「──魔力不足、だな」
傷という傷から得体の知れない現象を起こしている火々乃晃平の体を見て、土御門晴之はそう結論した。
火々乃晃平の家──兜森家に彼らは火々乃の体を運び込み、土御門に見せていた。彼の部屋に集まったのは土御門晴之の娘を覗いた全員である。
同じ、術士ならこの状態になった理由が分かるのではないかと思ったからだ。
「魔術回路が破損しまくってやがる。生きてる魔術回路は……10本。その上、強制的に術者を生かす刻印はナツキちゃんに譲った。 魔術回路は魂の破損だ。肉体を介して呪いが噴き出ているんだ。」
「……治せそうか?」
「治す手段はあるが──残念だが、俺には無理だ。火々乃の血は1000年の歳月を掛けて完成されたもんだ。オマケにこいつは火々乃家の完成品と謳われるくらい呪術を極めた男だ。……一見、異常そのものなんだが、そこまでおかしいものじゃない。」
呪術師。呪いとは、相手を呪えば呪うほど相手との“縁”を強くしてしまい幾分か返ってくるものなのだ。強力な呪術には反動がある。
自分の
「魔力が足りないから、肉体を壊してエネルギーを得ようとしてる。そして傷を塞ぐために魔力を捻出して、足りないから、肉体を壊している。肉から飛び出たこれらは、こいつが生きている間に魂にしょってた呪いだろうよ。
何千年と存続していた家系だ。どれだけの呪いを請け負ったなんて考えたくもない。一回、魔術が暴走しただけで死体が出来るなんてよく聞く話だ。
……魔術刻印が在れば、もう少し上手くいったんだろう。でも──」
“阿呆だ”と土馬門は呻くように口にした。
沈黙が彼らを支配した。
土御門の結論は重い事実で、もはや火々乃晃平は死ぬだけだと伝えたに等しいのだから。
「治す手段がある、といったな。それはなんだ?」
だが、ランサーはそう土御門に問いかけた。
「……魔力が足りないから、肉体を壊してエネルギーを得ようとしている。そして傷を塞ぐために魔力を捻出して、足りないから、肉体を壊している。
このループさえ、閉じればいい。生命力の欠如だ。血液の代用とかそんな領域で壊れているんじゃない。文字通り魂を付け足さなきゃいけない。それこそ──人間の生き肝を飲ませるくらいしかない」
魔力さえ十分なら呪いは収まる。魔力は生命エネルギー……つまりは魂から捻出する。魔術回路が壊れている云々はもはや関係無い。この男からは生命エネルギーそのものが欠損しているのだ。
魂を付け足す……サーヴァントでいう魂食いを行わなければ、男は生き返らない。
それを許せる人間は、ここにはいなかった。
「……じゃあ、どうにもならないってこと?」
そんな藤丸立夏の声に土御門は否の声を挙げた。
「正確には俺達にはどうすることも出来ないってだけだ。……考えてもみてみろ。彼自身、そうなることに気づいていなかったとは思えない。
俺達には考えもつかない手立てを用意していて放置してれば、そのうち復活するかもしれない。」
「……だが、それは希望的観測だ。この男が、そもそも──死ぬ気だったら話は変わる。」
アサシンは、それだけ告げると部屋から出て階下に降りていった。
「……マスター。君も疲れたろう。今は休むべきだ。」
「でも……」
藤丸立夏は後ろ髪が引かれる思いだったが、もっと苦しさを覚えている人の顔をみて離れることにした。
セイバーと藤丸立夏は階下の部屋にむかい、土御門も無言で部屋から退出した。
──残ったのは、ランサー一人と、死体のなり損ないだけだ。
「……馬鹿者め。どうして貴様が死のうとしているんだ。」
この時点で、火々乃晃平が誓約を交わした本当の無敵にスカサハは思い至った。
ベッドに寝かされた男の隣に座って、静かに寝息を立てる顔を覗く。
「──お前は、端から死ぬ気だったんだな。いや、違う。これでは語弊があるか。……力が欲しくて誓約した、というのは理由の一つ。私の信頼、信用を勝ち取るというのも副産物。お主は自分ばかり否定しようとするから……私との誓約を、いざという時のための自滅のスイッチにしたな?」
男が怪物になるとき、スカサハにはそれがまっさきに頭に浮かんでしまった。人類を滅ぼした怪物……“
もし、それに成り果てたとき、自分を始末する一因を作ったのだ。“もう繰り返すことはできない”と火々乃が言っていた。だから、どうにもならないときのために、それを利用したのだ。
「まったく。お前には驚かされる。どこまで本当で、どこからが嘘なのか。いや、誓約を破っていないのだから、どれも本心か。お前は隠し事が巧すぎる。……少し、お前のことが知りたくなった」
どんな過去を抱え、どんな今を見て、何を考えて、どんな未来を夢視たのか。
視ただけで、その男の気風、気質、才能を見抜いた彼女ではあるが──その男が抱えた歴史までは覗けない。
故に、
──この男の死は免れない。
その一文が頭の中をよぎる度に……遠い、遠く忘れていた痛みが顔を出す。
これを何と呼称すればよかったのか、魂の死んだスカサハには分からない。分からないが故に、小さく笑う。
まるで、人間みたいに悩んでいたからだ。
そんな彼女の前に、黒猫が躍り出た。
ひょこりと突然現れた黒猫は、ベッドに腰掛けたスカサハの膝の上に飛び乗り“にゃー”といつものように鳴く。
「なんだ? お前も主人の心配か?」
なでながら、そんなことを聞く。
すると猫はかぶりをふって──背中をぱっくりと裂いて、その中から“血液”パックを取り出した。
「これは───、すまんな。これではこの男は……」
これでは救えない。文字通り魂が駆けているのだから血液では──補填できない。だが、スカサハの脳裏には、自分が倒れた時のことを思い浮かんだ。
──火々乃晃平は血液を使って魂そのものを溶かして霊基を補修した。
スカサハは『神縛り』の内容を思い出す。思考がおぼろげだった自分を縛り上げて、ニヤニヤと笑いながらそんな魔術を行使していたことを。
そう、スカサハの霊基は火々乃の魂を、血液を介して直接エーテルに変えて補修を受けている。ならば、その逆を行えば──。
単純な理屈。魔力が足りないのなら、魔力を供給すればいい。スカサハと火々乃晃平の間にはパスがあるのだから、余計なウォールは作動しない。
いや、よくよく考えればたかだか千年の月日など──スカサハにとってはそう遠くない月日だ。神秘の差で負けるワケがない。
マスターからサーヴァントに流れ込む魔力回路を逆流させ──一気に精神の位相を近づけ魂の位相まで近づける。そこまで行けば、スカサハの霊基に取り込まれたままの彼のエーテルは磁石に退かれるように元の場所に戻るだろう。
最悪、うまく行かなくても彼女自身の魔力で回路を運営すればいい。
そのためには──火々乃晃平の、
ルーン魔術の使い手であるスカサハの手に掛かればその程度難しいものではない。ただ一つ問題があるとすれば──。
火々乃晃平が背負っている呪いをスカサハはみることになり、スカサハの背負っているそれを火々乃晃平もまたみることになるだろうということだ。
「なに。これでも英雄の端くれ。お主程度の呪い、私に耐えられぬはずもない。」
輸血パックの血を使い、なおかつスカサハ自身の血も交えて魔術式を組み上げていく。
「お前にも背負わせることになるだろうが──死ぬなよ?」
魔力が魔術を通して祈りを組み上げる。
生命素の交換、エーテルの交換。積み上げられた情報の受け渡しあい。
魔術の行使とともに、ゆっくりとスカサハの意識は闇の中に落ちていった。
逆魔力供給。なおスカサハはアイデアを失敗しました。ちゃんと火々乃くんは準備のために工房に行って猫に自分の生命素を取り込ませてるんですよね。なので猫からスライム状のブツを口にねじ込めばそれで復活します。
あ、次回の内容はもちろん夢ですよ? fate必修イベントです。