――――目が覚めた。
視線を天井から時計へ移す―――午前8時。頭は眠気のせいか、ほんの少しぼやけている。
身体を起こし、周りを見渡す――ライダーは既に起きて何やらして……ふむ、香ばしいにおい。これは――まさか。彼女が料理を――?
視線を彼女の手元に向ければ其処にあったのは―――
「う~ん、上手くいかないわ。なんで、こう、私は料理スキルがないのかしら――他のハーンのスキルにもないし。まあハーンが自ら料理なんてしないのは自明の理なんだけど……」
「まあ、皇帝自ら料理するヤツなんてよっぽどの料理好きじゃないとな。料理する機会があったとしたら結構昔、鹿を狩って丸焼きにしたぐらいか」
―――見事な丸焼き――鹿の。まあ、腹に香草を詰め込んでいたりして香ばしく焼き上げられているのだから、十分とも思えるのだが――ライダーの理想からはほど遠いのかもしれない。主に普通の女子として振る舞うものじゃないしな、丸焼きは。
恐らく、食材を用意したはいいが、丸焼き意外に料理法が浮かばなかったのだろう。てか、なんで鹿一頭買ってんの?普通切れ身とかじゃね?
「そうそう、料理なんて知ってるのは
「さっきからだな――なんで鹿?お前、放牧民族だろ?羊とか、山羊だっているじゃないか」
「フ……いい?私はテムジンよ。部族の嫡子―――料理とか全然したことが、そもさせてくれないのよ、身分的に。でも、自分で狩ったものは別で自分で解体して、料理できたの」
「だから鹿か。なるほどな」
だが、何故に今日料理をしようと思ったのか―――そう尋ねようとしたが
「ま、時間も言い頃だし――朝ご飯にしましょ?」
「肉オンリーのか……」
「ちゃ、ちゃんとスーテイ・ボッダーだってあるわよ!」
「すーてい――?なんて?」
「だからスーテ……ああ、そうか。貴方にはなじみがなかったわね。ホラ――これ」
ライダーが差し出してきたのは―――これは、白い液体に何かの穀物、米?が入れられたものだった。
スプーンで掬って分かる――コレは乳粥だ。
「これは羊の乳に米を入れるだけだから簡単なのよ……私でも出来るくらいに!」
自虐するように彼女はいった。
なぜだか悲しくなった。
ライダーの手作り料理を味わった。
よくよく考えてみれば―――かのチンギス・ハンの手料理を味わえるとか、かなりスゴイ事なのではなかろうか?
味?美味しかったよ。
*
朝飯を食べた後、俺たちは教会へ向かい校内の廊下を歩いていた。
(ふふん、どうよ!意外に美味しかったでしょう)
「ああ、正直びっくりした」
霊体化したライダーからは自慢げな声。
簡単な調理の割には美味かった。肉食動物特有の肉の臭みが抑えられていた。下処理を丁寧にしていたのだろう。
羊の乳粥もまた美味い。食感がよく、味のバランスも良く整っていた。自身がない、とでも言うかのようなそぶりをしていたのが不思議なくらいだ。ライダーは乳に米を入れるだけだとか言っていたが、凝ったアレンジがされていたように思う。
鹿の肉を食った後に残る脂っこさを乳粥が舌の上の肉油を攫ってくれて、さっぱりと味を落ち着けていた。
(かなり気に入ってくれたみたいで嬉しいわ。……明日も、作ろっか?)
「そうだな……でもお前、他の料理作れなかったんじゃなかったか?」
(ぐぅ……で、でも私には皇帝特権が――)
「その皇帝特権が当てにならないって朝言って―――待て」
校舎から中庭――教会までの通り道――に出たところで前方に相手マスター――ジョージ・トレイセンが教会から出て来るのを見た。
ジョージはこちらには気づいていないようだ。その証拠に何やら会話している。
「―――だろうな」
『―――』
「しかし―――にわかに――がたいな。あの男がウィザードで――くメイガスだったとはな」
チ、舌打ちが出てしまう。所々聞き取れないが、どうやら俺の素性に気づかれたらしい。まあ、あれだけ大それたことをしでかしたのだ。相手にはサーヴァントがいる……気づかれるのは時間の問題だったというわけだ。
『――――』
「そう逸るな、―――に対して思うことがあるのは知っているが殺気――な」
『――――』
「それでもだ……あのチンギス―――に誇りを―――たい―――分かるとも言っている」
『―――――――』
「お前は【世界の中心の王】なんだ、―――事はない―――。それに―――だ。俺の願いも、お前の願いも叶うし、一石何とかだろう。――だったんだろう?かの―――」
そこでジョージは言葉を句切った。ジョージの視線が―――俺をとらえる。
え?なんで隠れてないの?
俺含め、残った参加者は四人。中庭に隠れることは出来なかった。他に人は居ないし、むしろ悪目立ちする。
「―――いつから見ていた……」
「そう、怒んなよ……こんな往来で立ち話してる方が悪い」
「フン……」
一理あると感じたのか―――鼻をならしてそのまま去って行った。行き先は―――当然アリーナだろう。
突然ライダーが霊体化を解いて話しかけてきた。
「…行っちゃったみたいだけどいいの?」
「―――あのアーチャーの真名には目処がついた……ジョージはサーヴァントの会話で【世界の中心の王】と言っていたな」
「ええ、そう言っていた……けど、それが?私の直系にはそんなものを称した子は―――まって」
どうやら、思い当たった。いや、気づいたらしい。そうだ、ソレこそがあのサーヴァントの正体―――。
「……答え合わせは、アリーナの後でだ。行くぞ、ライダー」
*
――――――アリーナ
第二層となるとアリーナの風景は上層と変わり、命満ちあふれる様子を受ける。まあ、俺が工房を張ったせいでより異質さが際立ってしまっている。
アリーナ内の工房に意識を巡らせる。工房内は俺の身体の内側の様な者。相手がどこに居るのか、たやすく分かる。
意識を巡らせれば―――第二暗号鍵の手前の部屋にいるようだ。
「ライダー……俺は――マスターを狙う。その間、アーチャーの時間稼ぎを頼む」
「それは良いけど……ピンチになったら令呪でよんで―――って、もういない!?ちょ、覚えていなさいよ―――!!」
*
何やら遠くからシャウトする声が聞こえた気がするが―――気のせいだな。
え?工房内のことは何でも分かるんじゃなかったのかって?……気にするな!
「チ―――また、この手か!」
「そう―――また、この手だ!」
前回と同じ方法で、分断を図った。結界を幾重にも張り直し、かのアーチャーは――意識を傾ければ――ライダーが接近戦をこなしているようだ。いつかのように――弓で介入させる事も無い。
咄嗟の襲撃を避けたまでは良いが―――防御の守りの間に合っていない腹を蹴りつける。
「ぐ―――足の躾がなって居ないようだぞ――!」
「チ――」
俺が蹴飛ばしたのと同時に小型ナイフを投げつけてきた―――足に向けて。
それを腕を硬化させ、弾く。懐からいくつかの折り鶴を握って、接近して殴りつける。
ジョージは身体を後ろへ軽く飛ぶようにして避け―――その手にはハンドガン。
パンッと乾いた音と共に射出された銃弾を――身体を折り鶴へ溶かすことで避ける。そのまま距離をとって相対する。
「―――
「いったはずだぞ――魔術師だってな」
「フン……誰が本物の魔術師だと思うか――ああ、となれば……アーチャーにはそっちのライダーをぶつけたのか―――しかし、いいのか?」
「何がだ?」
「俺のサーヴァントは―――最強だぞ?」
言われて意識をライダーの居る方に向ければ――苦戦はしていないが善戦もしていないようだ―――強敵か。
しかし、最強か。俺のライダーも自称していたが、流行ってるのか?……じゃなくて、ジョージはアーチャーに厚い信頼を向けていると言うことだ。
「最強か……随分と信頼しているようじゃないか?俺のサーヴァントがチンギス・ハン―――かの侵略王だってことは知ってるよな。よくそう言えたもんだ」
「……アーチャーは自分のことを随分卑下する―――最強だなんて俺に言ったことは無い。アイツにとって最強とは―――チンギス・ハンを指すのだから。だが……それでも――いや、俺のサーヴァントが最強でないはずはない。いくらアンタがこの世界に居るはずのないメイガスで、選ばれた強者だったとしてもだ―――!」
「よく言った―――が、生憎俺のサーヴァントも最強でね。誰に負けることもない。ああ――しかし……コイツは矛盾だな」
隙を窺うように互いに見合いながら、身体を移動させる。緊張感が戦場を支配し始める。グルグルと回り、巡る。
「最強の矛――最強の盾」
「どんなものでも貫ける槍と、どんなものからも防ぐ盾。古い中国の逸話……だったか」
「なんだ……知ってるのか。なら、結果も知ってるだろう?」
「ああ―――分からない、決着が着かないだろ?」
「その通り―――だが、俺はこうも思うんだ。そんなの使う者次第だってな」
「なるほど……つまり、こうか?マスターの質が上の方が勝つと?」
「そうだ―――この戦いは、
魔力を足に巡らせ、一気に駆ける―――!
*
マスター同士の戦いが行われている間―――サーヴァントの戦いもまた行われていた。
何度か接近戦をこなした後ライダーとアーチャーは互いに見合っていた。セラフからの邪魔が入ったのだ。戦闘は起きていないながらも――そこは緊張感で支配さえ蹂躙されていた。
「しかし―――知りませんでした。貴方が――かのチンギス・ハンが――女性だったとは――」
「なんだ―――開口一番に喧嘩を売っているのか?」
「いえ、滅相も―――後世では、貴方のことは男性と伝え効いていたので」
「ハッ……まあ、良い―――余を見くびった分けではないことは分かる。故にこの場で首を切り落とすことはせぬ」
ライダーの目的はアーチャーの足止めをすること―――アーチャーのマスターを殺すため。もし、あっちのマスターに合流しようとするならば、全力で妨害するだろう。しかし、何もする気が無いのであれば、特に何かをすると言う気はなかった。
「―――一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
「何故―――あのような者を貴方のマスターに?」
「―――どういう意味か?」
ライダーは少し怒気を漏らして言葉を紡ぐ。彼女にとっては少しの怒気ではあるが、周りに人が居たならば、まるで空間が軋んだかのように感じた事だろう。
「あの男は――貴方のマスターに相応しく―――」
「そこまでにしておけ―――前言を撤回してその首、跳ね飛ばすぞ。貴様にも、貴様のマスターにも願いがあるだろう」
「ですが―――!」
「二度は言わんぞ」
アーチャーは口をつぐみ、黙る。ライダー――それもチンギス・ハンに言われれば黙るしかない。
「……マスター――!」
突然、沈黙を切り裂きアーチャーは声を挙げた。
「む?チッ――コレはまずい!」
声を挙げたアーチャーにライダーが視線を向けた頃にはもう遅く、姿がかき消えていた。
「空間跳躍―――令呪か!はったりばれてるじゃない、マスター!」
そう、結界を張っている間、令呪が使っても無駄だというのは火々乃の嘘であり、はったりだ。ちなみに『結界を張ったはったり……フフ』と本人は激寒台詞を吐いていた。
跳躍先は――当然、ジョージの元だろう。
こっからは相当な距離がある。
「マスター……令呪使うわよね?うん、そのはず。で、でも間に合わなかったら――」
*
「はっはァァ――!これで動けないな!」
攻防で隙を作り、紙を束ねる様にした拘束魔術でジョージを縛り付ける。
「ぐぁ―――っく、こうな、たら」
ジョージはダメ元で何かしようとしている。
させるか――!
狙うは顔面――頭蓋を砕き、その命を刈り取るために掌孔で穿とうと―――腕を引き絞った時だった。
突然、目の前に―――白色の、まるで法衣のような服装を着た――サーヴァントが現れた。
「そうか――令呪か!?」
また身体を千羽鶴へ溶かし距離を取り、サーヴァントを視認する。そして――驚いた。
「なッ―――ライダー?――チ」
そこに居たのは、紛れもなくライダーだった。だが――服装、得物――弓の形が違う。よく見れば瞳の色も違う。しかし――顔、身長が全くと言って良いほどライダーに似ていた。
「ふん、あのお方と間違えるとは……やはり、あの方に貴様は相応しくない」
「相応しくないね……返す言葉がねえ。だが、テメエ――ライダーの2Pカラーのくせによくそんな事言えたな?新手のコスプレか?」
「……貴様のようなヤツが何故――」
「あれ?無視?会話してくれないんですけど?会話のキャッチボールしてくれません――うぉ!?」
突っ込みに反発するように、弓を放たれる。
「ぐっ――うあァ!」
やたらと多く放たれる魔力矢、打ち出されるソレを避けるため折紙で構成した壁を作ってもあっさりと穴を空けられる。
避けるので精一杯だ―――。
「ぐあぁぁぁ――――!」
やがて身体のあちこちの風穴が空き、身体は力を失う様にして倒れた。
「ぐ……くそ……」
「――フンっ」
パンっと言う音と共に俺の俺の頭は踏み砕かれた。
「―――それで、謀ったつもりか魔術師――!」
いきなりアーチャーは背後に振り向き弓を打ち込む。
―――あ、やべ。
ズドォォォンと轟音。
煙が立ちこめる。
「直撃はした―――が、馬鹿ではなかったか。咄嗟に壁を張ったようだが―――本命はもっと別――!」
「サーヴァントにマスターじゃ勝ち目なんてあるわけ無いだろ―――ライダー、助かった。令呪切るの、間に合わなかったら死んでたわ」
「あっちのアーチャーが来た時点で令呪切りなさいよ!」
「ああ、それは悪かったよ―――だから殴ろうとすんのやめて!」
壁を三枚も張ったのに消し飛んでやがる。アーチャーに殺されるところだったわ。
「だいたい、完全にアーチャーの間合いだったんだから令呪切る前に殺されるし」
だからこそ時間稼ぎに分身を作って、壁を作って視界からにげたのだから。
「――アーチャー、そろそろ撤退しよう。第二暗号鍵も手に入れている。決着をつけるのは―――決戦場でだ」
「ええ、私の悲願もそこで果たす――!」
ジョージはリターンクリスタルを使って―――消えた。
「怪我はない?マスター?」
「ああ、大丈夫だ―――アーチャーの正体は分かったか?ライダー」
「ええ―――ばっちり!」
ならば答え合わせへ、マイルームへ変えるとしよう。
次回、あの英霊の真名が分かる...!
何処か対照的な二組の戦い。
かたや誰かの救済を/かたや病魔からの救済を
これは、必要で、どうやっても逃れられない一線。