Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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もはや『』は入らない。

ライダーの死に苦痛を覚えたなら、きっと善性がある証拠(ゲス顔)



紅華水月摩天楼
孵化


「――――自害せよ、ライダー」

 

 冷たい声が、耳朶を打つ。

 

 その言葉と共に、突然ライダーが手に白槍を出現させ―――自らへ突き刺した。

 

「――――え?――ごはっ」

 

 驚愕に目をむいて、口からは血を吐く。ライダーを貫く白槍はライダーの血で赤く染まっていき、地面に血だまりをつくる。

 

 身体が仰向けに倒れるべく傾くが、槍がつっかえ倒れることは赦されない。

 

「ま、ますたー………、な、んで」

 

 胸を貫く痛みより、己が主に裏切られたことに顔を歪めて。その言葉を最後にライダーは消失した。今にも泣きそうな顔で。

 

 

 自分達の最大の敵にして最強を誇ったサーヴァントが―――主の悪逆によって命を絶たれたのだ。

 

 

「――――テッッメェッッ!!」

 

 

 セイバーが怒りをむき出しにして、下手人の方を睨み付ける。セイバーにとって好敵手であり、命を懸けて戦った―――彼女が認めた戦士なのだ。セイバーにとっての彼女は、少なくとも、こんな死であって良いような人ではなかったのだ。

 

 

 が、其処には誰も居ない。彼は聖杯の中へ消えたのだから。

 

 

 宙に浮いたアーティファクトが脈動する。

 

 

『―――時は来た』

 

 

 その下手人の声が聞こえる。

 

 

『全ては幸福(意味ある生)への道具(ツール)でしかない。痛みも苦しみも貧困も飢餓も、満たされるために用意された物。戦争も平和も政府も宗教も―――結局は幸福(良い人生)に至るための道具(ツール)なのだ』

 

 穏やかでありながら熱烈に。清廉さを示しながら、同時に佞悪醜穢(ねいあくしゅうあい)をも示す。

 

『消費浪費するだけの人生などもったいがあるまい。いずれ死に、結果としてお前でなくとも良かったなどと言われるのは腹が立つだろう?お前が成した成果は他でもなくお前達のものだから』

 

 こちらの神経を逆撫でする声色。お前達のことなど知り尽くしていると言わんがばかりの態度。

 

『―――では、ここに一つのチャンスをやろう。君たちが幸福(ハッピーエンド)へ至る全てを示そう』

 

 瞬間、中に浮かんだアーティファクトに光が収束していき――――一気に爆ぜた。

 

『救いは遍く此処に在り――“紅華水月摩天楼(こうかすいげつまてんろう)”』

 

 余りの目映さに思わず瞼を閉じる。腕で顔を覆ったにもかかわらず、視界を侵す(ひかり)

 

 やがて光が収まっていくのを感じ、瞼を開く。

 

 

 ―――景色が、一変していた。

 

 

 無機質さすらにじみ出していた空間は―――全て別の物で置き換えられていた。

 

 大地には赤く花が咲き乱れている。赤い大地。咲いているのは――――彼岸花だろうか?

 

 空は暗く夜のよう。闇は深く、星々が煌めいている。

 

 中でも目を引くのが――。

 

 

「……地球と月?どういう、ことだ?」

 

 

 半分だけ光が反射している、青い星。対して完全に丸く色づく白い貌。―――地球と月。知らないはずの場所であるのに、私には既視感があった。セイバーが疑問の声を挙げたからには自分がこの場所を知っているはずがない。

 

 ならばここは一体何処なのか。

 

 答えは―――あの男が答えてくれるだろう。

 

 

 視線を星から離し、ある一点に移す。

 

 

 火々乃晃平。

 

 今まで着込んでいた現代服から代わり――和服と言えばいいのだろうか――白い着物に黒い袴。

 瞳は濡れ羽の様な黒から、赤黒く変化し、貫く視線はかつてあった穏やかさから一転して寒々しさをともなわせている。まるで―――感情豊かな人が、あるいは笑顔しか見たことのない人の真顔を初めて見たときのような、衝撃。

 

 ジョークにおどけて、ユーモアある男の顔ではない。

 

 冷酷。無慈悲。無感動。穏やかを装いながら、空虚とともにあるもの――空虚そのものか自身の知っている火々乃晃平という男とは全くかけ離れている。

 

 

「―――ここは何処かと問われれば、二通りの答えを返さなくてはならないな」

 

 

 声色は、変わらない。ライダーに自害を命じたような冷たさは感じない。纏っている雰囲気と声色の矛盾が私の警鐘をかき鳴らす。

 

 

「一つ。ここは、俺の心象世界だ。固有結界と……む?此では語弊があるな。言い換えよう――この世界は、俺の心象世界の具現にして、全てを遍く侵す、侵食固有結界である。まあ、正確な意味合いとはちょっと違うが。流石に物理法則の完全な書き換えまでは出来なかった」

 

 固有結界。

 

 確か、術者の心象世界で現実世界を塗りつぶし内部の世界そのものを変えてしまう結界だったか。術者の内面を形にしたものというものだったはず。しかし、頭に侵食とは、意味合いからしてより凶悪なものらしい。

 

「二つ。俺の心象世界でもあるが同時にとある星を内包した世界でもある」

「星を内包?」

「そうだ。そら、宙を見ろ。主に二つの星が見えるはずだな?」

 

 きっとそれは――

 

「地球と月、ですか?」

「その通り。片や惑星、片やその衛星。もう答えは出たようなものだがな。―――ここはある星の表層だ」

 

 内包した星の正体。そんなものあったろうか?記憶を探るが全く見当たらない。

 

「黒き月。あるいは影の月。Dark moon。名付けられた名は数ある。が、その中でも占星学者セファリアルによって名付けられたもの―――リリス(Lilith)だ」

 ―――リリス?

 

 全く聞き覚えのない天体だ。悪魔の名としてなら聞き覚えはあるのだが。

 

「十九世紀、二十世紀に観測されたそれは此その者ではない。彼らが観測したのは、第二衛星リリスの残滓とも言える霊体だ。まあ、近年では存在そのものを疑われているが。()()()()は、余りに大きかったのでね。完全に消滅するまで五千年余りかかったようだ。ムーンセルも意地が悪い。兄弟が砕かれようってのに、観測しているだけなんてな」

 

 男の口元が少し弧を描く。

 

 砕ける前?と言うことは、今はもうない天体ということだろうか。

 

「紀元前三千年ごろ、突如世界中に数多の星々が落ちてきた。流れ星――隕石が世界中にばらまかれたのさ。そこから数々の神話が生まれるコトになるのだが、まあそれはおいておこう。とかく、第二衛星はアッサリと砕かけ世界各地に落ちた。多くの物は大海に沈んだが―――日本となる島々の一つに落ちたのだ。それもたった一つだけ」

 

 男は続ける。

 

「余りの神秘の強さからだろう。古墳時代日本東部で発見されたそれは後の朝廷の守護下に入ることになる。そして平安後期になれば、それだけを護る使命を得た朝廷からうけた一族が護っていく―――それこそが我が火々乃家の祖だ」

「だから、心象世界を?」

「それとこれとは別なんだ。生憎この心象は代々受け継ぐもの、というわけじゃない。此は俺固有のもの。火々乃家が守護してきたものを心に癒着させた。その結果出来た物だ」

 

 簡単に言っているが、相当危険なことをして得た物だとわかる。

 

「ん?危険?――ああ。確かに、一歩間違えれば身体共々膨張し、吹き飛んだかもな。あの頃はそんな危険性なんざ考慮しなかったが。起源のおかげか運良くうまく行った」

 

 若さ故の過ちと言うヤツさ、などと笑って言った。笑い話だと彼はとらえているらしい。

 

「とかく、俺の心象は固定された。俺がもとから持っていた世界とこの世界が融合し、今の形に落ち着いた。故にここは俺の心象にして、リリスの星そのものとも言えるのだ」

「――――ンなことは、どうでもいいんだよ……!」

 

 セイバーが睨み付け、怒りをぶつける。彼女が聞きたいのはそんな説明ではない。剣を男に構え、問いただす。

 

「なんで、なんで―――ライダーを、テメェのサーヴァントを殺した……!」

「―――愚問に過ぎるぞ、セイバー。そんなもの決まっているだろう?―――邪魔だったからだとも。彼女の対界宝具は危――っ」

 

 ガッ、と踏み込みセイバーは飛び込むように切り込む。剣先の銀光が跳ねる――。

 

 彼は何も武器すらも所持してない。であるならばセイバーの攻撃を防がれる可能性はない。一直線に切り裂かれることからは逃れられない。

 

 

「わざわざ、対峙するのに何の手はずも整えていない本気で思ったのか?」

「――っ」

 

 斬りかかる直前、身を退いたのはセイバーだった。

 

 空から一筋の白銀の雷光が落ちてくる。

 

 それは、セイバーと男の間を裂くように落ちてきた。―――白く長い槍。二メートルは余裕にある長槍。ライダーも似たようなものを持っていたが、意匠が全く別の物に感じた。

 

「――聖杯の力があれば特に問題すらないか」

 

 地面へと突きたった長槍を引き抜き、軽く振り回す。具合を確かめているようだった。

 

「さすがは、知らぬものいない魔法の槍。オーディンのせいで本質は封印を受けているようだが問題無い。どうせ、偽物を使うよりは本物を使った方がいいってだけの話だし」

 

 セイバーは、得体の知れない、一見して宝具と分かる代物を警戒している。

 

 オーディン?今、オーディンと言わなかったか。

 

 そうだとしたら――あの槍の名は一つしか無い。

 

「想像の通りだ。これは『大神宣言(グングニル)』そのもの。主神オーディンが使った魔法の槍にして、クー・フーリンが使ったゲイ・ボルクの原点(オリジナル)。パクろうとしたら、宝具の封印を受けたんで真名解放はできないがね」

「……貴方は一体何を?」

 

 余計に分からない。この人は何をしようとしているのか。ライダーを殺すだけでは飽き足らず、かのオーディンの宝具まで持ってくるとか。一体何をするつもりなのか。

 

「勿論、人類の救済―――人類すべてに幸福を掴ませる」

「人類の幸福…?」

 

 確かに彼はそんな願いを抱いているとは言っていたが、同時に聖杯に懸ける願いではないと言っていたはずだ。

 

「ふむ?言った通りだが?聖杯には人類全てに幸福を掴ませるなどと願っていない。わざわざ聖杯を使ってまで叶える必要が無い。それに聖杯に願ってしまったら、聖杯に幸福を掴ませて貰ったと言うことになるだろう?」

 

 では、どうやって人類を?

 

「俺は魔術師だ。当然、人の技術たる魔術を通して救いを果たすとも。

人を救う。その限りでは、例えば、医者になりたいと言う願いを抱いたものは、医者になることそのものが目的ではなく、医者になって命を救うことが目的のように。

 だから、私は魔術による救いを示す」

 

 しかし、男の顔は苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 

「魔術が完成したのはいい。必要とされる魔力も問題はない。だが、一つだけ問題があるとすれば―――肉体が負荷に耐えられなかったことだ。かなり精密な魔力操作が要求されるのでね。他人を頼ることもできなかった。当然救うべきものを生け贄にすることも」

 

 だから。

 

「この聖杯を知ったときは歓喜したよ。これで、救える!遍く全ての人を救えると!代償は自分が負えば良いのだから」

 

 代償?

 

「俺の世界ではね、既に六十億の人間が生きているんだ。いや、七十億かな。とかくそれだけの人数を救うとなると、とてもとても身体が足りない。だから―――人でなくなる必要があった」

 

 たいしたコトでもないようにその男は狂気を口にした。

 

「計算では神となっても、まだ足りない。だが、余りにも運がよかった。俺は星を魂に癒着しているのだから」

 

 つまり。彼は、()()()()()()()()()()()使()()()()()()()に成り果てることを決めたのだ。

 

 だが、神をこえる存在とはなんなのか。

 

「アルテミット・ワンという存在をしっているかね?」

 

 アルテミット・ワン?究極の一?どういうものだろうか。

 

「まあ、俺も余りよくは分かっていないのだが。曰く、星の意志の代弁者。天体という異常識が生み出した存在。まあ、その星における生態系の頂点と思えば良い」

 

 天体における生命体の頂点。そんな存在がいたことには驚きだが、まさか地球にもいるのだろうか?

 

「とかく、それならば耐えられる。他の生命種の頂点ならば耐えられぬ所以はない。ならばそれになるまで」

 

 この男は人ではない。聖杯を利用して自分をアルティミット・ワンとやらに改変したのだ。

 

「改変と言うより、再構成だが。―――俺はもはや、ヒビノコウヘイなどと人の名で呼ばれて良い存在ではなくなってしまった。今の俺には相応しくない願いの込められた名だ。――ならば再び改めて自己紹介をしなくてはならないな」

 

 一息に、その男は宣言した。

 

「ARCHETYPE:LILITH―――リリスであるッッ!」

 

 瞬間、暴威が弾ける。今まで抑えていたのだろう。というかアレは常識外の演算機でもあるムーンセル・オートマトンを掌握しているのだ。

 

 息を吸うことすら意識せねば続けられない。

 

 気をぬけば、即座に死ぬだろう。傍らに立つセイバーならこの男の脅威を何倍にも感じているだろう。

 

 自分は今、指先一つで全てを改変できる人智を越えた存在の前にいるのだから。刹那の内に消されているかもしれない。

 

 

 だが、私は肝心の魔術よる救いを聞いていない。せめて、それを聞くくらいは罰が当たらないはずだ。

 

「魔術で……どんな魔術で、人類を幸福に導く気なんですか…!」

「……神威を示したと言うのに口答え出来るとは驚きだが……まあ、それはどうでもいいか。よかろう。その強靱な意志に敬意を示す故、答えよう。

 人間の一生は選択の連続であるとウィリアム・シェイクスピアは言ったが、全くもってその通りだ。

 個々としてあったことで何度も間違いを起こしてきた。こうすればよかった。ああすればよかったと。何度嘆いてきたか。時間を浪費し、資源を食いつぶす生き物だ。2015年には残りの資源量が五十年を下回る物すらあった。

 このままでは人間の未来は存続しない。―――だが、別にそれでもいいのだ」

 

 幸せにさせるとか良いながら未来の長い存続は望んでいない?短くても問題ないということか?

 

「ああ。人類の期限は決まっている。全ての生物に死が存在しているように。生まれ落ちた瞬間から、死が決まっているのだ。

 ―――余りにも不完全。だが、それこそがこの宇宙における法則だ。人間が人間たる理由だ。絶望であり、希望でもあるゴールなのだ。

 ならば、だからこそ―――その人類の一生に何の意味があるのか。

 やがて滅びる。終わる物でしかないと言うのに何故。

 

 ああ、きっと―――命そのものには価値はない。大切なのは死ぬまでに積み上げた物だ。

 

 それは苦しみであり、楽しみであり、希望である。あるいは文明とも言えるかもしれない。幸福とは唯楽をすることではない。心が満たされることなのだ。

 死は問題ではない。その過程こそが重要なのだ。過程を満たすことに意味がある。

 

 ならば、その過程の完成をもって幸福となる。あらゆる人間の間違いを正す。こうなれば良かったという都合の良い世界へ直進させる。幸福追求を諦めず、邁進させる。

 

幸福追求に妥協を許さない。その意識を、概念を、遺伝子レベルですりこむ。それがこの魔術だ」

 

 そんな、ことが可能なのだろうか。リリスは確信を持って宣言している。誰もが幸福になれると言う理想(こどもじみた夢)を現実として出来ると。

 

「曰く、オーディンはその知恵を得るため、自身をツタで縛り吊って、腹を槍で貫き七日間耐え、その叡智を得たと言う。それはアルカナでは吊られた男(ハングドマン)とされ、救済者、あるいは救済そのものを差す。それを全人類単位で行う。このオーディンの槍に全人類の意識を封入し、俺に突き差すことで魔術の完成し起動する。魔術演算だけで俺では二十年と掛かるが、ムーンセルの演算力を使えば問題ない。この心象世界でムーンセル全てを掌握するのに後三十分はかかるが、許容範囲だ」

 

 掌握できていない?

 

「ああ。人間の参加者の願いを叶えると言う設定のせいか、俺がアルテミット・ワンになった瞬間にはじき出されてしまった。ま、予想通りだからね。事前に七つの起爆点をアリーナ各所に仕込んでおいて正解だった。今じゃ七割は侵食しきったとも。全て侵食すれば、失敗は万に一つもありえない」

 

 何もかも決定したと言わんばかりの口ぶりだ。―――私達は障害とは見られていない。

 

「……随分、押しつけがましい幸福もあったもんだな」

「尻を叩かなければ、歩くことも思い出せない人間も居ると言うことだ。……セイバー、お前のように、あるいは俺のように、端からそれなりの能力を生まれ落ちたからそう感じるだけだ。世には、能力の欠けた物も存在している。足のないもの、なくしたモノ。腕のないもの、なくしたモノ。エトセトラ……多く人間は振り向きもしないが、そんな人間だろうと救う。俺は……他でもない誰かに笑って欲しいのさ。そこに善悪の隔たりはない」

 

 穏やかに、それ以上の幸福はないとでも言う顔だった。誰もに笑って欲しいなどという儚く尊い理由をもって完遂する、と言う意志でも溢れていた。

 

「――――ホントむかつくヤツだな……!チッ、テメェが言いたいことはだいたい理解した。でもよ、その魔術は結局人類史をやり直すコトになるんじゃねぇか?」

「ああ、そうだね。結局はそうなる。君たちの存在そのものを否定するわけじゃない。だが―――歴史はよりよく発展する。今の人類史の技術スピードが倍以上になって原初からやり直す。1990年には西暦2300年レベルの技術が進歩する。戦争も起こるだろうがより良い幸福追求の結果だ。彼らに悔いは無いだろう」

 

 それに、と男は続ける。

 

「―――お前の願いも叶うぞ?この世界ならば」

「あ?」

 

 毒芽を男は蒔いた。

 

「君の幸福も肯定するんだよ、この世界は。―――君の願いだって例外なく肯定する」

「ハッ、なに言ってんだよ」

 

 そう言返すセイバーにいつもの語気の強さがない。目をみて、心の底をのぞかれるような錯覚に陥っているのかもしれない。

 

「君自身は自分の願いは選定の剣に挑戦すること、などと思っているようだが―――それは違う。君の願いは――」

「――やめろッッ!!」

 

 にじり寄ってきたリリスから距離を取るように退がる。

 セイバーの額には汗が浮かび、呼吸は小刻みで荒い。

 

「気をつけろ、マスター!アイツ……全部、理解してやがるッ!俺達の苦難も、後悔も、全て―――その上で、救済しようなどと吐きやがる!」

 

 その甘いささやき()には誰も抗えない。仕込まれたら最後、終りのない幸福感だけを目指し始める。セイバーですら、一瞬考えたのだ。自分の願いが叶ってしまう光景を夢見てしまったのだ。

 

 その理想は――余りにも押しつけがましいのだ。その上、セイバーの、今までの人類は間違った選択肢ばかり選んできたと断じていた。

 その魔術がいかに自分達に発展と繁栄を約束しようと。人類が遍く完成しようとも。確かにそれは救いなのかもしれない―――それでも。

 

「……間違ってなんかない。私達は、間違ってなんていません!正しくはなかったかもしれなくても、間違ってなんかない…!」

「間違っているさ。誰も救われない世界など、間違っている。人は等しく愛を知って幸福に、人生に満足して死ぬ。幸せが普遍的にもたらされる!至高の救いだろう?」

 

 セイバーは振り返って、私に言った。

 

「――オレは、マスターの騎士だ。マスターの意志に従う。……マスターは、アイツの救いを受け入れるのか?」

「―――――受け入れない。あのヒトの、リリスの理想は正しい救いなのかもしれない。でも、それが今の、過去の誰かを否定するものなら……私は、容認できない!」

「よく言った、マスター!オレも同意見だ――――つーわけでよ、テメェを止めさせてもらうぜ。リリス!」

 

 彼は仕方ないと言うかのようかの態度でこう言った。

 

「……やっぱり、こうなるのか。君には是非とも幸せになってほしかったんだがね」

「ぬかせ!テメェのうざったい理想なんざ願い下げだ!」

「で?君たちは邪魔をするってことで良いんだね……面倒だが、暇なのも事実。遊んでやろう、セイバー」

 

 言って、リリスは白銀の槍を構える。まったく余裕は崩れていない。

 

 アルテミット・ワンとやらがどの程度強いのかは分からないが、そんな強大な力を簡単に使いこなせられるわけがない。

 そこに突破口があるはずだ。

 

「セイバー、お願い!彼を、リリスを止めて!」

「任せとけよ、マスター!あの馬鹿をたたき伏せてやる!」

 

「叛逆の騎士モードレッド。その叛心を手折るとしよう。()らしく可憐に散るがいい」

「――この野郎……!ぶっ殺してやる!泣いて謝っても遅えぞ!」

「……優しいことだ。まだ、止められると思っているとは。だが、同時に乱暴だな。性格に難ありと、円卓の騎士(同僚)からも言われなかったか?」

「……ウルセェッ!なんでオレが心配されなきゃなんねェんだ!」

 

 ――――――Sword,or Death

 

 

 白銀の筋が幾重にも飛び交う。

 

 

 ここに人類を懸けた戦いが始まった―――。

 




どう足掻いても、ハッピーエンドだぞ。受け入れろよ(主人公感)

皆さんは抗えますか?この救いを受け入れますか?


人類悪とは似て非なるもの。ハッピーエンドの一本化ルート。誰かが思い描いたif。その魔術の名は『都合の良い物語』
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