月が落ちてきそうな夜。
深夜を迎えたヒビノ邸には、ちょっとした騒動が起きていた。
突然、門が吹き飛び、土煙を裂くように二人の男が侵入してきた。
一人はアサシンのサーバントを連れた男、土御門晴之。
猛一人は、サーヴァント・アサシン、ハン・ジュバット。
大きな音を聞いて駆けつけたカルデアのマスターにして、今回のセイバーのマスターこと藤丸立夏が顕れ、当然見合うことになる。
立夏からすれば初めて目にする人物ではあったが──
普段冷静なセイバーが、懐かしそうにその姿を見ていることから、そのサーヴァントが何者であるか把握した。
「───久しぶり、と言うべきかな。戦士ジェバ。」
「───トゥア。まだ犬根性が抜けてなさそうだな。」
「残念だけど、これが僕だ」
「死んだらバカは治るって聞いたんだが、ありゃ嘘だな。治ってたら英霊なんてするはずがないか。いつもの大間抜けなトゥアで安心だ。」
「どの口が。 それを言うなら君だってバカが治ってないじゃないか。君こそどうしたんだい? あの男───火々乃晃平の口車に乗せられるなんて。君らしくない。ああいうヤツは気に入らなかったんじゃないか?」
ぴりぴりと、場が緊張で凍っていく。
セイバーは、静かなに怒気を見せている。アサシンはその怒気を涼しげな顔で躱している。
かつてを共にした二人だからこそのやり取り。
「なに。簡単な話さ、トゥア。気に入らなくとも、同じ利益を得るから手を組んだ。」
「それがおかしいって言ってるんだ。君は気に入らない人にかしずくほど潔癖じゃない。」
「ははは! オレはアイツにかしずいた覚えなんてないね。オレのマスターは、土御門晴之その人だ。あの男を気に入らないのは事実だが、マスターにとってここに来ることは大きな意味があるのさ」
アサシンがちらりと己のマスターへ目線を向ける。
「おや、もういいのかい?」
「話なら後でいくらでもできるさ。……風向きが悪い。さっさと用件を済ませたほうが良さそうだ」
「では。………藤丸立夏君は───ほう」
土御門の目と立夏の目が合う。
「……外見に似合わず苦労しているね、君は。だがいい。ヒビノが気に入るわけだ。……さてそれはとかく。本題に入ろうか。
こちら、アサシン陣営はそちらと、セイバー、ライダー陣営と同盟を組みたいと思っている。」
「なっ───!」
「……それは何故だ。どう言う理由でこちらと組みたいと?」
驚く立夏を置いたまま、セイバーは話を進める。これもまたあの男が関わっているのではないかと、危惧した上だ。
「この町で起きている聖杯戦争は火々乃家が起こしたものではない。ならば、誰が起こしたのか……それは、君たちがよく知っている存在らしいな。何度もこの手のものを解決してきたと彼から聞いた。」
「火々乃さんから……?」
「特異点、その他もろもろ、現状、一体何が起こっているのか、ある程度聞いてきた。その上で協力したいとこちらは思っている。」
「それは、彼の指示で?」
「いや、これは私の意志だ。彼がこちらに要求したのは、君、藤丸立夏をここに夜が明けるまで押しとどめておくだけだ。……出来れば、平和的な手段で、ということさ」
火々乃は、土御門に対し藤丸立夏を火々乃邸に押しとどめておくことを強要した。そこになんの意味があるのかは土御門には分からない。つぶし合って貰うのが目的とは考えにくいし、そうすると発生する利益があまりにもない。
それに、彼の精神性を信じるならば、きっと藤丸立夏を追い込みたいわけではないと分かる。
きっと彼は。
その上で、自分が火々乃と躱した契約を復行し、お互いに不利にならない提案をしたのだ。
「もしかすれば……この行動すらアイツの思い通りかもしれん。だが……俺にはもう、叶えたい願いは無い」
「……どうする、マスター。彼はああ言っているが、こっちにとっては“今夜動かないことを条件に同盟を組んでやる”と言われているのと大差ない。……どんな決断でも、僕は君の判断に従う」
「それは……」
立夏は正直、うなずきたかったが……余りにも火々乃の背景が見えてこないことがその行動を止めていた。
彼は、一体誰の味方なのだろう。何のために自分の足止めをさせているのか。
そんな疑問が意識せずとも、口から漏れていた。
「ん? 彼が君に来て欲しくない理由? ああ、たしか彼が“今から俺はスカサハとランデブー決め込むから邪魔するな”とか言ってたぞ。察してやれ。彼も男なんだ。」
「……何を察せと」
「そりゃあ……」
セイバーの問いにアサシンが答え掛けた所で。
庭先から、暴風のような強烈な恣意が飛んできた。
「───同盟の件。余は了承した」
ライダーと、そのマスターであるナツキが現れたのだ。
いつものふざけた様子はなりを潜め、睨むようにしながら立夏達の前へ歩いてきた。
「リツカ。そなたがここにいなくてはならない理由は、ヤツのことだ。“邪魔するな”という理由だけではない」
怒りとも取れる冷たい眼光。冷酷という概念をこれでもかと押し出すような目をしている。
「コーヘイは決して、そなたに罠にはめようなどと思ってはおらぬ。あの男にあるのは契約の復行であり、自分の信念にしか忠を尽さぬ男だ」
「……君が、そこまで言い切るとは。彼に絆されたのかい?」
「そこまで敵視するほどの男ではないと悟ったまでよ。アレの性根は悪魔にすら似てすらいるが、そのぶん誠実だ。他人の理解を必要としないからこそ異質に見えるだけ。……他人を信じ切れぬ純粋さが彼奴を怪物にしておるだけだ。
──故に、アレは怪物ではあるが、敵ではない。ただの人でなしだ。そう在るべきだから、そう振る舞っている。自分の未来を押し殺して」
そうライダーは捉えていた。
彼女は自室で、マスターと語らったとき、ナツキのからみた男の姿を聞いた。どんな風に出会って、今のような関係になったのかと。
「余は、マスターの目を信じるだけだ。かつてナツキを救った男を。多くの人間に向き合って生きてきたあの男の生涯を、信じる」
そう彼女は言い切った。
“魔術師ってのは人でなし”と彼はいつもそう嘯くとナツキは言っていた。笑って言っているのに、おちゃらけているのに。どこか寂しそうに彼は言っていたのだという。
結局は彼女の見間違いかもしれない。されど、その目は正しいとライダーは言った。
「今夜、コーヘイが決着を付けるつもりならば。あの男が敵視した存在もまた決着を付けたがっているということだろう。
そら、構える時だセイバー」
ライダーはそう言って、空の一点を睨む。白い半月が青く彩られていく。
「───っ」
最初にその異変に感づいたのはアサシンだった。遅れてセイバーが、己がマスターをかばうようにシテ立つ。
地上に揃った三騎はそろって天を見上げて、いや睨んでいた。
「ほうほう。オレに気づくとはなかなかだ。いやはや、キャスターのような不出来なサーヴァントでなくて何より。これは嬲りがいが在りそうだ」
もはや隠す気は無くなったか、空からにじみ出るように顕れ、瓦屋根に降り立つ。
「……うそ、だろ?」
その存在を目にして、言葉を真っ先に漏らしたのは───藤丸立夏だった。
なぜなら、その容姿を知っている。何度も目にしたことが彼にはあった。
曰く、彼女を言い表せば騎士王意外になく。
その病的とさえ思える白い肌に、金色の瞳、しかして非常な顔は。
立夏はその名を口にする。してしまう。
それが、あまりにも知っている誰かと大きくかけ離れた悪意を持ち合わせていたとしても。
それが、まるで中身だけが他のそれと入れ替わったのだと言われた方が納得でいるような歪さを持っていたとしても。
「アーサー、王……!」
黒き鎧はそのままに。顔も体も間違えようがない。髪を結っていない程度の違いくらいしかない。
しかし、顔に浮かんでいるのは邪悪な笑み。
他人を嗤う、残酷で昏い愉悦に満ちた、悪性に満ちた存在だった。
「くくく……」
───嗤った。
「かかか──ふ、ハハッハハッハッハハ!!」
藤丸立夏がこぼしたその言葉に悪意を嘲笑で矛に加工して、愚かしいと馬鹿にするようぬ嗤う。哄笑が夜屋に響く。
「──オレが、アーサー王だと? 一度の不敬は、思わぬオレの愉悦となった故見逃そう。だが二度はないぞ、雑夫ッ……!」
彼女から憎悪を込めたにらみが飛んでくる。
“そんなものと一緒にされるとはは不愉快極まる”と告げていた。
彼女はちらりと見回し、まるで人を探すような仕草をしたあと。
「……どうやらヤツの読み通りか。ここにヒビノコウヘイはいない。完全に騙されたようだ。ふふ、面白くなってきた。こうでなくてはつまらん、お前もそう思わないかマスター?」
「──さっきから君は誰を探している。俺の愉しみは地上にはない」
「くく……お前も罪な男だな?
「……アヴェンジャー。戯言はそこまでにしておけ」
ぬるりと虚空から出てきた、赤い髪をした日本人系の男。それが、騎士王に似た容姿を持つサーヴァントのマスターだと会話から分かる。
死んだ魚のような、生気を感じさせない瞳。そのなかにはアヴェンジャーと呼ばれたサーヴァントにもおとらない狂気があるように立夏は感じた。
「アヴェンジャー、だと?」
ライダーは、アヴェンジャーという存在の名を確かめる。聞き覚えのないクラス名。
七騎までという聖杯戦争のルール外の存在を改めて確かめたのだ。
「いかにも。今回の聖杯戦争においてアヴェンジャーとして召喚に応じた」
ライダーの呟きをアヴェンジャーは肯定する。
「今夜は様子見、あの男がいれば報告というテイだったが──やり合うかね? 喧嘩は売られれば買うが? しかし、今のオレは加減が難しくてね───戦いにすらならんやもしれん」
「………濃い、竜の匂い。貴様、それに準ずるものだな?」
「はて、どうだったかな? ───試してみるのも一興だぞライダー?」
粘つく声がライダーを揺さぶる。濃厚な悪意を滲ませて、“今の自分とここで叩けば、町どころかマスターすら潰すことになるがな”と暗に言っていた。
傲慢。王気を纏い、他人を見下す悪意。
多くの人間が、それの前で膝のついたのだろう。
───しかし、運が悪い。
いつもの彼女なら“用が済んだのならば、さっさと失せよ。トカゲは我が友一人だけで十分だ”と返し見逃すところだが、今日の彼女は別だ。
己が真名をマスターに明かし、不明がなく。記憶が完全に戻った今。
ライダーは、目の前の何の情報も無い相手であるアヴェンジャーに“余の力を誇示する相手にはほどよい”という感想を抱く。というか抱いてしまった。
適度に邪魔な壁と認識してしまった。
ナツキは気づいていた。というか、彼女の本心は、ライダーの人となりを把握すれば簡単にわかることではあるが。
ライダーは、どういうわけか火々乃という男をいたく気に入っている。しかも男として。“いや、ほんとうにアレの何処に惚れる要素があるんだろうか”とナツキとて思っているのだが。しかも本人はどうもあれで隠しているつもりだったらしい。が、あそこまで露骨であれば、よほどの朴念仁でなければ気づくものである。
では、その気に入られた男は今どこで何をしているのか。
──他の女とランデブー中である。
さっきから、ナツキの隣から、つまりはライダーから小刻みに足をならす音が絶えない。要はかなりいらいらしている。虫の居所が非常に悪い。
正直、さっさと飛び出して不明を火々乃から聞きたいとライダーは思っている。しかして、目の前にはたかが魔竜の力を持っている程度で己を強いと誤認しているヤツに時間を使わされている。
ぶち切れ案件である。というか、黒幕の一味っぽいし。
「──ツチミカドといったな」
「あ、ああ……」
「貴様が頼まれたのは──藤丸立夏をここに押しとどめておく、それだけだな」
「おい、まさかお前……!」
「ほお……」
凄まじい闘気がライダーから吹き荒れる。魔力は無駄なく充填され。今にも爆発しそうなほど煮えたぎっている。
「なら、私には何の制限もないわね? 私が追いかけても───あの人に怒られなくてすむのね。ふふ。おい、そこらのサーヴァント共マスターを守っておけよ」
それは黒い冷笑だった。見るモノの心を凍てつかせるそれだった。
「……ナツキ。そなたのサーヴァントは、至高にして、最強。余はそういったな」
「はい……!」
「その真価、知りたくはないか?」
たぶん、ここでイイエと言っても止まらないんだろうなぁ、とナツキは軽く死んだ目で解答した。ヒビノ邸ってあんま広くないに、とか、半壊程度で終わるんだろうか、とか。
しかし、これも全部悪いのは当主ってヤツなんだ、とナツキは思考を停止した。
「知りたいです……! やっちゃってください、ライダー!」
「───というわけで、チビトカゲ……お前は此処で死ぬ、というか死ね──!」
そう言ってライダーは赤い剣を構える。
たかが凡百の英雄と、アヴェンジャーは鼻で笑う。
自分に勝てる存在などいないと嗤ってみせる。それだけの強さは確かにアヴェンジャーはあった。
しかし、知らぬ。
目の前にいるそれは史実で“RTAしてんの?”としばしば歴史評論家からコメントされるほど、はやく、鋭く、容赦が無い英雄であり。幼少の時点で神族をボコってダイナミック喝上げをしやがった張本人である。
「ふん。ここで死ぬのはお───」
“ここで死ぬのはお前だ”そうアヴェンジャーが言いかけた時。
「え゛」
「なんじゃありゃ……」
マスター共々、驚愕した。
──最初は、火柱か何かと思った。
剣から噴き出た光は、周囲にとんでもない熱を吐き出しならが天に昇っていく。
ライダーの足下は、その熱に耐えきれず焦げるどころか融解し、ガラス状になっていく。
「──我が偉業、その証。これこそは空を開闢し、地を灼き尽くす。世界の半分を支配したこの私の偉業、貴様程度に超えられるか──!!」
“ちょっとまて、完全やり過ぎだろコレ!?”と土御門が言っている。
“うぁー、すごーい。神秘の秘匿ってなんだけ?”と全て悟った上で思考を放棄した藤丸立夏。
地上を火で覆った彼女だからこそ開帳できる有一無二の神造宝具。
その宝具の名は、彼女の生涯を奇妙な形ではあるが再現している。
「『
その日、多くの緑で満ちていた山が一夜にして、半分はげ山と化した。
夥しい、噴火口から流れ出すマグマのように。辺り一体を飲み込んで蒸発させていく。
その光が吹き荒れた後には、文字通り何も残らなかった。
「やば。やり過ぎちゃった」
そう漏らした彼女の声をナツキは気かなかったことにした。消えたの山だけだし。
途中からギャグっぽくなってしまった...反省はしている。
一瞬で剥げた山。ヒビノ君は生き残っても事後処理で死ねます。そこらへん考えていないライダーちゃんなのでした。
「100万回死んだアナタ」
「ホントに笑えないんじゃが...」
「私が笑ってあげますよ」
「俺が笑えない件」