Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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遅くなった。本当にすまないと思っている。だが私は(ry


Last Episode

 

 

 ―――Sword or Death

 

 

 がん、キン、と火花とともに聞こえる剣戟の音。

 

 打ち下ろしは防がれ、胴を抜く切り払いは―――剣の上を舞うように回避される。

 

 セイバー―――ネロ・クラウディウスの剣才には、目を見張るモノがある。

 

 演じているような剣戟の中に、確かな戦闘の中で磨かれた一撃が潜んでいる。それは―――白き竜騎士、ヒビノの侮りを赦さないものだった。

 

 ロット王の戦闘経験あればこそ、やっと一糸届くというものだ。

 

「やるじゃねぇか、インペラトール!」

 

 喜悦の笑みを深めるヒビノ。

 

 ブリテンの原初の呪い、そして白き魔竜の力を得、さらにはロット王の剣術すら受け継いだ彼は並のサーヴァント以上と言っていい。

 その自分の攻撃を払い、反撃すらかましてくるセイバーの力は―――岸波白野。彼との多くの戦いをこなした故だろうと、ヒビノは推測した。

 だからといって、マスターを狙う気は彼には無い。というか、女王の騎士であると宣言していながらマスターの命をガン狙いするのはいかがなものか、と思うくらいの理性はあった。

 

 

「ヒビノよ、コーンウォールの魔竜の力はその程度か! これでは余に魔竜殺しの逸話すら増えてしまいそうだ!」

「―――ほう。大きく出たなセイバー。人の業を愛した暴君よ」

 

 

 切り込んできたセイバーを、突風がごとき魔力放出で吹き飛ばす。

 

 

「愛したものを焼き殺すその情熱、よもや真正面から受け止め返すヤツをマスターに持てるとは―――これ以上の誉れはないなぁ、セイバー」

「羨ましくともやらんぞ!」

「……生憎、俺には手の掛かる姫様がいるもんでね、欲しいとは思わない。俺が欲しいのは一人だけだからな」

「あー! あー! あー! 駄弁はそれくらいにしなさい、我が騎士(マスター)!」

「辱めたくなるのは、男の性のようなものだ。許せ」

 

 顔を赤らめ恥ずかしそうにするキャスターをヒビノは視界端で捉え、愉悦する。

 反転したせいか、正確の悪い部分まで押し出ているのらしい。

 

 

 会話の隙を窺い―――セイバーが飛び出す。

 

 突然飛び出した以上、相手の急所を突ける―――、というのがセイバーの狙いではない。

 

 ―――ヒビノの俊敏はセイバーを優に超えている。

 ならば、簡単に対処され素速い攻撃が返ってくるだろう。

 むしろ、それこそがセイバーの狙い。

 

 ―――攻撃を誘発させ、それを防いだ上で切り捨てるようとしたのだ。

 

 大ぶりかとすら思える動きに誘われ、ヒビノは素速い切り払いをしてしまった。

 

 それをセイバーは難なく防御し、接近。

 

「返上するぞ!」

「ちっ―――ぐぅっっ!!」

 

 胴を狙った突きを放った。

 

 ―――避けられなくとも、せめて、とばかりに体をひねり、心臓に届きそうな鋭い突きを他の部分を犠牲にして回避した。

 

 胸上部切られようとも、彼にとっては致命傷ではない。

 

 セイバーは追撃するため、素速く刃を返し横薙ぎにするが―――ヒビノはそれを剣の柄で跳ね上げ――手首を返してセイバーの胸を裂く。

 追撃をカウンターで返したようになる。

 

「―――返上だ!」

「うっ! ―――まずいっ」

 

 霊核は砕き得なかったが、相当なダメージをセイバーは負う。

 その上、剣を大きく弾かれたことで致命的な隙が出来ている。

 

「その隙―――、もらい受ける!!」

 

 体重を乗せた全力の払いがセイバーを襲う。

 

 しかし、剣がセイバーに浴びせられる事はなかった。

 

「なぬっ!」

 

 剣では防げぬと悟ったセイバーは、大きく跳躍し避けたのだ。

 岸波白野が、筋力ブーストのコードキャストを放っていたからこその大技である。

 

 ―――そして、大きな払いをした竜騎士には隙が出来ている。

 

 セイバーは、跳躍を行かし、体重を乗せた振り下ろしをヒビノに向ってはなった。

 

「打ち砕く!」

「―――ぐぬっ……!」

 

 急いで、防御するも―――防ぎ切れず、肩口に大きな傷を追った。

 

「―――まだまだ! 天幕よ、落ちよ! 花散る天幕(ロサ・イクトゥス)!」

「いいえ、やらせませんよ」

 

 セイバーのスキルの攻撃を予見し、キャスターはヒビノに向ってスキルを発動させる。

 

「『究極の数字』……さあ、貴方の時間です!!」

「ん? ―――ああ、なるほど」

 

 ヒビノは、一瞬何を言っているのか分からなかったが程なくして理解した。

 

 『究極の数字』とは、ドルイド信仰、つまりケルトにおける最高位の護りである。ケルトでは三を聖なる数字とし、それがさらに三つある九は究極の数字とされている。

 それは、五芒星としてヒビノを囲む様に魔力サインが浮かぶ。

 

 ガウェインがスキルとして聖なる数字を持っていたことを岸波とセイバーは知っている。

 故に、岸波はセイバーに距離をとり、衝撃に備え護りを固めるように指示をした。

 ヒビノが宝具、または宝具に匹敵するスキルを撃ってくると岸波は予測したのだ。

 

 

「―――ふ。防いでみるがいい、セイバー」

 

 

 剣に赤雷がまとわりつく。

 

 

「俺バージョン――――『忠義の剣閃』!」

 

 

 

 目に見えぬ速度で移動し―――セイバーの横に現れる。

 

「―――なっ」

「遅すぎるぞ、セイバー!!」

 

 セイバーの、英霊の動体視力を凌駕し、彼はセイバーも隙だらけの横っ腹目掛けて剣閃が振る。

 

「ぐっ―――がぁっっ」

 

 ばかんっ、と砲弾が破裂したような凄まじい音と共に、セイバーは風に攫われた紙袋がごとく吹き飛ばされる。

 地面になんども叩きつけられながら―――何とか、セイバーは立って見せた。

 

「ふむ、直前で防いだか。見事だ、セイバー」

 

 セイバーは――高速で振るわれた剣と自分の間に無理矢理自らの剣を挟み、剣の腹で受け衝撃を大きく減退させることに成功した。

 

 しかし、セイバーの受けたダメージかなりのもの。

 すかさず、岸波が治療のコードキャストを放つ。

 

 

「なんという、一撃か……! あれで宝具ではないとはどう言う了見か!」

「なんでテメェが怒るんだよ……。つーか、アンタも似たようなもんだろうが」

 

 

 両者は距離を取り、静かに殺気だけで牽制する

 

「アレを受けて、まだ存命しているだなんて……加減しましたか、我が騎士(マスター)

「まさか。あっちが強かっただけだ。それにまだ『究極の数字』の効果は続いている―――次で、仕留めるさ」

「……追加で、『精霊の加護』とか付けときます?」

「ラック上げても、今の俺にはそんなに効果ないと思うのだが―――ほら、対魔力A+だし。即死付加だって弾けるんだぜ?」

「幸運的な意味で、心配しているのですが」

「誰がランサーか!」

「この話の通じなさ……私の騎士は、バーサーカーだった……?」

 

 ヒビノとの話のやり取りで頭を悩ますキャスター。

 

「『究極の数字』か」

「三倍の倍数なんてレベルじゃなさそうだ。ヒビノの口ぶりからして、効果時間はそこまで長くなさそうだけど……気をつけて、セイバー」

「ミューズの加護を! 至高の芸術を守りたまえ!」

 

 岸波は究極の数字を規格外の強化バフだと認識した。

 ヒビノの体から放たれる溢れんばかりの魔力を感じれば、誰だってそう認識するだろう。

 セイバーはヒビノの一撃に耐えられるかどうか分からないため、スキル『三度、落陽を迎えても』も発動させる。

 

「さあ! 来るがいい、罪科の剣を余に示してみせよ」

「言ったなっ、皇帝! なら、初手ぶっぱ! 全力だ! ――――魔力を回せ、キャスター!」

 

 ヒビノは白銀の剣を高く上段に構えた。

 ごうっ、と風が吹き荒れる。

 剣にまとわりつくように風が、魔力が集束していく。

 

「―――偽典、宝具開帳」

 

 ヒビノがそう言った瞬間に、空間が大きく揺らいだ。

 

「彼の王に捧げられた忠義なれど、今は我が妃がため振るおう―――!」

 

 呪詛と憎悪で染め上げられた黒く赤い魔力が圧倒的な質量を感じさせるほど集束していく。

 大きく横に広がった嵐を中心の軸に狭めていくように――――。

 

 嵐の顕現。彼の王を倒せるという可能性を持っていた、というだけで紡がれた宝具(黒き太陽)。あるいは、その現し身。

 

 

「これこそは、滅ぼされるべき願いの破片! 受けるがいい! 『転輪する憎悪の剣(ガラティーン・モルゴース)』!!」

 

 

 振り抜かれた剣閃は大地を叩くように振るわれ、地面に黒い刻印を刻み混む。

 軸状に集束した魔力が、刻印から噴き出た黒い炎を纏って放たれる。

 

 黒い焔の濁流。赤と黒が混じりながら凄まじい、光にも匹敵しよう速度で―――襲来する。

 

 ―――セイバーは黒い波の中に飲み込まれた。

 

 だが、セイバーはスキル『三度、落陽を迎えても』を発動させている。

 

 故に、体を木っ端微塵に吹き飛ばされようと―――自動復活する。

 

 

 ―――しかし、それはヒビノの意表を突くモノではない。

 

 

 ヒビノは振り下ろした剣を腰横に持って行き、居合のような格好となった。

 

「分かっていたとも、死を持って躱すくらい。なら、これで終いだ―――この剣は、太陽の現し身。あらゆる不浄を、焼き尽くせ―――『転輪する勝利の剣(エクスカリバー・ガラティーン)』!!!」

 

 再び放たれる宝具。

 

 黒い呪縛はなくなり、星の光を集めた太陽の日輪がごとき輝きが覆う。

 

 ヒビノの前方に弧を描き、描かれた弧は円となって地面に刻まれる。その刻印から灼熱の炎が吹き上がり、セイバーを焼き尽くす。

 

 ―――耐えられる筈はない。

 

 自動復活と言え、全快するわけでない。

 死に体のセイバーを片付けるなど造作もない威力だ。

 

 

 

 ―――しかし。

 

 

 

 

「――――なにっ!? 馬鹿なっ!?」

 

 

 

 

 煙が晴れれば、所々焼き焦げているものの―――その顕在なセイバーの姿が確認できる。

 

 

「―――効いたぞ、騎士よ」

「三回? いや、発動は宣言ごとに一回の筈……なら、どうやって耐えた」

 

 

 威力は申し分なかった。

 

 大凡、ヒビノに落ち度はなかった。

 

 ―――彼女が耐えられたのは。

 

 

「皇帝特権で、戦闘続行を手に入れた」

「――――おいおい、まじかよ」

 

 

 戦闘続行―――決定的な致命傷を受けない限り生き延び、瀕死の傷を負ってなお戦闘可能というサーヴァントスキル。

 それだけではなく、セイバーは仕切り直しも皇帝特権で一時的に得たのだ。

 

 立っているのがやっとの様子のセイバーを岸波はコードキャストで全快させる。

 

 

「助かる……期待に応えよう!」

 

 

 セイバーは赤い長剣を掌でくるりと回し、天を突くように掲げる。

 

 

「来るか! セイバーの宝具!」

 

「我が才を見よ……万雷の喝采を聞け……座して称えるがよい……黄金の劇場を!!」

 

 

 開かれるのは、摩天の劇場。ふんだんに黄金が使われた一種の世界。

 輝かしい文明圏。

 ―――人類の証の象徴。

 

 そこに招かれたのが奇しくも妖精の女王とその騎士である。

 

 ヒビノは強い因縁を感じていた。

 

 奥に立ちふさがるは、またもセイバーである故に。

 

 目線だけぐるりと見渡して、ヒビノは呟く。

 

「二度目だが……これは絶対皇帝圏か」

「ええ。世界を上書き、というより建造物の投影をして、自己の願望を達成させうる世界にする……暴君ここに極まれり、というやつですね。固有結界とは似ていますが全く違う代物ですね」

「効果は―――、なるほど。若干動きづらい程度。まあ、問題は無いさ。キャスター、援護たのむぞ」

「ふ。哀しいことに、もう魔力切れです」

「な、なんとぉっ!?」

 

 キャスターのまさかの応答に驚愕を顕にするヒビノ。

 

 彼の無理矢理出した二連続宝具の負債は全てキャスター行きである。

 

「ただでさえ霊基が半壊しているのに、無理矢理動くからです! 修復はオートですから、その度に魔力持ってかれるんですよ!」

「そういうの先に言えよ!」

 

 ガス切れもいいところである。

 そんなキャスターらの夫婦喧嘩を見て、岸波はその冷静さそのままにセイバーに指示をする。

 

「どうやら、相手は限界らしい。ここで決めよう、セイバー」

「うむ!」

 

 セイバーは、剣技『童女謳う華の帝政』を放つため、構えを取る―――。

 

 

 もし、放たれたならヒビノに受けきれるだけの防御はなく、かつ体力も無い。

 

 少々、彼にしては珍しくはっちゃけてしまったのだ。

 

 しかし、彼とて負けるわけにはいかない。

 

 ヒビノは白銀の剣を空に掲げるように持つ。

 柄を指の第二関節を中心にして挟むように持っている。

 

 ―――即ち、投合のそれ。

 

 いち早く気づいた岸波がセイバーに警戒するように言おうとするが――、それより早く剣が投合される。

 

 セイバーは『童女謳う華の帝政』の型を崩して、剣を跳ね上げ弾く。

 

 高速で向ってくる白銀の剣を弾き上げたセイバーは、ヒビノの姿を見失った。

 ヒビノは大剣を投げつけることで剣に注目させ視線を誘導したのだ。

 

「―――くっ! なにっ!? やつめ、何処にっ……!」

 

 ならば、彼はどこか。

 

 右でも、左でもないのなら。

 

 

 ―――それは、キャスターもまた驚くほどの奇怪な動きだった。

 

 ヒビノは、投合と同時に己の筋力だけで空高く飛び上がり―――セイバーに向って放物線を描いていく。

 片足を見えない糸で括られ吊られているかのような格好のまま、セイバーの頭上へと向っていくのだ。

 

 それを奇怪と言わず何というのか。

 

 必殺を討とうとした瞬間の一瞬の隙を突き、相手の首をねじ取る。

 

 それこそがヒビノの狙いである。

 

 

 

「―――劇場に相応しい幕引きだろう? 悪いが、首ごとサヨナラだ!」

 

 

 

 ガシッとセイバーの頭を直上から鷲づかみし、捻った体を戻す作用で軸回転する。

 

 そのままセイバーの頭部をねじ切ろうという体術。

 

 

「なにッ! ―――ぬおっ!」

 

 

 刹那。

 

 彼がねじ切ろうと体を動かしたその瞬間。

 

 ―――彼を衝撃が襲う。

 

 

 ヒビノの体術は、その完成度の高さ故に求められる前提条件が多い。

 それは、直立した姿勢だったり、刃を振るう角度だったり様々だが―――セイバーを仕留める直前では姿勢が大きく影響している。

 セイバーからヒビノまで垂直でなくてはならなかった。

 

 そんな彼を衝撃―――岸波のコードキャストが襲ったことで彼は大きく体勢を崩した。

 

 結果、彼はセイバーの頭を放して地上に転がることになった。

 

 

「―――くそっ、予想より反応が早かっ―――」

 

 

 それは致命的な隙。

 なまじ、殺しきれると思っていたが故に招いてしまった隙だった。

 

 

「余の頭に触れて良いのは! 神祖か、神々か、余の奏者だけだ! ―――ゆくぞ! 童女謳う華の帝政《ラウス・セント・クラウディウス》!」

 

 “結構いるじゃねぇか!”というツッコミをするまでもなく、彼女の剣に纏わり付いた炎がヒビノの体にたたき込まれる。

 

「ぐあああああああああッッ……!」

 

 耐えきれず大きく体が吹っ飛ばされるものの――――膝を着くまいとのけぞりながらも、体勢を立て直す。

 

 ダメだったか、ならもう一度。

 

 そう岸波は思って、セイバーに指示をしようとした―――その時。

 

 呟く様に、ヒビノは言った。

 

「……ここまでか」

 

 ―――彼の心臓が砕かれ、そこから治る様子は無い。

 

 ヒビノの体に埋め込まれた宝具は、キャスターの魔力で運用されていた。

 

 その魔力が尽きた、ということは。

 キャスターが、すまなそうにヒビノを見ていた。

 

「……申し訳ありません。あと一回、いえ、あと二分在るなら貴方が勝っていたでしょうに……こればっかりは、私の力不足です」

「力不足はお互い様さ。というか、結構見当したもんだぜ、これ。悪くねえ、むしろ良い! ……お前のおかげだ」

 

 キャスターの体は、少しずつ崩壊していく。

 ゴゴゴゴ、と世界が揺れ始める。

 

 それは心象の崩壊の兆し。

 キャスターが倒れようとする今、その心の壁もまた消えようとしているのだ。

 

 

「おい! テメェら、早く出ねぇと死んじまうぞ! 付き合ってくれてありがとよ!」

「……君は?」

「そいつは愚問だぜ、岸波。俺は、彼女の騎士で主人だ。―――最初から最後まで彼女と一緒にいるさ」

 

 それを聞いた岸波は、セイバーと共に去ろうとして。

 

 その背にヒビノはある言葉をアドバイス代わりに投げつける。

 

「―――結末は、いつだって今の人の手の中に、だ! 決して、諦めるな! 大切なモノが、確かにあるならば!」

 

 その言葉に岸波は少しの驚きと納得を得て、うずいて応えて消えていった。

 

 

 

 

 残されたのは、二人だけ。

 

 騒がしい剣戟の音は、いまや彼方のモノとなった。

 

 ぼろぼろの体で崩壊していく二人は向き合う。

 

 

「……ここで、お別れですね。我が騎士(マスター)

「ああ、そうだな。しばしの別れだな」

「ふふっ……ごめんなさい。笑ってしまって。……貴方、私を一人にしないとか言ってくれたくせに、別れることが前提なんですもの。―――あの言葉は嘘だったのですか?」

 

 挑発めいた彼女の笑みに彼はまさかと言葉を返す。

 

「嘘なんかじゃないさ。君を一人に、なんてしない。……でも、ほんの少し確認してもいいか?」

「……? なんでしょう?」

「お前、アヴァロンに行ってないな?」

 

 ヒビノはキャスターがアヴァロン―――即ち、常春の土地に彼女はたどり着いていないと推測していた。

 

 それに彼女は顔をしかめる。

 

「ええ。 私に、あの地を踏む資格は―――」

「無いわけ無いだろ? アヴァロンもブリテンの一部。なら君は、そこの主でもある。むしろ、君は行かなきゃならない――――というか行け」

「……どうしても、ですか?」

「どんだけ行きたくないんだよ、オマエ」

 

 少し間を置いて、キャスターは言葉を返した。

 

「―――あなたが、そこにいないなら楽園ではないですから」

 

 と優しげに笑いながら言う。

 

「なら、待ってろ。必ずそこに行くから」

「行くって、そんな簡単に」

「―――行くよ、絶対に。男に、二言はない」

「………壊れながら言われても、全く響かないんですけど」

 

 

 “でもまあ……”と彼女は続けて。

 

「待っていてあげますよ。 ―――信じてますから。来なかったら―――」

 

 キャスターは、そう笑って体を崩していった。

 

 最後に何か言おうとしたまま。

 

「……何が、なんでもいかなきゃな」

 

 彼女がいなくなったことで、壁の中は崩壊の速度を速めていく。

 

 ―――彼もまた、崩壊し跡形も消え去った。

 

 

 

 

 彼らの夜は、明けるだろうか。

 

 今は、その痕跡を残すのみ。

 

 

 ―――いずれ露と消える一夜の幻がごとき事象なれど、その微かな思い出が彼女の希望(ヒカリ)にならんことを獣は悲願より祈っている。

 

 

 




ラ「―――で、彼は理想郷にたどり着けるかしら?」
火「行けるさ、俺でもあるんだから約束は必ず守るとも―――――じゃあ、最後の大仕事やってくる」
ラ「いってらっしゃい、マスター。最後の結末は、貴方の手の中に」
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