Fate/Game Master   作:初手降参

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光一つも見えない

 

 

 

 

 

「急がないと、急がないと……」

 

『高速化!!』

 

 

シールダーは走っていた。顔のない王(ノーフェイス・メイキング)で姿を隠し、高速化のアイテムを見つける度にゲットしながら、休むことなく走っていた。その目は、どこかで泣いているのであろう、助けを求めているのであろう人々を見据えていた。

 

 

「っ……ついた!!」

 

 

そして彼女は、元々ウルだった市に辿り着いた。

血の臭いがした。市の表には誰一人としておらず、家の中には死体しかない……そんな地獄が作られていた。

 

 

「っ……」

 

 

シールダーは方向を切り替えさらに走る。今度は確実に、誰かの声が聞こえた。誰かの嘆きが聞こえた。だから走った。もう足の意識は薄れていたが、どうということはなかった。

そして、彼女は辿り着いた。

 

 

「……あれは」

 

 

「嫌だ……殺したくない、俺は殺したくない!!」

 

「頼む、死んでくれ……!!」

 

   グサッ

 

 

「俺が生きる、お前は死ね!!」

 

「お前こそ死ぬべきだ、俺にはまだ家族がいるんだ!!」

 

   グサッ

 

 

「……前々から憎かったんだ、お前が。今この場で念入りに──」

 

   グサッ

 

「邪魔だ、失せろ」

 

 

「……酷い。あまりに酷すぎる!!」

 

 

殺しあう人々。それを囲むように立ち、歯をかちかちと鳴らして笑う沢山のラフム。

どうやらラフムは各地から人々を連れてきて、殺し合いをさせていたようだった。戦わなければ生き残れない、等と煽ったのだろう。そしてそれを愉しく眺め、ただ嘲笑っていた。

許せない、許せる筈がない。シールダーは飛び出して、ガシャコンカリバーを振りかざす。

 

 

『Noble phantasm』

 

転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)!! 我はすべて毒あるもの、害あるものを断つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

 

焔の陽炎が大地を炙る。それはラフムを焼き払い、傷ついた人間を少しでも温め回復させる。

 

 

「逃げてください!! 逃げて!! こいつらは、ラフムは私が!!」

 

「3qode、6ma'q@!!」

 

「egkee、6ma'q@!!」

 

「bys@f、jqtob0dwn949」

 

「「「c;t@ee!! 0o4 0o4」」」

 

 

シールダーに大勢のラフムが飛び付いていく。人々は森の中に逃げ込んでいく。

彼女には逃げていく彼らが、一瞬だけ『もう少し殺したかった』というような顔を浮かべているようにも見えたが、きっとそうではないと断じた。

 

───

 

その頃、ウルク南門前、三重目のナピシュテムの牙前にて。そこでちびノブや兵士達と共に夜目を凝らしながら作業をしていた信勝は、高所にて見張りを行っていたノッブUFOが首を傾げながら降りてくるのを見た。

 

 

「どうしました!? また何か!?」

 

「ノブ……ノッブ」

 

 

そしてそのノッブUFOは信勝を空中に持ち上げる。

夜はもう深い。光一つも見えない程に……恐らくもう丑三つ時だろうと彼は考えながら遠くに目を凝らした。そして……

 

 

「……あれは」

 

 

そこに、異形の巨神を見た。幽霊でも妖怪の類いでもない、幻覚でも疲れ目でもない、真の存在。

夢であればどれだけよかったことか。だがそれは確実に存在していた。上空に吹き荒れるマナと、それに反応して揺れる信勝の手の内の杖がそれを雄弁に物語っていた。

 

 

「……このままジグラットに向かってください。あれは不味い、とても不味い」

 

───

 

 

 

 

 

「大変よっ!!」

 

「大変ですっ!!」

 

「どうしたイシュタルにノブカツ、何があった!!」

 

 

上空で監視を行っていたイシュタルとノッブUFOに乗って向かってきた信勝の、同じものを見た二人は、全く同時にジグラットのギルガメッシュの元に転がり込んだ。

 

 

「現れたわ……母さん(ティアマト)が現れた!!」

 

「そんなこと知っておるわ!!」

 

 

……しかし、ギルガメッシュの方も既にその情報は仕入れていた。というのもつい先程、マーリンが消滅したという連絡と、彼が言い残した言葉が伝えられたからだった。

 

人類悪。魔術王は七つの人類悪の一つを呼び覚ました。それがマーリンの残した言葉。

つまり、蘇ったティアマトこそが人類悪の一つ。人間が倒すべき悪。

 

 

「速度は!! あと何日でウルクにつく!!」

 

『……二日だ!!』

 

 

カルデアが全力で分析を済ませた。

ゆっくりと歩む巨神ティアマト。それが、あと二日でウルクに到達する。

さらに言えば、ティアマトを傷つけることは叶わない。彼女は死なない。この地上に生物がいれば、それがティアマトの生存を証明する……それがカルデアの出した仮説だった。

 

 

「ええい、ここが踏ん張りどころよ……!!」

 

 

ギルガメッシュは呻く。現在のウルクの防備は堅い。ちびノブの尽力によって、出来る限りの最大の堅さを実現している。

正確に言えば、海から南門までには五つの堤防と堀が設置されており、その全てに小さな牙(リトル・ナピシュテム)と名付けられたトラップのような防護柵が仕掛けられている。

そして南門本体の前には、三重になった本命のナピシュテムの牙。

例えティアマトが海を揺らしウルクを泥の津波に覆おうと考えたとしても、軽く十回は耐えうる。ギルガメッシュはそう確信していた。

 

しかし、既にティアマトが目覚めた時点で発生した波により一つ目の堤防は決壊し、小さな牙は破壊された。しかもティアマト自身が歩き始めている。

一刻の猶予もない。

 

 

「エレシュキガル!! エレシュキガル顔を出せ!!」

 

『……今出たわ。もしかして、冥界に母さんを落とすつもり?』

 

 

ギルガメッシュはエレシュキガルから奪い取った冥界の鏡を怒鳴り付け、エレシュキガルを呼び出した。鏡面の向こうに、目の下に隈を作ったエレシュキガルが見える。

 

 

「分かっているとは話が早い。どこかの天の女主人とは大違いだ。……我々はティアマトを倒さねばならぬ。しかしあれは地上に命ある限り死なない」

 

『……納得はできたわ。確かにここに命はない』

 

「よい了見だ、獣に首筋まで迫られて肝が冷えたと同時に頭まで落ち着いたと見える。これならティアマト神を落としても大丈夫か。……冥府の女神エレシュキガルよ、罪滅ぼしの機会だ、王の名の下に命じる……災害の獣を地の底に繋ぎ止めよ!!」

 

 

エレシュキガルはそれを聞いて物凄く嫌そうな顔をしたが否定はしなかった。否、出来なかった。それが出来ない契約だった。

 

 

『……とんでもないこと言うわね。ウルクの下に冥界を移す……準備には四日かかるわよ。元々準備をしていなかった訳でもないけれど、それでも時間はかかる』

 

「つまり、時間稼ぎが必要、と」

 

「なるほど。……ちょうど、マシュが向かったエリドゥにはマルドゥークの斧があると聞いているが……持ってこられるものはいるか?」

 

「サイズはどのくらいなのだ?」

 

「……ざっと15mはあるな」

 

 

時間稼ぎとして思い付いた第一候補はマルドゥークの斧。かつてマルドゥークという神がティアマトを殺した斧だ。

しかしそれが想像を絶するサイズだということも分かっていた。

 

ただの力では足りない。例え怪力を誇るラーマが全力を出しても、マルドゥークの斧を振るうには辛いものがある。

 

 

「……もう一つの手段が必要みたいね……」

 

 

エリザベートがそう嘆息する。

しかしギルガメッシュは笑っていて。

 

 

「いや、案ずるな」

 

「……?」

 

「もう一つの勝ち筋が見えた。何しろこちらにはイシュタルがいる」

 

「……何で私?」

 

 

イシュタルが突然名指しで呼ばれ、イシュタル本人は首を傾げた。彼女にティアマトに対抗できる心当たりなどもうないが……

 

 

「ああ、そうか。そういう話もあったな」

 

 

最初に納得したのはアヴェンジャーだった。彼は今まで手に入れた情報でイシュタルの全力を導き出した。

 

 

「ん? 何か凄い隠し玉があるのか?」

 

「すまない……よく分からなくてすまない……」

 

「とにかくアナタすごかったのねイシュタル!!」

 

 

他の面子も彼に続く。

 

 

「さあ、今が出し時だ。グガランナを呼ぶがよい」

 

「げ」

 

 

……戦力の名はグガランナ、天の牡牛。山のような大きさで周囲を破壊する兵器。イシュタルはそれに時に厳しく、時にもっと厳しくし、自在に操ったと言われる。

 

しかし、イシュタルがそれを出すことはなかった。本来のイシュタルならもう高笑いと共に見せびらかしていた筈だが。

ギルガメッシュは、最悪の事態を思い付いた。

 

 

「……おい、貴様、まさか……」

 

「……はい。いません、グガランナ。落としました……探してもいないんですぅ!!」

 

「なっ……」

 

「え──」

 

 

全員が絶句した。

いない? 山のようなサイズの牡牛が? 見つからない? そんなことはあり得るのか? あったとすれば、どれだけの馬鹿なんだ?

 

 

「こ、この馬鹿女神が!!」

 

 

ギルガメッシュはそう言わずにはいられなかった。実際馬鹿としか言いようがない。

 

万策尽きた、そう思われた。

 

しかし彼らは忘れている。

 

 

 

 

 

ここには救いの神がいることを。

 

 

「「ブゥンッ!!」」

 

   バタンッ

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「フーフフフフ!! フーフフフフ!!」

 

「なっ……マスター!? それに、ナーサリー!?」

 

 

現れたのは、ずっと引きこもっていた檀黎斗とナーサリー。二人は全く同じように高笑いをし、どや顔をした。その場の全員が絶句する。

 

 

「私の才能をなめるなぁ……私は神だ、更に言えば産み出す神だ!! 地母神(ティアマト)がどうした、新たなる神は私だぁ!!」

 

 

黎斗はそう言って退けた。そして彼は凍りついた空間に分け入り、駄女神の称号を与えられたイシュタルの手首を掴む。その顔は自身に溢れて、その力は非常に強かった。

 

 

「という訳でイシュタルは貰っていく……グガランナを連れていた逸話の残っているイシュタルという存在を弄り回せばグガランナの種程度は出せるだろう?」

 

「え、ちょっ──」

 

『爆走 バイク!!』

 

「えっ? えっ?」

 

   ブスッ

 

 

そして彼は、イシュタルにプロト爆走バイクを挿入した。彼女の体は光に包まれ、露出度の低い格好に書き換えられる。

 

そしてその足元には、()()()()()が現れた。

 

()()()()()()()()だった。

 

 

「まさか、この小さいのが……グガランナか……?」

 

「えっ……かわいい……」

 

 

驚愕、茫然、感嘆……一同はその感情に飲まれ、やはり動けない。そしてその沈黙を賛同と受け取った黎斗は、やはり高笑いと共にイシュタルをお姫様抱っこし、部屋から走って出ていった。

 

 

「という訳で、彼女は私たちが貰っていくわね!! 出来るだけ急ぐけど、グガランナが完成するまでは時間を稼いでちょうだい!!」

 

 

そしてナーサリーもそう断り黎斗の後を追う。

 

誰も、彼らを止めることは叶わなかった。

 

───

 

 

 

 

 

「これで、最後っ……!!」

 

『Noble phantasm』

 

   ザンッ

 

 

シールダーは長い長い時間をかけて、エリドゥのラフムの内動いていたものを全て斬り伏せた。既に朝陽が昇ろうとしていた。

 

彼女は人間のいなくなった市の、誰かの家の壁に寄りかかり暫しの休息をとる。

彼女は預かり知らぬことだったが、ティアマトの泥ががエリドゥを飲み込むまで、あと一日だった。

 

 

「ふぅ……漸く、落ち着きました」

 

『ガッシューン』

 

 

変身を解く。見上げる空にはやはり光の帯があって。

マシュは立ち上がり……目の前の、緑の髪の存在に気がついた。

 

 

「……キングゥ……!?」

 

「……いや、違う……きっと、違う。母さんに棄てられたボクは、もう……」

 

   ドサッ

 

 

そして、マシュが立ち上がりきるのと入れ違うように、キングゥが倒れ伏した。

マシュを見ても何もしなかった辺り、もうキングゥに戦う力はないとマシュは見た。ここで禍根を絶ってしまおうか、マシュはそう考えエクスカリバーを手に取り……

 

 

「ピョエー」

 

「……あ、ガルーダ……晴人さんの」

 

 

晴人がエリドゥまで飛ばしたガルーダが、マシュへのメモ書きを持って彼女の前まで飛んできていた。

そこには、現在の状況が分かりやすく事細かに記されていた。

マシュは言葉を失った。ラフムが無限に出てくる? 泥の津波が襲ってくる? 巨大なティアマトが歩いてくる。

 

そんなの敵わない、とは彼女は思わなかった。

ただ、救わなければ、そう思った。人を助ける、それだけが彼女を突き動かしていた。

決して諦めない。何としてでもウルクの人々を救う。まだ彼女は折れてはいない。折れられない。

 

メモ書きには、マルドゥークの斧についても書かれていた。それをティアマトに当てれば、勝つ可能性は十分あると。マシュは辺りを見回して、それらしきものを発見した。

 

 

「……キングゥ」

 

「ボクを、その名前で呼ぶな……殺すなら殺せばいい、ボクに抗う力はない」

 

 

マシュはキングゥの名を呼んだ。キングゥは光のない目で力なくマシュを見上げる。何時でも殺せ、そう言いながら。

 

しかしマシュはその挑発には乗らなかった。もっと必要なことがあった。

 

 

「キングゥ……貴方は、あの斧を振るえますか?」

 

 

マルドゥークの斧を指差す。キングゥはそちらに目をやり、顔をしかめ……それでも頷いた。嘘をつくだけの思考まで奪われていたらしい。着陸するなり倒れこんだのも合わせて考えれば、余程ティアマトに痛い目に遭わされたのだろう。

 

しかし振るえるなら話は早い。恐らくこの容態であんな大きな物を振るったが最後自壊は確実だが、キングゥはやはり人理の敵だったもの。どうなろうが知ったことではない。

 

マシュはキングゥを立たせようとした。

その時だった。

 

 

「……見つけました、キングゥ」

 

「……アナ、さん?」

 

 

アナが立っていた。しかしそれは、元のアナではなかった。

白かった肌は泥の黒茶色にそまり、目は血のように赤くなり、衣服には魔神柱のような目玉が浮かび……そして何より、三人いた。しかも分裂してさらに増える。

 

 

「追い付いて、来たのか……!!」

 

「……あれは何ですか、キングゥ!!」

 

「あれは……ラフムだ。母さんの海につけられたサーヴァントは母さんの眷属に生まれ変わる。つまりラフムだ、ガワが君の仲間でも」

 

 

そして間が悪いことに、夜の間は丸まっていたラフム達が再び動き始める。どうやら眠っていただけらしい。

 

 

「キキキキキキキ!!」

 

「キキキキ、キキキキキ!!」

 

「……君は逃げればいい」

 

 

キングゥはそう言った。彼はラフム達を押さえ込むつもりのようだった。母に棄てられ、自棄になっているようにも見えた。

しかしマシュは退かない。このラフムがウルクを襲わないなんて言えない。

 

だからマシュは、ガルーダから渡されたメモ書きに、自分の体から出ていた血で返事を書いた。

 

『現在エリドゥにてラフムの軍勢と、アナさんの姿をとったラフム達と戦闘中。マルドゥークの斧は輸送可能、至急援軍を求む』、と。

 

 

「……貴方は人理を救うために必要です。死なれては困る……私が貴方の反抗期を手伝いましょう」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

「反抗期? ……言ってくれる。だが、まあ……母さんにする小さな反抗だから、確かに反抗期、か」


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