第三回戦 二日目
***
空は青く、東から西に向ってグラデーションになっている。
地は赤い花――彼岸花が咲き乱れている。
風が吹き、赤い花びらが舞う。
東には太陽、西には月が浮かぶ。
鼻腔を痺れを伴う甘いにおい。
そして――
「お前は―――」
目の前には見知った少女が一人。
セーラー服に肩まで伸びた髪――腕にやけどの跡はない。
――見知ったヤツかと思ったが中身は全くの別人だ
そう直感する。
少女は悪辣な笑みを浮かべて
「わたしよ、■■■。どうかしら?貴方の言うとおり人型に変わってみたのだけど」
「――なんでその姿なのさ」
「嫌がらせ」
醜悪にすぎるそいつを――俺は知っている。
あまりに巨大でこちらを見下ろすがごとき存在。
ここではこいつが誰であるかは知っている。
だが、目を覚ませば、思い出せなくなる。
だから俺はこいつを現実でこう呼んでいた。
―――ブラックドッグ、と
***
――目を覚ます。……久しぶりにこの夢を見た。
ここに来る前は引っ切りなしにアレ――ブラックドッグと夢で会話をしていた。あの日以来ずっとである。故にそれ以外の夢を見たことがない。
しかし、今日みた夢はいつかの焼き直し、記憶の復行のようだが。
*
――――――一階廊下
昨日入手した大鍋をタイガーこと藤村大河のものか聞きに来ていた。
「大鍋?う~ん、私のじゃないわね」
どうやら違うらしい。
「あ、でもコーヘイ君に頼みたいことはあるのよ。誰だか学校に雑誌を持ち込んだ生徒がいるらしくて、没収してきてもらえないかしら。勿論、お礼の品もあるわよ」
「分かりました」
今度は雑誌探しか。
校内を探索する。もはや32人程度――一クラス程度の人数しかいない。かつてはひしめくほどにいた人影、うっとうしい雑踏ももはや形を失っている。
校庭にまで出て探索をすると、男子生徒――おそらくマスターの一人がそこにはいて、雑誌――少年ジャンフを持っていた。
話しかけ、譲って貰うように頼む。
「サーヴァントが大鍋がほしいって言っててさ、それと交換だったらいいよ」
まさかここで役立つとは。
喜んで交換に応じる。ちなみに少年ジャンフは13号――2030年と記載されていた。
一階廊下にいる藤村大河に渡す。
「あ、雑誌持ってきてくれたのね。ありがと~、ついでにかち割り氷もお願いしていい?」
「……わ、分かりました」
――かち割り氷?何に使うのだろうか。
*
――――――アリーナ
その後アリーナに来ていた。
「敵サーヴァント、ここにいるみたいね」
ライダーが出現しそうつぶやく。
アイリスはもう此処に来ているようだ。
――前回のように奇襲されるかもしれない、慎重に行こう。
*
中腹をこえた先にアイリスは待ち構えるように立っていた。
側には彼女のサーヴァント。
「ふ~ん、意外と早く来たわね」
彼女の近く、足下には魔術痕――ハッキングされた形跡がある。
「なにか仕掛けるつもりだったのか?」
「ま、ちょっとしたものをねっ……!」
彼女がそう言うと共に地面に円が描かれるように広がった。同時に身体が地面に縫い止められるがごとく重くっ――!
「なッ、なるほどこれはっ……!?」
「お察しの通りちょっと強力な重力場を作ったのよ、かかりなさい!!」
「あいよ」
アイリスのサーヴァントが銃――火縄…?いや、マスケット銃か!?
なんにせよ構えて――あれ?銃口こっち、ライダーじゃなくて俺に向いて―――。
パンッ。
「マッ、マスター!?」
身体を無理矢理地面に引き倒すように避ける。
「あっ、アッブねェェェェエ!?こ、殺す気かテメェ!?」
「ちっ、死ななかったか。戦争なんだから当たり前でしょ」
「何舌打ちこいてんだ!最初から、マスター狙いかよっ……!」
ついで二発、それはライダーが素早く間に入り、打ち落とす。
重力場を作ったっていったて、少なくとも一つの基点で構成されてるとは思わないここまでの出力が出せるハズがないし、仮に一つでヤッタとしても持続しない。かなりの魔力を必要とするからだ。
ならこのフィールドにはいくつもの基点が設置されているはず――四つはあると仮定するなら、少なくとも二つ破壊すればおさまるだろう。
身体が上手く動かんがこの範囲なら――中腹に一つ、スタート地点に一つあるだろう。
セラフの介入はない、戦闘とは思われていないようだ。
「ライダー、俺に向って飛んでくる弾を徹底的に打ち落とせ!!」
「了っ――解ッ!」
相手とは反対側に走り出す。
三発目を白槍で迎撃しながら併走する。
いつもより進行スピードが格段に落ちている。が、進めない程ではない。
相手方は追ってくる様子はない。
なるほど彼らは重力場の影響を受けていないようだが――そうか!
注目するのは彼女らの足下。彼女ら自身の前から重力場が生成されているのだ。一歩でも入れば影響が出るのだろう。
バカスカとこちらを撃ってくるサーヴァント。
――これだけの精度、距離からの射撃から考えるとおそらくアーチャーだろう。
それを見越したこの策かも知れないが。剣の使い手としてもかなりの物だったらしいし。
クラス名は――真名に繋がらないと言う自身があるのか。
「――まず、一つ!」
中腹中央にあった基点を魔力で干渉し、破壊する。
次はスタート地点へと走り出す。
パーン、と銃声が後追いするように鳴り響く。
内心びびりながらライダーが確実に撃墜してくれることを信じておく。
「なんか、楽しくなってきたわ…!」
大丈夫だろうか。
そのまま迎撃して貰いながら走っているとスタート地点に着く
「これで……っ!」
二つ目の基点を破壊した。
これで――身体をのしかかっていた重さが引いていった。
「成功したみたいね」
「ああ、なんとか。……大丈夫か?」
――お返しをしに行くとしよう。
相手がクラス名をあやふやにしてくれた礼だ。
ライダーに馬を出させる。
――奇襲だ。
馬に二人でまたがり走らせる。速度に合わせて吹き付ける風が心地よい。
前方に開いてがみえた所でにやり笑ってやる。
「
「――ええ!」
パンッという乾いた音を置き去りにして飛んでくる弾を切り払い、突っ込んでいく。
「クラス名を……っ!」
「やべっ、突っ込んでくル気だぞ、あいつら!」
「ライダー、スキルを撃て!!」
「
剣先を向けぶっぱするライダー。光弾が放たれた。
「防ぎなさいッ!」
「いやッ無理言うなよっ!!やってみるけどさ!!」
と剣を構え防御する―――直撃。
ズガンと音が響き渡る。
「―――しっ死ぬかと思った!!」
そこには無傷と言わずともアーチャー(仮)が立っていた。
外装こそ焼けボロボロだがその身に傷――ダメージはない。
アリシアも無事のようだ。
馬から降りたち、ライダーは真紅の剣を向ける。
まだセラフは戦闘と関知していないようだ。警告はない。
緊張が走り、まさしく一触触発のそようをなしている。
「――そのサーヴァント、アーチャーだな?」
「さあ?どうかしら?」
少し仕掛けて見たのだが、乗っては来てくれない。
――攻撃させるか
とライダーに目を向ける。様子がおかしい。しきりなしに首を動かし辺りを警戒する。
「どうしたんだ、ライダー」
ライダーは答えない。そして殺意を高めてアリシアを見る。
「貴女…何か仕掛けたわね!!」
「はあ?」
「とぼけたって無駄、マスターをこれ見よがしに狙っといて!」
「狙うってあたり前だろ」
殺意をぶつけるライダーに対してマスターは何をそんなに怒っているか分からないようだ。あまりに異常なその様子。
「いったいどうした、セイバー?」
「マスターを狙ってるのよ!迷宮の外から!」
「迷宮の外?」
次いでアーチャー(仮)もしきりなしに見渡し始める。そしてこっちに殺意を向ける。
「――テメエ、俺のマスターをぶち殺すつもりだな。マスター注意しろ!!こいつら何か仕掛けてやがる!!」
「ど、どうしたよ?」
アリシアもアーチャー(仮)の焦りようは初めて見たようだ。
「マスターは感じなかったのあの殺気」
と剣を構えながら言う。
――殺気?
「いや、感じなかったが。そっちのマスターは殺気を感じたか?」
サーヴァントの行動に困惑しているアイリスにも聞いてみる。
「い、いいえ。感じなかったわ」
彼らサーヴァントだけが殺気――危険を察知した?それだけの殺気ならマスターである俺たちも感じるはずだが。
――まさか、サーヴァントだけを狙っている?
その考えがよぎった瞬間尋ねていた。
「おい!サーヴァント!!」
「なんだ!?」
「お前も迷宮の外から殺気を感じたのか!?」
「あン!?お前が仕掛けたんじゃないのか!?」
「答えろ!!」
「……そうだ、迷宮の外だ、それがどうかしたか!!」
やはりそうか。
共通して迷宮――アリーナの外から殺気を受けている。
サーヴァントはどちらかが仕掛けたものと疑っているようだが。
もし、マスター側が何か仕掛けたもので無かったとしたら―――迷宮の外にナニカが殺気を向けたのではないだろうか?
サーヴァントは警戒を崩さない。
「セイバー、殺気の方向は分かるか?」
「……ごめんなさい、分からないわ」
ライダーの額からは汗が垂れている。緊張感が辺りを包む。
「アイリスのサーヴァント!信じてくれるか分からないけど、俺たちは何も仕掛けちゃいない!」
「……本当か?いや、本当だろうな」
アーチャー(仮)も同じ考えに至ったようだ。
「火々乃のセイバー!私たちも何も仕掛けていません!」
「――信じていいと思う?マスター?」
「ああ、おそらく本当だ」
そう答えたとき。
ズン。
「地面がッ……!」
「――揺れッ」
「■■■■■■■■―――――――!!!!」
ナニカの叫び声。地面が――迷宮が揺れている。
「――ぐぅっ!」
立っているのが厳しいほどの揺れ。
――ナニカが来るッ!
そう直感した。
「■■■■■■■■■■―――!!ッ■■■■――!!!」
中腹の端がメキリと軋み、まるでガラスのように割れる。
――手。
巨大な手。掴むようにしている。
そして巨影が現れた。
それは頭は老人――日本の狂言で使われるような翁の仮面に似た顔を持ち。
両肩からは無数の蛇――いや、竜と呼ぶべき物が生えている。まるでそれは、翼のようにも見える。
腿からは蛇の半身が生えている。
確かに質量を持ってそこにいる。
「じょ、冗談だろ……」
思わずそうつぶやいた。同時に思い出す。
こいつの狙いは――サーヴァントだ!!
人目見て分かる。ライダーだけじゃ勝てない!!
――ならば
「逃げるぞ!!」
「っ、馬を呼ぶわ」
馬を出現させるライダー。
目にぼーっとしているアイリスの姿が目に入る。
「おいっ何やってる!!速く逃げろよ!!」
「り、リターンクリスタルが反応しないのよ!!」
「ヤベっ、マス――」
バンっと大気の裂ける音と共にアーチャー(仮)が吹っ飛ばされていく。ギリギリで壁にぶつからず留まるが、逸らした巨大な左腕が後ろの壁を粉々にする。
そしてアーチャーにもう片方の巨大な手が迫る。
それをサーベルで防ぐが、マスターががら空きだった。
外した左腕がエリアを裂く。
奥側に立っていたアイリスは崩れていく地面に飲まれるよう落ちていく。
迷宮の外は悪性情報の宝庫だ。構成している霊子がほどけ死に至るだろう。
労せず、マスターを倒すことができたと考えておくか。
「きゃぁぁぁぁーーー!」
「マスターァァア!!」
彼女のサーヴァントは腕の対処で動けない。巨大なソレはマスターには興味ないようで目をむける事すらしない。
「マスター行くわよ―――は?」
後ろからライダーの声が聞こえる。
俺はアリーナから飛び降りていた。即興で重力加速の魔術を使用する。
「ぐっ……あぐッ」
痛みが身体に走る。構成している霊子がほどけていく。
――死が近づいてくる。
それでも手を伸ばし、掴んだ。掴まれた当人は身体の霊子を崩し――もはや片目しか見えないだろうありさまで驚愕した顔を作っている。
「な、なんで!?」
「知らん!俺にも分からんが―――身体が勝手に動いていた」
「仕返しできたみたいだな。その間抜けな驚愕ずらがを見れた、あんな悲鳴聞かされたらどんな顔してるのか見たくなっちまった」
「一緒に死ぬ気なの!?」
「いいや」
――誰よりも信じれるヤツが俺にはいる
馬鹿なことをすれば怒ってくれるヤツがいるのだ。
「来い、俺のサーヴァント!!!」
煌めく流星のように、悪性霊子を裂いて迫り来る。
「こんのッ!!馬鹿マスターーー!!!」
俺の腰を掴み、上昇していく。
「何考えてんのよ!!貴方は!!」
「小言は後で聞くから、今はスタート地点に向え!!全速力で!!」
「もうやってる――」
ブオンと迫る竜の頭を避ける。
なんとか振り切りスタート地点まで戻ってくる。アーチャー(仮)もここまで後退してきた。
巨体がアリーナの外を泳ぐようにこちらへ迫ってくる。
「早く出るぞ!!」
菱形の門に飛び込み―――校舎に帰還した。
校舎の中は昨日より騒がしい。
運営NPCが慌ただしく走っている。
「はあ…はあ……なんとか生き残ったみたいだな」
あれはいったい何なのだろうか。始めに見た時震えが止まらなかった。おぞましい、この言葉につきる化け物だった。
まるで邪神。
ま、なんであんなところに出現したとか基本的な疑問はあるのだが。
「すまない、火々乃君。君に助けられたマスターに変わって礼を言う」
ちらりと見回したらアイリスの姿は消えていた。
「俺のマスターは、こういったことを伝えるのが下手でね。俺から言わせて貰った」
それでは、と言って去って行く。
俺も疲れた事だし、マイルームへと向おう。
*
――――――マイルーム
マイルームにつく。
なぜあんな物に襲われただとか疑問はあるが、運営が動き回っていることから想定外のことが起こったのは間違いがない。
――明日には何らかの対策をとるだろう。
ならば今日の所は休むことにする。
「マスター」
寝ようと身体を横にした所でライダーから声をかけられる。
ライダーは怒り心頭といった様子だ。
「マスター、もう、二度とあんなことしないでっ!!……こっちの、心配する身にもなってよ」
そういって、ひしっ、と抱きついてきた。ライダーの涙で服が濡れる。
「――ああ、もうしない」
そう言い、ライダーの頭をなでながら思うのだ。
――ライダーを召喚してよかった、と
突如現れる巨影――いったい何なんだ?(すっとぼけ
ついでにアーチャー(仮)はいったいだれなんだ(すっとry
アーチャー(仮)「弓使うアーチャーなんてwwww」