Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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今回は――長いぞ。


第六回戦 二日目

 

 

 ―――夢を見ている。

 

 

 

 

 俺の前には雄大さを見せつけてくる、地平線さえ見える平原にいた。

 目下には夥しい数の人、いや騎兵か、がいた。

 

 そこで俺は気づいた―――これはライダーの夢なのだと。

 

 

 

『―――時は来た』

 

 

 尊大さをにじませた声が響き渡る――彼女、チンギス・ハンの声だ。

 

 

『相手はタタール――偉大な我が父を奪った討ち滅ぼすべき敵である』

 

 

 怒り。声色だけで体がこわばる。目下の兵達の顔はそんな俺の気分とは裏腹に獰猛な笑みを浮かべている。すげーなオイ。

 

 きっとこの後の言葉を予想していたからだろう。

 

 

『問おう者共!!倒すべき、殺すべき、討ち果たすべき敵からはどうするものだ!!』

 

 

 ライダーの問いに対して十万は超えるだろう兵達がそろって同じ言葉をもって答える。

 

 

『略奪!!』

『それだけか?』

『虐殺!!』

『それだけか?』

『塵殺!!』

『その通りである!!敵からは徹底的に略奪し、虐殺し塵殺するもの!まして我が父を殺したのだから!』

 

 ―――プロパガンダ、あるいはこれから行われる凄惨な、まさしく地獄を作り上げる者達の正当化。

 

『女は!!』

『奪え!!』

『男は!!』

『殺せ!!』

『金銭は!!』

『山分け!!』

『それ以外は!!!』

『踏みにじれ!!!』

 

 怒声。世界が、大気が震えている。兵共は高揚し、今にも飛びださんとしているかのようだ―――高まりは最高潮を迎えている。

 

 

 だが彼女の言葉で大気を揺らすざわめきはす、と止まる。

 

 

 

『――であるならば』

 

 

 

 同時に兵達は自分の持つ高揚を、熱を自身の中で今か今かと増幅させている。

 彼女は切っ先―――レーヴァテインとは違うもの、それも良くある普通の剣を掲げ、前方へと指し示す。

 

 

『殲滅せよ―――!!!』

 

 

 その言葉が放たれるのと共に、十万を超える騎兵が、地を覆うがごとく、まさしく地の津波と化して、うねり、一様に向っていく―――。

 

 

『ウオオオオオオ!!!!』

 

 

 大地を踏み荒らしていく数多の蹄。轟音は竜の咆吼のようにさえ思える。聞くだけで絶望感が煽られる――地に響く咆吼。

 

 

 

 

 向う先には―――何も残りはすまい。

 

 

 

***

 

 

 

 ―――目が、覚めた。

 昨日は何があったのだったか、思い出そうとする。もの凄い夢を見たせいか動揺しているようだ。

 隣で眠るライダーの顔を見て、確か昨日は倒れたライダーの霊基を直すために保健室や教会を走ったりしたのだったと思い出す。

 

 時間は――十時頃を指し示している。むう、少々疲れも相まって眠り過ぎたか。

 

「しかし、あの夢は――」

 

 恐らく、フルンボイル――現在の中華人民共和国の内モンゴル自治区内に含まれる土地――で行われた野戦前の光景だろう。

 夢の中での彼女はまさしく後の略奪王としての姿を見せていた。あの何万と言う騎兵――大地の津波。思い出すだけで震えが来るほどだ。

 

 彼女はフルンボイルで行われた戦いによって世界に名を知らしめる帝王へと大躍進を遂げる。彼女の名乗るハン、あるいはカーンはモンゴル皇帝の称号を指す。夢では、彼女は正しくカーン(皇帝)だった。

 

 こう、いつも同衾してくるようなライダーからは考えもつかない姿だった。

 

 

「起きろライダー」

「後五……」

 

 使い回されたセリフを言う前に寝やがった。

 

 

***

 

 

 何とかライダーを起こすことに成功した。

 

「うん、体調はある程度良くなったみたい」

「……はぁ、そいつはよかった」

 

 俺は若干疲れたが。

 ライダーは体の調子を確かめるためか、伸びをしたりし始めた。すると途端、改まった態度を取り始めた。

 

「えっと、その、昨日はお世話になりました」

「……女の隠し事は何とやらとは言うがな――この隠し事はだめだろ」

「あぅ」

 

 『全て灼き滅ぼす勝利の剣(レーヴァテイン)』―――ライダーに取っての至高の、未来の果てに手に入れる宝具。それを使うたびに彼女には凄まじい負担が掛かっていたのだ。

 

「倒れたのが戦闘してるさなかで無かったから未だしも―――戦闘中に倒れたらどうしるんだ」

「すみませんでした……特に考えて居ませんでした」

 

 考えていなかったのか(困惑)。

 

「まあ、お前の体調の変化に気づけなかったのは俺の注意が足りなかった、と言えるだろうが―――」

 

 しかしこれは尋ねなくてはならない。

 

「なんで俺に言わなかったライダー」

 

 ライダーは俺から露骨に目をそらした。オイ、こっち見ろオイ。

 単にそんなデメリットがあることを知らなかった?いやそんなはずはない。彼女は普段こそアレではあるが聡明だ。第一回戦の時点で気づいたはずなのだ。

 しからば単に――――俺の信頼が足りなかったか。

 

 

「えっと……なんて言うか…」

 

 何やら言いよどんでいる様だが言うなら早く言って欲しい。お前が信用出来ないのだと。

 

「うぅ――――その、言いたくなかったケド…」

 

 ああ、やはり俺が信用――――。

 

「み、見栄よ……」

 

 ――出来ない……ん?

 今なんといったか。

 

「も、もう!見栄って言ったの!」

「は?」

「だから言いたく無かったのよ…!」

 

 思わずぽかーんと口を開け呆けてしまう

「み、見栄?見栄を張った?と言うことか。え?なんで?」

「だ、だって最強のサーヴァント~なんて言っておきながら実は面倒なデメリットがあったとか、話そうにもタイミングがなかったし……契約考え直されるかもしれないし」

 

 流石にその程度の事で、契約を切りはしない。アーチャー――アタランテとも仮とは言え契約はしていたから、少し不安になったのかもしれない。

 

「あの宝具――『全て灼き尽くす勝利の剣(レーヴァテイン)』は未来の私の物。今の私の未熟な霊基じゃ上手く運用出来ないのよ。たぶんそれが原因ね」

 

 それも対界宝具とあらば、掛かる負担は考えるまでもないか。

 最強とか言っておきながら、宝具発動にデメリットがあったとあれば少々恥ずかしいのもわかる。なにせ宝具とは英霊の真価そのものなのだし。だが。だがそれでも、言って欲しかった。どれだけ心配したと思っているのか。

 

「はぁ……この話は、一端終わりだ。今日の事に話を戻すぞ。昨日、お前が倒れた後、第一暗号鍵を手に入れたが―――彼奴ら、アサシン陣営は必ずアリーナに来る」

「その根拠は?」

「彼奴らは俺たちに鍵を取らせまいとアリーナをハッキングして通路を塞いでいた。俺たちが力業でこじ開けるとは思わなかっただろうし。必ずアリーナに足を運ぶことだろう」

 

 アサシン陣営は、ライダーの情報を得るためにあんなことをしたのだろう。むしろそれ以外に考えつかない。前回のマスターのように俺に対する同盟関係には入っていないようだしな。

 

「じゃあ、そうと決まればさっさと行きましょう!」

 

 

 

 

――――――アリーナ

 

 

 そんなこんなでアリーナに来た。

 

「マスターの推測通り、アサシン陣営も来てるみたい」

「なら、一気に近づいて―――」

 

 奇襲を仕掛け、そう言おうとして止める。何故なら背筋に悪寒が走ったから――濃厚な殺気を受けてのそれだと直感する。

 

「ライダー!」

「任せて!」

 

 素早くライダーが俺の前に立ち、白槍で打ち払う。

 弾丸?

 続けて破裂音が響いて伝わってくる…!まさか、銃撃!?

 

「ライダー!千里眼で銃声の響いてきた方向をみてくれ」

 

 即座にライダーの皇帝特権で千里眼を使用させ確認する。

 

「あれは…マスター―――ジョージなんとかってヤツね。そいつが銃でこっちを狙ったみたい」

 

 銃……しかもこの距離からの狙撃だ。と成れば使ってるものはスナイパーライフルだろう。しかし狙撃手がまさかのマスターの方だったか。サーヴァントのほうであれば、真名への手がかりになったのかも知れないのだが。

 

「じゃ、リロード終わらす前にこっちからやり返しちゃうわね」

 

 アサシンで銃を使うなら――ん?

 思索の海にダイブしようとしたらライダーから妙な言葉を聞いた。

 ライダーはおもむろに弓を取り出し―――オイ、ちょっとまて。

 

「私の旦那(マスター)を狙ったのだから覚悟はしてるのでしょうし、これくらい挨拶よ。それに言うでしょう?銃を撃つ者は撃たれる覚悟があるだけとかなんとか―――ま、そんなわけで旦那(マスター)の静止をむしって―――どーん!」

 

 色々突っ込み所はあるが、静止の声むなしく、アーチャーの構えた弓から高出力の矢弾が射出される。一発だけ放たれたソレ―――魔力矢は空間をねじるように歪ませながら……マスターの居たであろう所に直撃した。

 ズドンと砲弾が直撃したような音。響き渡る轟音がその威力がどれほどか思い知らされる。

 

「ふーん。サーヴァントに喧嘩売るだけはあったんだ。結構威力込めたんだけど。マスターが防いだ?ううん…それは考えられないわね」

 

 どうやら防がれたらしい。しかし、防ぐと言ってもどうやって?サーヴァントのしかもかなり強力な一撃だったが。アサシンが防いだとはイメージ的に考えにくいし。

 

「一気に馬で距離を詰める!」

「わかったわ!!」

 

 ライダーが呼び出した馬に乗って距離を詰めるため走らせる。

 

 風のごとく走り出した馬は一分も立たないうちに迷宮の中腹を突破する。

 

 

 

 

 ――――が、突然目の前、地面から石柱が伏兵の槍のように突き出してきた。

 

「くっ…強く捕まってマスター!飛ぶわ!」

 

 強く踏み込み飛び上がり、そのまま空へとかけようとするが―――。

 

「なッ……!天井が降りてくる!?」

「前が塞がれて……後ろが塞がれる前に引き返す!」

 

 高く設定された天井が降りてき始めた。前方も石柱で塞がれている。

 

「ぐう……!マスター!ちょっと失礼するわよッ!」

「あ?―――うげッ」

 

 言うやいなや、俺の襟を掴んでライダーは馬からひとっ飛び。馬は―――幾多の石柱に貫かれた。

 あと少しライダーの脱出が遅ければあそこで同じように串刺しになっていたことだろう。

 

「助かった、ライ……ライダー?」

 

 ライダーは―――震えていた。それは周りが歪曲した様にすら見えるほどの――怒り、憤怒そのもの。烈火がごとき怒り一色のものであった。

 

 そこに敵マスター――ジョージなんとかの声が聞こえる。魔術で増幅した声。軽いエコーがかかって聞こえる。

 

『チ、殺せたのは馬だけか。わかったのはライダーって事くらいか。撤退するぞ、アサシン。何処にでもいる馬を殺せただけの成果だが、これ以上ここに居る意味はない』

「貴様がココにいる意味はあるぞ――」

『――ほう?それは?参考程度に聞こう』

 

 目をむき、殺意もむき出しにしたライダーがジョージ・とれ…とらい…なんとかに対して跳躍していった。

 しまったライダーは激昂しやすいんだった!大切にしていた馬が殺されたのは分かるがしかし、俺を置いていくことはないだろう……!まあ、サーヴァントはマスターの元にいるだろうが。

 それはライダーの攻撃を防いだことで分かっている。しかし、無防備にここで立っていると言うのも……。

 

 などと考えて居ると背筋に悪寒が走った。頭には敵の襲撃を知らせる警鐘(アラート)。柄も言わず身体を地面に押しつけるように回避行動を取れば―――さっき自分の居た場所を黒塗りの短刀が三つほど飛んでいった。

 

 ちょっとまて。

 

 思考が、直感が、ある事実を提唱し続ける―――まさか。

 振り返って襲撃犯の正体をみる――――当たって欲しくはなかったが。

 

「オイオイ、マジかよ。なに?ここまでが一つのトラップってことかね――――アサシンさんよ!」

 

 壁に突き刺さった短刀を引き抜いて――振り向きながら投げつける。

 金属音とともに弾かれてしまう。それは想定どおり。辺りを確認する。逃走の謀れそうな通路は―――アサシンの背後、そこのみ。

 

「つーかよ、アンタはいいのか?」

「……何がですか?」

「ウチのサーヴァントがアンタのマスターを殺しに行ってるぜ?早く向った方がいいんじゃ――」

「……それは貴方も同じ」

「おうふ……でも――――アサシン、お前は言うほど焦ってないようだが、マスターが心配じゃないのか?なにか策でも講じたのかね?」

 

 令呪でライダーを呼びもどすべきか?だが、今マスター殺しを行っているはず。もっとコイツの注意を引きつけて――俺が殺されるのが早いか、ジョージなんとかが死ぬのが早いかといったデスレースへしけ込む……だめだ、勝ち目が見えん。なにせ俺の目の前にはアサシンのサーヴァント。というか先からライダーからの応答がないのも気になる。

 

「……どうして」

 

 ん?

髑髏の仮面が小さく揺らぐ。

 

「――契約したサーヴァントが一人だけだと?」

 

 ぞっと悪寒が走る。脳で、直感で理解した。さっきからライダーと念話が伝わらないのも、アサシンの宝具とはイメージの違う石柱による攻撃―――あれは、どっちかと言えばキャスターのようなサーヴァントが使うイメージ―――などと考えている場合ではない!目の前には自身を殺そうとするサーヴァントがいるというのに悠長に考える暇があるものか!

 

「なので、援軍は期待できませんよ?」

「だが、こっちには令呪が――」

「ええ、それも対処済みらしいです。じゃなきゃ無駄になってしまいますし」

 

 アサシンから抑揚なく放たれる言葉。令呪が対処済み?ライダーと連絡がつかないのはそのせいか?なにか隔離されてる状況下にライダーが居るとすれば筋も通る。

 

 援軍は確かに期待出来ないらしい。

 

 

 じゃあ、どうするか。とれる選択肢は一つだが。

 

「じゃあ、殺しますね……」

「簡単に殺すとか―――作業感覚で言いやがってッ」

 

 向ってくるアサシンに向って上着を投げつける。バサリと広がる上着によってアサシンの視界は塞がれたはず―――そしてソレを問題視せず切り払うだろう。だが、其処に一つおまじない。視界を塞いだのは逃げる隙を造るだけじゃない。アサシンが切り払ったアクションに対処するために無数の折紙を展開する―――日々ちまちまと折って貯蔵してきたそれはもはや枚数も覚えていないほど膨大になっている。

 

 予測通りに切り裂かれた上着。途端折り鶴が展開し、アサシンの周りにまとわりつく。そのウザさたるや、夏の耳元を飛ぶ蚊のごとくである。ふはは、ザマァ。

 

 その間に脱兎のごとく逃げ出す。

 

「く……このっ…!」

 

 手に持った短刀で切っていくものの流石の量に苦戦しているようだ。

 

 

 なんだか軍隊アリに襲われているような有り様だったが、時間稼ぎをしている間にさっさと逃げてしまうことにする。

 

 五分ほど走ったあとで、まあ、少し気が引けるが―――そろそろ折り鶴の魔力が切れ始める。なので……燃やす。

 

「『紅葉のごとくも燃え上がれ(夢諸共燃えちまえ)』」

 

 ちらりと後ろを覗けば炎の柱が見える。まあ、あれだけの魔力(燃料)があれば当然か。一つ一つに残った魔力は少なくとも集まればえげつない量になるだろうし。

 

 ダメージは期待出来ないだろうが。サーヴァントに効果的なダメージは与えられないだろうし。

 

「ん?」

 

 次の仕込みをしようとしたところで、通路横に()()()()が現れた。

 

 そのモニターには―――ライダー?

 

「ライダーが……これは…戦っている?エネミーと、て数が尋常じゃないぞ、コレ!」

 

 まさにモンスターハウス。夥しい数のエネミーとライダーが交戦している。

 視界を周りに移せば、どうやら迷宮の通路に一つずつ壁に埋め込む形で出現したようだ。単なるハッキングとは考えにくい。これぐらいの大規模なものは―――サーヴァントによる、宝具によるものか!?

 

「なんてデタラメなッ――」

『っ―――マスター!?』

 

 俺の声にライダーが反応した!?これはライダーの戦っている何処かに繋がっているのか?

 

『無事だったのね!念話も繋がらなかったから……この邪魔っ!今マスターと話してるでしょうが!』

 

 なんだろう…このほっとするような残念だと思うような感情は。

 ばっこんとエネミーを片手間に吹き飛ばし、顔を向け―――焦り顔へと変わった。

 

『マスター、後ろ!』

 

 ―――間抜けか俺は!

 俺は今命を狙われている途中だろうが!このモニターを造ったのが相手方ならこちらの居場所なぞ丸わかりに―――。

 

「……見つけました。今度は逃がしません」

 

 チ、上着に仕込んだもの以外折り鶴は持ってない。どうする!?

 地面に仕込もうとしたのは即席のトラップだが途中で止まっている。完成させるには膝をついて仕込まなくてはならない。許さないな、アレは。

 

『前回のような失態は許さない、その男を宝具でもって殺せ!アサシン』

「…御意」

 

 逃げようと走り出すが。

 

「うぐァァァァア゛ア゛」

 

 右太ももに走る、熱いものと痛み。短刀は深々と突き刺さっている。アサシンの投げたソレが刺さったのだ。俺はよろけ通路端へ身体を預けるように移動する。

 

「……くそッ」

 

 通路を曲がれば石柱によって封鎖されていた。

 

 最初っから踊らされていたらしい。通路の奥へ行き背中を預けるようにして座る。

 

「グっ……はぁ……はぁ…」

 

 短刀を抜いて最期の抵抗とばかりに投げつける。

 まあ、むなしく弾かれた。

 

「……ここまでですね」

 

 ここまで?ここで―――こんな所で死ぬ……?あと()()()()()

 

 

 まだ……死ぬわけには、いかない!

 

 

 出来ることを集めろ。まだ、俺は死んでいない。最期まであがけ。

 

 数歩先までアサシンは近づいてきている。そんなアサシンに()()()()

 

「ガンド!」

 

 指先から放たれる緋色の呪いは――アサシンの意表を突けたのか、髑髏の仮面を吹き飛ばす。

 

「オイオイ、そんな可愛い顔してたのかよ」

 

 仮面から現れたのは十代後半らしい。可憐な素顔だった。

 二度目―――ガンドを放つがあっさりと避けられ、ガンドを放った手、左腕をアサシンに掴まれる。

 

 途端、激痛。

 

「グアアァァァ!!!」

『マスター!?』

 

 発火したように熱く、痛みを発し始める。軽く掴まれただけでこの激痛―――まさか毒か。近くのモニターからライダーの悲痛な声が聞こえてくる。

 ついで、抵抗しようとした右腕も掴まれる。俺の腕を拘束したまま、アサシンは身体を俺に擦りつけるようにして―――顔が近づいてくる。アサシンの女性的な身体から色香とともに毒が身体のあちこちを殺し始めているのを感じる。端正なアサシンの顔がだんだんと―――おいまて、まさか。

 

「熱く、熱く、蕩けるように。あなたの身体と心を―――」

 

 まずい、まずい、まずい!このまま唇を重ねられれば―――即死する!

 それだけは―――!

 

 抵抗むなしく、アサシンの体臭で肺すら焼けただれるのを感じながら、激痛に抗うも死が近づいてくる。

 

「――焼き尽くす。『妄信(ザバー)―――」

 

 ―――このまま―――死―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ほう……余のマスターの予想は当たっていたか?』

 

 

 そんな声が聞こえた。

 太もも―――短刀によって裂傷をうけた場所とは違うところが発熱する。なんだ?

 

 アサシンは危険を感じたのか俺から素早く離れた。

 

 

 視線を太もも―――ポケットのほうへ向け、激痛の奔る手で取り出す。

 

「これは……石野から貰った……」

 

 青かったフリッピーディスクのようなそれが赤く染まって発光していた。

 

「サーヴァント……!!」

 

 魔力が吹き荒れる。これは召喚……?

 フリッピーディスクから召喚術式の魔方陣が展開され――――大柄な身体が現れた。

 

「―――今日は……ほんと、驚かされるな」

 

 そこに居たのは―――

 

 

 

 

「マスター!」

 

 エネミーを片付けてマスターの元へたどりついた。

 

 そこには―――見覚えのある大男が一人、マスターの傍らに立っていた。

 

「せ、征服王……!?なんで――!?」

「おお―――久しいな、侵略王。ふむ、説明したいのは余とてやまやまなのだが――そこのマスターの容態がそれをゆるさん」

 

 征服王の後方に横たわっているマスターの元に駆け寄る。

 

「これは……」

「毒―――であろうよ。余のマスターもあのアサシンめの毒によって死にかけ―――いや、死んだ。同じ症状だぞ、それは。早く保健室なりで解毒して貰うといい。間に合えば死ぬことはあるまい。早くがよい」

「貴方は――?」

「ふ、意趣返し――と言いたいが精々、時間稼ぎで終わるだろうがな―――」

 

 マスターを運ぶ隙を造ってくれると言うなら、願ってもない話だ。何故ここに居るのかを含め色々聞きたい事もあるが―――。

 

「ごめんなさい……この借りは必ずッ」

 

 ()を呼び出して駆け出す。

 早く行かなくてはマスターが死んでしまうのだから。

 

 

 

「―――マスターに似て、あやつもまじめなヤツよ」

 

 見送るのをやめ、目線を前の敵に合わせる。

 

「ほれ出てこい!こっちを見ているのだろう!()()チャ()()!」

 

 するとアサシンの隣に魔方陣が展開され――一人の()()が姿を現す。その姿は余りにも―――。

 

「奇妙なものだ。あの侵略王が現れたとき、一瞬、貴様かと思ったぞ?」

 

 ライダー……テムジン、チンギス・ハンの姿にに似ていた。違いがあるとしたら――その色違いの服と少し盛り上がった一部だろうか。

 

「……見違うのは当然のことですよ、征服王。しかし、どうやって召喚されたのですか?貴方は前回死んだはずですが」

「殺されたのは余のマスターで余ではない。余がここに居るのはひとえに我がマスターの意地によるものよ―――こんな形で負けたくない。そして何より――」

「何より――?」

「貴様のマスターを止めたいというマスターの願いに応えるのはサーヴァントとして当然であろう?」

 

 

 ふふっとアーチャーは嘲笑する。

 

 

「でも貴方には、それは出来ないでしょう?魔力も、なにせマスターが居ないんですから。それで一体なにをしようというのです?」

「ブン殴ることは出来る――――世界の中心を誇り、祖先に理想(ゆめ)を抱いた王よ。だが、貴様在り方はただ歪んでいる。多くの物を作り上げながら、理想に近づくためだけに命を殺し尽くした大馬鹿者よ。どれだけの物を造っても貴様は満たされなかったのではないか?さしづめ『王の欲』の権化―――だが、それは唯、祖先に近づくために抱いたかりそめの物だ。ふん、笑いも出ぬわ」

「……言いたいことは言い終わりましたか?では――――死になさい!」

「――断る!」

 

 

 巨体に見合わぬ素早さで後退し、アーチャーの放つ魔力矢を避ける。

 

 

「ついで言い忘れたが―――貴様はあの侵略王のマスターを嫌悪している用だが、余から見ればお主も似たもの同士ぞ?」

「……っ!撤回しろ!あんなのと同じだと!?」

「無理だなぁ。なにせもうそろそろおいとまするのでな」

 

 

 そう言うライダー、征服王の身体は消滅し始めている。

 

 

「だがこれだけは喰らっていけ―――!」

 

 

 ライダーを中心に魔力の爆発。世界が塗り変わる―――即ち、固有結界。

 

 

「見よ、我が無双の軍勢を!」

 

 

 展開されたるは、晴れ渡る蒼穹に熱風吹き抜ける広大な荒野と大砂漠。果てから参陣するのは―――。

 

 

「肉体は滅び、その魂は英霊として『世界』に召し上げられて、それでもなお余に忠義する伝説の勇者たち。

 時空を超えて我が召喚に応じる永遠の朋友たち。

 彼らとの絆こそ我が至宝!我が王道!イスカンダルたる余が誇る最強宝具―――『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!!」

 

 

 ―――数十万の英霊が集結する――。

 

 

 




過去最長。

アサシン――はまあ、あの人です。

アーチャー一体何者なんだ!?(すっとぼけ)

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