

「……少しいいかい、黎斗くん? 付き合ってほしいのだけれど」

 

「……構わないが、何処までいく?」

 

「うーん、じゃ、飲み過ぎたから街道まで夜風に当たりに行く、ということにでもしておこうか。ついてきてくれ」

 

「……良いだろう」

 

 

そうとだけ言葉を交わし、二人は家から出ていった。

何となく湿気てしまった。一同は再び盛り上がる者とそろそろ眠ろうとする者に二分され、宴は何となくお開きになった。

 

───

 

 

 

 

 

「やだ、私行きたくない!!」

 

「そんなこと言わないでくださいよイシュタルさん!!」チャキッ

 

「そのエクスカリバー突きつけながら言わないでよ!!」

 

 

翌朝。拘束しておいたにも関わらず振りほどいて逃げようとするイシュタルの首根っこを掴んで、マシュは冥界についての情報を聞き出した。

何しろイシュタルは冥界に下った経験のある女神。冥界の女主人攻略には彼女の言葉は大きなアドバンテージとなる。

本音を言えばついてきて貰いたかったが、そこまで欲張るのは止めておいて、取り合えず脅して情報を引き出すことにする。

 

 

「ついてきて下さい。もしくは、せめて情報を。約束する(エクスカリバー・)──」

 

「分かった分かった!! 情報ね!? 分かったから!!」

 

 

流石に眼前で聖剣が光るのは恐ろしかったらしく、イシュタルは観念して冥界について語り始めた。

 

 

「……分かった、行くときの注意だけは教えてあげる。まず、神性のあるサーヴァントは行っちゃダメよ、強さが反転するから」

 

「……なるほど」

 

「次に、冥界には所々に槍みたいな籠があると思うわ。中に沢山の光が浮遊してるの。……近づかないほうが良いわよ。それは死者の魂を封じ込めたエレシュキガルの槍檻、彼女は──」

 

───

 

 

 

 

 

「……じゃあ、行きますよ」

 

「オッケー!!」

 

「分かった……じゃあ、衝撃に備えて」

 

 

それから暫くして、クタ市にて。誰もいない廃墟と化していたそこの中心に、マシュとエリザベート、そして既にランドドラゴンスタイルに変身したウィザードが立っていた。

イシュタルから聞くに、神代において冥界は現世と一続き……穴を掘れば辿り着くとのこと。しかし、態々穴を掘っていては効率が悪い。

 

 

「……良いね? 行くよ?」

 

『ルパッチマジックタッチゴー!!』

 

『グラビティ プリーズ!!』

 

   ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

地面に黄色い魔方陣が浮かび上がった。地響きと共にクタの大地が揺れ、ウィザード自身とマシュ、エリザベートは余りの重力に膝をつく。

 

 

「っ……」

 

「……崩れるよっ!!」

 

   ガラガラガラッ

 

   ドサッ

 

 

 

 

 

「……皆、無事か?」

 

「ええ、何とか」

 

「痛いわよ子ブタ……」

 

 

大地は崩れ落ちた。聞いた通りに地下には広大な空間が広がっていて、辺り一面に槍檻が立っている。冥界だった。

 

 

「……ここが、冥界か……寒いね」

 

「うぅ……ドラゴンかき氷になっちゃう……」ガタガタ

 

「……じゃあ、これで行けるかな」

 

『フレイム プリーズ!! ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!!』

 

 

ウィザードが姿を変え、暖かい炎を呼び出す。それで気休め程度に暖を取りながら、彼らは冥界を歩き始める。

……三分程で、巨大な石を積み上げた門のような物の前に辿り着いた。

 

 

「……冥界の七門の一つ目でしょう。イシュタルさんが言っていました」

 

 

マシュはそう言いながら近づいていく。

冥界の七門。二択の問題に答え、その後嫌がらせで出てくる敵を倒し、それらを越えて初めてエレシュキガルの元に辿り着ける。らしい。

 

 

『──問う。森羅万象は善悪により別たれ、水は高きより低きに流れ──』

 

「……鬱陶しいです。押し通ります!! 変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

『──え? あれ?』

 

   ザンッ

 

 

……どうせどう答えても敵は出るのだ、態々答える方があほらしい。シールダーはその考えの元、一つ目の門を両断した。

 

───

 

 

 

 

 

「嫌だ……私は……復讐を、復讐をしないと……しなければ……!!」

 

「……見つけました、ゴルゴーン」

 

「……ああ、あの怪物……!! キングゥ、キングゥ……何処にいる……!?」

 

 

魔獣戦線からずっと離れたある平野にて、ゴルゴーンはアナに立ち塞がられ、最早形だけとなった復讐と共に震えていた。その姿に最早ティアマトの神性を継ぐ者の威厳はなく、ただひたすらに弱々しかった。

 

 

「……ゴルゴーン。そのティアマトの神性があったからこそ、貴女はきっとあの戦いで生き延びた」

 

「キングゥ……キングゥ……!!」

 

 

アナが鎌を構える。彼女に心残りが無いということはなかったが、それよりも(ゴルゴーン)の始末をつけることが優先だった。

アナ……その真名をメドゥーサ。かつてエウリュアレ、ステンノという名の姉達と共に過ごしていた、無垢な少女。その姿で呼び出された彼女は、しかし血にまみれることを選択した。初めはただゴルゴーンを始末するため……今は、人々に安心をもたらすため。

 

その鎌は不死殺しの鎌ハルペー。かつてメドゥーサ自身の首を跳ねた刃。アナは飛び上がり、それを振り下ろし……

 

 

「……もう、貴女は死ぬべきです。これ以上生きていても、生きていても……何も出来ない。だから……私と一緒に死にましょう」

 

「嫌だ、私は……復讐をしなければ……啜り泣く母の、代わりに……」

 

「……もうその力も無いのに。あなたには、もう母の声を聞くだけの体力も残っていない筈なのです。だから」

 

「ああ、嫌、いや……助けて……あ……」

 

 

……しかし、その刃が届くことはなく。

 

 

   ガンッ

 

「っ……誰、ですか……!?」

 

 

 

 

 

「……流石に、我々が介入せざるを得なくなってきたか。忌々しい檀黎斗め……我は()()()()()使()()()()()()()()()()()なり」

 

───

 

「……観念してください、冥界の女主人エレシュキガル。三女神同盟は終わりました、こちらの条件を飲んで投降するか、首を差し出してください」

 

「うわぁ、本当に来たぁ!?」

 

 

冥界の七門を強行突破したシールダーは、エレシュキガルが怯えているのを見るや否や飛びかかり、力付くで組み伏せて、ルールブレイカーを首筋に押し当てていた。抵抗する暇もなくあられもない体勢にさせられ、恥ずかしいやら痛いやらで身動きとれないエレシュキガルにいつでもとどめを刺せる状態にしておく。

 

 

「あぅぅ……ぅぅ……」

 

「最早女神の契りも何もありません。心配ならルールブレイカーで無効化出来ます。さあ、決断を」

 

「ひっ……っ……こ、こんな筈じゃなかったのだわ……!?」

 

「答えてください!!」

 

「マシュちゃん、まず用件を伝えないと……」

 

 

怯えるエレシュキガルを見かねてウィザードがそう言った。流石にシールダーもやり過ぎたと思ったのか、姿勢は変えないままルールブレイカーを腰に納めて静かに告げる。

 

 

「条件は冥界の解放、捕らえた死者の解放、此方への永世協力の三つだけです。良心的ですね」

 

「何が良心的よ!? 私の全て……領土も国民も主権も剥ぎ取るなんてめちゃめちゃよ!!」

 

「なら首、出します?」

 

「ひっ」

 

 

……最早エレシュキガルに選択肢はなかった。シールダーはギルガメッシュから駄賃として貰った契約書の原点にサインをさせ、彼女を強引に味方に引き入れる。

 

 

「では、お願いしますねエレシュキガルさん。何かあったらまた連絡しますので」

 

「ひぃっ……ひぃっ……」

 

「じゃあ晴人さん、お願いします」

 

「……はいはい。でもこれからは言葉に気をつけた方が良いと思うぞ?」

 

「……善処します」

 

『グラビティ プリーズ!!』

 

 

そして三人は強引に冥界の天井を破壊し、直行で現世へ戻っていった。

 





超高速冥界下り

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