Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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黒幕は一体誰なのか?


日常:八月十一日

 

 暗い夜は明け始め、空が染め上がっていく。同時にライダーの立っている廊下にも光が差し込み、木製のもつ暖かさを蘇らせていくようだと感じさせる。

 頃合いはあのバーサーカーとの初戦を終え、火々乃晃平の魔術によって押し流されるよう帰ってきて、ライダーのマスターが魔力不足でぶっ倒れ、その介抱および魔力対策を火々乃は行っている時である。

 “気が散る”という理由で部屋に入れないライダーはやはりというか、一人で廊下に立ち、終わる頃を今か今かと待っていた。

 

 そんな時、ひょっこりと廊下の角からランサーが顔を出し、こっちに来いと手招きする。朝から閨への誘いだろうかと煩悩ハッピーなことを考えながらライダーはランサーに近寄った。

 

 静かに、場所を移す、とだけ言って―――火々乃邸からそう遠くない場所にある古い趣ある建物に連れられ入っていく。

 こんなところが会ったのか、とライダーは関心を館に寄せながらランサーと向き合った。

 

 すると、

 

「ヒビノコウヘイを連れ出して欲しい」

 

 ライダーはそう唐突にランサーに頼まれた。

 

 通常マスターを、同盟を結んでいるとは言え、他のサーヴァントに預けようというのは不用心に過ぎる。しかし、それが分からぬランサーでないと、ライダーは見立てていた。

 ライダーの見立てでは、ランサーもまた己が同様裏切りを善しとしないものだと考えて居る。火々乃晃平が臆病になるほど不徳物ではないとある種の確信を抱くほどだった。

 

「……理由を聞こうか?」

「―――キャスターが倒された……と言うのは彼奴から聞いたか?」

「いや、初耳だな」

 

 ランサー曰く、昨日の戦闘の折、それもライダーたちの救援に向う前に、キャスターが敗北したと言う情報を日々乃晃平は得ていたらしい。それが嘘か真か知りはしないがしかし、真なら今夜に決着をつけようとするだろう、とランサーは言った。

 

 確かに、あの男ならばそうするだろうとライダーも納得する。しかし、それが火々乃晃平を連れ出すことと何の関係があるのだろうかとも思いはしたが簡単に答えは出る。

 臆病と慎重とは似たようなもの。失敗(死ぬことを)を恐れるだろうあの男は何らかの策を労するのは明白。ならば、その手段こそがランサーの気に掛ける所だと思い至る。

 決着、と言うなら黒幕の排除か、あるいは邪魔者の排除。

 

「もしや、人質を取っている、ということか?」

「ほう。よく分かったな。それもアサシンのマスターの人質を取っているようだ。これでアサシンのマスターと取引してアサシンを自害させ、アーチャーを倒す。もう拠点は割り込めたらしいからな。この好機を逃すはずはない。お前達にはバーサーカーのタマでも取ってこいとでも言うだろうさ」

 

 そして最後に私を自害させるだろう、とランサーは悲しさを滲ませることもなく、ただ当然のこととして捉えている。

 

「私は、あの男―――ヒビノコウヘイが黒幕だと確信した」

「黒幕、か。それで、どうする気だ?」

 

 本当は聞くまでもない言葉だった。英雄であり、英霊である彼女がどんな手段をとるかなど考えるまでもない。きっと自分があの男のサーヴァントであったとしてもやるだろう事あったからだ。

 

「―――殺すさ。あの男が手を下すより早く。何、一画の命令程度どうと言うことはない」

「で、余は人質捜しの時間稼ぎというわけか」

「ああ、お前にも―――」

「そこから先の言葉は不要だ。請け負った。主人の悪を断ってやろうと言うのだ、余が手を貸さぬ理由はない」

「恩に着る」

「なら―――どうせなら、()と果たし合うまで生き残っていなさい。私、まだ貴女の絶技味わっていないんだから」

「ふふ、そうだな。生きていれば、考えておこう。もっとも私が勝つが」

「いや余が勝つ」

「いいや私だ」

「いやいやいや余だ」

「いやいやいや――――――――」

「いやいやいやいや――――――」

 

 

***

 

 

 既に天上には黄金の太陽が燦々と輝いている。黒髪のせいで焼けた鉄板を押し当てられたがごとく熱い。

 昨日雨降ってたから多少なりとも気温は落ち着いているかな、とか思ったⅠ時間前の俺を殴りたい。もう二時なんだよ、サンシャインが本気出してんだよ。

 コンクリートジャングルでその発想は通じないって知ってたろ~、俺よ。このままじゃ俺の命のろうそくが溶けきってしまうよ~。ヤベェよ、地球温暖化で俺も地球もヤバい。

 気温どころか湿度まで高いときた。なのに汗は止まらないし、熱いし、もう散々である。

 ちらり、と横目でライダーを盗み見るがアイツはさっきからもじもじして、おまけにブツブツ何か言っている。正直言って、不審者も良いところだ。この気温せいか顔も朱くしている要に見える。

 英霊って病気になるんだろうか。非常に気になるところではある。

 

「付き合えって言うから付き合ったんだぜ? どっか行きたいたいところあったんじゃないのか?」

「…………でーと、とはどうした良いのだ!? 誘ったはいいがさっぱりどうしたらいいかわからん。どうすれば正解なのだ? 何をどうすれば……!」

「おーい、ライダーさん? さっきから何ブツブツ言ってんの? 文句、不満、不平があるなら直接言えよコノヤロー。大丈夫ですか~、日射病ですかコノヤロー。返事しろコノヤロー!」

「…………………………………」

「だめだ! 全然聞こえてねぇ!」

 

 ちょっと心配になって覗きこめば、混乱しているのか目はグルグルと落ち着きがない。まったく、どうしてこうなった。

 こっちは寝不足だってのに。

 取り敢えず、そこらの自販機でキンキンに冷えた缶ジュースを買って呆けたまんまのライダーの額に引っ付ける。

 

「びゃぁっっ!!」

「んだよ、その驚き方は? これで、ちったぁ湯だった頭も冷えたか?」

「い、いきなり何をする!」

「うっせぇ、それでも飲んでろ」

 

 冷たいものを飲めば多少落ち着くだろう。

 それに、どうせ()()引き離すのが目的だろうからな。ここに俺が連れ出された時点でもう目的は達成したと言ってもいいはずだ。

 考えたのは―――まあ、ランサーだろうな。今を逃す筈はないだろう。ま、思惑は失敗するだろうが。

 二人で何やら話合っていたようだが、何を離そうと無駄だ。引き離したところで意味は無い。彼女の千里眼がどれだけ優秀だろうと、意味が無い。ないものは探しようがなかろうに。人質は確かに取っている。俺の家には地下牢もある。

 だが、どうして―――人質は拘束されている、と思うのか。()()()()()()()()()()()とは考えなかった時点で、お前の負けよな。

 

「……なんだ、そのあくどい笑い声は? 魔王でも始めたか?」

 

 どうやら笑いが漏れてしまったらしい。圧倒的な上位者を出し抜いたときの爽快感ってすごいよな。

 もっとも出し抜き返される可能性もあるのだが。

 

「まさか。魔王というならお前の方が似合っているだろうに」

「ほう? 余の真名でも判ったか?」

「それこそまさか。絞り込みはしたが、どれも男ばかり。まさかエリザベス、ってわけじゃねぇんだろう?」

「ハハハ、然り。余は史実として女としては記載されておらんのう?」

「――――テメェ、記憶、戻ったのかい」

「余が記憶を取り戻す前に真名を暴き優位に立とうとでも思っていたか? だとしたら一歩遅かったな。余は真名を思い出せた」

「へぇ、ソイツはよかったなー」

 

 正直、現時点においてライダーが何処の英霊だとかは大して興味ない。

 ライダーと軽口を叩きながらそこらの喫茶店に入る。外は夏真っ盛り過ぎて死ねる。

 室内の方が百倍良いってもんである。

 案内役に窓際、四人がけの所に案内され座る。

 

 だらだらとかいた汗がクーラーで冷やされ心地よい。同時に体に服がへばりつく不快感もセットされるが数分もたてば気にしなくなるだろう。

 

「余はコレを頼むぞ!」

「これって……なに、ショートケーキ?」

「デザートを全部頼むぞ!」

「腹壊しても知らないぞ?」

「余はサーヴァントだぞ? 腹を壊すはずがあるまい」

「……太るぞ?」

「女にそんな言葉をかけるヤツはモテんぞ? あと余は太ることとは縁がないのだった」

 

 ふふんと胸を張るライダー。そんなことで胸を張られても困るのだが。

 店員を備え付けの呼び鈴で呼び出して注文する。

 その際の奇妙なものを見るかのような目が俺に向けられ、ちょっと心にダメージ。頼んだのは、目の前の女なのだが……ひょっとして勘違いされたのだろうか?

 流石に喰わないよ、そんな量。普通喰える量じゃないからね。

 

「頼むっちゃ、頼んだが……全部食えるのかよ?」

「食べれるに決まっておるわ! 甘い物は別腹!」

「それが通用するのは乙女だけ―――」

「あ゛?」

「いやなんでも……つか、テメェ……金持ってきたのか?」

「持ってくるわけなかろう? 金塊ならあるがな」

「はぁ……」

 

 俺のサイフが寒くなることが決定した。どうしてうちのクソメイド、ナツキはこんなヤツを召喚したのだか。

 

 あのバーサーカー戦。一応と思って『折紙』を使って見張っていたが……とてもじゃないが、並の英霊とは呼べない。その神秘の濃さから、神代系かと考えもするくらいだが……神霊ではなく英霊。

 あのバーサーカーを吹っ飛ばす筋力、アーチャーとすら撃ち合えるほどの技量。並の魔術師程度の魔力はあるナツキを昏倒させるほどの宝具。しかもそれはきっとオマケのもの。この女の宝具はそんなちゃちいものではない―――何せ、彼女のクラスは騎乗兵(ライダー)。なら宝具はそれに殉じているはず、なのだから。

 アーチャーなのに弓使わないとか、ランサーのくせに槍使わないとか、バーサーカーのくせに狂ってないとか……クラスって何だっけ?

 

 ふんふんと上機嫌で鼻歌を歌いながら、デザートを待つ目の前の女が世界に知られる英雄とは思えない。

 ふと、気がついたが、コイツはどんな用件で俺を連れ出すつもりだったのだろうか。

 アイツが俺を家から遠ざけようとするのはむしろ当然と言えるのだが……しかし、それならそれで、用件の一つでもでっち上げるものである。

 

「お前、俺に何か用事があったんじゃなかったのか? わざわざ昼に外出を頼むくらいの」

「……そう言えば、ランサーから聞いたがキャスターが討たれたらしいな」

「ああ。そうだ。昨日のお前達の戦っているころにな。……今日、お前達に討って貰う予定だったんだが、大きく狂っちまった。一体何処の誰何だか」

「どうやって、それを知ったのだ?」

「使い真でチョちょいと探りを入れたんだが……、マスター、と思われる青年がまるで食い殺されたかと思うほどの無残さで死んでいた。誰かの用意したレプリカかとも疑ったんだが―――正真正銘キャスターのマスターだった。令呪が喪失するところを確認したからな」

 

 霊基板の反応が消えたから、何があったのか探らせたが正しいけど。

 しかし―――誰に殺されたかが判っていない。

 最初はキャスターが霊基板の仕組みに気づいて介入してきたかと思ったのだが……、その線がない、と判ってしまった。ということは誰かに殺された、というわけだが……それが誰か判らない。ジジイの仕業を疑ったが、ジジイのサーヴァントはアーチャーだ。それは断言出来る。

 キャスターがマスターを売って鞍替えした、という線もなきにあらずだが、可能性は低い。キャスターは陣地作成のため、山に籠もって神殿造りにいそしんでいたようだった。戦う気はあったと言うことだ。

 

「……今夜、仕掛けるのか?」

「当然だな。アサシンはすぐに仕留められる。次いでアーチャーを叩き潰す。ランサーならやれるだろうよ。お前達には―――」

「バーサーカーを仕留めろ、か?」

「ああ。別にいやなら構わないが―――立夏君は頼まなくても行くだろう。それで晴れて――同盟も解散だ」

 

 そこまで行ったところでライダーが口を挟んだ。

 

「アサシンはすぐに仕留められるといったな。それは何らかの確信あってのものだろう? まさか―――人質でもとったか?」

「……………」

 

 随分と鋭利な切り込みだ。危うく、心臓が一人でに止まるかとも思った。

 嘘を許さぬという朱い瞳が、その奥に映る俺を血染めに染めている。

 

「ああ、肯定だよライダー。俺は、人質を取っている」

「なぜだ。ランサーなら、戦力には申し分あるまい。わざわざ人質を使用するなど……!」

「アイツを怒らせるだけだって?」

「……そうだ。このままでは―――仲違いを生むだけだぞ。それが判らぬお前ではあるまい。そもそも、お前は、あやつを嫌っているわけでは――」

 

 ライダーは優しい。それは甘えでもない、ただ純粋にこちらを慮っているだけだ。

 ランサーは善性だ。こぼれ落ちる命があるとは知っているが……それを良しとしない女だろう。それが目の前にあって、手が届くなら、救えるかも知れないと思ったなら必ず手を伸ばすだろう。

 だが、それがどうした。

 

「悪いがよ……俺は魔術師(ひとでなし)だぜ。何で魔術師である俺が、兵器を気に掛けなきゃならないんだ?」

「――――本気で言っておるのか?」

「なら冗談か?」

 

 肝が冷える。心臓を握りしめられたかと思うような圧迫感。異様な重さをもった問いかけだった。さすが、英霊とニヒルに笑えれば格好がつくのだが。

 

「なら、何故余には、こうも……!」

「誰にだってこうするさ。お前が特別だったわけじゃない。誘われりゃ、敵陣所だろうが、汚染地域だろうが、殺意たっぷりのジャングルだとしても出向いてやるのさ」

 

 そう、特別なんかではない。

 頼まれれば、何だってやる。聞き届けるかどうかって言う選別はあるが基本誰の頼みだって聞く。

 

「余は、お前を、見損なったぞ」

「……………、見損なえよ。笑われるよか、増しだ」

 

 “見損なった”

 その言葉を聞いた時、ほんの少し揺れるものがあったような気がするが無視した。

 

 空気を読まず配膳しに来た店員に感謝しつつ、机の上に乗せられた膨大な量を見て呆れる。

 

「そら、小難しい言い合いはやめだ。そんな顔じゃ飯がまずくなっていけねぇよ」

 

 




日常と言えば、ほっこりするーーーと思ったら大間違いだ!回。
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