Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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 主人公を他者の視点からみるとラスボス臭しかしないんじゃが。視点書いて絶望した。
 なぜこうなった、何故こうなったッッ!
 最初は努力系、最弱主人公にしようと思っていたのにッ!


第五回戦 七日目 決戦

 

 

 目覚めてから、タイガー三時のお茶セット――まあ、ただのティーセットなのだが――で紅茶を入れてのむ。ふんわりと柔らかな甘さを持った香りが行き届く。起きがけにはちょうど良い。

 

 紅茶を飲んだ後、ライダーと共に軽い情報整理をすることにした。

 

 まずは自分の倒すことになるマスターの名から。

 

「ヴェル・マージン。石野の情報によればただのお嬢様ってところらしい。其処までの強敵ってわけじゃなさそうだ」

 

 マスターは大したことはなさそうだがそれを追って隠せるほどの存在が居る。

 

「つまりキャスターにさえ集中すればいい。あれはかなりの手練れ―――魔術師の中でもトップクラスの実力をもっているだろう」

 

 だからこそ真名がさっぱり浮かばないと言うのが信じられない。

 

 そのキャスターの特徴と言えば―――。

 

「あの空間転移。魔術の中でも現代の魔術師じゃまず出来ない代物――神代のそれだ」

 

 アリーナ――ハンティングでは敗北の目を見たが、その大きな要因の一つとしてこの空間移動が上げられる。

 

「あの水蒸気をまいて擬似的な魔術工房へとアリーナ全体を変えたやり方からして魔術のレパートリーも豊富だろうな。それに――あの宝具かスキルか分からんが」

「私の攻撃が避けられたヤツね」

 

 そうライダーの攻撃をことごとく躱すに至ったキャスターの宝具かも知れないモノ。次元を超えて影響を与えるとされるライダーの宝具を躱したのだ。アレが宝具だと考えてもいいかもしれない。

 

 魔術に関して人並み以上に誇りも持っていた。

 そしてそんな魔術師であるキャスターであるが嫌いなものがあった。

 それは――――。

 

「――キリスト教ね。珍しく神じゃなくてキリスト教だけを恨んでいたようだったけど」

「ああ、だからこそイスラム教やユダヤ教に関する英雄かと思った――でも違った。ネロ帝って可能性もあるけどな」

 

 結局絞り切れない。ローマ圏の英雄だとは思うのだが。ふむ。

 

「やっぱぶっつけで暴くしかない」

「そのようね」

 

 ライダーと俺は立ち上がり、昇降機のある言峰の元へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

――――――用具室前

 

 いつものように言峰と顔をあわせ、精神を逆撫でするかのような声とセリフを聞きながら昇降機(エレベーター)の中に入る。

 言峰の言うささやかな幸運とやらがどんなものか知れていると言うのもあるが。つくづくこの外道神父が敵マスターでなくてよかった。

 

 乗り込めばズンと重たい音を立てて扉が閉まる。昇降機が駆動し始め下降を始める。

 

 暗がりが少しずつ晴れてきて、透き通った障壁の奥に誰かが居るのが分かる―――対戦相手、ヴェル・マージンである。

 

「ふ、まさか君のような小娘がかの―――チンギス・ハンで合ったとは少々びっくりだ」

 

 やはり、暴かれていたか。

 

「ま、真名を暴いたのは、ウチのマスターなんだけどネ!」

 

 明確な情報を手に入れたとは言え、あれだけの情報からライダーの真名を当てるとは。ふむ、強敵にはなり得ないという認識を変える必要があるか。

 

「キャスターはそっちには疎いから必然的に磨かれたってだけよ」

「とまあ、こっちはサーヴァントの真名にまでたどり着いたが―――そっちはどうかね?」

 

 ふむ、この質問には―――。

 

「さあ、どうだろうね」

 

 おどけて返してみせる。ついでとばかりに聞きたい事を聞こう。

 

「ふーん……そうくるのか」

「魔術師の大先輩に聞きたいことがあるんだけどさ……」

「おっなんだい、なんだい?」

「……キャスター乗せられないで」

「良いじゃないか――後輩のたのみだよ?聞くくらいは良いじゃない?」

「はあ……好きにしてちょうだい」

「じゃ、改めて―――なんでキリスト教が嫌いなんだ?」

 

 瞬間、世界が停止したかの様な錯覚を覚えた。そこにいるキャスターの仕業というか、キャスターから放たれる威圧感である。そんな威圧感を放ちながら本人は笑顔のままなのだから違和感もひとしおである。

 

「いや、キリスト自体は嫌いじゃないよ―――教義自体も分かりやすいし」

 

 ならば何故、そこまでの威圧感を出すのか。嫌っている証拠ではなかろうか。そこから話を広げようと苦心したが頑なに答えようとしなかった。ついには落ち着かれてしまって不可能になった。

 

「……そろそろ決戦場ね」

 

 どうやら時間切れのようだ―――これはまずい。真名が分からない以上あの宝具の攻略が出来やしない。

 

 

 ズンと音がする。決戦場についたようだ。

 

 

 

 

 決戦となるフィールドはまさしく渓谷そのもの。緑が生い茂った場所だった。山奥にしかないだろう――人工構造物の中で生活するようになった人類はこんな光景を目にすることはまれになっている。

 

「ほう、なかなか決戦としては悪くない雰囲気じゃないか。そう、デート場所にはもってこいだな―――あいたっ」

「いきなり何言ってんのよ、もう決戦よ。気を引き締めなさい」

「ハッ、俺の真名を暴いかれてない以上――負けなんてないよ。お前はそれをよく知っているだろう?」

 

 ヴェル・マージンは少し逡巡してすぐに結論を出した。

 

「―――そうね、もはや相手マスターは恐れるには足りないわ。存分にやりなさい、キャスター!」

「おうともさ――!」

 

 キャスターの身体の周りに魔術式が展開される―――準備万端のようだ。

 ライダーもまた戦場の空気に呼応するかのように構えをとる。

 

「マスター、貴方はなせることを成せ――それが勝利に繋がると余は信じている」

「ああ、まかせろ――その間辛いと思うが」

 

 俺の心配を切り払うように彼女は口調を少女のモノにして―――。

 

「ふ――それこそなにも言わず信じて欲しいところ何だけどなあ」

「愚問だったな―――ライダー、解決策が思いつくまで凌ぎきってくれ」

「よかろう――その信頼に応えるぞ!」

 

 

「貴殿がいかような出身か真名を知らぬ故そしりようがないが、何かしらの王などに身を置いたこともないだろう?」

「肯定だ――侵略王よ」

 

 ライダーは眉をひそめキャスターに問う。

 

「侵略王だと?」

「さよう―――かのイスカンダルが征服王なれば侵略王の名こそお前に相応しいだろう。いや、虐殺王か?ちなみにこの素晴らしいネーミングセンスは我がマスターの命名だ。才能豊富すぎだよネ!」

 

 キャスターに向けられてた鋭い視線がヴェルのほうへとギュンと向けられる。余りにも鋭い眼差しで見られたのだろう。身がこわばっている。

 

「ハハハハッ!そう構えるな小娘!この余にあだ名とは――なかなかいいセンスをしているな?」

 

 笑っているが笑っていない。ライダーの顔を見た訳ではないのに何故かそう思った。

 

「だが―――どうせなら殲滅皇帝にせい!!!」

 

 まさかの!そこで張り合うのか!(困惑)

 

 

「はあ――行くぞ。ライダー!凌ぎきってくれ!」

「ええ、勝利を貴方に―――!」

 

「キャスター端から全力で――!」

「承った。我が魔術の真価を知れ―――!」

 

 

 ――――――Sword,or Death

 

 

 互いのサーヴァントの姿が消え中心で衝突する。真っ向勝負だ。

 

「チ――」

 

 舌打ちを放ったのはライダーだ、一発目からスカったようだ。通常攻撃すべて避けられるってことか。

 

「フハハハハハ!!!受けてみろ!」

 

 空に浮かんだキャスターが大量の魔術式を展開している。何という砲門の数か―――。

 連続して放たれた魔力弾――もはやビームといって良いほどのものが、引っ切りなしに飛んでくる。ライダーはソレをなんとなしに避け、よけきれないもの、苦しいものを真紅の剣、レーヴァテインで弾いていく。

 

 ライダーと目線が合う。こちらは大丈夫、そんな意志を伝えてくる瞳だった。

 

 

 では―――遠慮無く。せっかくライダーが稼いでくれた時間だ。それに今でこそ凌げているが、どちらにせよこのままではジリ貧だ。

 彼女の体力が削られないうちに真名を暴いて対策を立てる。

 

 

 思考を身のうちに沈めていく。外界の影響をことごとくカットしていく。感情も排していく。

 やがて無音にまで成ったところで―――思考を始める。

 

「キーワードは三つ、一つは――魔術師としての誇り」

 

 俺の使う混沌魔術をなんと評していたか―――乱造魔術、おまけにゲテモノと。そこまで言えるのは魔道に身を落としたもののみ、故キャスターと俺は判断した。彼も――クラス名にはこだわっていないようだったし、合っているだろう。

 

「二つ目は――キリスト嫌い」

 

 石野の情報から得たものだ。確かに昇降機で聞いたときただならぬ威圧感を発してきた。キリスト教関係でなにか合ったのは間違いない。だが、本人はキリスト自体に対しては嫌悪を抱いていないと言っていた。教義もまた受け入れられる代物だとも。恐らくこのキーワードこそ、キャスターの真名に直結するのだろう。

 

 

「三つ目は―――宝具」

 

 正確には、次元すら焼き切るとされた宝具《レーヴァテイン》を透過して避けたと言うことだ。ダメージが全く入らなかったとすると、身体を次元をずらしておいているのかとライダーは考えたようだが、それも違うようだ。もはやその域のものは宝具としか呼べない。いや宝具でなかったなら、本格的に手がつむ。ならば、真名を暴き、宝具を特定すれば―――逆転の目はある。

 

 

 キリスト教嫌い――いや、彼の言葉を信じるならばキリスト関係で何かあっただけで、キリスト自体も――教義も嫌ってはいなかった。

 これはどう言った事を差すのか。思考を巡らせろ―――。

 

 

「待てよ……キリストは嫌いじゃない?」

 

 何かが引っかかった。確かな違和感が其処にはあった。

 キャスターの言葉をもう一度頭の中で再生してみる。

 

()()()()()は別にいる?」

 

 そんな風にはとらえられないだろうか。

 

 一体誰なんだ、その人物は―――。キリスト教に関する言葉を巡っていく。聖杯、一神教、教義、ヨハネ、マタイの福音書、etc.…。

 

 

 思考を巡らせば、あるワードが脳裏をよぎる。そのワードとは―――。

 

「使徒―――ペテロ」

 

 使徒ペテロはキリストの第一の弟子である。湖畔で兄弟と漁をしていたところイエス・キリストによって見いだされた人物である。そしてこのワードが引っかかったのは理由がある。この人物を恨む誰かを私は知っているのだ。ペテロについては聖書で大きく語られている。

 

「まさかキャスターは聖書関連の人物なのか……!?」

 

 だとするならば―――いや、もはやキャスターの真名が分かったも同然である。そして―――あの無敵を振る舞っていた宝具の攻略法も―――やたらと真名を気にしているとは思ったが―――なるほど。

 

 ライダーに目を向ければもはや満身創痍であった。しのぎ続けたとは言え、時間をかけすぎたようだ。

 

「ライダー!」

「くっぅ―――」

 

 俺の手前まで後退させ治癒魔術――コードキャストを使う。

 ライダーにへばりついていた苦悶の表情を和らげることができたようだ。

 

「すまぬ、マスター、少々まずった」

 

 全身についた傷を全てとは行かないが治す。が、蓄積されたダメージは深く残っており時間があればまだしも戦闘中では――満足には直せない。

 

 ライダーに必要な事だけを伝える。

 

「朗報だぞ――ライダー。アイツの真名が分かった。ついでに、あの宝具の攻略もな」

「フフっ、こほっ、遅かったじゃない。どんだけ時間かけてんのよ」

 

 時間を確認すれば考え始めてから二十分も経過している。それだけの間一人で戦ってくれたのだ。

 

「悪い、待たせた」

「……別に、間に合ってるからいいわよ」

 

「もういいかい?作戦会議は十分にできたか?」

 

 ライダーをここまで追い詰めた元凶が出て来る――言わずもがなキャスターである。キャスターは空中に浮かびこちらを見下ろしている。

 

「ああ、十分だ――負けそうなんでね――ライダー!宝具の開帳を……!」

「ライダーの宝具を―――ああ、弓で打ち出すというあれか。ジャックの言っていた…!」

 

 なんか知らんが納得してくれたらしい。

 

「いいぞ……こい!絶望がみたいなら――思う存分見せてやる」

 

 あの自身を打ち崩せるのか不安になったのかライダーが俺を見る。

 

「大丈夫なのよ…ね?」

「それこそ…なにも言わず信じて欲しいところってね」

 

 ライダーが言った言葉を返してやる。ライダーはくすりと笑ってこう言った。

 

「ふふっ、ええ、愚問だったわね――」

 

 そう言って弓を構える。獣神の領域を侵略し、簒奪したモノ。その結果得た彼女の持つ第一の神造宝具。

 

「そう―――これこそは常世総てのモノを穿つ一矢なれば――『暁刻む一矢』(マニ・ラ・レーヴェ)!!!」

 

 放たれる一瞬に俺は声を挙げる。それはキャスターにだけ効果をもつ有名すぎる呪文。誰もが知っている物理基盤にすらなったもの。

 

「『人は空を飛べない!!主よ――!貴方の奇跡をココに!私の祈りを聞き届けたまえ!』」

「な……クッ――!」

 

 

 閃光が炸裂した。轟音が鳴り響く。

 塗り替えられた視界が戻ってくる。肌を焦がす熱風が吹きすさんだ。

 

 中心に倒れる人影―――キャスターだ。

 

「―――グぁ、まだ、だ」

 

 それが立ち上がる。身体を見れば分かる。もはや立つことすらまま成らぬほどのダメージが刻まれているはず。だが――それでも立ち上がった。

 

「オレは、まだ、負けるわけには、マスターを死なすわけには……はっグ――」

「ライダーとどめ射せ、弓で霊核を射貫け」

 

 ライダーは俺の命令に従ってキャスターの胸の位置にある霊核を射貫いた。

 

 

 赤い勝者と敗者を分ける壁が両者を遮った。

 

 霊核を射貫かれてもなお立ち続ける―――英霊の意地、絶対に膝をつくものかという意志で溢れている。だが、そんな諦めの悪さを笑うように。消失《デリート》が始まる。

 

「ぐぅ――ああアアア!」

 

 幾多の痛みが与えれようと瞳はこちらを睨み付けたままで――。

 

「もう……いいよ、キャスター」

 

 そんな彼を止めるものが一人―――彼のマスターであるヴェルだ。

震えた……消失するという、死に直面した恐怖に抗いながら言葉を紡ぐ。

 

「なんで……何でヴェルが俺を止める!お前は、聖杯に、人生をやり直すんだって!お前はもう幸せになっていいはずなんだ――!オレが叶えるって約束したろ……今、叶えて――」

「もう、いいんだよ、キャスター……もう、いい、から」

 

 這うようにしてキャスターに近づくヴェル。あれだけの、崩壊していく身体で、あんな事をすれば激痛が奔るだろうに。

 俺はその――決死の行軍から目が離せなかった。

 

「ヴェ、ヴェル……」

 

 ずり、ずり、と身体を引きずってキャスターの元までたどり着く。キャスターはその時初めて膝を自分から折ってヴェル・マージンを抱え上げた。

 さながら愛しき―――。

 瞬間彼女がこちらに目を向けた。すぐにキャスターへ戻してしまったが。

 

 ぎゅっと誰かに手首を握られる。握られた手から視線を這わすと――ライダーにたどり着く。ライダーの臙脂色の瞳が濡れていた。

 

「行きましょう?」

「え?」

「ここからは彼女達の時間よ――」

「お、オイ!」

 

 彼女に手を引かれ昇降機へと乗せられる。そのまま扉が閉まり始めた。

 

 最後に彼女、ヴェルを見るとキャスターとなにか話しているようだった。キャスターの表情からは怨嗟が少しずつ抜けていき――扉が完全にしまった。

 

 もはやここからは中の様子は窺い知れまい。

 

 

 

 こうして俺の第五回戦が終了した。

 

 

 

 

 

 

 ゴウン、ゴウン、と音の鳴り響く昇降機の中。両者にあるのは沈黙。そんな沈黙をさくようにライダーに話しかける。

 

「なあ―――どうしてひっぱたんだ?」

「答える気はないわ、コーヘイ」

「なんでさ」

「何でもよ―――女の子の一世一代の告白を邪魔なんて出来るわけ無いじゃない……!」

 

 ライダーが後半なにやら言っていたようだが聞き取れなかった。原因を考えるなら、ヴェルと目が合って何か伝わったと考えられるだろうがさて―――。

 

 女心は明かさぬほうが身のためと聞くし。

 

 

 そう思った俺はこの件を考えるのをやめた。思考を明日の朝食へとスライドさせた。

 

 

 

 

 




 キャスターの真名は作中では言及してませんが聖書、ペテロ外伝でもおなじみのあの人です。ていうかキリスト関連の魔術師ってだけで頭に浮かぶけどネ!
 なので早い段階から分かった人も多いのでは?

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