ガチャ
「黎斗さん? いますか?」
「ああ、マシュ・キリエライトか。今私は忙しいから後にしてくれないか?」ガチャガチャ
マシュが黎斗の部屋を訪れたとき、彼はガシャットの修理を続けていた。辺りには工具や電子部品が散乱して、足の踏み場もない。
「今からサーヴァント召喚しますよ!!」
「なんでそんなこと……私がいれば十分だろう?」
「どの口が言ってるんですか!! この前みたいにまた対策練られたらどうするんですか? また踞ってたらそれこそおしまいですよ!?」
「うぐっ」
「いいからサーヴァント呼びますよ!! ドクター曰く、今なら三体まで呼び出せるそうです!!」ガシッ
「ちょっ、襟、襟を掴むな襟を!?」
───
「……着きましたね」
二人は、サーヴァント召喚用の部屋に入ってきた。今まで使われていなかったせいだろう、辺りの機器は悉く埃にまみれている。
黎斗はため息をつきながらマシュについて歩いた。
「……これでよし。黎斗さん、準備が出来ました。召喚を」
「分かっているさ」
マシュに言われ、渋々と黎斗がサーヴァントを呼び出す。
辺りに青い光が満ちた。何かの回転する音が響く。そして、その後に現れたのは──
「我が顔を見るものは恐怖を知ることになるだろう……お前も」
顔の半分を覆った、黒髪の長身のサーヴァント。何処と無く歌っている調子にも聞こえる。
「そんなに怖いですかね」
「そうでもないな……で、これは誰だい?」
アサシン、ファントム・オブ・ジ・オペラ。
十九世紀を舞台とした小説「オペラ座の怪人」に登場した怪人──恐らくは、そのモデルの人物。
オペラ座地下の広大な迷宮水路に棲まい、若き女優に惹かれて彼女を歌姫へと導くも、成就せぬ愛のために連続殺人を行ったとされる。
「だ、そうです」
「ほう……面白い」
黎斗はファントムの元へ歩みより観察を始めた。マシュは二体目の召喚の準備を開始する。
「ふーむ……強さはどの位だろうか」
「その声……もしや、貴方は、クリスティーヌ!! おおクリスティーヌ!!」
「檀黎斗だ」
「クリスティ
「檀黎斗だ」
「ク
「檀黎斗だぁっ!!」
「……ならばダン・クロスティーヌで」
……黎斗は肩をすくめ、取り合えず次の召喚をしようとマシュを見やる。
どうやら、二体目の準備は整っているらしい。
「二人目呼びましょうか。出来ればネロ陛下ならいいなぁ……黎斗さん、お願いします」
「まあ期待はするな」
再び部屋に光が満ちた。月光の如き青い閃光は二人を照らし、サーヴァントをその瞳に映し出す。
「余の、振る舞いは……運命……で、ある……」
黄金の鎧の、マッチョな男が現れた。黎斗はマシュに向き直る。
「良かったなマシュ・キリエライト。ローマが来たぞ」
「確かにローマっぽいですけど……あれ、このサーヴァントどこかで見ましたよね」
「ネロと合流した最初の戦いで顔を見たな。それだけだが」
バーサーカー、カリギュラ。
暴虐の伝説を有する古代ローマ帝国三代皇帝。
一世紀の人物。皇帝ネロの伯父。
当初は名君として人々に愛されたが、突如として月に愛された──狂気へと落ち果てたのである。
暗殺までの数年間、彼は帝国を恐怖で支配した。
「だ、そうです」
「なるほどな」
再び召喚の準備にかかるマシュ。黎斗はカリギュラの元へ寄り、その肉体を鑑賞する。カリギュラの方も、じっくりと黎斗を見定めた。
「……なかなか出来た肉体だな。力はかなり期待できる」
「おおネロよ、そなたは美しい……」
「……バーサーカーに、頭を期待するのは酷だったか。マシュ・キリエライト!!」
「準備万端です!!」
三度目の召喚。鬼が出るか蛇が出るか、いやどっちも来てほしくないけれど、せめてまともな女性が欲しい!! マシュはそう切に願う。
「さあ、ラストです。出来ればまともに会話できる女性サーヴァントをお願いします……」
マシュの心労を労うように、召喚の光が辺りを照らす。それはまるで辺りを撫でるようで……
「お招きに預かり推参仕りました。不肖ジル・ド・レェ、これよりお傍に侍らせていただきます」
訂正。労っているのではなくて、嘲笑っていたらしい。マシュは崩れ落ちた。
もう女自分だけなのはいい加減辛かったのだが。ダ・ヴィンチはあれは男だから。
やっと楽になれると思ったのに。
「良かったなマシュ・キリエライト。会話出来そうだぞ」
「目が、その、死んでますよこの人!!」
キャスター、ジル・ド・レェ。
15世紀フランスの貴族。
自らの領地にて近隣の少年を次々と拉致しては凌辱・惨殺するという所行を繰り返し、後の世の童話『青髭』のモデルとして知られるようになる。
「超危険サーヴァントじゃないですか!?」
「ハーハハハハハ!! これはまた傑作だな!!」
マシュに絶望のダブルパンチ。せめてまともなサーヴァントであって欲しかった。辛い。
───
「……どうしましょう、ドクター……」
「あ、あはは……どうしようって、どうもねぇ……」
「リリースとか出来ないんですか!? 返品を要求します!!」
「ちょっとそれは無理かなぁ……あはは……」
涙目のマシュを前にして、ロマンは何も言えなかった。
本来ならどんなサーヴァントに対しても寛容であったのだろう彼女は、しかしこれまでの黎斗との関わりのなかで、面倒臭い者を避けたがるようになってしまっていたらしい。
流石に彼女を不憫にも思うが、だからと言って再召喚するには、カルデアに魔力が足りない。本来はカルデアならサーヴァント呼び出しにとある石を使うのだが、それらは先程使いきってしまっていた。
「あうぅ……」
「……強く生きてくれ、マシュ。また機会があったら報告するから」
───
「……」ガチャガチャ
黎斗はその頃、マイルームに戻って、再びガシャットの修理に取りかかっていた。
取りかかっていたのだが、先程呼び出した三体が妙に煩い。
「……」ガチャガチャ
「おおクロスティーヌ」
「私は檀黎斗だぁっ!!」
ファントムに突っ込みを入れながら、プロトドレミファビートを再び組み立て直した。
「……」ガチャガチャ
「そなたは美しい……」
「えぇ……(困惑)」
カリギュラに少し引きながら、プロトゲキトツロボッツを組み立て直した。
「……」ガチャガチャ
「紛れもない才能の輝き!! 感服致しましたぞ、我が主よ」
「当然さぁ!! 神の才能が、私にはあるのだからなあっ!!」
ジルに絶賛されながら、プロトドラゴナイトハンターZを組み立て直した。
既にプロトギリギリチャンバラは直してある。漸く仕事が一段落した黎斗は大きく伸びをして天井を見上げ──一つ閃いた。
「……成程」
「どうかしましたか我が主よ」
「おおクロスティーヌ、何か?」
「ネロォォオオオオオォ!!」
構想を広げれば広げるほど、含み笑いがニヤリと曲がり、段々と高笑いに変貌していく。
ああそうか、それも出来るのか。やってみよう。きっと面白いことになる。
「……ハハ、ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!!」
組み上がったプロトドラゴナイトハンターを天井の明かりに翳して、黎斗は笑い続ける。
「ハーハハハハハ!! ハーハハハハハ!!」
「クロスティーヌ!! クロスティーヌ!!」
「ウオオオッッッ!! ネロォォオオオオオォ!!」
「ジャンヌ!! ジャンヌ!! ジャンヌゥゥウッ!!」
煩い。
「ジャンヌ!! あなたは、あなたは!!」
「クロスティーヌ!! 君はまるで」
「ネロォォオオオォ!! そなたはっ!!」
「宝生永夢ぅっ!! 君は正しく!!」
「「「「水晶っ!!」」」」
ポエマー戦隊君の心は水晶なんジャー
イカれた奴等は引かれ合う