Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第一回戦 三日目

第一回戦 三日目

 

 

 

 ――目を覚ます。ライダーを見れば、すでに起きていた。

 昨日話し合ったことを元に、情報収集を始めることにした。

 さしあたって向かう場所は図書室だ。

 

 

 

 図書室の中に入ると見知った後ろ姿を発見した。小動物めいた少女である。調べ物をしているのだろう。

 海魔についてから調べるか。と調べようようとしたとき、話しかけられた。

 

「あっ、あのっ!」

「なんだ?」

「はっ、反応してもらえた…」

 

 無視するだろうと思ったのか。話かけられれば答え返す。

 

「で?何のようだ?」

「その…、たっ太陽王って聞いたら誰を思い浮かべますか?」

 

 太陽王…。ふむ、昨日の彼女の対戦相手の自慢話にそんなワードがあったような気がする。

 しかし、太陽王という存在は以外に多い。まあ、一番の有名所は、ファラオ、といった太陽神を名乗ったエジプト王たちか。中でも有名なのは、オジマンディアス――ラムセス二世である。

 彼は、建築王などでも知られているが太陽王といったらこの人だろう。

 

「オジマンディアス――ラムセス二世だな」

「うーん…、やっぱりそうですよねぇ…。はあ…」

 

 どうやら期待した回答ではなかったらしい。

 

「というより、相手のサーヴァントの背格好をみなかったのか?使った武器、纏った衣服…は参考にはならないかもしれないが。少なくとも時代は類推できるはずだ。」

「えっとあの後、アリーナに向かって戦ったんですけど……」

 

 あの後とは、自慢話をされた後のことか。

 道理で、マイルームに向かう際にすれ違わなかったわけだ。

 アリーナに行くことになった経緯は、安い挑発にのせられたかららしい。

 

「私のサーヴァントは、私が侮辱されたことに腹を立てて…」

 

 ぶっ殺してやる!と意気込んでいたらしい。

 アリーナに入ってすぐに戦ったが、有用な情報は得れなかったと言う。

 

「で?相手のサーヴァントの使っていた武器はなんだ?」

「剣だよ。」

「グラディウスとかか?」

「ぐ…ぐらでぃうす?」

 

 近場の本棚から武器年鑑――武器図鑑を取り出す。

 ちなみに、グラディウスとは古代ローマの歩兵武器である。

 片刃か両刃か、剣といえども歴史がある。形が把握できれば、そこからおおまかではあるが、時代の絞りこみができるはずだ。なにせ相手は太陽王を名乗っている。時代さえわかるなら、真名にたどりつくこともできるだろう。

 

「私のサーヴァントがこれだって言ってます」

 

 そう言って指し示したのは、典型的なナイトソード。――中世、15世紀から17世紀に主に使われたものだ。ならば、その時代太陽王は一人だけだ。

 

「16世紀の生まれにして、太陽王と呼ばれたのはただ一人――ルイ14世だ。ブルボン朝第三代のフランス王国の国王だ」

 

「あっありがとうございます!これで、この戦いは希望があるかも…!」

 

 かなり苦悩していたようだ。まだ、宝具が分かっていないのだが。

 まあ、十中八九ベルサイユ宮殿がらみだろう。

 

「そういえば!自己紹介まだでしたよね!」

 

 興奮冷めやらぬといった顔で続ける。確かに彼女の名前を聞いていなかった。

 

「私の名前は、エリカ・キーストンです。十七歳で、出身はイタリアです!よろしくお願いします」

 

と彼女はぺこりとおじぎ。あごのラインから肩にかかるほどの長さの髪――ミディアムと呼ばれる髪型――が魅力的に揺れていた。

 

「俺の名前は、火々乃 晃平。二十歳。出身は日本。よろしく」

「はい!よろしくお願いしますね!コーヘイさん!」

 

 そして、図書室から退出していった。

 

 かなりの時間をくったが、調べ物を再開する。

 

 

 あの蛸とヒトデが合体したような外見をしている海魔。調べてみたのはいいが、たいした情報は手にはいらなかった。

 しかし、魔術師としての見解だが、海魔とはいえ、一体でも召喚するとなればかなりの魔力を食うはずである。しかも50以上の海魔をだ。たとえNPCをソースにしたところでえれるものは、まして50もの海魔を運営するにはとても足りない。そこにもカラクリがありそうだ。

 

 図書室を出れば、あと少し夕方だとわかった。購買――食堂で少し休憩してからアリーナへと向かうことにした。

 

 

一度踏破したため一層のマッピッングは終わっている。

 

「今回は、サーヴァントも海魔もいないみたいね」

 

と言うとライダーは、隣に騎馬を出現させた。

その背にひらりと飛び乗るライダー。

 

「よーしよし、いい子ね」

 

すると彼女はこちらに手をさしのべる。つかめ、ということらしい。

手をつかむと、ぐいっと俺の背より高い騎馬の上に引き上げられる。

 

「いくわよ。振り落とされないようつかみなさい!」

「俺、乗馬経験ないんだが。というか何処を掴めと」

「腰にきまってるでしょ。他にどこつかむのよ」

 

 胸ですが?とはいえない。振り落とされたら即死である。

 ライダーの細い腰に背をまわす。あと胸さえあれば完璧なのに。

 あれ、これ危ない絵面になってない?

 華奢な少女に背後から抱きつく形。通報待ったなしである。

 が、ライダーはこちらを知ってか知らずか、いきなり馬を走らせた。

 右手に白槍を持ち左手で手綱を操る。三国志の英雄か何かか!?

 馬を走らせながら、通り過ぎ様にエネミーを切り捨てていく。だから三国志の英雄か!

 

「あはははははっ!最っ高!やっぱりライダーは馬なきゃだめよ!馬なきゃ!」

 

 ライダーは、今までにないくらいの満面の笑みを浮かべながら駆けているだろうと予測のつく声色。だが、とうの俺はライダーに抱きついているしかない。何せ揺れる揺れる。さらに、速度がかなりでている。カーブなんて遠心力で吹っ飛んでいきそうになる。

 抱きつくというより、もはやしがみついているといったほうがいい。

 

「あああああああぁあぁあぁあぁあぁ!!!!」

「どう、コーヘイ楽しんでるぅ!!」

 

 死ぬぅ!死んじゃうぅ!死んでしまうぅ!

 ああ、悲しきかな。ライダーに伝えるすべはない。

 今の俺の状況を例えるなら、戦闘機に張り付いて飛んでいるようなもの。

 地獄は、ここだったか。

 

「ヒャッほーいっ!まだまだ行くわよっ!」

 

 まだまだ、俺の地獄は終わらないようだ。

 

 

 

 

 マイルームで俺は座ったまま呆けていた。安全バーなしのジェットコースターに何時間も拘束されていたのだ。後半から悟り、明鏡止水の一滴をみてしまった感がある。簡単にいって無我の境地に達してしまったのだ。頭の中がひどくクリアだ。

 

「ごっ、ごめんなさい!ちょっと、はしゃぎすぎちゃったみたい。」

 

 ちょっと?明らかに、はしゃぎすぎていただろう。

 馬に乗ってテンションが上がったのは、まだわかる。

 しかしだ。マスターである俺をおざなりにしすぎではなかろうか。

 

「はしゃぐにしたって限度があるあるだろう…。」

「だってぇ!」

「だってじゃない!」

 

 子供か!

 

「でも、エネミーを倒しまくったし、おかげでお金もたまったじゃない。」

 

 確かにそうではある。エネミーからは程度の差はあるがお金――PPTが手にはいる。第一層のエネミーからは、だいたい90PPT手にはいる。

 では、今俺の所持金は一体いくらなのか。

 

 

 

 

 

 

 60987PTTである。ちなみに昨日の所持金額は、678PTTである。

 これだけで、どれだけ悲惨な目にあっていたかわかるはずだ。

 単純計算で、エネミーを670体以上である。

 獲得経験値は、エネミー一体当たり13である。つまり、今回獲得した経験値は8710である。地味にライダーのレベルもあがっている。教会にいけば、パラメータアップが見込めるだろう。そこは、喜べる。が、それとこれとは別である。

 

 もはや馬禁止令を出すレベルだ。

 

「それだけはやめてぇ!」

 

 目に涙をためて、彼女は言った。

 どうやら、口に出ていたようだ。

 まあ、PTTはたまっているし、経験値は大量にある。流石に、馬禁止令はやりすぎか。

 

「次は、直してくれよ」

「うん、次は気を付ける」

 

 そう言ってライダーは、目に溜まっていた涙を拭った。そこまで、いやだったのか。

今にも泣きそうな顔をしていたので、すぐ思い直し答えたが、罪悪感がすごい。

なーかせたなーかせた、と歌がきこえる幻聴がきこえるような気分にさせられる。

 

 ふう、しかし本当に疲れた。

 

「ライダーって本当に馬好きなんだな。」

「ええ、大好きよ。」

 

と答える顔は満面の笑み。どんな花も彼女の笑顔の前には、恥じらいを覚えるというものだ。

 

 むしろ恥じらうライダーの姿を想像してみる。あれ、かわいくね?

 

「私に、馬ってのは特別な動物だもの。」

 

 そういう彼女がやけに綺麗にみえた。その顔に切なさを見たからだろうか。

 

 

「そういえば、マスターに家族はいるの?」

「ああ。いるぞ」

「兄弟はいる?」

「妹がいるな」

「えっ!妹さんがいるの!ひょっとして妹さんも魔術師?」

「いや、妹は平穏に学生生活を送ってるよ。というか、親も一般人だよ」

「え?じゃあどうやって魔術師に?」

 

 ライダーの疑問ももっともだ。そも魔術師――メイガスは、血を重ねることで魔術回路を子に継承させる。ゆえに、俺が魔術師ならば親も魔術師でなくてはおかしい。

 

「母方の親が魔術師だったんだ。母親には姉がいてそっちが魔術師を引き継いだ。でも、突然死したらしくて、魔術刻印を受け継ぐ人間が必要だったらしい。まあ、俺で、丁度20代目なんだけどな。そんなこんなで、白羽の矢が立ったんだ。で、そのままとんとん拍子で魔術師の仲間いりさ」

 

 俺の記憶ではこうだが、この世界では矛盾が生じる。

 2000年には魔術を習っていたが、

 魔力枯渇現象なんてものが記憶にある限りおこったことはない。そもそも起こっていたらメイガスになれるはずもない。

 

「得意な魔術とかあるの?」

「主に使う魔術は、混沌魔術。まあ、半分以上呪術みたいなもんだけど。」

「へぇ。使ってるところ見たかったなぁ。」

「しばらくまっとけ。実践には向かないけどこっちでも、見せられるくらいにはしとくよ。」

 

 

 図書館で調べた結果、メイガスとウィザードの違いは、行使する魔術が魔力を使った神秘か、魂を量子化して電脳世界に干渉するかの違いだけである。魔術理論自体も利用できる。魔術基板も問題はない。コードキャストとはまったく違う形で再現することが可能だろう。もっとも、そこまでのものにするのには、かなりの時間を消費することになるだろうが。

 

 

 

 

 だいたい話すこともなくなり、明日に備えて寝ることにした。

 

 

 ――いよいよ明日には第二暗号鍵が生成される

 

 ――妨害も予想される

 

 ――戦いは激しさを増すだろう

 

眠っているライダーをみる。

 

――いまだに、真名がまったく想像つかないが

 

――彼女となら、生き残れるかもしれない

 

 




やっとチラチラでてた小動物めいた少女の名前が登場!


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