対テュポーン戦は、協力したサーヴァント達の敵ではなくアッサリと倒された。
なんやかんやで8人の犠牲者が出ていたらしい。そういうわけで対テュポーン同盟に参加した者達は全員、第三回戦の無条件勝利を得たのだ。
「――で、何か用かお前ら」
俺は絶賛少年と金髪女性に捕まっていた。勿論、比喩であり同じテーブルを囲んで座っているのだ。ちなみにサーヴァントも出現していて同じ席を囲んで座っているのだった。
「――あの時はありがとうございました!」
「あの時?ああ……助けたときのことね、あんま気にすんな。やりたくてやったことだし」
「そうは行きませんよ!!遅れましたが、お礼はさせてください!」
いま思い出したが、この二人は俺の助けた二人だった。
妙に張り切って参加していたが、そう言うことだったのか。
すると突然、目の前のテーブルに赤いものが置かれた。
においは懐かしくむせかえるような気分にさせられ、色にも覚えがある――麻婆豆腐、いやこれは――。
「ふ、私からの戦勝祝いだ。遠慮などせずに存分に食べたまえ」
いつも間にか後ろに立っていた言峰が差し出した物だ。
おまけにコトリと女性陣の前にはシュークリームを置いた。
「なんで女には甘い物?俺たちにはただの嫌がらせじゃねえか」
「どうとでも言え」
そう言って言峰は去って行った。何しに来たんだ。
「あー、そう言えばあの神父の好物は麻婆豆腐だったわね……」
「てことはこれで本気で報償のつもりなのでしょうか……では、無下にするのもためらわれますし」
と、どう見ても劇物を、煉獄を口にいれるキャスターだったが―――。
「かはっ――――」
口から血を吐くように麻婆をたらし倒れた。サーヴァントのキャパシティですら絶えられない代物だったらしい。
……そんなにやばいものなのか。
軽く中をかき乱してみれば――。
「麺…だと……」
――まさかの麻婆ラーメンであった。
軽くすすってみる。
沸騰。口に入れただけで、身体から汗が噴き出す。さながらマグマのように熱く――というか痛い、辛い。
しかし、辛みの奥からなんとも言えない、うまみがある。
ただ辛いわけではなく、うまさを追求したが故の辛さ――。
手が止まってくれない。次からつぎに口へ、ヘルを運んでくる。
「一心不乱に、ッ辛そうなのに、美味しそう……!」
ライダーがなにやら戦慄しながらシュークリームをほおばっているが、知ったことかとばかりに食っては食っていく。
そしてついに――完食へと至った。ほのかな風が心地よい。
俺は地獄を切り抜けたのだ。
ちらりと少年――ラインもまたはふはふと食べている。
女性陣は―――黙したまま震えていた。
「ど、どうかしたのか?」
「―――すわ」
「え?」
震える声で、のど元を抑えながら顔を赤くして金髪女性――シリンは答えた。
「あいつ……糞神父を殺すって言ったのよ!!あのヤロー、シュークリームにタバスコ仕込みやがったわね――!!」
「協力するわ――キャスターのマスター!」
「私も協力しよう、ライダーとキャスター」
そう言って、対糞神父同盟は発足し、追跡のため行動を開始し去って行った。
彼女らが去って行ったところで、背後から声がかかる。
「どうだったかね?私の麻婆ラーメンは?」
「悪くはなかった、むしろうま――んでここにいんの?持ち場に戻ったんじゃなかったのかよ」
「お前達だけに褒美を与えると?他の同盟参加者にも渡してきたところだ」
――本当に褒賞のつもりだったのか。
「暇だろう?お前達は……ちょうどよかったと言うだけだ」
「なにが?」
「なに、今度購買に追加する商品として客の声を聞いて起きたかったと言うわけだ」
商品化する予定があったのかよ。
他にも喰わせて感想を聞いて回っていると言うことなのかもしれない。
*
――――――アリーナ
「何処行ったのよ――!あの神父―――!」
「開口一番に何言ってんだ」
怒り心頭といった顔で騒いでいるライダーは見つけられなかった悔しさも相まって、地団駄を踏んでいる。あの時から幾分かして、アリーナに俺たちは来ていた。
「サーヴァントがやるべき、護衛をほっぽいといてなにいってんだ?」
「うっ……それは、悪く思うけど……でも――」
「でも、じゃねーよ、でもじゃあさ」
三回戦を無条件勝利を得たとは言え、アリーナは開放されるらしい。エネミーもまた健在だが特に障害にはならない。
取りこぼしたアイテムを取りに来たというわけだ。
「かち割り氷、ゲットだぜってな」
そういえば、本来の対戦相手――アイリスのアーチャーの真名は何だったのだろうか。
いまになっては分からないことだが。
さっさと藤村大河に渡してくるとしよう。
*
――――――廊下
廊下で藤村大河にかち割り氷を渡したあと、マイルームへの帰路についていた。
すると背後から声を掛けられた。
「ライダーのマスター」
振り返ればアーチャー――アタランテがそこにはいた。
妙に焦燥しているような....。
「すまないが、私のマスターを見なかったか?」
「いや、言峰に麻婆の感想を言ったあとはお前を探しに行ったはずだが………すれ違いにでもなったか。キャスターも自分のマスターを見つけるために同行していたから聞いてみたらどうだ?」
――――――マイルーム
部屋の中にはすっきりとした――まるで蒼穹の草原の中にいるような感覚に陥るようなにおいで満ちていた。ありたいに言ってリラックスしていた。
「――懐かしい気分にさせられるわ、この匂いには」
「そいうもんなのか、ライダーにとって」
「ええ、幼い頃を思い出すわ――」
そう言って遠い日々を思い返しているようだ。
彼女が駆けた草原――雄大な自然に囲まれたそこはどのような所だったのだろうか。
彼女の過去に思いを馳せるが……いつかは彼女の口から聞いてみたい、そう思った。
フラグは立ってしまった。
次回は第四回戦に一気に飛びます。