やる気があれば続ける(現時点ではなし)
カニファンだとか、そんな感じの曖昧な何処か。
*
―――誰かが自分の前に立っている。
それも二人。
一人は善人らしい笑みを浮かべた黒髪で眼鏡を掛けた男。もっとも、少し「死」の気配を纏っている時点で、真っ当な人間じゃないだろうが。
もう一人は赤銅の髪をもった男。自分よりより年下であることぐらいしか判らない。
「やあ、初めまして。といっても自己紹介不要かな。俺は、通りすがりの殺人貴だ」
「俺は通りすがりの正義の味方だ」
やばい奴等だと一瞬で直感した。
―――面倒だ。離れろ。
と脳が指示を下してくる。
「やだなぁ。そんなに警戒しないでくれ。俺達は、君にイベントの告知―――じゃなかった。依頼をしに来たんだ」
へー(棒)。
「いきなり興味なさげだね君っ!?」
だって興味ないからね。さっきイベントだのなんだの口を滑らせやがったじゃん。さっさと言いやがれ。聞くだけ聞いてやる。
そう言うと、赤銅の少年は真剣そうに話始めた。
「―――俺達は、ある日、ヒロイン全員と付き合うという暴挙にでたんだ」
もう帰っていい?
一瞬で聞く気が失せた。
果てしなくどうでもいいものに巻き込まれる予感がする……。
そっと帰ろうとすると、黒髪の男に引き留められた。
「まあ、話は最後まで。 ―――で、結局見事に破綻して爆発落ちという結果になったんだ」
だろうな。
そんなクズ発想するくらいなら一人だけ確実に幸せにする、というルートでもよかっただろ。
「ふっ、それくらい俺だって考えたさ。なんやかんやでメインヒロイン一人を選んで付き合っても――――っ」
「しっかりしろシロウ君!」
赤銅少年は何かを思いだしたのか、体をがたがたと震わせ始めた。
顔色は悪く、汗が額から滝のように流れ出していく。
よっぽど酷い目にあったらしい。
大方、他のヒロインの地雷でも踏んだのだろう。
というか、赤銅の少年の名はシロウと言うらしい。隠した意味はあったのか。
「俺は、みんなを幸せにしたかった、だけなのにっ……! なんでさ……!」
「落ち着くんだ、シロウ君!」
「でも、シキさん!」
「君の言いたいことは判る! 君は優しいから、あんな辛い思いをこの目の前で興味なさげに鼻をほじっている男にさせていいのか、って葛藤していることも! でも、彼なら―――みんなを幸せに出来るかも知れない! 思い出すんだ! 俺達が、どうしてここにきたのか!」
さっきから何を言っているのかわからんのだが。ホント眠いんで帰っていいかい?
「はっ、そうだ! 俺は、あの悲劇を絶対に繰り返さない、繰り返させない! そう思ったから、彼を魔の手から救うためにここに来たんじゃないか!」
ふむ、ホントに何を言っているだか。そろそろ説明が欲しい。
黒髪眼鏡―――シキと呼ばれた男は、こちらに振り返って神妙な顔をする。
「君には、何人か複数のヒロインが、いるね?」
まあ、いますけど。ぶっちゃければ、伊達に小説の主人公してませんよ。
「もうすぐ、君は夢から覚めて改変というかファンタズムな世界の現実と向き合うことになる!」
「そう! 全員をデートにさそって一日を一緒に過ごさなきゃ行けないなんていうえげつない現実と!」
は、はぁ……つーか、ファンタズムな現実って何? めっちゃふわふわしてないか?
「簡単に言えば、君のヒロイン―――つまり、
………四人?
ちょっとまってほしい。
俺、ヒロイン四人もいないと思うんだが。
精々が、ライダーとか俺ではないけどキャスターとか。それくらいだろう。
メイドは、俺のこと嫌ってるからまずヒロインにはならんし。
やはり、四人もいるはずがない。
「なんだって!? おっかしいなぁ……。琥珀……マジカルアンバーさんの情報によれば、四人と付き合うルートって……」
どういうことだってばよ?
「とにかく! 意味も分からずそんな世界に放りだされたら、俺達以上の辛い目に合うことになる。それを止めに君の夢に介入したんだ」
しかし、時間はないらしく意識がもうろうとしてきた。
……結経彼らの依頼は何なのだろう?
―――純粋に満ちた、尊ささえ感じる笑顔でシロウは言った。
「みんなを幸せにしてやってほしい。それが、俺達からの依頼だ」
きっと、その依頼は心からの願い籠もったモノだと感じた。
いいぜ。その依頼、この火々乃晃平が請け負った。
***
――――ふと、意識が浮上する。
そして、秒もしないうちに意識を取り戻したことを後悔した。
目の前には二人の女。
茶髪ハーフアップの少女と白い髪を腰まで流した女が人のベッドの上で座って向かい合っている。
ちなみに、俺は何故か床で寝ていた。
一見二人とも笑顔だが、彼女達の間には張り詰めた空気。むしろさっきで空気の粒子運動を止めている説が頭に浮かぶほど寒いものを感じる。
「あらぁ? ちょっとカラスがカーカー五月蠅くて聞こえなかったわ―――で、さっきなんて言った、キャスター?」
そう後半ドスをきかせて言っているのは、エクストラ編でヒロインだったライダーこと、チンギス・ハン、あるいはテムジンである。
男口調に戻っていることからガチ切れの様子であることが窺えよう。
世界の半分以上を手中に収めた偉人が怒りに震えている。逸話判定的にかの有名な武器――レーヴァテインを所有した人類史上最強の略奪者である。
「その年でお耳まで遠いなんて、苦労しませんこと? もう一度言って上げますわ―――正妻はこの私です。
「今、余を雌犬といったな?」
トンデモねぇ悪意を全開にしてライダーに口撃をたたき込んでいるのは、かの有名なアーサー王、引いては円卓をたたき割るに至らせた悪女にして大魔女。キャスターこと、モルガン・ル・フェである。
言動から鑑みるに、騒動の原因はキャスターが、自分が俺の正妻であると主張し始めたことに在るらしい。
しかも、今の俺の所感はいつものことだと認識するクズぶりを発揮しいている。
どうしてこんなルートが生まれてしまったのか。夢にしても悪質ではなかろうか。
というか、どうして今日はそんなに悪意強めなんですか、キャスターさん? 生理?
あと、そのけしからん胸を少しはライダーに分けてやってください。
「ええ、言いましたよ。 そんなに殺気立つことはないでしょう? 事実なんですし。ねぇ、
「いや、なんでそこで俺に振るんだよ……確かに、ライダーの性欲の強さは俺もどうかと思う。というか雌犬というよりウサギだよ、性欲的に」
毎夜襲われる俺のみにもなって欲しい。
添い寝は許そう。
しかし、性的接触はNGだ。この物語、精々がR-15までだから。K点超えたらまずいから。
「む? コーヘイは、キャスターの味方をするのか?」
「してねぇよ。(性欲の強さは)どっちにも言えるしな。……で、だ。なんで、俺は床でねているのかなぁ? 俺が床で寝ていて、お前達がベッドの上で言い合ってる状況から考えると―――さては」
俺は決して寝付きが悪いタイプじゃない。ついでに寝相は良い方だ。
なら、自分でベッドから転げ落ちるとは考えられない。
第三者による力が働いたと考えられるわけで――――つまりは、その二人。起きたら俺が寝ていたはずのベッドで言い争っている状況。
何故、他の部屋で寝ている此奴らが俺の部屋にいるのか。
考えられるのは夜這―――
ふいに、キャスターは立ち上がって言った。
「ライダーさん、昨日話した事について詰めたいのですが……!」
「ん……? ―――あー! アレね、アレ! えっと……そう! アレよ!」
「…………まあ、そういうことですので、ごめん遊ばせマスター!」
思いつかなかったら無理に言わなくていいんだぞ、ライダー。
キャスターとライダーは、露骨に態度を180度転換しドアを開けその場から去ってしまった。
ちぃ――! “今夜ぐっすり根かさてくれたら明日一日付き合ってやる”とか言ってしまった自分を殴りたい。あわよくば、お仕置きと評して無かった事にしようと思ったが―――くそ、逃げ足の速い奴等め!
……取り敢えず下に降りるとしよう。
壁に掛かっている時計を見れば、もう八時を指している。
いつもならあと一時間は寝ていられるが――そう約束した以上、付き合わざるをえない。
ため息一つ、今日はどんな日になるのか、なんて考えながら居間に降りた。
居間前の廊下まで降りれば。
不意に誰かから声を掛けられた。
「おいおい。今日は随分と早起きだな。今日はクソメイドがいねーからぐっすり心行くまで寝るとかほざいていなかったか?」
振り返って、絶句した。
すげー口悪いなー、とか、アレー、どっかで聞いた声だなー、とか考えたが。振り返ればその答えがあった。
それが想像した誰かとは全く違ったので―――
「おい、無視してんじゃねーよ!」
すぱんっと頭をはたかれる。
いや、反応できなかったのは色々考えてしまって行動がストップするくらいの衝撃があってですね。
振り返った先にいたのは、髪は金髪、何故か肩口まで下ろした―――モードレッドである。
月の聖杯戦争では、彼女のマスター―――つまりはエリカのサーヴァント・セイバーである。
彼の王、アーサ王の嫡子であり不義の子―――キャスター、モルガンの娘でもある。
だが目を引くのはそれではなく。その男勝りモードレッドさんが着ている衣服にある。
「なんで、お前、メイド服着てんの?」
「……メイド長に着せられたんだよ。“これ、お仕事着なんで”とか満面の笑みで渡したまま本人はすたこらさっさ。マスターは着て仕事し始めちまったからな。……ほら、マスターが恥を忍んで着てるってのに、そのサーヴァントである俺が着ないわけにも―――てなんだ、その目は!」
モーさんがメイド服着てる。ちゃんとヘッドドレスまで着ける徹底ぶり。いやぁ、いいでうねぇ。
しかも理由がマスターであるエリカ嬢を慮ったというもの。
お義父さん、嬉しくて涙出てきそうですよ。
「誰が、俺の、父親だって?」
「モーさん、ギブ。とれちゃう! 首とれちゃう!」
いきなり首を絞められた。モードレッドの額には青筋が立っている。
ちょっとぼけただけじゃん! ちょっとしたジャブじゃん!
「あー! ちょっと、セイバー! あれ、コーヘイさん起きていらし―――ってセイバーそろそろ話して上げて! 死んじゃうよ!」
「……ちっ」
「ぐぇ」
モードレッドが俺の首から手を放したことで、体は重力に引かれるまま倒れる。
つぶれた蛙のような声を出してしまった。
声を掛けてくれたのは、セイバーのマスター―――エリカである。
月の聖杯戦争で俺の最後の敵であり、リリスを打ち倒したマスターである。その容姿こそイタリア系茶髪ゆるふわガールではあるが、その敵対者だった俺にはその視線の鋭さ、確かな戦術眼を、身をもって知っている。
そういや、此奴らとは結構な縁が―――つか、なんで此処にいんの?
こいつら、ムーンセル・オートマトンがある世界線いた筈だよ、な。
まさか。
刹那、頭によぎる夢の中での出来事―――即ち、シキさんとやらが言っていた言葉が反芻される。
『簡単に言えば、君のヒロイン―――つまり、
ヒロインは四人と確かに言っていた。
まさか。
そのヒロインの四人って――――。
「そろそろ、朝餉の用意が出来ますから、先に居間のほうに行っていてください。……えっと、聞いてます?」
「あー、こりゃいつもの過剰思考ストップってやつだな。ライダー、引っ張って運びゃいいって言ってたぞ」
「じゃあ、私食事の用意があるから。セイバー、お願いね?」
「あ? オレかよ―――おら、行くぞ!」
まさか。
このチンチクリンな小動物――――エリカと。
このボンクラ不良小娘――――モードレッドと。
「なんかいらっときたな。どうせ思考から帰ってこねぇってんならここでブン殴っても」
「いや、流石に気づく。英霊パンチなんて食らったら死んじゃうだろ?」
「へー、そうかよ」
なんで、胡散臭い目見られなければならんのか。
「……聞いてたかどうか判らんが、飯だ。そら行くぞ!」
「お、おい! 背中押すな!」
「オレだけ先に着いたら仕事さぼったって思われんだろうが!」
「知るか!」
「知っとけ!」
―――たどり着いた先に広がるのは無駄に広い居間である。
和と洋が中途半端に混ざったここで、大きめの机に思い思いの場所に座って食事するんである。
「あら、着たのね」
と、ライダーが真っ先に反応し笑顔を向けてくる。
どうやら先に来ていたようで、机の上には紅茶らしいものが入ったカップが置かれている。どうやら紅茶を飲んでいたようだ。
そして、その紅茶を入れるのに使われたであろうティーポットの取っ手部分がライダーの対面側―――キャスターが座っている方向に向いている。キャスターが紅茶を入れたのだろうか?
キャスターは上品にカップに口をつけ視界端でこちらをとらえると―――ぞくりと、寒気が奔るような笑みを浮かべた。
悪女モードのスイッチが入ったらしい。人を嘲る笑みである。
モードレッドがオレと一緒に来たことをネタにいじるつもりなのだろう。
「モードレッド、貴方メイドなんて出来たのね? 性別も、騎士精神も半人前の貴方が?」
「ハッ! 笑わせんな、スカンク。その無駄な臭い抑えてから言いやがれ、なあ、コーヘイ?」
「……そんなに、臭いますか、私」
「モーさん、言い過ぎだぞ! 確かに女臭いが、近くに寄るまではそんなに臭わないさ。こうして、遠くにいる分には―――」
「すみませんでした! なので距離を取るのをやめていただきたいのですが!」
素直に謝ったので、心をへし折るのは今度しておこう。
席に着くのと同時に、キッチンのほうから料理を両手に持ってきたエリカが机の上に置き始め、セイバーも手伝いに出る。
料理が十全に並んで全員が席に着く。
色取り取りの料理が立ち並び、良い匂いが立ちこめる。
なかなか美味しそうじゃないか。クソメイドがどっかいったって聞いていたから不安だったが、エリカで料理できてよかった。
キャスターはアレだし、ライダーはソレ、モードレッドは判らんが。
じゃあ、そろった所で。
「「「「「いただきまーす」」」」
食事終りには、鬼畜デートが待っているだろうが―――今は、あり得ざる平凡をかみしめていたい。
「あっ、テメェッ! それ、オレのフライだぞ!」
「誰がテメェですか、母上と呼びなさい馬鹿息子!」
「エリカ~、プリンある?」
「ありますけど……リゾットにかけても美味しくないですよ?」
「……これはこれで。うちの食卓風景か……」
「なんか言った?」
「いや、何でも」
前に書いてたけど、作品の更新が間に合わなかった結果。次回作は、ちょっとは更新早くできると良いなぁ。