Fate/Game Master   作:初手降参

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Wish in the dark (2)

 

 

 

 

   ズザザザザザッ

 

「っ……皆さん、無事ですね!!」

 

 

冥界に到達した。時間差コンティニューをすることによって一足遅れて着地したマシュは辺りを見回し、協力者達が無事かどうかを確認する。

呼吸が楽になっていた。体が軽い。意識を集中すれば空中に浮くことも出来る。……あの契約書でエレシュキガルに発動を強制させた、冥界においての加護の力だろう。

そしてマシュは、冥界の中心で悲鳴を上げながら、最早ラフムと言うにも困るような何かと泥を延々と吐き出すティアマトを見た。

 

 

「AAAAAAAaLAAAAaAAAAAAAaLAAAAa……!!」

 

「あれは……」

 

 

足元から流れ出た泥は冥界を侵食していく。彼女の子供たちは小さな魔神柱の固まりのようなものと化して跳ね回り、彼女自身は冥界の壁に手を伸ばしている。

 

 

「……あれが、ティアマトだ」

 

 

いつの間にかマシュの隣にいたゲンムがそう言いながら、マシュにガシャットを手渡した。

 

ティアマト。その姿はもがいているように見えた。まるで何かに抵抗しているような……

 

 

「迷っている暇は無いわよ、マシュ!!」

 

 

イシュタルが彼女の脇をすり抜けて飛び出し、ティアマトへと射撃を浴びせ始める。見回せば、既に他の仲間は戦闘を開始していた。

 

 

「……そうですね。変身!!」

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

───

 

「お疲れ様です皆さん!! あと少しです!!」

 

 

南門の上では、シドゥリが兵士達を鼓舞しながら水分を配っていた。

冥界への穴は空いた。しかしティアマト自身がそこに墜ちても、ラフムはそこから溢れてくる。だからこそ撃墜は必須だった。

 

 

闇の中で抱く望み(Wish in the dark)……そうか……」

 

「……あなたにも、どうぞ」

 

 

一度去ってみたが、結局南門に戻ってきたキングゥに、シドゥリが水分を手渡していた。キングゥは困惑し静止する。

 

 

「……何で、だ? ボクは、敵だったのに」

 

「親愛なる友、エルキドゥ。一度礼が言いたかったのです」

 

「──ボクは違う。エルキドゥじゃない」

 

「そうだとしても、私達ウルクの民は、貴方への感謝を忘れません」

 

 

キングゥは回りを見回した。

誰も、キングゥに目を向けられる余裕のある者はいない。それでも……誰も、不快感は見せなかった。キングゥを否定してはいなかった。

 

キングゥにはそう理解ができた。目の前の人との思い出が、ウルクでの出来事がフラッシュバックする。彼の中のエルキドゥが、目を覚ましていた。

 

───

 

「「覚醒・羅刹を穿つ神竜(ドラゴナイト・ブラフマーストラ)!!」」

 

「|矛盾よ、煌々と燃え盛れ《パーフェクトノックアウト・シャトー・ディフ》!!」

 

 

ティアマトの胸元に猛攻が浴びせられる。少し下では他の仲間が現れる子供達を始末し、頭部の辺りではバビロンが一人奮戦している。

しかし足りない。まだ足りない。

ティアマトは胸元を撃ち抜かれてなお子供を排出し、それは下の勢力だけでは処理できない。子供は積み重なり、積み重なって足場となり……

 

 

「不味いな。ラフムが増えて、冥界が埋め尽くされる……!! まさか子供を足場にして強引に脱出するつもりか!!」

 

「させません!!」

 

『Noble phantasm』

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

シールダーが周囲を凪ぎ払ってみるも焼け石に水、子供達は一度分裂してみても再び元の場所に戻っていく。

焦りのみが募っていく。現在のゲンム、そしてシールダーのライフは12。無駄な特効は出来ない。

 

 

「どうすれば……どうすれば、この状況を……!!」

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

「トペ・プランチャー!!」

 

「クエー!!」

 

「クエー!!」

 

「クエェッ!!」

 

「っ!?」

 

「何で!?」

 

 

ティアマトの頭部に突き刺さる流星。それと共に無数の翼竜が子供達に突撃し各所に連れ去っていく。

その流星の正体こそ、ケツァル・コアトルだった。数日前にシールダーが山の翁との契約によって首を断たせたあの善神だった。

考えれば当然のことだった。当然のことだった……山の翁によって首を跳ねられた彼女はこの大地の上で死に……冥界へとやって来ていたのだ。

 

 

「……なるほど、冥界の作業が早まったのは」

 

「イエース!! 私が手伝ったからデース!!」

 

 

ケツァル・コアトルはそう笑う。その背後に、数体の翼竜が見えた。あれが尽力したに違いない。

 

 

「……ケツァル・コアトル。貴女は……私に、人理修復に協力してくれますか?」

 

「イエース!! 分かり会えなくても寄り添うことは出来る、私も手伝いますよ人理修復!!」

 

 

最早シールダーに、ケツァル・コアトルと敵対する理由はなかった。ケツァル・コアトルは翼竜を率いて上空に向かい、バビロンに加勢していく。

 

 

「……でも、ラフムがまだまだ出てきます!! 何か止める手だてはありますか、黎斗さん!?」

 

「……その心配は不要だ」

 

「っ……!?」

 

 

それでも焦ったままのシールダー。しかしその隣のゲンムは至って平気そうに天を仰いでいて。

そこには。

 

 

「そこについては私に任せてくれたまえ!!」

 

 

その声と共に、ティアマトから溢れる泥に花が咲いた。ラフムも、魔神柱もどきも出てこない。花だけが咲くようになる。

 

上を見れば、消滅したはずのマーリンが、飛び降りてきていた。

 

 

「マーリンさん!?」

 

「ハハハ、幽閉塔でじーっとしててもどうにもならないから、信条を曲げてここまで走ってきてしまったよ!! 待たせたね!!」

 

 

花を咲かせたのはマーリンの仕業らしい。その花は無害、ただ美しいだけ。それは、ティアマトをさらに絶望させる大きな一撃で。

 

 

「LAAAAAAAAAAaaa!!」

 

「おっと……無駄話をしている暇はない、ティアマトは逃げるつもりだ!!」

 

 

追い詰められたティアマトが、一際大きく声を張り上げる。発生した衝撃波は自らの子供達共々外敵を吹き飛ばし墜落させる。

エレシュキガルによって冥界での浮遊権が与えられていてもそれはあくまで浮遊しようと思って行うこと。不意の攻撃なら容易く打ち落とされる。

そしてティアマトは冥界の壁に手をかけ、力の限り登り始めた。

 

このままでは危ない。逃げられる。

シールダーは確信した。故に、畳み掛ける。切り札を切る。

 

 

「……二つ目の約束を果たして下さい、山の翁!! 『ティアマトの不死を切り落とせ』!!」

 

 

 

 

 

「承知した……ここまでくれば最早冠位を捨てる必要すらあるまい。ただ一刀の元に斬り伏せる」

 

   ゴーン ゴーン

 

「……一応名乗りは上げておこう。幽谷の淵から暗い死を馳走しに来た。山の翁、ハサン・サッバーハである」

 

 

マシュが命令すると同時に遥か彼方の地上に現れた山の翁は、そこまで言ってから何の迷いもなく冥界に飛び降りてきて。そしてその大剣を降り下ろした。

 

 

「AAAaaaaaAAAAAAAAAAaaaAAAAAa!?」

 

「晩鐘は汝の名を指し示した……死告天使(アズライール)!!」

 

   ザンッ

 

 

ティアマトを殺す斧。ティアマトを殺す牡牛。ティアマトを殺す固有結界。ティアマトを殺す冥界。ティアマトを殺す花。ティアマトを殺す神の才能。それらでもって倒れなかったティアマトは、最後の最後に、己の命綱を切り落とされた。

 

ティアマトが壁から剥離していく。堕ちていき堕ちていき……しかしそこで諦めはしなかった。

 

 

「AAAAAAAaLAAAAa、AAAAAAAaLAAAAa!!」

 

   バァンッ

 

 

ティアマトの全身が弾け、魔神柱が縦横無尽に伸びて冥界の壁に突き刺さる。そして節々から泥を垂れ流すそれは、いくつもの目で天を睨む。

山の翁は、それこそまと闇の中に溶けていた。そこかしこでラフムが切り裂かれていく辺り、彼も協力はしてくれているらしい。

 

 

「全く執念深い……災害の獣とはかくもおぞましいものだったか」

 

絶世の名剣(デュランダル)!!』

 

 

バビロンが剣を呼び出し、ティアマトから伸びた魔神柱を幾らか切り離してみる。

しかし、やはりと言うべきかティアマトは落ちない。魔神柱を切断する側から別の魔神柱を伸ばし、冥界の外へと歩みを続ける。

 

 

「駄目、逃げられます……!! どうすれば!!」

 

「っ、操真晴人!!」

 

「はいはい分かりましたよっ!!」

 

『オールドラゴン!! プリーズ!!』

 

 

天を見上げ叫ぶシールダーとゲンムの隣を、四つのドラゴン形態の合体したオールドラゴンとなったウィザードが突き抜けていった。少し遅れてランサーも飛んでいく。

 

 

「いいねエリちゃん!! 蹴り落とすよ!!」

 

「ええ、存分に蹴落としてあげる!!」

 

『チョーイーネ!! キックストライク!! サイコー!!』

 

『タドル マジックザ クリティカル ストライク!!』

 

「「はあっ!!」」

 

 

そして二人は一旦冥界の外まで飛び上がり、そして同時にティアマトの中心に足裏を叩き込んだ。

風が巻き起こる。ティアマトの胴体は冥界の奥の奥へと押し込まれていく。

 

でも足りない。ティアマトは反発する。死にたくないという本能に任せて力を込める。

 

 

「AAAAAAAaLAAAAa──!!」

 

「っ……ダメ!! これじゃ、弾かれる!!」

 

「不味い……!!」

 

 

 

 

 

人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)!!」

 

 

その瞬間、ウィザードの背後から無数の鎖が飛んできて、ティアマトの体を貫いた。ティアマトは悲鳴と共に力を失い、冥界の大地に縫い付けられる。

 

キングゥの仕業だった。天の鎖となったキングゥが、ティアマトを全力で押さえ込んでいた。ウィザードとランサーは慌てて退避する。

 

 

「っ……この鎖は!! 退くわよ子ブタ!!」

 

「分かってる!! ……でも、お前はそれでいいのか、キングゥ!!」

 

「良いんだ!! 君達は退け……今だ!! やれギルガメッシュ……やるんだ、ギル!!」

 

 

そしてキングゥはそう叫んだ。いや、それはキングゥだけの声ではない。キングゥの中に残ったエルキドゥの残滓の物でもあった。

キングゥはこのまま深淵に墜ちても構わなかった。それが己のけじめになるから。母にも人間にも肩入れしきれなかった己への。

 

 

「……この一撃をもって決別の儀としよう」

 

乖離剣エア(無銘)!!』

 

 

その意を汲んだのかは定かではないが、バビロンは己のガシャットをキメワザスロットに装填し、己の倉から最強の宝具を引き抜いた。

それは三つの円筒が積まれたような、剣をというにはやや不格好にも思えるもの。しかしその実は世界を裂いた最強の剣。

 

決着をつけるときが来た。

シールダーはそれを察してガシャコンカリバーのトリガーを引く。

ゲンムはガシャコンソードを呼び出してデンジャラスゾンビガシャットを装填する。

ウィザードはインフィニティースタイルに姿を変えウィザーソードガンに手を添える。

 

 

「原初は語る。天地は別れ無は開闢を言祝ぐ。世界を裂くは我が乖離剣。星々を廻す渦、天上の地獄とは創世前夜の終着よ。死をもって鎮まるがいい」

 

『ブレイカー クリティカル ストライク!!』

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!」

 

『Noble phantasm』

 

約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

『デンジャラス クリティカル フィニッシュ!!』

 

『インフィニティー スラッシュストライク!! ヒースイフードー!!』

 

 

「「「「はああああっ!!」」」」

 

 

   ザンッ

 

 

「Aa、AaaAAAAAAAAa、AaaAAAAAAAAa……」

 

 

ティアマトは落ちていく。縫い付けられた大地ごと深淵へと落ちていく。手を伸ばしても地上には届かず、暴れてみても足場は無い。鎖は有情にも加減はせず、共に消えることを選んだ。

 

崩れていく。崩れていく。ビーストⅡ-Ⅰが崩れていく。

それはやがて崩壊し、その末に深淵へと到達し──

 

 

冥界が崩れ始めた。

全員は慌てて脱出を試みる。

 

───

 

 

 

 

 

「……やっと、終わったんですね」

 

 

地上に戦いを終えた一同が戻ってきた時には、既に太陽は西側に傾いていた。ウルクにはもう活気はないが、それでも建物は、営みは残っていた。

 

 

『ガッシューン』

 

「……良い品だった。倉に入れてやろう。ああ、料金はこれでいいだろう?」

 

 

ギルガメッシュはそれを確認しながら変身を解いた。倉にガシャットとドライバーを仕舞い込む姿はやはり堂々としていて。そして倉からウルクの大杯と、ライフ50分の魔力を差し出す姿には笑顔があった。

それでもマシュは気づいてしまった。

 

 

「……ギルガメッシュ王? その……体は……」

 

「……気づいたか。別によい、気にするな。ティアマトと、そして我の死によってウルク第五王の治世は終わり、第六王の治世が夜明けを迎える。そういうものだ」

 

 

ギルガメッシュの体は、足先から腐敗し始めていた。

おかしい。ギルガメッシュは、バビロンは最初から強かった。ダメージなんて、ちっとも……

そこで彼女は一つの可能性に思い至る。

 

 

「……黎斗さん」

 

「……」

 

「黎斗さんが何か細工をしたんですか?」

 

 

マシュはエクスカリバーに手をかけていた。黎斗の方はややドヤ顔になりながらそれに答える。

 

 

「違うな。寧ろ細工を減らした……ガシャットドライバー:ロストは高出力だ。それを生かすために、リミッターを解除する機能をガシャットに添付した。どうせ一度きりの変身なのだから、一度変身して倒せば問題あるまい」

 

「そんなっ……!!」

 

 

マシュは黎斗に飛びかかろうとした。黎斗の方はやはりドヤ顔のままでそれを受けようとする。

それを止めたのはギルガメッシュだった。

 

 

   カキン

 

「止めよ!!」

 

「っ、どうしてですか!!」

 

 

ギルガメッシュはその言葉には何も言わない。彼は顔をドヤ顔のままに保つ黎斗に向き直り呟いた。

 

 

「最後まで気の効いた機能だったな。大義だった……貴様の力で、魔獣戦線は勝利に終わった」

 

「当然だ」

 

 

そうして、ギルガメッシュの姿は崩れ始める。

 

 

「此度の戦い、痛快至極の大勝利!! 貴様らは魔術王の元へと向かい刃を交えるだろう……勝利せよ!! 何があろうと!!」

 

「っ……」

 

 

……王の姿は、そこまで言って掻き消えた。

 

いつの間にか、マシュの隣にイシュタルがやって来ていた。彼女もまたギルガメッシュのいた場所を見つめて、何か思案しているようだった。

 

 

「……ねえ、マシュ」

 

「何でしょうか、イシュタルさん」

 

「……決着、つける?」

 

「……構いませんよ」

 

 

イシュタルは思い出していた。このウルクでのマシュの戦いを。そして自分の体の中の記憶を。

 

 

「……いや、止めておくわ」

 

 

そして、マシュとの戦闘を諦めた。

曲がりなりにも、守護者である彼女に人類の未来は関わっている。何かをするのは気が引けた。

 

 

『……聞こえるかい? 聞こえるね?』

 

「ドクター……!!」

 

『よし、良かった……無事みたいだ。じゃあ今から帰還をしてもらうよ。大丈夫、今度は安全だ……あとマシュ、君は帰ったらお説教だからね』

 

 

ロマンから通信が入ったのはその数分後だった。冥界崩落の影響で通信障害が起こっていたらしい。

とにもかくにも、黎斗の活躍で第七特異点も修正された。マシュには心残りこそあれど、それでも退去は始められる。

 

そこに、マーリンが慌ててやって来た。手には聖杯を握っている。ティアマトから回収したのだろう。

 

 

「ちょっと待って!! ハァ、ハァ……」

 

「マーリンさん……」

 

「……さて、ビーストⅡ-Ⅰの討伐お疲れ様。今回はお手柄だったね」

 

 

マーリンはそう言いながら、マシュの手に聖杯と共に一つの手紙を握らせる。マシュは当然その手紙の中身を聞いた。

 

 

「……これは?」

 

「さて、私が手伝えるのはここまでだ。後はマシュ、君が世界を救うんだよ」

 

「いや、だから……」

 

「君は本来の在り方とは変わってしまったけれど、()()()()()()()()()()()()()。どんなに迷ってもいい、悩んでもいい、でも諦めるな。やりたいことを見失うな。マシュ・キリエライト……君が世界を救うんだ」

 

 

黎斗が微妙に顔をしかめたように見えた。

そしてカルデアは、帰還を開始する──




そろそろ話にキリがつくはず

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