なお百話で終わる気がしない。
特異点介入される側。
亜種特異点:序
女神がやらかしたサマーレースから数日が過ぎた。
カルデアのマスターこと藤丸立夏はいつものようにサーヴァントと過ごしたり、ちょっとした依頼をこなしたりして日々を過ごしていた。
ただの一般人であったときからと比べればすごい日常を送ってはいるのだが、彼らが起こす問題に対処し続けているうちにちょっとやそっとでは驚かないようになってきた。
今は、ちょうど廊下であったマーリンとお茶をしている。
ちょっとした雑談をこなした後、彼は無駄に神妙な顔をしてこう言った。
「立夏君、君に言っておきたいことが―――」
だが、彼が何か言おうとする前に。
ビィー! ビィー! と、カルデアの警報音が習い始めた。
藤丸立夏からすれば、もはや慣れたもので素速く身なりを正す。
またエリちゃんあたりが増えたのかとか頭にイメージされた。
「ごめん、マーリン。えっと、今なんか言った?」
「いや、なんでも。特に急ぐ用でもないからね。それより、管制室から呼ばれているみたいだよ? また女神あたりがやらかしたのかな? ボクは気にしないから行ってくるといい」
「あははは……。あれは、いやな事件だったね」
マーリンに後で何かしらの埋め合わせはする、と約束して立夏は管制室に急いだ。
そんな彼の後ろ姿を見送ってマーリンは面白いことになりそうだ、と笑う。
「このタイミング。十中八九、彼絡みだね。 立夏君が関わるとなると、どう言う結末になるのかな? ちょっとワクワクしてきたぞぅ!」
マーリンが思い浮かべるのは、一人の男。
夢魔な自分とよく話が合ってしまう、男の成れの果て。
その誰かと藤丸立夏が出会い話をする。
それだけで彼は胸のうちを突き動かす高鳴りを感じる。
今から紡がれる一つの物語に興奮を隠せない。
「願うことなら―――彼が、納得する結末を辿って欲しい」
知れず、彼はそう呟いた。
***
藤丸立夏が中央管制室にたどり着くと、そこでは三人が彼を迎える。
一人目はマシュ・キリエライト。
デミ・サーヴァント計画の実験体として生まれ、しかし人理焼却の際は、一人のサーヴァントとして藤丸立夏の旅路を支えた少女。
二人目はレオナルド・ダ・ヴィンチ。
カルデア技術開発部の部長を務め、今はカルデアの所長代理の任を果たしている。
かの有名な発明家そのひとである。
三人目はシャーロック・ホームズ。
もはや知らぬ人はいない、ベーカー街の名探偵そのひと。
なんやかんやで、今はカルデアに居着いている。いやホントに何が狙いか判らないが、一応信じてもいい人だと、藤丸立夏は思っている。
「おはよう、マシュ」
「はい、おはようございます先輩」
「おはよう立夏君。いきなり呼び出してごめん。ちょっとした緊急事態でね」
「緊急事態?」
マシュやレオナルド・ダ・ヴィンチと挨拶を交す。
しかし、緊急事態とは?
そこからは、ホームズが説明し始める。
「ふむ。まずはこれを」
そういって、とあるデータをカルデア局員に頼んで表示して貰う。
それは近未来観測レンズ・シバから得られたデータ。
日本が揺らぐように明滅していることからそこが特異点であることが判る。
しかし、それだけで―――他に何か変わった事はない。
「問題はいくつかある。よく見ると、日本全域を覆っているように見える。しかしながら都市を転々とするように反応がいちいち動き回っている。観測値が安定しない。まるで霞そのもの、と言ったところだろうか」
それが、問題の一つとホームズは言う。
「もう一つが、その表面を観測するとある周波数だ。それを観測・別の数値でデザインし直すと―――声明が出てきた」
彼がそのデータを再生するように促す。
程なくして音声が流れ始めた。
『やあ、カルデアの諸君。ご機嫌いかがかな?』
「なっ―――!?」
聞こえてきたのは、男の声。藤丸立夏には聞き覚えがない声だった。
こちらに向けて出され声明だと判る。
いや、これではまるで―――犯行声明だと立夏は思った。
事実犯行声明ではあるのだろう。ホームズが声明と言ったのだから。
「この場所を知りうるはずのない誰かからのメッセージという時点で十分驚きに値すが―――驚くのは、ここからだ」
『君たちに送るのはある種の挑戦状だ。受ける覚悟があるかどうかはどうでもいい。君たち――それこそカルデアのマスターなら必ず来るだろう。
これは、挑戦状でもあるが同時に招待状でもある。
我々は、聖杯戦争の用意がある。
根源にたどり着くには申し分なく。そして――――世界を滅ぼすのも、救うのもたやすくなるほどの代物を。
既に君以外の―――魔術師は招待している。七組による生存闘争。
それに君らを招待しようと思う。
応じなくとも結構だ。
黙認するのならそれで構わない。たかが、街一つ。歴史から消えても問題にならない都市が消し飛ぶだけだから。
では、賢明な判断を期待する。
此度の聖杯戦争。主催者は―――私こと、火々乃晃平が執り行う。
止めれるものなら止めてみろ。
我が野望! 我が羨望! 我が思想!
あの魔術王の企みを止めた君たちに、我々を止められるかな?』
ただの音声データであるにも関わらず、その声色からは強い悪意を立夏は感じた。同時に、強い執念すらも。
「以上が検出された音声データだ。聞いての通り、今回の観測した特異点では聖杯戦争が行われているらしい。
聖杯は―――まあ、いつもの、と今は認識しておこう。問題は、一介の魔術師が起こした特異点にしては規模大きすぎる」
「この特異点には魔神柱が関わっている可能性が高い、と言うことですね」
マシュがそうホームズの言葉を捕捉する。
魔神柱。
かつて魔術王の企みによる人理焼却事件。
各地での旅路、繋いだ縁の助けもあって事件は解決した。
しかし、その際に魔神柱の何体かが魔術王の領域から離れたらしい。
新宿では、そのうちの一体と戦い、地底世界でも魔神柱と戦闘した。
「それにしても、あの火々乃家がねぇ~。彼にはこっちにもよくしてくれたんだけど、それにしても聖杯戦争なんて何を考えているんだか」
「火々乃家って有名なの?」
「まあね。近年の時計塔出身で知らない人はいないらしいよ。マリスビリー……前所長も彼とよく取引していたらしいし。もっとも、あっちはこちらをそこまでよく思っていなかったみたいだけどね」
「聞くところによると、カルデアの職員、それも時計塔にいたことのある魔術師の何人かは関わることが多かったらしい。頼まれごとをよく受けていたようだね」
「魔術師、なのに?」
立夏は意外そうに言った。
魔術師、というものを知っているなら誰だって違和感を口にする。
魔術師はそれこそ汚職政治家のようなもので自分達の利権を守るためだけに動いたり、研究、ひいては根源に至るためなら何でもするような連中、人でなしの総称なのだから。
「確か彼は混沌魔術の使い手だった筈だね。まあ、結構な研究を重ねた上での魔術らしいから一般的に言う混沌魔術とは一線を画していた、別系統とも呼べるそれ、だってさ。天体科のメンバーとは折り合いが悪かったみたいで、よく愚痴みたいに話題になっていたよ」
「……でも、だからこそ分かりません。さっきの悪意溢れるような雰囲気と私が聞いた火々乃晃平さんとは、印象が違うような……」
マシュもまたAチームのメンバーとよく話していたので、彼女もまた彼の噂を耳にしたことがあった。
しかし、Aチームのメンバーは決して貶めることは言わず、どっちかと言えば予測がつかない面白い人間、と思われていたらしい。『気がついたら背後でタップダンス踊っている―――いや、彼はサボテンな動き、とか言っていたが』、とある人は言っていた。
「まあ、彼らも魔術師としての腕は認めていたんじゃないかな? なにせ呪術に偏見の強い時計塔でその評価をひっくり返した男なんだから」
時計塔―――西洋の魔術組織の意見を一新させるようなことをした魔術師。
立夏は情報を聞けば聞くほど、人物像がまったく分からなくなっていった。
「まあ、今回の件と彼は全く関係が無いという可能性も十分に考えられる。もっとも何らかの関係が無ければこうはならないだろうがね。それは直接問いただせばいいだけの話さ」
「というワケで、今回も行ってもらえるかな?」
「もちろん!」
「うん! 良い返事。いつもありがとう」
ダ・ヴィンチはさっそくとレイシフトの準備へ取りかかる。
レイシフトとは、擬似霊子転移。疑似霊子変換投射とも呼ばれている。
人間を擬似霊子化(魂のデータ化)させて異なる時間軸、異なる位相に送り込み、これを証明する空間航法。簡単に言えば、時間跳躍(タイムトラベル)と並行世界移動のミックス。マスターを霊子分解し、数値として時空帯に出力する、というものだ。
藤丸立夏の目の前にはコフィンが床から飛び出るように出て来る。
そのコフィンの中に入り、目を閉じる。
やがて、ダ・ヴィンチの案内音声が聞こえてきて―――。
***
―――目を開けば。
コンクリート。むき出しの鉄筋。
上を見れば灰色の空が見える。昼間の曇り空。
何処だろう。この特異点の年代は今の一ヶ月前――――つまりは、ここでは八月の九日ということになる。
ピピッと通信機器から音が鳴る。カルデアからの通信だ。
画面が開かれているように見えるが、特異点側にいる人間には視認できないらしい。もっとも、声事態は聞こえるようだが。
『調子良好。観測数値も安定。でも、ちょっと厄介なことが起こっちゃったよ』
「厄介なこと?」
『なに、入る前から予想できたことだ。挑発で在る以上、多少の罠は在るだろうって』
『うん。これは私の失態だ。ごめん、立夏君。そっちにこっちのサーヴァントは送れない。立夏君が特異点の中に入った瞬間に世界の定義が変質したらしくて……まあ、それはとにかく。さすがに一人で危険な場所を探索させるわけには行かないからね。
直接、そこで召喚してもらうことになる。まあ、触媒もないぶっつけだけど。誰かしらは応えてくれるだろうし。取り敢えず召喚陣をこっちから支持する形で書いてくれ」
ダヴィンチちゃんの言う通りに地面に魔術陣を書いていく。
ちょうどよく、自分は召喚に適した土地の上に現れることができたらしい。
魔力はカルデアの出力を流用。自分を通して召喚する。
自分のような三流魔術師では自力で召喚するには魔力が心もとないという判断だ。
書けたなら、続いて召喚の呪文。
「素に銀と鉄――――」
「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」
「
繰り返すつどに五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
「―――――
始まりを、此処に告げよう。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
自分と戦ってくれる誰か思いを馳せる。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
瞬間。
床に書かれた円から膨大な魔力。神秘が渦巻くのが分かる。
風を伴いながら、それは暴力的に吹き荒れた。
やがて。
一つの形へ集まって―――目映い光があたりを支配する。
目の前には、赤と紫紺を織り交ぜたある種着物のような服を着た男が立っている。
精悍な顔つき。健康的に焼けた肌。騎士然とした雰囲気。
静けさを漂わせながら、その力強い眼差しから荒々しさを感じる。
まるで、海を体現したかのような男。
その男が、ゆっくりと目を開いてこちらを見る。
「サーヴァント・セイバー。召喚に応じ、参上した。君が僕のマスターかい?」
柔和な、あるいは人の良さそうな笑顔でそう言った。
笑顔で頷き、その問いに肯定する。
軽く自己紹介をして、自分達の立場を話す。
カルデアだとか人理焼却だとかの話をすると大きく驚いてくれて、機会があったなら自分もともに戦いたかったと言ってくれた。
「そうか、どうかこれからよろしく立夏。僕は君を護る盾にして剣。存分にこき使ってくれ」
「うん。こちらからもお願いします」
『うまくいった用でなにより。だが一応、君の真名を開かしてほしいのだが、構わないか? 何か明かせない事情があるなら―――』
「いや、構わない。誰にバレた所でたいした弱点もないし。―――僕は、マラッカに生きた
覇気を込めて、誇り高く彼は自らの名を謳う。
「――――ハン・トゥアだ」
***
これで、全ての駒がそろった。
私の願いは既に叶ったと言っていい。
我らの偉業を破綻させた藤丸立夏、カルデアのマスター。
そして、私の、私達の救いを否定した火々乃晃平。
その両者を、この手で殺して見せよう。
***
カルデアのマスターが召喚を行う10時間前。
火々乃晃平―――彼も叉召喚に望んでいた。
触媒は、赤い破片。赤枝の破片。
呼ぶサーヴァントは、彼が月で目にした一人の男。
狙うは、青タイツなあの男である。
むしろ、これだけのものを用意してでない筈がない。
かのクランの猛犬のエピソードから考えれば、それこそランサーで召喚すればかなりの戦力になるはずだ。伝説を鑑みれば、城だって投げる化け物である。
おまけに性格もまた、こんな自分でも、傭兵気質な彼なら愚痴りつつも最後まで戦ってくれるだろう。
召喚の呪文を紡ぐ。
血液と、霊酒を混ぜたもので召喚陣を書いて、荒縄で木々をむすび、円状の儀式場を組んだもの。日本各地に古くから伝わる神落としの技法を用いて組み上げた一級品の代物。
軽く、酒を口にしたせいか、心地よい酩酊感。
魔力は万全。
今宵ほど好条件な時はない。
それこそ、神様だって召喚出来るだろう。
「――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」
ごっごりと自分の中の魔力が持って行かれるを感じる。
激しい光が放たれたと同時に、魔力が周囲に吹き荒れる。
それを感じて、彼は召喚の手応えを感じた。
呼び寄せるのは最強と名高き――――。
確信を揺るがすことなく、彼は目を前に向けると。
「え?」
呆けた声を出してしまう。
月の聖杯戦争で目にしたことがある故に、彼は動揺を隠せない。
何せ、姿形がまるで違うのだから。
黒い戦装束に真紅の魔槍を携えた、赤い瞳の
どこぞの王者だったのかと思わせる、その誇り高さにして気高さ。
だが、その瞳は死を明確にイメージさせるような、いやどこか機械めいた、あるいは諦観に冒された目をしていた。
「サーヴァント・ランサー。スカサハだ。問おう。お主が、私を呼んだマスターか?」
「…………………」
「ん? どうした。呼んだのはお前ではないのか?」
彼は、サーヴァントの問いに応えない。
彼の中は、疑問符で埋め尽くされていた――――という以上に、目の前の女に自分でもどうかと思うほどの嫌悪、いや、警戒があった。
コレを信用するな。と頭の奥が五月蠅い。
最近開いた妖精眼の影響か目の奥が熱く、痛みが奔っている。
激痛に耐えながら、彼は応えた。
「ああ……俺が、マスターだ。すまん、こちらのミスで戸惑った」
急いで、目のスイッチを閉じて妖精眼の機能を止める。
英霊なんぞ見ようとすれば、人間の理解容量―――キャパシティを超えるのは当然と言えよう。
しかも、彼女はその英霊の中でも最高峰―――。
そこまで考えて、彼は己の中の違和感にたどり着いた。
だが、それは後で話を聞けば良い。
「しかも、スカサハだって?」
「そうだが?」
たいした事ではないとばかりに言うが、彼にとってはそうではない。
普通なら諸手を挙げて喜ぶところだが、喜べない。
自分が欲しかったサーヴァントは自分の言う通りに動く存在だ。
目の前のそれは、自分の言う通りに動くようには思えない。死の器がないのに英霊召喚が何故出来たのかという理由は、高度な儀式場か人理焼却事件でも関与しているのだろうと予想はつく。
間違いなく最強の存在を引き当てたというのに彼の心はまとまらない。
彼はスカサハを一目見て英雄王クラスで使役に適さないソレだと判断した。
「そら、ここで永遠に立ち話をしている気か? 案内しろ。なに、ここまでの儀式場を組み上げたのなら拠点ぐらい用意してあるのだろう」
とあごで指示してくる。
「英霊なら霊体化すりゃあいいじゃないか?」
「ああ、言い忘れていたが儂は霊体化できん。今でも生きている扱い故な。この身はサーヴァント、ちょっとした夢が実体をもっただけだと思え」
絶対に、面倒くさい。
彼は、最強のカードを引き当てたにもかかわらず、今後の展開に頭を悩ませ不安を膨らませるのだった。
聖杯君「アニキだと思った? 残念、師匠でした~!」
火「なんだその嫌がらせ! だってアイツ、目死んでるよ!? Fgoより機械度高めで召喚されてるんですけど!?」
聖「メタはNG」