──自慢じゃないがね、オレの領地って結構豊かだったんだ。
豊かな自然、肥沃な土地。
小さな島にしては中々の好条件だった。オレのご先祖様は、どうしてこんな島に入植したのかと思ったものだが、何、悪いところじゃない。穀物どころか豊かな海産資源が山ほど、鯨狩りが出来れば宴でどんちゃん騒ぎ。
無辜というほどおとなしい奴等じゃなかったが、五月蠅いだけで悪い奴等ではなかった。魔猪も出たし、海の魔物も出てきたが──殺せばただの肉塊、食料だ。
オレも狩人に混ざって取りに行ったり、宴に忍び込んで楽しんだりとまあ、快適ではなかったが、今思えば楽しい暮らしだった。
だが、その時代における常だが平穏とは行かなかった。
北から海を渡ってくる蛮族。南から凍った海を渡ってくる
まあ、何が言いたいかって言えば……オレたちは強くなきゃ生きていけなかったんだ。その矢先に“アレ”が落ちてきた。
──お前には迷惑を掛ける。お前が、これより背負うのは……“災厄”にほかならない。
彼の聖剣がなぜ生まれたのか。何に星が恐怖したのかを。
──恐怖の源泉は“王”が
***
──微睡みから意識を浮上させる。
時間を確認すれば、女を縛ってから40分程度立っていた。手からは、呼んでいた本が座っていた椅子の下に滑り落ちていた。どうやら呼んでいる途中に眠くなったらしい。
……それでうたた寝とか子供かよ。欠けた夢を見ていた気がする……が気にしたくない。俺の高度な直感が気にしたら面倒を乗数が如く膨れあがると囁いている。気にしない方向でいこう(決断)。
ふと、自分の体の調子を調べつつ──荒縄で体を緊縛されてしまった美女を見る。やっぱ素材がいいせいか、一種の芸術性すら感じる仕上がりである。俺は天才だった……?
伊達に裏の業界で“縄師”と呼称されていない。
ねっとりと嬲るように
一瞬で脳裏に『死』という1文字が思いつく。苛立ちに眉を歪め、顔から『説明しろ』とメッセージが伝わってくる。何故か見た事無いほど笑顔だった。さらに怖い。
「えっと……、ほらアレだ。お前死にかけてたじゃん。で、お前の体を即席の神殿を用意して回復させたってわけ」
「──私が、縛られている理由は?」
「あー、その、なんて言うかですね。俺が飲ませた神酒がなぁ……慣れてないと暴力的になるんだ。それのセーフティってわけだ。」
……あまり思い出したくない事だが、前に神酒をサーヴァントが勝手に掘り出して飲みあさりやがったことがあるのだ。あの夜は酷かった。主に性的面において。
要は、暴走列車と化しかねなかったので緊縛しただけです。後、俺の趣味です。神殿なんて部屋の壁に縄を引っ掛けて回るだけで十分出来るし、うん。
近寄って、女の体を縛っていた荒縄を外す。部屋中にばらまいた俺の魔力を吸い上げて、かなり性能は戻ったはずだ。召喚した当初くらいの性能ぐらいだろうか。
「気分はどうだ?」
「……最悪、と返したいが存外悪くない。いくらマスターを得たとはいえ、ここまで回復するとは思わなんだ」
その言葉に嘘はなく、彼女は感心した様に己の体を見ている。
倒れてしまうほどの状態……魔力によるブーストの入っていないオレにすら簡単に吹っ飛ばされる様な状態だったが、ここに万全になって帰ってきた。これなら俺のサーヴァントとしても申し分ない。
さて、そろそろ切り込み時か。
からからと、さきほど(30分以上前)食べ終わって残った食器を揺らし、音を鳴らして彼女の注意を引いてから言葉をかけた。
「──初めまして、あるいはお久しぶり。以前君のマスターだった彼の
「今……? そうだったな……あの男は未来からお前に憑依したんだったか」
「あー、なるほど。本人から説明済みってことでいいのか。俺は火々乃晃平であり、未来的には──“怪物”に成り果てる人間だとお前は知っているんだな?」
「ああ、知っているとも。」
では、いろいろ現状について教えてもらうとしよう。
未来から記録は引き継いだが……肝心の目の前のサーヴァントの名前が思い出せない。
「……まず、君の名前から教えてくれ。」
***
──一通り、スカサハから状況は聞いた。
どうにも、芳しくない。
未来の俺から記録を貰った……、つまりはアミーから逃避したところまでは順当に残っている。が、そこからが不明だったのでいろいろランサーに説明して貰った。
未来の俺が消え後、俺の心臓は止まっていたらしく──というか端的に言って死んでいたらしい。っておい。まあ、出血多量だったしな。
が、俺のポケットからルーン石が出てきたらしく、運良く蘇生がうまく行ったらしい。なんとなく持って行ったものが役に立ったようだ。
その後、俺の使い魔である猫が現れこの家に導いてくれたらしい。それは“未来の俺の計画”には入っていなかった。俺が一度死んだ以上、俺の使い魔全てとラインが切れたはずだが。
にも関わらず、俺を迎えにきたと在れば、今までの評価を変えざるを得ない。クソ猫などと罵倒して悪かったと謝りたい。
だが、悲しいことに今俺の使い魔である猫は……
「ふふふ。なんだ、飼い主と違ってこっちは素直だな……ふっ、ここがいいのか?」
絶賛なでられ中である。ご機嫌ならしくゴロゴロと喉をならして幸せそうである。しかし、主人になでられるよりご機嫌そうに見えるのは俺の目の錯覚だろうか。やっぱ時代は美女の手でなでられることなのだろうか。ん? おかしくはないな。うん。 しかし何故か俺は敗北感を感じていた。
……で、俺の身体をここに置いて心臓が動き魂も失っている様子がないことから彼女はここで俺の回復を待ったというわけだ。
なんか、一時のノリで攻撃してすみませんでした。ほんと反省します。ほらいきなり槍突きつけられたから反射敵にやっちゃっただけで……俺悪くないのでは?(自己弁護)
時刻、現在午後2時にさしかかろうとしている。
魔術師は神秘の隠匿やらなんやらで基本夜にしか大胆な行動はしない。精々昼間なんて使い魔をとばすくらいである。
今は昼のど真ん中。打って出ようにも、俺には方針が立てられないでいた。
アミーとは火々乃の性になってから会ったはずだから、恐らくこの家のことは知らないと思われる。隠れ家としては最適だ。本命の工房は空間移動式なため、今はここの地下に用意してある。
夏だからか、日の入りは遅いし……暇が目に見えていた。
この時間をはたしてどう使用したものか。
聖杯は、サーヴァントを呼ぶための代物。サーヴァントは“影の月”の投影品を降臨させるための素材でアリ、骨子。少なくとも五体は欲しいところだろうが……。サーヴァントは七機だけ。
倒すべき悪は見つかったが、それはそれとして現状は聖杯戦争と変わらない。
……ちらりとスカサハの様子を確かめれば、猫遊びが深刻化していた。猫をルーンで浮かせてくるくる回していたりする。なんか悦んでるけどやめなさい。
「なあ、スカサハ。お前って本当に聖杯に叶えたい願いないの?」
「ない」
唐突に聞いたはずなのに、間髪入れずに返された。赤い瞳と視線が混じる。
「……聖杯はあくまでお前達を呼びつけるそれとして使用されているようだ。何かしらの汚染があるわけでもない。──どんな願いだって叶えられる。」
「くどい。そこまで私の言う事が信じられないか?」
「信じたい。だから、改めて問うている。お前に願いはないのかとな。これは確認だよ、スカサハ」
「………………」
少し、考えるような仕草をして黙っていたが、やはり彼女の出した結論は変わらなかった。
「ないな。聖杯で叶えて貰うようなものは。私にとって『死』は憧れだが、今欲しいものでもないさ。」
彼女は目を細め、なにか遠いものでも呼び起こすようにしながら、そう言った。その言葉には千秋の思いがこもっているのだろう。それだけは信じられそうだ。
彼女が、嘘をついてその言葉を吐いたわけではない。
しかし、その言葉とは別に。その女が、
──今にも泣きそうな少女のようにも見えた。
脳裏に浮かんだ奇妙な情景を脳の奥底に溶かして消す。余計なものを思い浮かべてしまった。
「……わかった。俺はお前の言葉を信じることにする。」
「………………? へんなものでも食べたか?」
あっさりとランサーの言葉を飲み込んだせいか、疑われてしまった。へんなものなら食べた。お前が造った飯をな。……ヒジョウニオイシカッタデス。
「今の状況からして、お前を疑う余裕がオレにはない。つまり、お前を手放す理由が俺から消え失せたということだ。」
「──ほほう。それで?」
……このやろう。わざととぼけてやがる。
口端が面白いものを見たとばかりにつり上がっている。完全にこちらをからかう気である。
「お前は今、俺のサーヴァントだ。形式上な。だが、お前に願いがないというのなら。俺のサーヴァントである気が無いというのなら、解放しよう。クソ猫!」
猫に言いつけて、その小さな体から術具を出させる。契約を適切に切る用意をスカサハに見せるためだ。
「今の俺など、魔力量で言えばそこら凡百の魔術師と同程度だ。オマケに性格も悪い。」
「自覚していたのか……」
なんで驚いてんだよ! お前より俺の方が三千倍あくどいんだ、舐めんな!
と言ってやりたいが自重しスルーする。
「何よりも、俺はお前にメリットを用意してやれない。」
くたばらない程度の魔力は送ってやれるが、それだけだ。他のヤツと再契約すれば令呪が新しく出来るだろうが、元から彼女のマスターであった俺には令呪の再配布がない。強力なブーストをかけることすら叶わないのだ。 以上から、改めて俺と組む意味のなさがわかるだろう。
「確かに私にメリットはなさそうだ。しかし、ふむ。ならば、なおさらお前は勘違いしているな。」
「勘違い?」
勘違い……特に思い当たるモノはない。俺は事実を挙げただけなのだから。
「私にとって、誰がマスターであるかどうかなど考慮する問題ではない。誰がマスターでも、誰が敵であろうと勝てるだろうからな。
先程からお前は、私に選択肢があるように言っている。それが勘違いだ。」
……彼女が言わんとすることが分かった。
つまりこの女にとって、マスターというのは確かな差は無い。というか、問題が彼女にあるのではない。
俺が、スカサハを必要としているというのが問題なのだ。手放す理由が消えた、と俺は表明しまったわけだし。必要だと言ってしまっているわけで。
……小っ恥ずかしいことを言ってしまったが、つまり彼女は『私に選ばせるのではなく、お前が私を欲しているのではないか。なら、お前は私を口説き落とす必要があるなぁ(にやにや)』と言いたいのだ。
「いやな。私とてお前の性能に不満があるわけではない。故に我が主として仰いでやるのもよい。だが、性能には不満がないが──性格、性根
……だろうな。
あれだけ塩対応され、
しかし、逆に言えば、スカサハは『お前に性根を直す気があるのなら……、とお前には無理なことか。“直す気”だけで主とヨンデヤルノニナー』と言っているのだ。
挑発染みたそれは、俺にとってはもはや宣戦布告である。
テレビ機器の配線すら上手く出来ない呼ばわりに等しい侮辱である。俺を完全に情けないヤツと見ているのがスカサハから伝わってきた。
『さて、お前はどうする』と彼女はこちらの一挙一動を観察するように見ている。
──上等だ。
腹の底から、怒りにも似た感情がふつふつと沸き上がってくる。どうしても目の前の女の鼻を明かしてやりたくなった。
ヤツが俺に問う資質は一つ。『素直』であることだろう。
だが、それは俺にとっては非情に難しい問題だ。向き合うことはできるが、今ここでどう言おうと解決できるもんだいではない。それはスカサハとて見抜いているだろう。
あの女が求めるものは『素直』につなげるためのワンクッション。つまりは──“嘘をつかないこと、裏切らないこと”だ。
スカサハに口にすべき事はわかったが、言葉にする上でさらに考慮しなくてはならない問題がある。
それは、現時点における俺の信用のなさ、である。それは、生半可な言葉では覆せない。覆せるとしたら、一世一代の告白レベルの宣言が必要になるだろう。なるほど、口説き落とせとスカサハの言葉を解釈したのは俺自身だが、案外外れていなかったらしい。
宣言か……となればインパクトも欲しい。今彼女の頭の中には俺が言葉をふるっている姿を予想しているのだろうが──俺は、予想の上を行きたい。スカサハでも知っていて、俺が言い出しそうにない言葉ならばさらによい。
──あるじゃないか。
思いついたそれは、今後の人生すら大きく揺らしそうなソレではあるが、四の五は言ってられない。俺は、彼女が欲しいのだから。
「───
彼女から視線を離さず宣言する。彼女が、静止が入る可能性も考えられたため、いつもより声量も速度もましましである。
スカサハは驚きに目を開いて、しかし、俺からは目をそらさない。
ケルト神話の英雄に課せられる「○○してはならない」という形式の制約であり、義務にして誓いである。生まれつき定められているものもあれば、自ら誓いを立てたり、他人から与えられる場合もあり、一人につき一つから複数まで課されることもある。
ゲッシュを厳守すれば神の恩寵を受けられるが、ひとたび破れば破滅がその身に降りかかると言われ、実際、ケルトの英雄の死因の大半は「ゲッシュに対する違反(それにより降りかかる事故や不運)」が占めていたりする。もはや呪いとも言える。
体に呪いに対する耐性自体は持っているが……ゲッシュを破った場合、恐らくだが俺の耐性を貫通してくるだろう。
ほどなくして、スカサハが口を開いた。
「──正気か、お主?」
「正気でこんな言葉をいうものか!
驚愕と、少しの困惑がない交ぜに成って、しばらく考え込むように沈黙した後。
彼女は唐突に笑いだした。
「く、くははは、はっはっはっはっはっは!!! ……本当に度しがたい、たわけた阿呆よな。ワシ相手にゲッシュを魔術師風情が立てるとはな。 ──女神として確かに名を残した私が、お前の誓約を聞き届けないとあらば、ケルト、アルスターそのものの誇りに傷を付けることになる。……なるほど、お前が誓約を立てた以上、ワシはお主に手を貸さねばならなくなったわけだ。呆れた計算高さよ。」
正直、ちょっとやっちゃたなーと思わないでもない。だって、この
というか、自分を切り売りし過ぎているような気がしている。自分の大安売りにも程がある。
というか、最後の一説は完全にやり過ぎた。ヤツの趣味を刺激すればイヤな顔はすまいと思ったが故だが……これは吉と出るだろうか。いや、出てください! お願いします!
「ワシと誓約をかわすのはいいが……お主、誓約を護る気があるのか?」
「舐めんな。俺は生まれてこの方約束だけは一度も破ってない。」
これは俺が誇れる事実である。幼少からかわした約束、それこそ指切りげんまんや、口約束すら破ったことはない。約束していれば、インフルで倒れようと友達の家に行ったものである。
「……嘘は言っていないか。 ──認めるぞ、マスター。お前は今日より、我が主殿としてふるまうがいい。契約の証だ、主に我が槍を預けよう。──ただし、お主はワシを口説き落としたのだから、それ相応の
スカサハの瞳が愉悦を孕んだものに変化する。無表情よりマシだが、それはいかんせんどうだろう。なんというか、激しくよく知る魔王臭がする。今思えば俺のサーヴァント行為言う奴等ばっかじゃね?
「ああ。君の信頼に応えよう。」
「ふっ、言ったな?」
──しかし、その時の俺は気づけなかった。
その時初めてみた笑顔は、人をいじくり落とすような……アルスターの歴戦の戦士ですら身震いするそれであったということを。
「──では、ワシが夕餉を作るまでお主は“腕立て伏せ1000回、腹筋1000回、背筋1000回を一周として繰り返せ”。ああ、最低でも三周はしないとしたと認めないからな。」
そういって彼女は空中で眠っていた猫を掴んでなで始めた。
……現在、午後三時とちょっと。夕餉を作るとして早ければ午後六時か、遅ければ午後八時くらいか。
なんということをしてくれやがったのでしょう、急いでやっても達成できるか分からない試練をやすやすと出しやがりましたわ、コイツ。
「私はお前に“試練”を下したぞ、ますたー? 約束は破ったことがないのであろう? そら、お主の示した覚悟をワシに見せてみろ」
「てっめぇっーー!! お、覚えてやがれ!!」
嘲笑をこめて言う辺り、徹底している。
まるで三下のような叫びを挙げながら、俺は急いで床に手をついて腕立て伏せをするはめになった。
仕方なかったとはいえ、
あれ...なんだかヒビノ君主人公してへん?(愉悦)