Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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前回からの続きィィ!(だれぇ?


『アミーによろしく』

 

 

 地獄に変わる瞬間もまた覚えている。

 自身の名の由来を知ってから、それなりの時間が過ぎた。これまで名を表すように生きてきた。友人と呼べるものもできた。

 そんないつかのことだ、彼女と出会ったのは。

 そいつは見目麗しいわけではなかった。どこにでも居るような風体で、どちらかと言えば、容姿的に醜さすら目立つ。特に目を引くのは、その両腕――焼けただれ、ケロイド状になった傷跡を残した肌だ。

 当時、図書委員を任されたこともあって図書室に多く出入りしていた。週一で図書委員がお勧めの本を紹介するというものがあった上に貸し出しの処理も任されていたのだ。

 授業も終わりを告げ、殆どの学生が帰宅を始める時が来た。その時は殆どの学生が利用していなかった。日は暮れ始め、夕日で部屋が赤く染められるが、部屋の中には寂しさが漂い始める。

 この季節だからか、日が暮れるのが遅い。

 もうこんな時間か、とふと気づき読んでいた本を読み終え閉じる。ちなみに読んでいたのは少年ジャンフだ。

――え?漫画?ちょっと何言ってるのか分かんないですね……。男の教本みたいなモンなんで。読書してただけですよ俺は。

誰も来ないことにかこつけて読みふけっていた。今週号気になっていたんだよね。

もう貸し出す者もいないだろうと仕事を終えようとし、周りを見渡すと、三つ並んだ長机の自身から見て奥に一人。き、気づかなかった。

 肩まで伸びた髪、セーラー服から女性だと認識する。熱心に本を読んでいるようだ。邪魔するのもためらわれるほどで、本を読む姿が様になっていた。こんな風に見惚れたのは初めてかもしれない。

 何の本を読んでいるのだろうと表紙を見る。

――に、人間失格。

 中学生の少女が何ツーモン読んでんだ……。悪いという物でもないが。

 とりあえずもう図書室を閉めることを伝えなくては……。

 

「すみません、もう閉じるのですが」

 

と声をかけてみる。すると少女は、つい先程の俺のようにびっくりした顔をし、そういう顔をしたことに気づいた気恥ずかしさからか顔を赤くし、焦ったように口を開いた。

 

「こ、これっ!かっ借ります!」

 

念のためにPC落とさなくてよかった。

 借りるために本のバーコードを読み取らせ、図書カードなる物も読み込む。

 名前は――入生田響子、と表記されている。学年は俺と同じ二年のようだ。

 何処かで聞いたような。少なくとも自分のクラスにはいないことは分かる。

ま、よくある名前の一つだ、と気には止めなかった。

 

「ほい、これで借りれたよ。期限は2週間後、ちゃんと返しにきてください」

「あ、ありがとうございま――」

 

そう言って俺に頭を下げようとした彼女の目があるものに止まった。

 はっとするがもう遅い。

 

「漫画?」

 

み、見られた!しまった、片づけるの忘れてた――!

 

「あ、それって少年ジャンフ?それ私の弟も好きなんだ!結構面白いよね!?」

「あ、ああそうだな」

 

話ながら片付ける。いきなり語調が元気になったな。

何気なしに質問する。

 

「好きな作品ってなに?」

「キ○タマ!」

 

――ブッ

 何言ってんだこいつ、と言う顔をしてやる。

 すると、自分の言った言葉の意味に気づき顔を赤らめ釈明をはじめる。

 

「ち、違うよ作品のことだよ!」

「あ、ふはっ、わ、分かってるよ、面白いよなあの作品」

「も、もう」

 

 からかっていたことが分かったようだ。少し、嫌悪を持たれたかもしれない。

 しかし、俺はこいつのコトを気に入り始めていた。

 作品の主人公の言葉を使うのなら『ジャンフ好きに悪いヤツはいない』というやつだ。

 

 

 

 

「しかし、なんで人間失格を読もうと思ったんだ?」

「いけませんか?」

「いや、そんなことはないけど」

 

 職員室に鍵を返し、帰路にたつ。

 彼女も家が同じ方向にあるらしく、途中まで一緒に帰っていた。

 

「今週の学級掲示板に掲示されていたんです。その人、太宰治の作品について、すごく深く掘り下げて書いていて、中でもこの一冊がお勧めって書かれてたんです。特に太宰治が生まれた時代、境遇とかからの考察とか面白くて――」

 

今週の図書委員?

少し考え込んで。

――俺じゃねぇか!

 気づけば気恥ずかしさが波のように襲ってくる。顔に血が上るのを感じる。

 彼女は俺の様子をみて、少し小首を傾げていたが、どうやら俺が著者であることに気づいたらしい。彼女も顔を赤くした。

 

「ひょ、ひょっとして――あなたが?」

「――ああ」

 

二人ともそれから一言も喋らなくなった。恥ずかしさが募っていく。

 

 それから少しして

 

「わ、私はここで」

「お、おう」

 

 少しの沈黙。

 

「ま、また会えますか?」

 

 彼女をみれば、どこか消えそうな印象を、儚さをもった目でこちらに問いかけてきた。

 俺はその問いに答えることができない。

 

「な、なんでもありません!」

 

といってそのまま走って去って行った。

 

 

 

 

 それからも何度か図書室で会い歓談した。

 多くのことを話して聞いた。

 好きな食べ物、音楽、本など。

 

 冬となり寒さが強くなった頃 、彼女はこんなことを聞いてきた。

 意を決したような顔をして。

 

「ねぇ、これ気になったことはない?」

 

 彼女は焼けただれた腕を指し示す。

 正直にいって傷つかないかとは心配したが、真剣な彼女の目を見て、誤魔化すことをやめた。

 

「ああ、気になったことはあるよ。でも聞いたら、悪いかなって……」

 

彼女は自分の腕に目を落とす。

 

「……これ、昔、小さなときに火事にあって、そこで出来た物なの」

 

彼女は悲痛そうな顔をしている

 

「辛いなら――」

 

彼女は頭を振って俺の提案を却下する。

 

「その時、私は大火傷を負ったけどお母さんは焼け死んで」

 

彼女の顔色が悪くなっていく。心配する俺の心を察してか、無理に転調し明るい声を出し始めた。

 

「でも、悪いことばかりじゃなくて。最近――父が再婚したの。弟も出来たのよ。弟は5歳でまた可愛いの」

 

顔色は戻っていない。でもその言葉だけは――

 

「私は――先生になりたいんだ」

 

 嘘ではなくて

 

「わたし、なれるかな?」

 

――とても美しいものを見た

 

「――ああ、なれるよ、お前なら」

「よかった……!」

 

――この娘の未来を見てみたい

 初めての経験だ。こんなふうに思うことは。親ですら家族ですらこんなことを思わなかったのに。

 

 

ここまでが―――

 

 

 

 

俺にとっての地獄は唐突に出現した。

――言いようのない絶望。

 

 

 

 

 冬休みが空けて何週間かたった。外はすでに春へと変化している。

 この間、俺は入生田響子に会えていなかった。

 図書館で待っていたがとんと現れない。

 さすがに何週間ともあれば心配するもので、職員室に行ったのだ。

 彼女は学校に来ているか確認するために。

 

 

 

 

 

―――死んだ。

 彼女が自殺したことをその時初めて知った。

 彼女が死んでちょうど一ヶ月半の頃だらしい。

 

「な、なんで」

 

口から出た同様に、彼女の先生は

 

「知らん」

 

とあんまりな言葉をつむいだ。私は悪くないとも。

 

――認めたくない

 そんな思いが駆け上ってきて、廊下を走り出す。

 確認しなくては、ならない。彼女の教室へと向う。

 そこでは――

 

 

 より凄惨な事実が転がっていた。

 

 

 彼女の居たであろう机は見てわかる――机に花瓶、そして菊の花。

 机は汚い罵倒で汚されている。

 俺が教室に来たことでざわめきが少し収まっていたが。

 小うるさい蠅のような笑い声も聞こえた。

 無視して歩き続ける。

 悲惨な事実――彼女が彼女自身に非の無い事実で汚く罵倒され殺されたということ。

―――いじめ

 まわりに目を向ける。

 

「あの女、やっと死んだみたいよ」

「いるだけでうざったらしかったのよね~、あいつ」

「気持ち悪かったよな、特にあの腕」

「てゆ~か、アイツ誰?」

「彼氏じゃない?アイツに腕のことばらしてやろうかって脅したらなんでも言うこと聞いた物」

「じゃ、アイツも被害者ってわけだ」

 

机に手を置き、指でなぞる。この場で行われたことを読み取る。

 想定以上の辱めを受けていたようだ。

 

「ね、アンタ。アイツとはヤったの?」

「ヤったに決まってんじゃん!アイツ胸でかいし、むしろそれくらいしか価値ないでしょ」

 

余りにも心ない言葉。もう一度周りを見渡す。

吐き気を催す。気持ち悪いのはそちらだ。

 

「――少しは気づかないのか?」

「何が?」

 

苛立ちを込めて言う。

 

「自分たちのしたことにだ」

「何か悪いコトした?」

 

 周りを再度見渡す。そいつらは俺が何故怒っているのか分からないといった様子。

――こいつらはなんだ?

 あまりのおぞましさにこいつらの名称が浮かばない。

 

「なにかりかりしてんだよ」

 

元友人が声をかけてくる。同時に触れてきた。

 俺はそれを払う。気持ち悪すぎてつい払ってしまった。

俺はもう――こいつらを人間とは認識できなかった。

 

「おい!なにすんだよ!」

 

たかが払われただけで掴みかかってくる。ほかのヤツはにやにや、それ以外は知らんぷり、だが俺がおかしいと思っているようだ。

 もう、ウンザリだ。

――有り体にいって失望した。

 

「なんか言っ――」

 

 掴みかかってきた人間もどきを殴りつけ、意識を奪う。

 勿論鼻をおった。そのための顔面パンチです。

 悲鳴が上がる。同時に結界もはる。陰陽道にも通じているのだからこの程度朝飯前という物だ。この部屋を固定した。

 

「な、なんで開かないのよ」

 

 正直、こんな人間もどきに時間を使うなんて論外だが。

――しかし、心がそれを許さない。

 嗤いが漏れる。

 

「ふっふふふふははっはははっはっ!!!こんな、こんなお粗末な奴らに殺されたのか……あの娘が?」

 

怒りが吹き出す。

だが――殺しはしない。こんなのに追っかけられては困るだろう。

 

「――っざけるな……ふざけるなァ!!!!」

 

彼女の机の上にあった花瓶を投げ捨てる。

 

「安心しろ、殺しはしない。でも――生きて欲しくもない。なら、どうするかなんて簡単だろう?」

 

 恐怖に泣き出すもの、震えるもの、理不尽に怒るもの。

 

「――拷問って受けたことあるか?アイツにしたことも一種の拷問なんだからあるよなあ、当然」

 

 これはただの八つ当たりに過ぎない。

彼らは所詮、大人の社会の縮図である学校の一部でしかない。

 当分彼らの悲鳴が消えそうにもなかった。

 

「習ったハズだからな、人の嫌なことはしちゃいけないってな」

 

 口角がつり上がる。

 嬉しくはなく歓喜もないが快楽はあった。

 情欲を伴うそれでもないが、胸がすくような気分にはなる。

 

 

 

 

 

 それからと言うもの、俺は極度の人間嫌いになった。両親、家族にさえ吐き気を覚えているほどだ。これが一番きつい。祖父?元々人間とは思っちゃいないしアレに関しては。

 彼女の死に関わったであろう人間は、全員例外なく破滅して貰った。

――まさかクラスぐるみでいじめを敢行していたとは。

 彼女の母親は入生田響子に虐待を加えていたようだ。

そしてそのまま虐待死させた。――弟がそう証言したのだ。

 今彼女の母親だったものは留置所の中にいるのだった。

 

 この時からだ。あの夢を見ることになったのは。その夢しか見れなくなったのは。

 

 

 

 

 俺の幸福は、まわりの人間が消えることだ。

――そうしなければ俺は現実に溺れてしんでしまう。

 

 つまるところ、俺の願いは――人類を破滅させることだ。

 

 

「それが貴方の願い……?」

 

 ライダーは理解できない――いや、想定とは違っていたと言った表情だ。

 

「それは、貴方の本当の願いじゃ――」

「そう思う根拠はなんだ?」

 

 いい加減に苛ついてきた。

――お前もまた

 

「貴方の夢を見たのよ……!」

「俺の……夢?」

 

「貴方はそんなこと望まない、望んだと実行しない絶対に……!」

 

どこか確信したかのように言う。

――苛つく。

 

「――はっきり言ったらどうだ」

 

 つい苛つきの混じった声色を出してしまう。

 

「じゃあ、どうして、エリカを助けたの!?」

 

――――――。

 

「貴方が本当に人間を嫌っているなら、言葉だって交わさない!はっきり言えだなんて言ったわね―――そっくりそのままお返しするわ!!いい加減その貧弱な道化の皮をはぎなさい!!!」

 

 言葉が出ない。否定できるはず、だ。

――例えば、偶々だとか、目の前で死なれたら目覚めが悪いとか。

 だが、思いつくどれもが彼女を肯定してしまう――!!

 

自身から、ガラリと音を立てて剥がれるそれを俺は拾い上げられない。

 

「お、俺は――」

 

 そこから先、二の句は口に出来なかった。

 

 

 

 

それから少したって

 

「――どう少しは落ち着いた?」

「ああ、すまん……」

「スゴイ顔してたわよ……気分が悪そうなくらい血の気は引いているのに、殺意はダダ漏れなんですもの」

 

ライダーがそう言うほどとは、よっぽどだったらしい。

 

「疲れたでしょう?今日はもう終わりにして寝ましょう?別に今日願いを決めなきゃって訳じゃないんだから」

 

 ライダーの提案に従って横になる。予想以上に疲れたらしい。

 ライダーは少し考え込む様子をみせ

 

「ね、コーヘイ?」

「ん?」

 

「――アミ―って娘の知ってる?」

「知らないけど、その名がどうかしたのか?」

「いえ、何でも無いわ」

 

そのまま俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

「コーヘイは知らない?どういうこと……?じゃあ、あの娘はいったいなんなの?」

 


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