仮拠点を確保した後、情報を仕入れるために町をぶらつく。
住民から聞いた情報によると―――ここは赤海町、と言うらしい。あまり聞き覚えはないが、地方都市の知名度なんてそんなものかも知れない。
ダヴィンチちゃん情報によれば、赤海町は昔から工芸の町として発展してきて、近代には戦時用に軍艦に積む大砲の何門かを手がけたある意味では名の知れた町だったらしい。
鉄よりもアルミな現代の波に揺れに揺れ、現在では衰退気味。
……どこの地方都市もそんなものらしいが。
しかし、それはおいとき。ここは魔術師のお膝元。今も監視されているかも知れない。
そうして聞き込みをし続けること数時間。適当な露店でたこ焼きをほおばりながら、状況を改めて整理した。
暗がりに赤い提灯がほんのり辺りを照らす露店街。モダンでありながら、レトロ。風情の詰まったこの露店で食べるたこ焼きは叉格別。
うん。おいしい。
「実に美味しそうに食べるな、君は。……うん、じゃあ俺も一口」
そう言って、ひょいっとたこ焼きを口に入れ。途端、頬をほころばした。
「これはうまい! このふわふわとした食感! 中に入っているタコも大粒で良い! こりゃ良い買い物したな!」
すごく喜んでくれた。
確かにこのたこ焼きは美味しい。ここらの隠れた名店なのかもしれない。
「雨が降って寒いし、こうゆう温かい飯は体に効くねぇ」
既に時間帯は夜へと突入し、オマケに雨まで降る始末である。
気温は夕方に比べ、少し肌寒くなった。
「にしても――――」
ぺらり、とそこらで手に入れたこの町のパンフレット―――町が簡略化された地図が広がっている。
今自分達は、中央から南東に扇状に広がる港湾地区にいる。この露店街はその中にある。
北西には山々が描かれ、みるとハイキングコースとかになっているらしい。
北東には多くのプラント施設が建ち並ぶ工業港となっていて、南西には住宅街になっているようだ。
知り得た情報などそれくらい。他にたいした有名所があるというわけではなく。どこか一般的な町と大して変わらないようだった。
「まあ、うまいたこ焼きだけでいい収穫があったと思おうぜ」
と言ってセイバーはもう一つたこ焼きをほおばる。どうやら味が気に入ったらしい。
「……おや、外国人さんとは珍しい。それに―――今日で
いつの間にか隣の席に座っていた黒髪の男がそう言ってきた。
見ればちょうど二十歳くらいの日本人らしい男がこちらをもの珍しそうに見ていた。
……今、二人目って?
「……二人目?」
「ああ、さっきまでそこで食っていた美人な女性がいてね。いやぁ、いいプロポーションしてさ。ここは一つ声でも掛けて―――」
「さっきまで、ってことは、どっかに行った?」
「うん? 港――ありゃあ、それもコンテナほうに行ったな。……ああ、あっちにでかいコンテナ置き場があるんだよ。この雨に、傘も差さずに変な所に行くもんだ」
これは―――サーヴァントかもしれない。
日本の、それもこんな地方の町で外国人はそうはいない。それに向った場所――コンテナ置き場の方に行くのはやはり、普通の一般人とは考えにくい。
雨の中、傘も差さずにとあらば―――それが必要のない状況を見据えてか。
サーヴァントである可能性は高そうだ。
セイバーと目を合わせ、頷いてその場を離れる。
「お、傘持ってくかい? あんたらも見たところ持ってないみたいだし。俺? 良いんだ、ほらこの通り二つ持ってるし。持っててよかった折りたたみ式!」
「……では、お言葉に甘えて。ありがとうございます!」
傘を貰って、コンテナ方へ向う。
露店街の通り、その奥の角で曲り、男の目を遮ったところで走った。
***
……隣に座り、傘を与えた男は―――青年が角を曲って視界から消えたところでほくそ笑んだ。
―――コンテナの方へ向った。そこにはサーヴァントがいる。
その男の名は―――火々乃晃平。
その先で、幸運と思える偶然で、サーヴァントとマスターの両名を発見した。
「霊基、波長、測定。記録、照合。霊基質―――クラス・セイバーと判明。 なるほど、褐色のセイバーか。……ビーム討つようなタイプでもなさそうだ」
彼はカルデアのマスター、藤丸立夏が己と面識がないことを利用し一般人として近づいた。そして、連れているサーヴァントの霊基を測定、照合して、霊基板に登録。これでいつでもセイバーの位置が割り出せるようになった。
そして彼に持たせた傘にも魔術を施し、位置を割り出せるようにしている。
上手くいけば、サーヴァントが離れた瞬間を狙ってマスターを殺すことも可能になったのだ。
「しかし。問題はランサーほうか」
ランサーは、現代服を適当に見繕ったあと何をするでもなく。町中を散策。途中で飽きたらしく、カフェで雑誌を読み始めた。
夜になれば、ここ港湾地区に運び、つい三十分ほど前にここに立ち寄った。
―――そこで、サーヴァントを発見。
朝方仕合った、あのランサーを名乗ろうとしたサーヴァント。そのサーヴァントがわざわざ、ランサーの目の前に現れてコンテナ置き場に誘ったのだ。
場所を指定した以上、明らかな罠。それにホイホイと乗っていくあの女は一体何なのか。
「……ま、それはともかく」
どうせなら派手にやって、コンテナに全サーヴァントを集めて欲しいものだ。
そちらのほうが、こちらの目的にも見合う。
男が見上げた先あるのは―――高くそびえ立つ電波塔、その屋上。
あそこからならば、戦場が一望できる。
懸念はアーチャーだが。まあ、問題は無い。
「こちらのプラン通りに進めば、勝利は確実。ジジイを殺すまでは役に立って貰うぞ、ランサー」
***
酷くなる雨脚。吹き荒ぶ、騒音めいた雨の音を聞きながら――――コンテナ置き場へたどり着いた。
さびた鉄の匂いが鼻を刺激する。
山のように詰まれたソレは、その金属製故か重く見える。
青、赤、黄のカラーリングが施されたコンテナ。されど、その殆どが赤く焦げた、あるいはさび付いたように色あせている。
一種の寂しさすら感じるその場。外灯は冷たさを教える白。
その冷たい静寂に満ちた―――中心。
黒い戦装束に真紅の魔槍を携えた、赤い瞳の女性。
雨の中であろうとも、その姿ははっきり視認できる。
髪こそ雨に濡れているものの、その姿は自分には覚えがある。
――――まさか、彼女が召喚されているなんて。
だが、いつもとは様子が違って見える。いつか合ったあの人は―――そんな機械めいた顔なんてしなかった。
いや、彼女なら――サーヴァントのクラスは、ランサー。
「――――ほう。さては、あの男……コレが目的だったか?」
こちらを見るなり、そう言った。
自分を護ろうと、セイバーは体をランサーの視線から避けるように立ち、80はあろう長剣を構えた。
その手に握られた赤い枝ともとれる細槍は、彼女を示す代名詞―――ゲイ・ボルク。
「その槍、ランサーか?」
「如何にも。貴様は―――セイバーか。そして、そこにいるのがそのマスターか」
今、気づいたが彼女の背後には夥しい戦闘痕が残されている。
コンテナの一部がひしゃげ、折れ曲がり、えぐれている。
コンクリート敷きですらひび割れ、崩れている。
見るも無惨な戦闘の爪痕が残されていた。
「先ほど、死合ったのだがな。見ての通り、フラれてしまった。しかし―――私に会いに来たのだろう? ならば―――」
ランサーは、槍を自分達へ差し向けた。いつもより酷薄な笑みを受かべ―――その言葉を述べる。
「―――此処で、死ね」
獣が如き、疾走。
目で追いきれないその速さ。
しかして、思わず全身を固めてしまうほどの強烈な殺意。
ただの人間でしかない自分などたやすく貫くだろう――――――
しかし、その
ガキィッッ―――!!
剣と槍がぶつかり合って響く金属音。
赤い火花が飛び散り、白銀の刃と赤い槍先が交差する。
予想以上の返しだったか、ランサーは大きくのけぞって後退した。
「感じる力が弱いと少々甘く見すぎたか。まあ、それくらいはやって貰わなくては困る。うっかり宝具を撃つ前に負かしては華がない」
「華ねぇ……一応聞くけど、今俺達と会話する気あるかな? できれば、一旦矛を収めてほしいんだが……」
セイバーの申し出を鼻で笑い、彼の提案を態度で拒否する。
即ちは、槍を低く構え好戦の意志を見せた。
「そうだな―――話を聞いてやるのもやぶさかではない。だが、条件はある。なにぶん先ほど、獲物に逃げられてしまって体が疼いていてな」
「……それを解消してやれば、ってわけか。で、それは
「当然だな。―――力を見せるがいい、勇士よ。出来なければ、お前の命を貰うまでっ!!」
ランサーから放たれる中下から縫い上げるような一撃。
それをセイバーは難なく弾く。
躱された槍はすぐさま手元に引き戻され、次いで放たれる二撃目になる。
その連続性―――マシンガンを打ち鳴らすがごとく放たれる攻撃は脅威に他ならない。
「フ――――」
それを逆手に持った剣で器用に凌ぐセイバーもまた凄まじい技量を保持している。
放たれる槍の全てを例外なくはじき返している。
「では、これは―――どうだっ!」
ランサーがぐるりと体を回し放つ横薙ぎの一撃。そこに隙などない。当然、遊びもない。全力の死がセイバーに向って放たれる。
先ほどが面射撃のそれであり、かつ目的が相手をその場に縫い止めることだったのなら。
その一撃を躱すことは難しい。
「――――――」
しかし、セイバーは体をひねり大きく腕を回し、横から迫り来る槍を斬りあげる。そして――コンマにも満たない隙に、体の重心を低く落とした。
「っ――――!」
「そこだ―――!」
その小さな隙に差し込むように踏み込み、長剣で突きを放つ。
自分の距離から一気に踏み込まれ放たれた一撃に、ランサーは素速く体勢を直しがてら手首を回して迫る一撃を防いだ。
お互いがお互いに譲らず鍔競り合いが起こる。互いののど元に食らいつかんと吠え立てる凶器がガチガチと音を鳴らし、その存在を伝えている。
「……貴様。実力を隠しているな?」
「本気じゃないが、全力だ。貴方の槍は、精確無慈悲。食らいつくので精一杯だとも」
と、薄く笑いながらセイバーは返す。
「能ある鷹はなんとやら。こっちじゃそう言うらしい、な―――!」
鍔競り合いの状態からランサーの腹を蹴飛ばして後退させる。蹴飛ばされる瞬間に槍を回して防いだらしく。ダメ―ジは入っていない。
間合いは大きく離れてしまった。
「なら、爪を隠しているうちに―――その爪ごと打ち抜いてみせようか?」
ギラリ、と。赤い目がセイバーの死を捉えた。
それは、構えだった。
「―――?」
一見背を向けたソレは無防備にも見えるが自分は知っている。
―――あれが、必殺の一撃の構えだと。
刹那、二人の周囲が歪んで見えた。
ランサーの槍を中心に魔力が渦となって鳴動している。
「宝具――――!」
(セイバー、逃げよう! アレは、因果逆転の呪い! 放たれたらこっちが負ける!)
(なるほど。君は彼女と面識があるのか)
(ああ! だから、彼女の宝具がとんでもないものだって知ってる!)
セイバーにアレを術はない。今から距離を取っても間に合うかどうか―――!
だと言うのに。
セイバーは、退くどころか。
(因果逆転か。なら、問題無い。要は速いだけの一刺しだろう? そう不安がるな。俺も最優の英霊だと言うことを―――証明してみせよう)
そう言って彼は右手に短剣を取り出し構えた。
―――彼の宝具。
曰く、手にした者は魔法の力で強くなりあらゆる呪いを弾くもの。
僅か刃渡り三重にも届かず。しかして、銀の刀身に緋色の美しい紋様が描かれている魔法の剣。
――――『
あらゆる呪いを弾く。
その逸話に虚はないが、彼女の一槍に叶うとは思わない。
……因果の逆転。つまりは、過程と結果が逆になる。放たれた瞬間に、大前提として“心臓を貫いている”という結果を生む。
使えば必ず心臓を貫いているという宝具なのだ。
――――必殺の言葉に嘘はなし。
それが判らぬセイバーではないだろう。
……何か策があるのだろう。
自分に出来るのはそんな彼を信じることだけだ。
短剣を、腰下に押しつけるように低く持ち、構えた。
まるで来るべき瞬間に備えているようで、何かに祈っているようでもあった。
「……此処で死んでいけ。その心臓、貰い受ける―――――!」
ランサーの体が低く沈む。それと同時に地を蹴る。
まるでコマ送りのように、セイバーの前に現れ、その槍を―――彼の足下目掛けて繰り出した。
明らかに下段に下げた槍で、足下を狙ってもそれはたやすく対処されるだろう。
―――しかし、彼女の槍は。
「“―――――
槍が強力な魔力と帯びる言葉と共に、
「“―――――
下段に放たれた槍は、奇怪な曲がりを見せ―――彼の心臓目掛けて奔っていった。
―――呪詛染みたその因果逆転。目標はセイバーの心臓。すでにその文言が放たれた時点で刺さっている。結果がその場に残っている。
どんな盾を用意しようとも“既に貫いている”という結果を作るために
放たれた―――赤い軌跡。それは寸部違わず、セイバーの心臓に、
「――――そこ!」
―――たどり着くことはなく。セイバーが短剣を振った途端に。
ギ、ドガッ、という音と共に地面が吹き飛んだ。
「なっ―――!」
驚いたような声を挙げたのはランサーの方だった。
確実に貫くと思った槍があろうことか、見当違いの方向にすっ飛んだのである。
結果、地面を吹き飛ばしただけに終わった。
「……一体、何をした」
武芸を極めた彼女でも何をされたか判らなかったらしい。
「因果っていうのはさ。線なんだよ。だから、その線さえ
「―――――――」
―――因果を、斬った……!?
如何にも大したことが無いように彼は言っているがそんな簡単な話ではない。
彼がしたことを判りやすく言えば。
因果とは原因と結果。つまりは二つの点があり。二つの点が出来た瞬間に線で結ばれ現実に作用する。ならば―――途中の、
考えてみたがさっぱりわからない。そうはならないだろう。
しかし、うちのカルデアには力の線を斬って無力化する人もいた。あの人は“直視の魔眼”を使っていたが、だからこそのものでもある。―――正確には“「力」を「殺した」”のだが。
となれば、彼には魔眼でもあったのだろうか。
「えっと、セイバー? ひょっとして、魔眼とか持ってる?」
「ん? いいや、そんな便利なもの持ってないけど」
「じゃ、じゃあ、どうやって因果を斬るなんて」
「そんなもん感覚だよ。でも、多様は出来ないな―――」
セイバーが目を落とした先には――短剣を振るった右手。
手首が痛々しく腫れ上がっている。そういえば、二度ぐらい音がした。その最初の音が彼が切った音。凄まじい衝撃が彼を捉えたのかもしれない。
……いや、これくらいなら。しかし、彼女がその隙を狙わないとは思えない。
「―――とんだ爪隠していたものだ。なるほど……お前の武器はその短剣そのものにあるのではなく、本命はその神域の武芸だな?」
「どうだろうな。ほら、爪って基本片手辺り五本あるし」
「―――フ。なら全て暴いてみせようか」
意気揚々と彼女は槍を構え、さらに魔力を込め始めたところで―――。
「ひゃっほ――い――――――!!!」
「――――――――――――!!」
なんだか気の抜ける喜悦溢れる声と絶叫が聞こえてきた。
それは上空から、こちらに迫るように。
視線を向ければ―――空から暴風とともに地上に降りてくるものがあった。
「フハハハハハっ!! 見ておったぞ、貴様ら! まこと、よい仕合であった!」
背の高い馬にまたがった女性……と、その後ろで顔を青くして吐き気を堪えるようにしているのは、マスターだろうか?
「ほう。これは上等な馬だ。
「む。そっちのセイバーは馬でも語れる口か?」
「ああ、うまいし(食うほうで)」
「なるほど上手いのか(乗る方で)」
なんだか、互いに相違があるような話をしているが、この乱入者は―――いや、どう見てもライダーですよね?
「ライダー、貴様見ていたというなら此処で割り込むとは嫌がらせか?」
「ふむ? いや、余も混ぜて欲しくなっただけよ。ほれ、今宵は英雄集う聖杯戦争であろう?」
「一騎打ちに水を差すどころか、ぶっかけたな? コレは高く付くぞ」
「いや、貴様元よりずぶ濡れではないか。というかエロいな。余の好みだ! ちょっとそこで―――」
「はぁ……」
これには、かのスカサハと言えど呆れ顔……のつもりらしい。ため息ついたし。
「やる気が失せた。……そこのマスター」
「えっと、俺?」
「そうだ。元より何か話が合ったのだろう? 今なら聞いてやろう」
「無視か!?」
誰かのメモ
ランサー:筋力A 耐久A+ 俊敏A 魔力C+ 幸運E
・目が死んでる。
・かなり強力な状態で呼べた反面、幸運が悲しいことに。コレは槍外す――わけないよな?