Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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主人公のこじれ具合。

セイラム期待大。


第七回戦  :『疑念錯綜』

 

 

 日本の(ことわざ)にはこんな物がある。

 

 

――『人を呪わば穴二つ』というもの。

 

 

 人に害をなそうとすれば、やがて自分も害を受けるようになると言うたとえ。人を呪い殺そうとすれば、自分も呪われるコトになり墓穴が二つ必要になると言う意味だ。

 

 

 ――――その男もまた、運命からは逃れられなかった。

 

 

 元より俺の家系は呪詛の流れを汲んでいる。陰陽師の家系――炎浄家の分家として取り込まれた今も変わりはしない。

 

 

 故に、呪いに特化した俺達は、何かしら欠落を持って生まれてきた。なにせ二百年近く続く家系だ。呪いもまたひとしおに。

 

 

 火々乃晃平ならば、生まれたときに感情が。その母なれば、魔術回路(才能)を。祖父であれば、他者への理解を。

 

 

 ―――なに?俺は感情を持っているじゃないか?

 

 

 ああ―――それこそが魔神の『自らで欠落を埋めた』と言う表現だ。ふ、なんとおぞましいことか。他人を必要としない。まさしく自律。寄りかかる必要性を持ち得ない人間―――いや、もうそれは人間では無いか。

 

 

 ―――とかく、俺は完成の日を見た。

 

 

 だが、同時に疾患も得た。感情を得た瞬間こそ、世界が見違えて見えたが、それも人間の悪性をみるまでだ。

 

 

 今まで自分の見ていた世界は、二次元的なものだと知ったのだ。人間の生きる世界は当然三次元。裏がある。

 

 

 それを見て知った俺の衝撃は凄まじかった。なにせ、白一辺倒だろうと思ったら、裏側はそれはもう真っ黒だった。この世の悪徳をかき混ぜぐちゃぐちゃに。ぶくぶくと沸騰と共に匂い立つ悪臭。気味悪いったらありゃしない。

 

 

 俺は、後天的に感情を獲得した人間だ。だからこそ―――『不和』が起きた。起きてしまった。

 

 

 これは自身の得たものが間違えていたのだ。この感情は本物ではないと考えるようになった。わかり合うことが出来なくなった。

 

 

 魔神が言うには、他の人間が魂の完成を得たならば超越者として振る舞うモノだと言っていた。同時に、何故お前はお前自身を卑下しているのかとも。

 

 

 信じたかった。人間はただ醜悪なだけではないと、ほんの少しは善性を持っているのだと。

 

 

 ――――幸せが眩しかった。

 

 

 幸せだとはにかむ顔が。幸せだと謳う声が。

 

 

 ―――いつからだろう。人に幸せだと言って欲しくなったのは。

 

 ―――いつからだろう。悲しむ誰かをもう見たくないと思ったのは。

 

 ―――いつからだろう。生きることを、幸せを、諦めて欲しくない、なんて願うようになったのは。

 

 

 きっと俺は裏側を見すぎたのだと思う。

 

悲哀にまみれたその姿。大切なモノを取りこぼした誰か。孤独に嘆くモノ。心が渇いてしまった人。

 

 彼らは―――誰にも救われることはなかった。誰にもだ。

 

 多くの人間が見ているだけだった。こぼれるものに一度(ひとたび)は目を向けても、そらし考えなかった。外が地獄でも興味は無い。内側の現状だけが私の全て。そういっているようだった。

 

 自分もそうだった。

 

 虐待死した少女が嘲笑われている――――それに激怒し、クラスメイトに拷問したのは()ではない。

 

 それを見ていた男が俺だった。拷問をしたのは―――俺の親友を謳った男だった。

 

 ――――あの少女を見殺しにしたのは俺だ。親友だと言ってくれた男を狂わし、死に追いやったのも俺だ。

 

 

 

 ―――間違えていたのは、俺なのだ。救おうと、足掻こうとしなかった俺が悪かったのだ。

 

 

 

 

 これではまるで――――醜悪な人間のようではないか。

 

 

 違う違う違うッ!俺は人間などではない!それ以下の魔術師(ひとでなし)ではないか!いや、人でなしなのだッ!

 

 人で、人間でないのなら―――!

 

 人は人を救わないッ!神も人を救わないッ!であらば――――誰が、誰ならばッ!?

 

 

 

 

 

 救わねばならない(救いたい)―――彼女を、親友を。

 

 救わなくてはならない(救えるはずだ)―――こぼれゆくものを。

 

 

 俺は、人間の持つ光を……善性を信じている。

 

 

 

 幸福は君たちの手で掴ませる。

 

より良い発展をッ!より良い結末をッ!より良い繁栄をッ!俺のような間違いが起こらなければ、君たちは幸せ(ハッピーエンド)を手にできるのだから!

 

 

 それが、俺が君たちに出来る救済(エゴ)だ。

 

 

 

 

「覚悟は……いや、失礼。愚問に過ぎたな」

 

 黒カソック姿の男―――言峰神父は私の目をまっすぐに見て、そう口にした。

 

「闘技場へと通じる最後の扉を開こう。では、参加者(マスター)よ。君の願いか、それとも火々乃晃平の願いか。どちらが聖杯に届くのかを私はここで楽しみに待つとしよう」

 

 そう言葉を切ると、用具室を覆っていた幾何学模様のプロテクトが剥がれ、エレベーターが現れた。

 

 ――――何度も見た光景。

 

 ぽっかりと怪物が口を開けたかのようなその場所は、未知に対しての恐怖を呼び起こす。

 

 ――――だが、何度も立ち向かった。

 

 恐れるわけにはいかない。願いを、私が得た答えを。示すために。

 

 そう思って乗り込み振り向いた私に言峰は呼びかけてきた。

 

「ああ―――一つ、忠告するのを忘れていた。あの男、火々乃晃平には精々気をつけたまえ。アレは完全な()()()だ。それも自ら望んで参加した男だな」

 

 完全な異邦人?自ら望んで?どういうことだろうか?

 

「アレの狂気に飲まれるなよ」

「どう言う……?」

「ふっ、それこそ本人に聞きたまえ」

 

 そう言峰が言い終わると共に扉が閉まった。

 

 いつものように暗闇の中で待っているとガコンと金属質の音がしてゆっくりと下降し始めた。

 

 ――――昇降機が稼働したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇が徐々に晴れだして――――その男は、サーヴァントと共に現れた。

 

 

 目の前には青い仕切り。

 

 その奥で―――男はほんの少しだけ口角をあげて、腕を組んで立っていた。その男の傍らにはサーヴァント・ライダーの姿がある。敵意を隠すことなく、それでいて優雅さをそこなうこともない立ち姿。彼女の褐色の色っぽい着流しがそう思わせるのかも知れない。

 

「……ようやくだな、エリカ。俺は、少しだが、この戦いを―――お前と戦えるこの時を楽しみにしていた。……お前はどうだ?」

 

 彼の前回の私に対する評価から考えると……思わぬ強敵と戦えて嬉しい、といったところだろうか?

 

 なら、私の回答は―――

 

「ええ。私も、楽しみにしていました」

 

 初戦から何度も、貴方と関わってきました。

 

 どこか…飄々と行動する貴方に憧れていたのかも知れません。初戦をこえたときはなおさら。

 

 あの時、私をしかってくれたのは、どうしてですか?どうして、私を挑発したのですか?どうして、私を、あの時助けてくれたのですか?

 

 何度も私の前に現れては勝手に助けていく。

 

 そんな貴方と戦う日がこうしてきてしまった。

 

 貴方は何度も『私に答えを』見つけさせようとしました。まるで、この聖杯戦争に意味を見いだしてほしいとでも言うかのように。

 

 私は答えを見つけました。この戦いで貴方に示そうと思います―――私の答えを!

 

「そうか。それはよかった。立場は違っても、感じているものは違うらしい。……初めての経験だな、これは」

 

 最後のほうは小さく呟くように言って聞き取れなかった。

 

「俺は、この戦い(感情)を特別なものと感じている。しかし、お前も同じ運命を感じているのなら話は別だ」

 

 火々乃晃平は確信したように告げた。

 

「お前は俺と。俺はお前と戦うためにここに来た。これは個ではなく、全の運命ということだろう」

「……ロマンチックね、マスター?」

 ライダーは少し驚いた様に、それでいて若干の不機嫌さを声色に込めていた。

 

「……俺だって、少しは饒舌になることだってあるさ。それにしても……」

 

 彼はこちらをみて少し笑った。

 

「ンだよ……なに笑ってやがる?」

「いや、悪い。なんだか嬉しくなっちまってな」

 

 セイバーの怪訝な目をはらうこともせず言葉を続けた。

 

「君は本当に変わった。予選であったとき、初戦にあったときも、群衆の中の一人に過ぎない、どこにでも居るような女だと思っていた」

 

 ……地味に傷つく言葉を言われたのに、少し嬉しく思ってしまった。彼の言葉には裏がこめてあったから。

 

「でも、今は全く違う。ここに立っている君は、注目に値する、警戒せざるを得ない、立派な戦士だ」

「まあ……私も色々ありましたから」

 

 主に、貴方にセイバーの真名をバラされてから。

 

「なんだその非難めいた視線は?……ま、そうだな。ここまでに得た戦いや経験が、君を成長させたのは確かなようだ」

 

 だからこそ、あるいはけれども、と彼は続けた。

 

「それももう終りだ……。この先の君の成長を見届けれないのはかなり残念だ」

「まだ―――終わりません!」

「いいや、終りだ。これは彼我(ひが)の戦力差の話ではない」

 

 私の決意を込めた答えをアッサリと切り捨てて、事実だと言わんばかりに告げた。

 

「君ではきっと、最後の一手で俺には届かない。………仮に、それを埋めるモノがあったとしよう。だから君は反抗的な目をしているんだろうから。ならば―――何を根拠にして言っているんだ?」

「ここまでの―――私の道のりがです!」

「なるほど。ここまでたどってきた道筋こそが、君の勝利の確信か。……少し期待してしまうな。一体どれほどのものなのか。辿り着いた果てに得た、君の強さとは」

「必ず貴方に勝ちます……!それが、証明になる!貴方に『私の答え』をこの戦いで示します!」

 

 少しだけ驚いた表情。同時に優しく笑った。

 

「……お前のその強い意志はどこから来るんだろうな。ホントに皮肉めいてすらいる。この運命は」

 

 何か、達観したような澄んだ瞳で上を仰ぎ見た。

 

 そんな彼を見るのと同時に、昇降機に乗り込んだあと、やたらかっこいい声をした神父―――言峰の言葉が頭に思い起こされる。

 

『あの男、火々乃晃平には精々気をつけたまえ。アレは完全な()()()だ。それも自ら望んで参加した男だな』

『――狂気に呑まれるなよ』

 

 言峰神父の言葉が確かなら―――彼は……何か願いを持って参加していることになる。それも、にわかには信じがたいが…異邦人ならば他の世界――思い当たるのは平行世界だろうか――からの参加したことになる。

 

 どんな方法で?どんな願いを持って?

 

 言峰神父は私が見る限り、騙そうとはしても嘘はつかない人だ。

 

「コーヘイさん……お聞きしたいことがあるのですが」

「うん?…なんだ?」

「貴方の願いは何ですか?」

 

 今しか聞くチャンスはない。猶予期間(モラトリアム)があれば、知るコトもあったかも知れないが。今回は猶予期間すらなかった。

 

 それに、言峰神父の言う彼の狂気とやらも気になる。……私の気にしすぎかも知れないが。

 

「俺の願いね。そう言えば、君には言っていなかったな。思えば、結構な時間を君とは過ごしたと思うが……ふむ。確かに、言ってはいないのか」

 

 自分の記憶を探っていたのだろう。少しして彼は言葉を告げた。

 

「俺の願いは―――人に幸福を掴んで貰うことだ」

「―――こうふく?」

「ああ、そうだ。万人数多の人間に幸せになってほしい。それが俺の願いだ」

「……フン、妙なヤツだとは思ったが、ここまでとはな」

 

 セイバーは火々乃晃平の願いに思うところがあったのか、声をあげた。

 

「―――テメェ、万人の幸せだとぬかしたな。具体的にはどうする気だ?まさか、何も考えてねぇわけじゃねぇだろ。全人類の不死化とかぬかす気か?」

「いやいやいや。全人類の不死って……ふはっ」

 

 何が面白かったのか。彼は声を挙げて笑った。

 

「ふははははははっ……、笑わせるなよ、ふはっ、せ、セイバー。全人類の不死化?―――俺は人類の幸福を望む、と言ったんだ。()()()人っ()()()()()()()()()()?人型の化け物じゃないか。死なない人間……それこそアンデッドと呼ぶに相応しい」

 

 その言い方ではまるで―――――

 

「人間はな、()()あっ()()()()人間なんだ。人生は完結、終焉があるから人()なんだよ。ゴールのない生き方なんざ、俺だったら、いや君たちだって嫌だろう?」

 

 事実だが、確かに事実だが―――口調に狂気が籠もっていた。

 

 まるで、人生が終わることに意味がある、そう言うかのように聞こえたのは私だけなのか。

 

 彼のサーヴァントに視線を向けてみるが、たいして気にしたような様子はない。

 

「ふむ?こんなことを聞いてきたと言うことは……ひょっとして勘違いしてんじゃないのか?」

 

 勘違い?

 

「そうだ。俺は……この願いを聖杯に願う気は無いよ」

「ハァ?嘘つくんならもっとましな嘘をつけよ」

「失礼な。嘘じゃないさ」

 

 セイバーが即座に言い返すが意にも返さない。明らかに聖杯を求めてきたはずだ。そうでもなければ―――世界線を越えてまで来るはずがない。ならば――彼には聖杯に願う願いがあるはずなのだ。

 

 そうだ、これも聞かねば成らない。

 

「コーヘイさんは―――別の世界から来たって本当ですか?」

「――――――――ああ、なるほど。さては言峰だな?」

「答えてください!」

「…ふぅ。そうだ……と言うか薄々感づいてはいたろ?魔術師―――それもメイガスなんて分かった時点で。そして、其処にもまたお前の誤解があるようだから言うが」

「誤解?」

 

 何を誤解していると言うのか。

 

「俺は―――自分の意志でこの世界線(ココに)来たわけじゃない。誰かの、それこそ第三者のせいで俺はここに来た。俺とて色位クラスの力は持っているが、その程度で平行世界なんていけるか!?いけないんだよ!?」

 

 切れ気味に答えられた。

 

「補足するとだな……第二魔法、平行世界の運営って魔法が使えないと無理という話だ」

 

と、ライダーが補足してくれたが―――サッパリ分からない。

 

「そもそも、魔法って――?」

「ああ、そこからか」

 

 これだからこの世界はと言いながら、火々乃晃平は説明をはじめた。

 

「こっちの世界の魔術と俺の世界の魔術の違いはわかるか?」

「えっと、こっちの世界でも1999年までは行使されていたものですたよね」

「そうだ。詳しく言及すると長くなるが――魔術とは、魔力によって人為的に奇跡を再現する術のことだ。基本敵には等価交換で成り立つ。それで――魔術と魔法の違いだが、その時代の技術で再現できるかどうかの違いだ」

 

 そこで、火々乃晃平は紙切れを掌に出す。するとボッという音と共に火がでた。

 

「とまあ、こんなふうに燃やしたが、此は魔術だ。今ならマッチ棒でもあればできることだよな?だが、魔法は再現不可能のもの。タイムマシンが分かりやすい例だな。時間紀行なんざ、今の技術じゃできないし。それを神秘で行ったものが魔法に該当する」

 

 なるほど。なら、いつかタイムマシンが開発されたなら――魔術に落ちるのか。

 

「そうだ。ちなみに魔術と呪術は、簡単に説明すると『相手を燃やすために火を作る』ことを神秘で行うことが魔術。『相手にやけどを負わせる』ことが呪術だ―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は火々乃晃平に魔術の質問をしたことを後悔した。なにせずっと、決戦場につくまでずーっと話続けるのだ。

 

「……マスターの変なスイッチを押したわね。マスターもマスターだけど。どうせ最後なんだから聞いてあげなさいな」

 

 とライダーの呆れた物言いが印象に残った。

 

 セイバーすら引くほどの説明ぶりだったと言っておこう。

 

 




さあ、狂 っ て ま い り ま し た


 愉悦はまだ先だが...愉しんでいってくれたまえ(言峰感)


 前口上だけで五千字こえるとはおもわなんだ。





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