Fate/Game Master   作:初手降参

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Fate/Game Master

 

 

 

 

「……あと少しですね、黎斗さん」

 

 

マシュは呟いた。走って走ってようやくたどり着いた、ソロモンの玉座へと繋がる聖門には未だ魔神柱が蠢いている。各拠点のサーヴァントだけでは賄いきれなかった量だろう。マシュはもどかしげにそれを見上げ、黎斗に振り向く。

 

 

「……鬱陶しい。黎斗さん、ガシャットをありったけ下さい。纏めて凪ぎ払います……!!」

 

「……いいのか?」

 

「当然です。全てはこの瞬間の為に」

 

 

その目には一点の曇りもない。ひたすらに純粋なその瞳を見て愉しげに笑った黎斗は、マシュに手持ちのプロトガシャットをいくつか与えた。

マシュはそれが全部ではないことに気付き少しだけむくれるが、すぐに玉座への道を阻む魔神柱を睨む。

 

 

「……行きます」

 

『バンバン シューティング!!』

 

『爆走 バイク!!』

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

『ドレミファ ビート!!』

 

『ジェット コンバット!!』

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

『ドラゴナイト ハンター!! Z!!』

 

 

纏めてそれらを体に挿した彼女は、一瞬黒く黒く変色し、それでもコンティニューすることなく元に戻って、変身した。

 

 

『ガッチョーン』

 

「……変身!!」

 

『マザル アァップ』

 

『響け護国の砲 唸れ騎士の剣 正義は何処へ征く ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

そして門の向こうへと足をかける。数多の魔神柱が凝視を彼女に向け、攻撃を仕掛けてくる中、それでも彼女は進み続ける。

黎斗はその後ろを、笑い声を上げるのを堪えるようにしながら歩いていった。

そして、それを繰り返して。繰り返して……十数分後。

 

───

 

「ここが──魔術王の、玉座……」

 

「そのようだな。いい造形だ」

 

 

魔神柱の群れを抜けて、その先の光を抜けて、二人はようやく辿り着いた。視界は青空の元に開け、魔術王の白い玉座が鎮座するそこに二人は辿り着いていた。

そしてそこに立って、各拠点の魔神柱と更新していたのであろう魔術王、グランドキャスター……ソロモンが、シールダーと黎斗を見つめた。

 

 

「ようこそ、マシュ・キリエライト。そして檀黎斗。遠方からの客をもてなすのは王の歓びだが、生憎私は人間が……特に君達のような人間が大嫌いでね……!! 君達の長旅に酬いることもなければ、取らせる褒美も何もない!!」

 

「そんなもの欲しくはありません。ただ、人理を乱すなら、その命を置いていって下さい……!!」

 

 

シールダーが啖呵を切る。怖れなんてとうの昔に投げ捨てた。ソロモンはそれを見つめて静かに首を横に振り、自分のちょっとした期待が的外れなものだったと悟る。

 

 

「やれやれ、なんと醜い。何故あと数分を自重できなかったのか。何故最後まで愚かしく足掻くのか。何故永遠の幸せが理解できない?」

 

「そんなもの……永遠の命なんてあったら、それは人間ではないからです!! 人理ではないからです!! 人理とは流れ、人は失うことを知っているからこそ今を生きられるんです!!」

 

「どの口が言うか。自分の意志にばかり固執しているというのに」

 

「っ……!!」

 

 

シールダーはそう言われたところで黙り込んだ。上手い返しが思い付かなかった。それが彼女の限界だった。

ただ歯を食い縛るシールダー。その隣に、ずっと黙って見ていた黎斗が立つ。

 

 

「……さて、魔術王ソロモンを騙ったものよ」

 

「何だ、檀黎斗? 全く動かなかったのは怖じ気づいたからか? 降伏は無意味だが、楽に殺せというなら考えてやる」

 

「いや、何。私の予想が正しいことを確信したまで」

 

 

ソロモンは、ソロモンと名乗るものはそこで眉を上げた。これが最期の鳴き声だ、聞いてやらんこともない……そう思いながら、言葉を促す。

 

 

「君はソロモンではない。君はあの魔神柱と全く同じ……いや、あれそのものの集合体。魔術王の作り出した分身、魔術師の基盤として設定した人類最初の使い魔。ソロモンの死によって取り残された原初の呪い。遺体に巣食って受肉した魔術式」

 

「……ほう?」

 

「魔神王ゲーティア。それが君の真名だ」

 

 

ゲーティア。ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)の第一巻、ソロモンの七十二の使い魔について述べられた魔術書。魔神柱の総体である彼らに名前をつけるなら、最早これしかあり得ない。

 

現にそれは、正しいものだった。己の正体を見破られたソロモンの名を騙るものは、高笑いと共に禍々しい真の姿を現し。

 

 

「は──はははははは!! そうか、そうか!! 正解だ正解だとも檀黎斗!! 我が名はゲーティア、人理焼却式、魔神王ゲーティア!!」

 

「なら、良かった。最後まで、私の思った通りだったのだからな」

 

「負け惜しみは必要ない。……ただ、苦悶の海で溺れる時だ」

 

 

そしてその真の姿を現したゲーティアは、一切の遠慮もなく、二人へと宝具を使用した。

 

 

「第三宝具、展開。誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)!!」

 

   カッ

 

「……下がってください黎斗さん!!」

 

 

ゲーティアの頭上の光帯の一部が取り出され、シールダーと黎斗に向けて放たれる。

少し視認するだけで、物凄い熱量だった。ノーガードで受けてしまえば蒸発は難くない。だからこそ。

彼女は今までの旅を一瞬で思い返した。人はそれを走馬灯と呼ぶ。死に際に脳裏を駆けると言われるそれはシールダーの脳裏もかけ、しかしシールダーに死ぬつもりはもう毛頭もなく。

 

シールダーは、大地にガシャコンカリバーを突き立てた。そしてそれを強く握り、トリガーを引く。

 

 

『Noble phantasm』

 

「ここでは終われない!! 絶対にっ……諦めない!! いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)!!」

 

 

それと共に、シールダーと黎斗を囲むように、ギャラハッドの持つ城壁が、本来のマシュが持つ筈だった城壁が展開された。それは人理をも焼く光を食い止め、耐えきれずに少しずつひび割れながら、しかし決して崩れず。

そして黎斗はそれを見ながら。

 

 

「……頃合いか」

 

 

……そう呟き。かつてカルデアスに接続したマイティアクションNEXTを。

 

特異点の大地に突き立てた。

 

 

『ガッシャット!!』

 

「っ──え?」

 

 

攻撃を耐えながら、シールダーが呆けた声を上げる。その一瞬気が逸れた瞬間に大きくシールダーがよろけるのを黎斗は片手で背中を押さえ、もう片方の手でキーボードを叩き。

 

 

   カタカタ カタカタ   カタン

 

「最終コード入力、完了……!!」

 

 

何をし終えたのか、彼は悠々と立ち上がった。

そして、右手を振り上げて指を鳴らして。

 

 

「……ふっ」

 

   パチンッ

 

 

その瞬間。

 

誕生の時きたれり、其は全てを修めるもの(アルス・アルマデル・サロモニス)は。

 

何もなかったかのように消え失せた。

 

更に天の光帯も、存在していた玉座も、シールダーの変身も解ける。空間は座標軸のみが見える以外はあのガシャットと同じようなものになり、ずっと遠くに協力してくれていたサーヴァント達が見える。

 

 

「何──だと──?」

 

「え、な……そんな……」

 

 

茫然自失。そんな顔を浮かべる二つの存在の前で、黎斗はゲーティアに目を向け。後方のマシュに呟く。

 

 

「さて、マシュ・キリエライト。君は『自分で人理を救う』、と言ったな……」

 

「……」

 

「今日この瞬間まで私を楽しませてくれた礼の代わりに……」

 

 

マシュは知らず知らずのうちに震えていた。このまま聞いていてはいけないような気がした。何処かで覚えたような頭痛が頭を掻き回す。

 

 

「……その望みを、絶つゥ……」

 

「っ……!?」

 

 

それを見て、理解していながら黎斗は言う。唱える。それはまるで、悪戯が上手くいった子供のように純粋で、演技に溺れている役者のように真剣で。殺人を繰り返す青年のように歪んでいて。

 

 

「ゲーティアァ!!」

 

 

叫んだ。その顔面は狂喜に溢れていた。かつて恩讐によってねじ曲がった男は、今新たな恩讐を振り撒く。

 

 

「何故君が守護者の妨害を受けずに人理を破壊できたのか、何故魔神柱を生み出せたのか、何故フラウロスの目は節穴なのくわァ!!」

 

 

ゲーティアもマシュ同様に頭痛を覚えていた。頭を抱える。まだゲーティアに残っている魔神の人格全てが退却を唱えている。しかし逃げられない。金縛りにあったように、ゲーティアの足は動かない。

 

 

「止めろ、それ以上、それ以上言うな!!」

 

「その答えはただ一つ……」

 

「やめて下さい……!!」

 

 

黎斗の姿は、二人には歪んで見えた。いや、黎斗が歪んでいるのではない。彼らの視界が歪んでいるのだ。現実から逃げようとして、しかしそれすらも許されず狂おうとしているのだ。

しかし逃げられない。逃げられない。逃げられない。

 

G()a()m()e() ()m()a()s()t()e()r()の命令は絶対だ。

 

 

「アハァー……ゲーティアァ!! 君が、そしてこの世界が……私の作ったゲームだからだァ!! アーハハハハハハハハハアーハハハハハハハハハ!!」

 

「なっ……」

 

「──!?」

 

 

嘘だ。嘘だ。そう言いたい、異を唱えたい。唱えるべきだ。そうでなければ──

 

 

「君達ほど騙しやすい存在はいない……私がカルデアに入ったのは、全てこのゲームのテストプレイの内……!!」

 

 

──なのに、出来ない。今この瞬間、黎斗は神だ。彼が溜めに溜めたトリックの種明かしに茶々は入れさせない。

 

 

「パラドは仮面ライダークロニクルを早く作れと煩くて協力してくれなかったからねぇ……!! この人理修復をデバッグ作業に利用させてもらった!!」

 

「そんなっ……今までの戦いは、全部嘘だったんですか!?」

 

 

絞り出した言葉はそれだけだった。それはマシュにとっては重大なことだった。自分達の旅が偽物なら、自分は何のために生まれ、何のために死んだのだ?

 

 

「そんなことは無いさぁ……バグでキャラクターデザインと中身がずれている可能性があったからな、今までの私の驚きは全て本物だとも……!!」

 

「──」

 

「この世界は全て私が作り出した、本当の世界(現実)から切り離された仮想世界!! 魔術も結界も建築物も時間の流れも私がプログラムしたもの!! こちらでの一月は向こうでの一日にも満たない……!!」

 

 

ゲーティアも動けない。いくら凝視しようと相手はよろけず、呪いは働かず、何も起こりはしない。己の魔術王の体ももはや何の意味もない。

 

 

「私が始めて『自由』を与えた君達(バグスター)は……透き通るように純粋だった……その生まれたての輝きが、私の才能を刺激してくれた……!!」

 

「っ──」

 

「──」

 

「君達は最高のモルモットだぁ!! この旅はこの、私の、手の上で……転がされていたんだよ!! ダァーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「っ、っ……!!」

 

 

マシュは痛みに身体中を引き裂かれる思いの中、エクスカリバーを振り上げた。脳を食いちぎられるような刺激が全身で弾ける。

それでも。それでも、彼女は高笑いを続ける黎斗に己の剣を降り下ろす。

 

 

「悪い冗談は……止してください……今は……っ、今は……!! 約束する人理の剣(エクスカリバー・カルデアス)!!」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

   パチンッ

 

 

しかしその攻撃は、放たれた光の斬撃はやはり簡単に無かったことにされてしまった。マシュは無力感に膝をつく。

 

 

「っ……」

 

「ゼロから君達(ゲームキャラクター)をデザインし、思考ルーチンを組み立て、自由意思を与えた。しかしてそのスペックは私の掌の上……正しく、ゲームマスターの私こそが……神だぁぁぁあっ!!」

 

「な、な……」

 

 

そこまで言って、黎斗は震えているゲーティアに向き直った。腰にゲーマドライバーを装着し、大地から引き抜いたマイティアクションNEXTを装填する。

 

 

「さて、ゲーティア。私が君に終わりをくれてやろう。安心しろ、私は常に真剣だ。このゲームの中で私のライフを全て削り完全に殺したなら、その時点で私は現実世界でも真に死ぬことに代わりはなぁい……!!」

 

 

その言葉と共にゲーティアを縛っていたゲームマスターの権限が解かれる。しかしもう抵抗するつもりも起きはしない。いてはならない異物、檀黎斗。その正体が、向こうが名乗ってからはもう手に取るように理解できてしまう。そして、敵わないと確信してしまう。

 

 

「ゲームクリアの時間だァ……変身……!!」

 

『マーイティーアクショーン!! NEXT!!』

 

『N=∞!! 無敵モード!!』

 

『デンジャラス クリティカル ストライク!!』

 

 

ゲーティアが見上げてみれば、既にゲンムはその足を突き出していた。

抵抗は叶わない。妨害は叶わない。全て、全てはゲームマスターの掌の上。

 

 

「最も、君には私を倒せる力はもう無いのだがね!!」

 

   ズダンッ

 

 

そしてその足はゲーティアを容易く貫き。

 

 

「ぬぅぅ……がぁあぁぁあああっ……!!」

 

   バァァンッ

 

 

爆散した。塵一つ残さず弾けた。

マシュが何も出来ずにゲンムを見る。その構図は、奇しくもあの燃え盛る冬木での光景と重なるように思えて。

 

 

『Game Clear!!』

 

 

そんな文字が、虚空に浮かんでいた。

そして世界は、白い光に包まれて──

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