第五回戦 一日目
渇望せよ、羨望せよ
目を開き、
たゆまず歩け、さもなくば
――何のために
***
前回保健室で徹底的な嫌がらせをカレンから受けた。その後身体の半分以上を構築し治してから、マイルームへと戻ってきていた。
「――頃合いよ、マスター」
改まって、ライダー――テムジンがそう真剣に切り出した。
「何はともあれ、貴方は私の真名にたどり着いたわ。私もそれに答えるとします」
――つまり
「私の至高の宝具を開帳するわ。私の全てを貴方に預けます――貴方の指示一つに従うわ」
テムジンとしての最強の宝具。
と言うかアレ以上に強い宝具とかあるのか(困惑)
「なあ……それってどんぐらいの威力なんだ」
「そうね……当たり所が良ければ――セラフのシステムを一時的にダウンさせられると思うわ。でも、それくらいの威力で撃とうとすれば当然セラフからの介入を受けるけど、令呪で撃てるようになるわよ」
ウチのサーヴァント強すぎませんかねぇ?まあ……かのチンギス・ハンなのだから分からなくもないが。
「で、気になったんだが……どうしてお前の未来は危険視されてんだ?過去になんかやらかしたとか?」
「単純に戦闘狂――好戦的ってだけよ。あんなに強力な宝具をバンバカ撃ってくるのよ。挙げ句の果てにセラフに単体で喧嘩売るかも知れないし、実質出禁に追いやられたわ」
セラフにまで喧嘩を売りに行くのか(困惑:本日二度目)
「まあ、なんにせよ……貴方の指示があればいつでも振るうわ。期待しててね、コーヘイ」
*
――――――一階廊下 掲示板
携帯端末機から対戦相手が決まったとの報告をきき、掲示板前へと俺はきていた。
今回の対戦相手は――
ヴェル・マージン
――そう書かれていた。
「アンタが火々乃ってやつね」
背後から女性の声――アルトボイスが聞こえる。振り返ってみれば、校内の中では違和感がある格好――まさかのドレス姿である。
「てことは――お前が」
「そう、ヴェル・マージンよ。どうせ私に勝てないだろうけど――よろしくね」
「ンなこと言われてよろしくすると思うか?」
「あら、気に障ったらゴメンナサイ。でも私、男嫌いなの」
じゃあねとそのまま去って行った。
「結構可愛らしい子だったわね――?」
「なんだその妙な目は」
「別に――性格はともかく、あなたの好きなタイプにドストライクじゃなくて?」
「背が低くて、胸がでかいってことか?」
「しっかり確認してるじゃない」
なぜか不機嫌になり始めるライダー。まあ、コンプレックスを刺激されたからだと思うが。
「で、でも…未来の私ならそれなりにあるし!別に気にしてないし!」
「涙目になってるぞ。あと未来のお前にあっても今のお前にはないからな――ぐはっ」
強力な肘打ちを食らった。気持ち悪さが駆け上がってくる。ここまで現実世界を再現しなくてもよくね?
「そんな事より行くわよ、アリーナに!」
「おい、腕引っ張るなよ!って、あれ。聞いてます?あのライダーさん?腕ミシミシいってるんですけど!?ライダーさん引きづられちゃってるから!足間に合ってないから!お願い止まって!三百円あげるから!」
ライダーに引きずられる様にしてもとい引きづられながら移動する。
残りの人数がもはや8人しかいない廊下は閑静さが目立っていた。
*
――――――アリーナ 五の月想海
広大な迷宮であることが視界から分かる。前回よりも明らかに、迷宮が大きく設定されているようだ。
「――いるわ。サーヴァントの気配がする」
「じゃ、警戒しながら進むとしようか」
迷宮の探索を開始する――――。
「ちょっとまって」
「ん?」
探索を進めようと入り口から先の最初の曲がり角で引き留められた。
「奥見なさい」
――奥?
ライダーの目線を追っていくと――一組の姿。
ライダーの意図を理解し、折り鶴を使い魔として飛ばす。第二回戦でレスターにしたことと同じ使い方である。
こちらからでは話し声が聞こえないが、どうやら何かを設置しているようだ。確認は出来ないが、恐らくトラップだろう。
「あっヤベッ」
突然相手サーヴァントが振り向き魔力弾を放った。当然撃ち落とされる我が使い魔。だが、注意を向けるべきは其処ではなく。
「うっそだろオイ!」
こっちに振り向いたサーヴァントと完全に目が合った。
「くるわ!」
当たり前のように
「オイオイ!いきなり盗撮とはやってくれるじゃないか!」
現れたサーヴァントは灰色のローブに金属チェーンをジャラつかせた格好の男である。
「オイオイ!いきなり撃ち落としてくれるなんてやってくれるじゃないか!」
「マネすんな!」
「嫌なこった」
「ふざけんなッ!」
やたらとサーヴァントの怒りを買いながら情報の露呈をしないか探る。
「キャスター落ち着いて。安すぎる挑発よ。乗る意味はないわ」
「なら買い放題じゃねーか、むしろお買い得じゃねーか」
「……安すぎるものには何か裏があるってものじゃない。ていうか殆どただ同然みたいなものだし、腐ったもの買う必要ないと思うんですけど。頭腐ってるんじゃない?」
「なんでそんなにヘイト高いんだよ。お前男嫌いって言った割にはサーヴァントが男のようだが?そっちにヘイトさけよ」
「――別に。彼はいいのよ」
「おっ、これはもしやデレ期という――いだッ。痛い!痛いぞ、マスター!無言で殴るのは…あっでもなんか気持ちいい」
「……随分と、仲いいのね」
ライダーはそう言いながらこちらをチラチラ見てくる。
ふむ、このアイコンタクトは――戦うかどうかか?その指示を待っているのか?
Goと指示を無言で出す。
ベシンッ!
「痛ッ、てぇーー!」
すごく…肩が……痛いです。
なんで!なんで俺の肩叩いたのコイツゥ!
「何にすんだよ!」
「…気持ちよくないの?」
「ソレあっちの性的嗜好だから!俺の性的嗜好じゃないから!」
「我が輩も実はそう言っていた時期があったが……慣れとは怖いものだ、ははっ」
叩かれ慣れてんの!?どんなマスターとの付き合い方してんだよ!
あのサーヴァント遠い目しちゃってるもの!
「だから君もいずれ慣れるさ…彼女の愛情表現に―――ひでぶっ!」
「そんなんじゃありませんから……!」
「殴りながら言っても説得力な――痛ってぇ!もういいからソレ!話進まないから!」
何故か叩いていてくるライダーの手を握るように受け止め抵抗する。
つか、何しに来たんだコイツ。
「はっ……こんなことをしている場合じゃないわよ、ばかサーヴァント!」
「ふっなかなかの責め手だが、悪くはない。腕を上げたなマスター」
「嬉しくないっての!ていうか――」
とこちらを見てヴェルが指をさしてサーヴァントに命令を下した。
「さっさとあいつらを殺しなさい、クソサーヴァント!」
「クソはないだろうクソは……だが合い分かった!というわけだ、潰させて貰うぞ!」
と言うやいなやこちらに向って魔力弾を放ってきた。
ライダーに指示し防がせる。
辺りが赤くセラフの警告で染まる。
「ハァ!!」
魔力弾を白槍で切り払い、相手に迫って槍を突き出す。敵サーヴァントはソレを難なく避けて魔力弾で迎撃する。
咄嗟にライダーは打ち払いながら後退して、再び構えを取る。
ふむ、もしかしてあのサーヴァントは――。
「そらよ!!」
「む?」
折り鶴を投げつけ飛行させ――ぶつける。ぶつけ、爆発させる前に魔力弾で迎撃されるがそのとき、敵サーヴァントが呟いたことが何よりもそのクラスの証明になった。
「ふん、呪術か。随分と小癪なマネを……あんな乱造魔術を使うなど恥を知れ!」
「なに怒ってるのよ」
「あんなに酷い魔術を見たことが初めてだ!なんと言うゲテモノ!なんと言う神秘の無駄遣いか!」
「無駄遣いはないだろ!アレでも必死に考えて研鑽した魔術なんだぞ」
「はあ!?……あの程度のものに研鑽を尽くすだと!?馬鹿だろ貴様!?あんなもの子供ですら分かるほどの適当さだぞ!」
「俺だってさぁ!あんな時間をやたらに食うだけの代物使いたくねぇよ!工房作れねぇんだから仕方ねーだろうが!」
「わ、私は綺麗だと思うわよ!だから泣かないでマスター!?」
「な、泣いてねーし!」
ちょっと目に塩水入っただけだからそれ以外のなにものでもないから!ホント、勘違いしないでよね!
「塩水って……もう少しいい言い訳はなかったの?」
「言うな!!…………まーアレだ」
「ドレよ」
「相手のサーヴァントのクラスが分かった」
「――ほう?言うじゃないか?」
そう――先程のやり取りをこなせるのはたった一つのクラスが当てはまるだろう。まず、俺の混沌魔術を見抜いたことだ。折り鶴を爆発させる前に呪術と見抜いた上にどういうものか完全に理解していた。まあ、それだけなら他のクラスでもあり得そうだが何よりも――魔術に対してプライドを持っていることを言葉の端々に気づいた。故に該当するクラスは―――。
「――キャスターだな」
「でしょうね、魔力弾撃ってきたし」
「クハハハハ、ああその通り。俺のクラスはキャスターだ……だが、しかし――貴様は一体何者だ?精々その白槍が関係してそうだが」
こちらを鋭い目で見てくるキャスター。
「ねぇ、あのサーヴァントってセイバーって話じゃなかったっけ?」
「――アレを見ろマスター。明らかに神造兵器だぞ……神造兵器をぽんぽん持ってるとは考えにくいしな。恐らくだが、アレが関係してるんだろう」
そんな会話をしているウチに、セラフからのお達しが来て戦闘が強制終了した。戦闘ほとんどしてなかったけど。
「ふむ、興ざめだがどうするマスター」
「帰るわよ!」
「あいよ」
そう言ってリターンクリスタルを使って撤退していった。
*
――――――マイルーム
「なんかぐだったけどなんとかクラスは分かったな」
「ええ。さすが……って言って良いのかしら」
なんだか微妙な顔をしてライダーは言うが、もはや俺は気にしていない。結構年月掛けて開発した魔術を一笑に付されたが。ゲテモノとか言いやがったが。
「すごく気にしてるじゃない」
気にして無いったら気にして無いのだ。
「はあ……ま、いいわ」
呆れてため息を一つ。そして話題を切り替えた。
「で、聞きたいんだけど。コーヘイ、なんか気づかなかった?」
「ん?なにに?」
「あのマスターについてよ」
「あー、男嫌いって割にはってことか?」
「そう。キャスターは平気だったし、なんて言うか男嫌いっていうにはそんな雰囲気には見えなかったのよね」
「まー確かに」
彼女――ヴェル・マージンは男嫌いと言う割にはあまり嫌がっていなかったように思う。目も何度か合ったし。特にキャスターとの漫才は仲の良さを窺わせるものだった。ひょっとしたら、最初こそ険悪だったが、何度も共に戦ったのだから何かしらの拍子に好意に変わったのかもしれない。
「それなんてラブコメ?」
「――イケメン死すべし、慈悲はない」
やたらとキャスターの顔が整っていたことを思い出して、腹が立った。ああ言う優イケメンにはろくなヤツがいないのだ(偏見)
「何という厚い偏見………!」
「――そういやお前、男に扮していたんだよな」
「そ、そうだけど……なんか目が怖――」
「こんだけ綺麗な顔してんだ。さぞイケメンだった事だろう」
「き、綺麗なっ――」
「ファイヤー!!」
取り敢えずめちゃくちゃ八つ当たりした。主に脇下、胴体をこしょばした。
「ふはっ、ちょ、や、八つ当たりじゃ、なははっ、いの!?はははは!」
「そーれ、それそれ!ははっざまぁないぜ!!」
「こ、んの、ふふふ、覚えて、へへ、おきなさ、いひひ、よ!」
「はっはっは、全く聞こえんな!」
ふむ、止めると怒られそうなので倒れるまで続けることにした俺なのであった。
ああああああああ
イベントがーー!
ネロが!!ネロが!!(〇ピュタ感)