「ノブカツお兄ちゃんお腹すいたー」
「私も私もー」
「僕もー」
「わしもわしもー」
日は暮れようとしていた。今日もちびノブを率いて復興作業に従事していた信勝は、子供たちと
「あーはいはい、差し入れにケーキありますからね、食べましょうか」
「わーい!!」
「ありがとう!!」
そして彼は、貰ったケーキを取り出そうと部屋に入ろうとし。
空を見上げていた一人の少女に気がついた。
「どうしたんだい? 何かあった?」
「……あれ、何か飛んでない?」
指差す方向を皆が見る。
黒い粒が見えた。初めは一つだったのが段々三つ四つに増えてくる。鳥かと思ったがそういうわけでもない。
「あれ、なあにー?」
「……何じゃろ、あれ」
──次の瞬間、信勝に悪寒が走った。
あれは不味い。とても不味い……危険だと。
「……皆さん、下がりましょう。危険ですから建物の中に」
「っ……はーい」
「怖いよ……」
「まだお家には帰れないの……?」
「ええ、そうですね……とにかく今は下がって。……姉上」
「分かったのじゃ」
そして彼は姉を送り出し、子供たちを守るためにちびノブを追加で呼び出した。
───
「エレシュキガルめを従えたか。良いことだ……そろそろジグラット地下の死体達のもとに魂が戻ったころか」
「ええ……それより、ウルの住民たちを助けにいくのは何時にしますか? 彼女らも熱帯雨林に籠りっぱなしはよくないですし、何よりケツァル・コアトルの支配は終わったんです」
「ううむ、そうだな──」
ギルガメッシュはその時、冥界から戻ってきたマシュから成果を聞いていた。契約書の原典をくれてやっただけの成果はあったと彼は納得し、満足げに頷いて──
──その時に、伝令がやって来た。
「観測所より連絡!! 連絡!! ペルシア湾が黒く染まり、そこから無数の黒い生命体が出現!!」
「──何だと?」
「そんなっ!? 三女神同盟は今度こそ終わったはず……ゴルゴーンに、そんな力が!?」
唐突に伝えられた危機。ギルガメッシュは思わず聞き返し、マシュは慌てて立ち上がる。居合わせた他の面子もおろおろとし、全員が外を確認しに向かった。
『緊急事態につき連絡を取らせて貰うよ!!』
「ドクター!! 一体何が──」
そこにロマンが顔を出す。彼自身マシュに言いたいことが無いことはなかったが今はそれどころの状況ではなかった。
彼の顔は青ざめていた。しかし口を止めることは許されない。
『……信じられないかもしれないけれど……敵性生命体、現在一億!! 移動しているのはまだ十万で、うちウルクに向かっている数は二万だ!! ちびノブの迎撃があっても九割は確実に攻めてくる!!』
───
空の果てまで黒い怪物が埋め尽くさんと溢れて行く。
海の底は最早黒に邪魔をされて覗くことは叶わない。
そしてその海の上に呼び出された女のようなものは、目の前に伸びた柱を前に呆然としていた。
女は悲しげだった。傷一つない手足を自ら縛り、その長く青い髪は泥にまみれ、大地を象徴する大角は自身を戒めるように強ばり、星の内海を移す瞳は涙に濡れて。
彼女こそが創成の女神、ティアマト神。創成の後に切り捨てられた母胎。世界の裏側に追放された者。
彼女は哭いた。これは望んでいないことだと。
しかして彼女の力は、彼女を呼び出した目の前の柱が望んでいる。
「LAAAAa、AAAAAAAAAaaaa──?」
「我が名はソロモンの七十二柱が一柱、海魔フォルネウスなり」
「同じく七十二柱が一柱、フォカロル」
「同じく、ウェパル」
「同じく、デカラビア」
四つの魔神柱が、彼女を取り囲んでいた。動けないように包囲していた。
ティアマトは祈る。それしかできない。そして彼女の体は既に蝕まれ始めていて。
「やめ、止めて……ください……!!」バタバタ
そこに、二人のメドゥーサが現れた。いや、その言い方はもう正しくない。
ゴルゴーンの方は既にアスモデウスに殺された。アスモデウスは体を奪い、その上でアナを捕縛して連れてきたのだ。
「はな、して……!!」バタバタ
「待たせたな同胞よ、これより、ビーストⅡを覚醒させる」
ゴルゴーンの体でアスモデウスはそう言った。潰さない程度に握りしめていたアナを黒い海の中に沈めたそれは、他の四柱と共に無抵抗のティアマトを押し倒し、海の中に押し込み、共に融け合って──
「AaaAAAAAAAAa……AAAAAAAAaAAAAAAAaaaaAAAAaaaa……」
「さあ真に目覚めよティアマト神、いや、いいや、ビーストⅡよ!!」
「違う違う違う!! 最早ビーストⅡですらない……我らはビーストⅡ-Ⅰとなるものなり!!」
「Aa、AAAAAAAAa──」
トポン
「ああ、だめ……
そしてそれをもがきながら見つめていたアナの意識も、闇の中に融け落ちた。
「あ……っ……誰、か……」
トポン
───
「
「
『バンバン クリティカル ファイア!!』
「「「はあっ!!」」」
ズドン ズドンズドン ズドン
黒い点だったものは、徐々にウルクに近づきつつあった。慌ててその進路を阻むためやって来た三人は、空を大地を進撃する怪物に全力を叩き込む。
「tzs@4d(4l)4」ガシャッ
「tzs@4d(4l)4」バタッ
「tzs@4d(4l)4」ガクッ
「zz@:、zz@:!!」
「qkde zg@q@!!」
「っ……全くこれではきりがない!! っ……だめだ、このままだと押し潰される!!」
しかし敵の物量には叶わない。何百何千と追加されていく怪物は、迎撃され吹き飛ばされる仲間を惜しむ様子もなく三人へと突撃する。
「気持ち悪い上に数も多い、こやつらゴキブリか!?」
「ztj594、]ewn94。s@yub5=3:@.tu」
「近寄るな近寄るな!!」バンバン
最も怪物の近くにいたアーチャーは、それらに包囲されていた。突破口を開こうと砲弾を飛ばしてみても、出来た隙間はすぐに埋められる。
「
『タドル クリティカル スラッシュ!!』
「
ザンッ
追加でやって来たアヴェンジャーとセイバー、そして牛若丸が、怪物達を斬り伏せた。しかしやはり多勢に無勢と言うべきか、彼ら彼女らにも異形は襲い掛かる。
「mZs3c-@4、s@ys@y3c-@4」
「6ma' 25wqkde」
「xZg9l fw@ib\c4。bys@f、]<=xb4!!」ザンッ
ガキンッ
「……殺し慣れている手つきです。彼らはもう何人も殺しています」
怪物と打ち合った牛若丸がそう呟いた。すでに、進路にあった市々は蹂躙し終えてしまったのだろう。そう思えた。
しかも怪物は進化する特性を持っているようだった。大地を突き進む怪物が突然跳ね上がり、空を飛んでウルクに向かうことも多々あった。マシュ達が迎撃しているが、限界もプレッシャーもある。長い戦いは好ましくない。
「f7heb4、0h0hr.」
「g@'fffffff!!」
しかし相手側にその理屈を聞いてもらえる筈がなく。時は既に夜だったが、怪物は引く気配は一切なく。
これ以上はだめだと、誰からともなく判断した。
「ここは退却しましょう、何、足ならこの牛若にお任せあれ……宝具、遮那王流離譚が五景の一つ、
牛若丸が宝具を発動し、怪物の群れを出来るだけ遠くに転移させる。それが彼女の宝具の一つの力。そしてサーヴァント達もその光に包まれ、ウルクへと転移していき──
───
「……よし、これよりこの生命体をラフムとする。良いな?」
牛若丸の宝具で戻ったサーヴァント達は、他の方向からの怪物を撃退したマシュ、晴人、エリザベートと合流し、ギルガメッシュの前にて、ギルガメッシュ自身とカルデアの分析を聞いた。
曰く。この個体は神代の土と泥で練られた全く新しい生物だと。
曰く。雌雄はなく無性生殖で増え、ただでさえ強力なのに、ここから更に進化すると。
曰く。この怪物はこれからラフムと呼ぶことにすると。
曰く。ラフムはケツァル・コアトルのいなくなった密林に巣を作り、その近くのエリドゥにウルク外の市から人々を浚っていったと。
「エリドゥに向かわないと……!!」
「マシュ、今は夜じゃ。見通しも悪ければ民も疲れきっている、ここは──」
マシュはそこまで聞いて、既に疲弊しきった体で立ち上がりジグラットから出ていこうとする。信長が止めようとしたが、ギルガメッシュがそれを止めた。
「──よい。行け」
「……感謝します。では」
『ブリテンウォーリアーズ!!』
そしてマシュは変身し、ジグラットから高速で飛び出していった。
彼女を見送ったシドゥリがギルガメッシュに心配そうに問う。
「……本当に良かったのですか?」
「構わぬ。鼻先に人参をぶら下げた暴れ馬など手がつけられる筈がないだろう」
───
「──Aa──」
やはり空は黒かった。やはり海は黒かった。
かつて生命を産み出したティアマトは一度その中に沈み、そして今再誕する。
「──LAa──」
ゴゴゴゴゴゴ
一つの水柱が立った。太くおどろおどろしいそれが再び海に還った時、水上では──
ザパァンッ
「──LAaAa、AaaAAaAAAAAaAAaaAAAAAAAAa……!!」
──
一歩歩けば津波が起きる。黒い海が大地へと押し寄せる。歩く災害と化した彼女に、最早己自身の理性はなく。
「──母さん──」
「……AAaaAAAAAAAAAAaaa、LAAaaa……」
「ソロモン……なぜボクらに干渉した!! この時代はくれるんじゃなかったのか!!」
そこに現れたのがキングゥだった。彼はビーストⅡ-Ⅰの前に立ち、ティアマトを占拠した魔神柱を非難する。しかし……彼は母親の手で、埃を払うように容易く叩き落とされた。
ドサッ
「……何で。ボクは、ティアマトの最高傑作なのに」
「……AaaaaaAAAAAAAaAaaaa、AAAAAaaAAAaaaaAAAAAAAaaaaa……」
「──そんな」
ギリギリ海に浸かることなく地面に突きつけられた彼は震える足で立ち上がり。しかし恐れを感じて、そして真実を告げられた彼は慌てて飛び上がり、ティアマトの前から姿を消した。
告げられた真実。キングゥは、ティアマトの子供ではなく……エルキドゥの遺体に作られた偽物であること。
それが、キングゥの意思を破壊した。
「そんな、そんな……そんな!!」
スッ
彼は闇に消えた。しかしティアマトは動ずることなく、進撃を継続する。
ティアマト語、ラフム語完全対応