何とか聞く気になってくれたサーヴァント二人に対してカルデアについてと、今回の特異点解決が自分達の目的だと告げた。
ついでにカルデアの管制室とも連絡が取れたので、今ダヴィンチちゃんに説明してもらったところだ。
説明を受けたサーヴァントの反応は様々だ。
ランサー――スカサハは片目をつむったまま考え込むように、あるいは訝しむ様にこちらを見ている。
ライダーは大して興味なさそうなものの、聞き耳を立てている。というかこっちよりスカサハのほうを好色そうな笑みで見ていた。
そのマスターはこちらの話をちゃんと聞いてくれた。
「カルデア……雇い主から名は聞いたことは何度か」
『なら話は早い! 是非協力してくれると助かる―――ん? 雇い主だって?』
「ああ―――私の雇い主はあなた方の探している“火々乃晃平”です」
「ほほう? 雇い主がこの聖杯戦争の主催者とはな」
「主催者、という点に関してはまだなんとも。あの人は他人に基本不干渉なのでわざわざ教会に睨まれること、それこそ国連所属の魔術団体に喧嘩を売るようなマネはしないと思います」
『では、椎名氏は今回の特異点を起こした原因は“火々乃家”には関係無いと』
「……そこまでは、言い切れません。―――その事実確認をするために、私はここまできて」
「それで巻き込まれた間抜けなマスター、ということか。魔術師でありながら聖杯戦争の情報を大して調べもせず首を突っ込むとは……主共々、愚かしい」
珍しいことに、スカサハからは嫌みを込めた言葉が飛ぶ。ライダーのマスター―――椎名ナツキは、その言葉に顔をこわばらせる。
鋭い視線がナツキを射貫かんと向けられる。
「それに、気づいておるのか? 貴様そのままでは――――」
「……そこまでだ、ランサー。それ以上、こちらの事情に踏みこんで貰っては困るな」
その視線からかばい立てるようにライダーが割って入る。
―――しかし、今スカサハは何かしらの忠告をしようとしたように自分には思えたのだが……。
さらにスカサハの視線が鋭くなる。
「気づいているな、貴様? それでもサーヴァントか?」
「ああ、そうだとも。故に、このマスターについて深入りされる覚えも、理由も貴様にはなかろう? それとも、なにか?
――――もう、
「――――――――」
そう嗤って言うライダーに、睨みを鋭くするランサー。まるで、火と油のような関係。どこまでも燃えていきそうな不安定さ、険悪さ。
“マスター替えを考えているようなヤツに、サーヴァントを説かれるいわれはない”と言っていた。
―――それは、つまり。
彼女がもう裏切りの算段を考えて居るような、そんな言い方だった。
彼女に限って、ソレはない。そう判断しようとしても、彼女は事実の否定をしなかった。
『ランサーのほうにも色々あるんだと思うけど……まあ、それはともかく。こちらにも一つ、お二人に提案がある』
「……なんでしょうか?」
『同盟をこちらと組まないかい? こちらは特異点を解明し、解決したい。そちらは火々乃晃平に会って話をしたい。スカサハのマスターには敵対者を終盤まで減らせる。
悪くない提案だと思うけどね。ああ、裏切りなら気にしなくてもいいんじゃないかな? こっちの魔術師は二人ともひよっこの域を出ていない。
彼らに寝首をかかれるような魔術師が、スカサハを呼び出せるとは思わない………どうかな?』
それは、同盟の誘い―――でも、組んでくれる可能性は少なそうだ。
さっきの険悪さの仲もあるし、割と一方的な誘いだとも思う。
―――いや、だからこそか。
これは、マスターに対して行われた提案なのだと思う。……きっとダヴィンチちゃんは、もう一人のマスターが監視がてらにこの状況を見ていると考えて言ったのだ。
「ふむ。どうする、マスター?」
「これは……そうですね。こちらは拠点すらない身。ありがたい申し出です。……
この状況下では味方はいた方が良い。そちらの同盟に乗りましょう」
ライダーのマスターは、こちらの提案に乗ってくれた。……見たところ
彼女も魔術師としてはひよっこらしい。なんだか親近感がわく。
『そちらは、どうかなスカサハ?』
しかし、
「―――断る」
スカサハはそう言って断った。
『それは、どうして?』
「……ふん。どこで油を売っているのかはしらんが、
こちらのマスターは勝手な判断とやらを嫌うようなのでな。……それに、こちらのマスターが何者か知って言っているのか?」
『そう言えば聞いてなかったな。一体誰なんだい? 君を召喚するほどの魔術師とあらば、相当な腕利きだろう?』
「魔力量こそ逸脱しているが、生憎と凡才の質の悪い男でな。その男の名を―――火々乃晃平という」
な、ななな、なんだって!?
あの、スカサハ召喚したのが、敵対するかもしれない魔術師!?
『……なるほど。敵対する可能性が在る以上、同盟は組めないか』
「然り。それに、そちらも敵と同盟を組むわけにもいくまい?」
ステータスがかなり高く召喚されている。
こちらに勝ち目があるかどうか判断が付かないほど強力。いくら自分が彼女を知っているからと言っても勝つのは無理がある。そう思えるほどだ。
彼女は凡才と言ったが、それは彼女のマスターへの嫌悪がそう言わせるのだろう。彼女を召喚できた時点で相当優秀なのは言うまでもないことだからだ。
「……しかし」
スカサハはじっと、こちらを観察するように見て言った。
「拠点がない、と言うのは本当か?」
「……ええ、まあ」
「カルデアのマスターもか?」
「まあ、その、はい」
一応仮拠点ぐらいは作っているのだが、あそこ隙間風とか入ってくるし。拠点としては微妙なところだ。
スカサハ、尋ねる度にうんうんと頷いてからこう提案してきた。
「さっきは同盟を断ったが、よくよく考えてみればそれこそマスターに聞くべきだったな。故に―――こちらの拠点に招待しよう。部屋はなかなかに余っているようだったからな。
直接、聞くがいい。それがよかろう。得もすれば、拠点も得られるやもしれんぞ?」
それは。
『さて、どうする? これは魔術師の本拠を尋ねるってことだ。結構危険な目に遭うかも知れないけど……』
「当然いくよ。会えるっていうなら会って確かめないと」
運よければ、拠点――言い寝床を手に入れられるかもしれない!
「―――即断結構。ライダーのマスターも異論はないか?」
「ええ。ライダー様は?」
「……一つ疑問がある。その魔術師の本拠とやらは何処にあるのだ?」
確かに。
慎重な魔術師が町のど真ん中に拠点を構えるとは思えない。しかして何処にあるのだろうか。
「それは―――あそこだ」
ランサーが指を指した先には、山が見える。
曇天に突き刺すようにそびえ立つ山の一画を彼女は指さしていた。
―――しかし、彼女が指さした先は。
「ん―――?」
ボォォォン、と町中まで届く音で爆発し火柱が昇った。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
一同無言になって、むくむくと立ち上る煙の麓を見てしまう。
……えっと、スカサハさん? 困惑した顔でこっち見られても困るんですけど。ひょっとしてカルナ化したの?
「ふむ。間違えたか―――確か、あっちの方だったような」
そう言って、他の部分を指さすと。
ドォォン、とまた炎が上がり爆発する。
「………………ランサー。貴様、ついに指からびーむを出せるようになったか?」
「いや、そんな分けないだろう。あれは、襲撃でも受けているのではないか? 道理でさっきから連絡の一つもないわけだ」
「……助けに行かなくて良いのかランサーよ」
「いざとなれば令呪なりで呼ぶだろうさ。もっとも、届けばな」
……急ごう。
火々乃さんと会う前に死なれたらこっちも困るし。
無言でナツキさんとうなずき合い、火々乃邸へ向った。
次回、ヒビノ邸。
ランサーが戦闘している間、彼に何があったのか。はたしてヒビノ邸は無事なのか。