Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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いつも誤字が多くてすまない...すまない...


聖杯戦争:永い夜

 

 赤い魔槍は闇夜を裂き、龍の爪と激突し火花を散らす。

 しなやかな女の体は大きいだけの竜の腕をすり抜け本体に迫る。繰出された槍を交わしながら腕を叩きつけるように振り回す。

 

「ちっ! これだから女勇士は、本当に腹立たしい!!」

「褒め言葉として受取ろう。だが──お前ではものたりん、な!!」

 

 激しい戦闘音を森に響かせながら一進一退──否。怪物殺しになれた彼女が退くはずもなく、まともな武勇を保持していないアヴェンジャーが終始圧されるのも無理のない話だ。むしろよくここまで()()()()()()で済んでいる、といえるだろう。

 怪物に有利な補正をもつランサーが責めきれぬ故に生かされていた。

 

「まったくっ、しつこい!」

 

 ランサーにアヴェンジャーへ攻め手を許さないと周囲の影が飛びついてくるのだ。盛りのついた狗のように、息を荒立て襲いかかる影だが、スカサハの体に触れることもなく塵殺される。

 本来なら意にも返さない相手だが、しかして、何度も阻まれれば憤りを覚えるもの。なにぶん襲ってくるのは一体二体ではない、数十体の規模で襲いかかってくる。注意を向けすぎれば、アヴェンジャーの攻撃を許す羽目になる。かといって放置するわけにも行かない。

 何度一掃してももじゃもじゃと出て来るのだからたまらない。もはや台所に出てきた十分に時間を得たG並である。

 

 

 ランサーとアヴェンジャーが戦う一方で、彼らのマスターも戦っていた。

 

 闇を彩る銀の流線を交わし、切り捨て、黄剣を振りかぶる──火々乃晃平。

 銀の線を自在に編み上げ、斬りつけ、破壊しようとする──炎浄義之。

 

 だが、その攻防は殆ど一方的。火々乃晃平が徹底的に追い込まれていた。

 幾多の線で切り刻まれ、未だ闘志は揺らいでいないがこのままでは押し負けることも火々乃には予想できた。

 

「火々乃……この程度なのか? この程度の男に俺は負けたのか! 応えろよ、ヒビノォ!!」

「……いちいち、うっせぇな。さっきから、は、テンション高ぇんだよ。黙りやがれクソが」

 

 荒い呼吸のまま青眼の構えを向ける火々乃晃平。

 呼吸が乱れる様子のない炎浄義之。

 失望した様子で、無表情でそう嘲り笑う炎浄。

 

 ──強すぎる。

 

 火々乃は内心舌打ちをしながら、そう心で呟く。

 筋力、俊敏、技術。圧倒的に相手が上だった。

 そしてあの液状化したような、あるいは融けたゴムのような動きをする魔術礼装。魔眼で視るたびに、脳が軋むような感覚がおこるソレは、異常な製法で作られた呪具だろうと推測できる。そして、その本質的な能力は──強力な霊体を拘束、殺害できる呪具であることも火々乃には推測がついていた。

 

 スカサハから貰った剣で裂いても復活する。切っても切っても相手の礼装の容量は底知れずで息をする間もなく仕掛けてくる。遠、中、近、どれも隙が無い。

 そのうえ、呆れるほどに湧いてくる影の雑兵。

 殆どはランサー、スカサハのほうへ向うがうち何十体かは火々乃の死体のおこぼれに預かろうとしているのか、足をとめて観察する。

 そして隙が出来たら飛び込んでくる。火々乃が負った傷のほとんどは影の人狼だ。襲いかかってくる度に斬り殺しているが、首を飛ばしただけでは動きまわり再生、心臓をついても噛みつこうとし、振り払って再生。血液を媒介にして呪術による消し飛ばしを実行しようとするが──魔力の出力を挙げなければ機能しない。

 だが、木っ端微塵にすれば倒れるのは分かった。だが、かつてとは違い火々乃の魔力量は並々である。振り分ければ分けるほど火々乃は弱るのだ。

 

 だから、頭と腕、腰を纏めて切って肉だるまにすることを火々乃は選んだ。手間は多く減るが──炎浄は影を味方とは思っていないようで攻撃を仕掛ける度に獣ごと薙ぎ払ってきた。

 

 炎浄の攻撃の場合、一撃で火々乃の命を奪えるそれだ。

 礼装の力だけではない。それ以上に、単純なスペックの差がある。なぜなら──炎浄義之はサーヴァントの力をもっていたのだから。

 

「ハッ、……サーヴァントの力を十全に振るえるくせに、俺程度の人間を殺しきれないのはどうなんだ?」

「ふははは! ──確かに。逆に、ここまで耐えられたのはお前が実力者という証明なのかもな」

 

 炎浄には焦る様子は無く、余裕綽々といった様子である。

 

 状況は火々乃を不利にしている。

 だが、火々乃には勝利する採算があった。

 コーンウォールの蛇。正確にはそのまがいものだろうが、影の国の女王たるスカサハの敵ではない。さっさと『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』を撃って貰えれば、アヴェンジャーに防ぐ手段はないと確信した故だった。

 アヴェンジャーを撃ったならば、マスターである炎浄に二人がかりで攻められる。

 

 火々乃はランサーに魔力を送って宝具の発動を促す。

 

 火々乃の背後で大きく爆炎が上がる───スカサハがルーンを使用し、邪魔な影を一掃したからだ。

 ランサーは魔槍を構え、一気に魔力を送る。闇が広がる森は一瞬にして赤稲妻の光で塗りかえられる。

 

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』──!」

 

 「心臓に槍が命中した」という結果をつくってから「槍を放つ」という原因をもたらし、必殺必中の一撃を可能とする宝具。

 間にどれだけ強固な壁があろうと問題にはならない。

 

 ──この場にいる誰もがランサーの勝利を確信した。

 

 

 はずだった。

 

 

「──────」

 

 

 真紅の槍がスカサハの手から放たれようとする瞬間。

 その一瞬。

 

 誰もが、得体の知れない殺気に体を支配され硬直した。まるで時が凍り付いたかのようにすら感じ取れた。

 彼のスカサハですら明確に脳裏に死のイメージを抱く。体がズタズタに切り裂かれ、内蔵を完膚なきまでにごっそりと破壊され、細胞という細胞が沸騰し弾けるイメージを。

 

 その殺気に素速く対応できたのは一人だけ。

 その殺気を知るもの故に。

 最悪現実を予期していたモノ故に。

 

 誰よりも、その存在を知っているが故に。

 

 彼は、全力で叫んだ。

 

「後ろに飛べッランサーァァァァッッ!!」

 

 ランサーは魔槍が手から離れた瞬間に、驚異から離れようと後ろに飛ぼうとする。その刹那、彼女は視た。

 

 放った魔槍。もはや因果逆転の呪いが発動されたソレにむかって。

 

 誰もがゆっくりと動く中。その太陽を槍状に閉じ込めたものが空間をねじ切って凄まじい速度で迫り、()()()()()()()()()()

 因果もろとも消し飛ばす、その威力を彼女は視た。

 

 

 輝きは満ちる。激しい光の明滅が起こって、音はもはや聞こえない。

 余波で生まれた暴風と激しい閃光で、闇夜は昼間の太陽が目の前に現れたと思うほどの光に包まれた。

 

 

***

 

 

 閃光に包まれたあと、それを裂く小さな黒い点が凄まじい速度で大きくなって俺ごと吹っ飛ばした。

 

 体は激しくきりもみか回転し、その真っ黒いヤツを抱えたまま一緒に吹っ飛ばされる。

 

「────、、、……!」

 

 声を出しても聞こえない。無音は永く続き。辛うじて分かるのは、自分は引き摺り飛んでおり、背中がズタボロになっていることから地面は確かにあるということだった。この前にある黒いモノ以外、白い景色で包まれてい、

 

 

 ───っ!

 

 

 強い激痛を受けて、体は何処かに止まったように感じられた。

 

 

 ──目を瞑って、その時を待つ。

 

 しばらくして、音が少しずつ戻ってきた。

 

 見渡すと、目上には風呂敷を広げたような黒い葉? 焼けただれた箇所もある。黒い風呂敷は自分の背から伸びた茶色いモノと繋がっていて──巨木だと分かった。

 前を改めて見れば──何もない。焼け野原と化していた。あれだけ茂っていた森は消え去り満天の星空と、“黒い月”が見下ろしている。

 

 ──甘い匂いがする。

 何処かで嗅いだような。最近嗅いだことあるような。

 

 ぼう、と余り考えがまとまらない頭で認識を最新に書き換えていく。状況を確かめるために抱き留めた黒いモノをどけようとするが。

 これまた重い。しかし、どこか柔らかく、これもどこかで触れたことのある感触だ。どこかしっとりとして指に吸い付くような──とも思えば、滑らかな布地のようなさわり心地。あまりにさわり心地が良いので指が下限なく滑っていく。

 というか、さっきからする甘い匂いはこのくろいものから発生しているような気が吸える。顔に掛かる暗い色をした繊維らしきものをかき分けるようにして鼻を、突っ込みニオイを嗅ぐ。ふむ、間違いない。これから甘い匂いがする。

 では解答を急ぐ。これはなんだ。柔らかいそれを触診しながら考察する。

 

 

 ……正直、この時点でコレがなんなのか予想できた。だが、その解答はあまりにも恐ろしいモノ。直視する勇気が俺には生まれない。

 しかして、これから反応がないことを考えれば──もうすこし楽しんでもいいのでは?

 

「おい。」

 

 はい、やめます。堪能してすみませんでした。

 と、と謝ると罪を認めるようなものなのでまさぐるのはやめつつ。

 

「ああ、お前だったのか」

 

 といって、“全然傷つかなかったわぁ、マジで。知ってたらやらなかったしぃ、コレは不幸な事故だったんだぞ☆”感を出す。

 

「まったく、そうとなら声を出せランサー。あと重いんでどいてくれないか?」

「私の胸を揉みしだくのをやめれば、すぐにでもな」

「……………………、なんか、すみません」

「かまわん。おかげで意識がもどった故不問にしてやる。次はないからな。」

 

 ホント済みませんでした、と心で土下座をしつつ立ち上がる。あ、別にそっちのタつじゃないよ?

 

 ランサーはといえば、どうも戦闘服は焼けておじゃんになっているようだが外傷は少ない。まあ、俺が吹っ飛んで請け負ったせいとも言えるのだが。

 

 あの閃光と同時に吹っ飛んできたのはランサーだったようだ。てっきり、あの獣の肉片的なものだと思い込んでいた。

 

「……『盾』のルーンを使っていなければ、半身は奪われていた。私が神霊に近い存在であるのも影響しているのだろう。 ――お前は視たか?」

 

 そういうランサーは、辛そうな顔で立っている。世にも珍しいとすら感じる疲弊した顔。

 そんな彼女が何を視たか、と聞いてくる。

 何をと問われれば一つしかあるまい。あの閃光の正体だろう。近距離で受けた彼女ならその正体は分かるだろう。

 だが、それ以上に気にするべきなのは──

 

「ああ、視た。お前の魔槍に、正確無比に直撃して文字通り消し飛ばしたように見えた。」

「やはり、お前も視たか。 ……儂の魔槍を跡形もなく消しおった。アレは、なんだ? 一体、アレを放てるヤツは何だ?」

 

 ここまで彼女が動揺するのも珍しい。魔槍が消し飛ばされたショック、ではないだろう。何本もストックのある彼女に取ってたかが一本程度たいした、損害ではあるまい。

 だが、ここまで──()()()()()()()、いやもはやこれは、──()()()()()

 

 彼女は俺を見上げ、一つの事実を口にした。

 

「お前は、なんとも、ないようだな。……ひさしく、忘れていた、この懐かしさすら感じる畏怖を、恐怖を、今、私は感じている。」

 

 口にするのも恐ろしい。今にも悲鳴を挙げそうだというかのような、怯えが確かに伝わってくる。顔は青ざめ、唇は恐怖に震える。彼女が並の英雄ならば、発狂していた。

 まさかと思って彼女を見直すと──。

 

「……やられたなランサー。お前、ステータスがかなり、いや、ニランクさがってる。……君の性能が狂ったわけではない、ここから離れれば消えるデバフだ。だいたい君に何が起こったかは想定できる。」

 

 あれだけ気の強かった女が今にも死にそうな顔をしている。猫が恐竜にあったとしてもここまでは振るえまい。むしろ、恐怖に耐えきっているだけ凄まじいと称賛するよりほかない。

 ここまで彼女が抑圧されるとすれば、彼女が感じている恐怖は神々以上のそれということだ。そもそも恐怖とは、生物的原点、生きようという原動力があるものしか持ち合わせないモノ。もし、生物として逆らえないモノが確かにいるならば──

 否。天敵は、確かにいる。自然界においても、人間社会においても。天敵は存在する。

 

「……意図的に視界をぼかせるかランサー。今、君が彼女を視界にいれれば──こんどこそ折られる。」

「……わかった」

 

 本当に調子を損なっている様子で、すこし肩すかしを食らう。ふざけるのもからかうのもよしたほうがいいだろう。

 戦闘もさせないほうがいい。この様子で前線に出すほど俺は鬼畜じゃない。

 

 周囲を警戒する。

 向こうには、俺達が吹っ飛ばされる前にいたであろう方向は森が消えたせいもあって、ここからでも十分見えた。距離にして20。意外に離れていない。

 

 先には銀の柱と、それに近づくアヴェンジャー。どうやらアヴェンジャーは全身を鱗で覆って爆撃を回避したようだ。

 

「無事だったか、マスター。」

「ああ。君もか。」

 

 アヴェンジャーが話かけると銀柱が割れ、中から炎浄義之が出て来る。

 あの威力爆風を軽減できるのか。

 

 主従が無事を確かめ合っているなか、空から巨大な生物とそれにまたがった女性がそれに並び立つように現れる───つまりは、ライダーが来た。

 かつて、俺達にチンギス・ハン、と名乗った彼女がここにきた。

 ……状況は、より最悪へ転がっていく。

 

 

「───あんまりにも遅いから来てやったぞ。余に何か言うことがあるのではないか、雑竜?」

「ハッ、あの程度避けれたわ! 貴様こそ……あの一撃は、我輩は愚か我がマスターまで狙った一撃に見えたが?」

「それはすまなかったなぁ、エンジョウ。余は貴様の雑竜を始末してやろうと思ったのだが」

「余計なお世話だ、ライダー。アヴェンジャーは俺のサーヴァントだ。お前に処理を委ねた覚えはない。」

「あら残念。しかし、忠告はしておく。足手纏いはサッサと切り捨てないと首が回らなくなる。」

「───っ」

「ああ、そうだな。忠告は聞いておこう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()の忠告に価値があるかは別にしてな」

 

 実に和気藹々(殺伐)とした会話をしていらっしゃる。あまり連中の仲が良くないというのは情報としては価値があるが。そこは全く問題にならない。

 それ以上に、あくまで予測でしかなかったのに、現実になってしまったことに強い落胆を覚えている。

 

「……はぁ」

 

 ため息は、何故か。これから起こる現実にどう立ち向かえばいいのか分からないという嘆きか、それとも──まだ、自分は彼女を信じようとしているのか。

 いずれにせよ、結論は変わらない。

 

 ならば、自分にできることは。

 

 ──一歩踏み出す。

 

 ヤツの注目を俺だけに集める。

 

 

 ───ついに、眼が合った。視線が混じる。

 

 不思議と時間すら止まって見えた、その刹那の邂逅は──ライダーの殺意まじりの眼差しで切り裂かれた。

 

「くははっ、良いぞ良い。やはり、貴様は異常だ。確か、トキムネとやらだったか? 我らを打ち払ったのは」

「北条時宗で合ってるよ。正確には彼自身ではなくて、日の本の武士が払ったんだ。そのせいか、俺が感じている恐怖は外国人よりは少ないだろうよ」

 

 そう俺が言うと、彼女は横の男に問いかけた。

 

「おや、そうなのかエンジョウ?」

「どうだかな。……俺とてお前とは目を合わせられん。顔までは見れるが、目は見れない。火々乃晃平、ヤツは特殊と思うぞ? 大英雄ですら、その目を見れば心が折れる。」

「なら、アレは何故余の目を見返せる?」

「ふん。言うまでもない。あの男は、お前の目以上の恐怖を知っていて、なおかつそれを何度知っているのだろうよ。」

 

 何だ、その妙な評論は。俺がいつどこで、ライダー以上の恐怖みたことがあるというんだ。割と日常じゃボケ。

 なんとかなく心で口汚く罵ってみたがあまり気分は高揚しなかった。正直、ちょっと振るえてんだぜ俺。表情筋が超優秀なだけで。

 

 ──ランサーの前に立っていながら、脳は全力撤退計画絶賛組み立て中ときた。ちょっと格好がつかないにも程があるんじゃないですかね。

 

 知れず、汗が流れる。

 

「そんなこと、どうでもいいだろうが。」

「どうでもいい?」

 

 ライダーがちょこんと首を傾げて、()()()()()()()()()という顔をした。

 

「ライダー、お前よく俺の前に出てこれたな。俺の家、消し飛んでいたんだが?」

「ああ。()()()()()()()()()()。仕方ないじゃない? そなたが悪いのよ? そこの、ランサーを選ぶから」

「おや、嫉妬かい。でも、それこそ仕方ないじゃないか? お前、ライダー……テムジンじゃねぇだろう?」

「いえ、私は──」

「チンギス・ハンでもあるが、オゴタイでもチャガタイでもある。元寇の歴史を出したってことはクビライ何かもお前の中にはいるようだ」

「………………………」

「おい、反論しないのか? なら事実だな」

 

 ここで反論がない時点でチンギス・ハンでないのは明瞭だ。何故なら、彼女がテムジンなら“当然、私は子孫の功績を全部奪っているんだから。おかしくはないわ”と言っているだろうからだ。

 

 くっだらねぇ。本当にチンギス・ハンじゃねぇのか。

 なら遠慮はいらない。さっさと皮を剥いでやろう。

 

 炎浄は俺達のやり取りを面白そうにながめ、アヴェンジャーは驚きもあるがライダーが押し黙ったことに興味、関心を覚えているようだった。

 

 ライダーは、何を言うのかと余裕そうではあるが目が笑っていない。

 

「お前は、テムジンではないし、オゴタイでも、チャガタイでもない。もちろんクビライでもない。なら、誰なのか? 大方、お前にもよく分かっていないんだろう? どうして自分に、これだけの記録が備わっていて、なおかつ英雄としての力を行使できるのか」

「──じゃあ、そなたは私を何て名前にするのかしら。私のような偽物に」

 

 認めた。ヤツは、偽物だと自身を認めた。

 それでいて──興味深そうに眺めている。無性に腹が立つ。仕草が余りにも彼女に似ていた。

 

「お前の名は──()()()()()()。本来その名は全く別のモノを差しているが、モンゴルが世界に与えた影響は大きい。その名がモンゴルを指し、その上“恐怖の大王”そのものを差しているという説まで出るほどに。

 君は、ヨーロッパが、アジアが、ユーラシアが、視て感じた恐怖そのものがチンギス・ハンという霊基(カラダ)を作って召喚された存在だ。故に、アンゴルモアという名が正しい」

 

 確信を持って、ソレを告げた。

 告げられた本人は、うつむき、頭を押さえる。

 

 しかし、決して。

 それは頭痛だのなんだのが原因で押さえているわけではない。

 

「ふふふふ、はははははは………アハッハハハハハッハハハッハ!!!」

 

 笑い声が弾けた。

 

 心底関心したように。これ以上おかしいことはないとでも言うかのように。

 英雄には見抜けず、ただの人間でしかない小僧に暴かれた羞恥。

 それすら吹き飛ばす愉快さに満ちた笑い声だった。

 

 

「……正解だ。」

 

 

 ──ぽつりと、何処か寂しそうに彼女はそう言った。

 

「ただの人間でありながら我が身を暴ききった貴様に敬意を表し、改めて、我が真名を聞くがいい!! 我が名は、我が真名は“アンゴルモア”!! “恐怖の大王”であるッッ!!」

 

 人類史に刻まれたトラウマだけで成り立つ英霊、いや、ここまでくれば英雄とは呼べない。間違いなく彼女は、人間が倒すべき怪物であった。

 

 

 

 

 




「ねぇ、どうして私がライダーじゃないって気づけたの?」
「おっぱいが――」

 ――火々乃は死んだ。

***

世界にトラウマを植え付けまくったせいで後代につくられた黙示録の絵には大抵騎馬にのって破滅が現れる病舎になっていたりする。

時期が悪かったらヨーロッパは火の海になっていた。だって当時の中国人3000万くらいいたのにモンゴルのおかげで900万人にまで減ったという記述があるくらいである。
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