Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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お正月中に終わりそう。

悔いはなくとも杭は落ちる。


私のたった一つの望み:Future Beast

 剣戟の雑踏。金属の音が何度も響き渡る。怒濤の、それこそ豪雨がごとき剣檄の雨を打ち払う刀。

 

 達人域の殺し合い。一手でも引けば死だけが待っている。

 

 日本刀の概念は一刀必殺。一回でも斬りつけられれば、いや、攻撃は即死しか撃たない。モードレッドは護り損ねた時点で死ぬということを直感していた。

 

「はぁ――ッ!」

 

 モードレッドの体重を込めた全力の振り下ろしを、火々乃晃平は刀で王剣の刃をなぞるように受け、受け流す。

 

 そして返す刃を素速く振りぬいた。

 

 モードレッドは、胴を上段から狙い来る刀の刃を王剣を相手の振り下ろしよりはやく防御に回す。

 

 ぎぎ、と音と鍔競り合う剣と刀。実力は拮抗していた。

 

「本当に魔術師かよ――、テメェ!」

 

 がん、と剣を跳ね上げ守りの空いた火々乃晃平の腹にモードレッドはするどい回し蹴りを放った。

 

 それを、火々乃晃平は軽く後ろに飛ぶことで回避する。

 

「魔術師だとも。れっきとしたね。まあ、炎浄家の分家に加えられてからは――外敵の処理が主な任務(しごと)になってしまってからはそれなりの戦闘能力を期待されるようになった。

 特にこの獲物は、よく任務で使っていてね。それなりに使いこなしているのさ」

 

 距離がある程度開けば、空にまっすぐ手を掲げた。

 

「——そら、空から槍が降ってくるってな。おおう、壮観だねぇ!」

 

 モードレッドは彼の視線が向いた先を見る。

 彼の直上には、帯びただしい数の槍が五万とならんでいる。おまけとばかりに神秘がふんだんに込められている。

 

「まだ、無駄が多いな。使いこなすにゃそれなりにかかりそうだし。ま、凌いで見せろ!」

 

 途端落ちてくる、槍の雨。まず、逃げる余地を円状に潰し、そこからモードレッドのいる中心めがけてじわじわと降り注いでくる。

 

 逃げられぬのなら、当然迎え撃つまで。モードレッドの結論は簡単だった。

 

「『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

 

 落ちてくる槍の対軍を赤雷の極光がぬぐい去った。

 

 ―――だが、それは火々乃晃平の想定の内。狙いは既に果たしている。

 モードレッドの視線を誘って、狙いを果たした。

 

 して、その狙いとは。

 

「―――っ、野郎ッ……何処に行きやがった!?」

 

 視界を遮る。姿を隠す。大地を乱雑に射貫きながら、同時に抉り飛ばし、槍の檻だけではなく土煙を吐きだたせる。そうして視界を曇らせた。

 

 モードレッドのマスターである、エリカも又、火々乃晃平の姿を見失った。

 すると、周りが振動し音を伝えてきた。

 それは、男の声明。増幅、反射の魔術を多用し、声の発生位置を教えない仕掛け。

 

「―――では、あの魔術の真意を語ろう。『都合の良い物語(デウス・エクス・マキナ)』、リリスは過去の人類、創世記を改編することによる結果的未来の救いを行うものだと認識していたが、それは間違いだ。

 この魔術は、過去を編纂するのではない。未来に確定するだろう人理を破壊し尽くすことで、幸福の完成。永続を果たすのではなく、来たるべき完全な技術発展。それによる人類の叡智完遂による救いである。というか魔術ではそこまでが現界。それ以上の救いを果たすならエネルギー的に人類史を焼いた方が速い。俺は第五魔法持ってないから結局無理だけどね!」

 

 周り諸共、焼き払うかとモードレッドは思案するが――。

 次の瞬間には、連続的に周りから鋼の槍が飛んでくる。放ったのは勿論、火々乃晃平である。

 

「―――チ、此処に釘着けにさせるきか!」

「まあ、人類というより霊長の叡智の完遂だから、結果的にその時点から堕落による衰退と滅亡が待っている。滅びは、必ずしも死にイコールされる訳ではないが、二兆は超えてしまうね」

 

 ちなみに、彼の世界線における人類の2017における人口の総数は七十五億いる。一年に約一億三千人が生まれ、六千万人が死に至る。

 それが、叡智が完成すれば一年で七億の生が保証されるようになり、そして増えすぎた人類は一気に寿命に寄る死が訪れ、四億の人間が死ぬ様になる。

 老衰の死は必然として一定化され、技術の行き止まりによる堕落を知るようになる。

 最も効率の良い発展を遂げ、無作為に命を消費し続け、そのまま、路傍の花がごとき死に至る。人類種はそこで途絶える。

 滅亡する未来が加速度的に今に近寄ってくる。滅亡する人類の総数は、未来にあった滅亡の時より遙かに多いが、そこに生きる誰もが悲観がない。

 それこそが人類の完成図(アートグラフ)である。無数に噴き出る人類の航海図からそれを選び取ったもの。

 

「人理とは、人類をより長く、より強く、より確かに繁栄させる――人の積み上げた理である。まあ、簡単に言えばルートの決定。ハッピーエンドではなく、かといってバッドエンドでもない。最も可能性が溢れる、失敗と成功の均衡で裏付けされた世界」

 

 『都合の良い物語(デウス・エクス・マキナ)』で未来の人理を破壊すれば、世界線が増え続け、宇宙の寿命が縮むだろうが、人類の終りまでは持つだろう。

 

「俺が欲しいのは、ハッピーエンドだけだ。それを否定する人理は―――いらない。それがこの魔術の真意だ」

 

 土煙が晴れていく。なんとか縦横無尽に飛び交ってくる殺意をモードレッドは凌いだ。彼はと言えば、解くに何をするわけでもなく、モードレッドの目の前に居た。

 自ら仕掛けたはずの槍の檻の中に彼はいる。

 

「わざわざ説明どうも……で、なんで仕掛けてこなかった」

「―――ちょっとした準備をするためにね。暇だったから説明しただけ、他意は無い。

 お前とは、こう言う形で決着を付けたかった」

「あん?――――!?」

「お、気づいたか?ちょいと仕掛けさせて貰った。この手の呪術は本来使う意味がないが。今回ばかりは私情を優先させて貰う」

「ああ、ナルホドね…………コレは、檻じゃなくて闘技場(コロッセオ)ってわけか」

 

 槍の檻。それは、一つの仕切りを作った。

 この心象世界は、太源―――マナで満ちている。星を内包しており、人類のテクスチャが張られていない世界。

 その世界で仕切りをつくり、その中にマナが入り込まない様にした。その上で、お互いの小源――オドを霧散させる術式を張ったのだ。

 

 ここから先は外部からの干渉を赦さず、その上で自らの能力―――魔術や、宝具の使用を赦さない。

 お互いの武技だけが戦いの行く末を決める、ということ。魔力経路(パス)は通っているものの、極小でありモードレッドを現界させるための楔にしかならない。

 

「むしろ、いいのかよ。勝っちまうぜ、オレ」

「ははははっ!そりゃ当然だ。そもそも元から俺に勝ち目はないよ。

―――心象世界はこの身体が、俺が負けた瞬間に完全に崩壊するだろう。心象世界(この楼閣)が崩壊すれば、俺は魔術を行使できない。あの魔術はこの心象世界を展開している間にしか使え無い。主にエネルギー的な問題で。

 そしてこの通り、君にボコられたダメージが抜けなくてね。もはや、『都合の良い物語(デウス・エクス・マキナ)』の行使は絶望的と行って言い。もはや、野望は破綻し、負けたといっても過言ではない」

 

 火々乃は、刀の柄を強く握りしめ、片手でゆっくりと持ち上げモードレッドに剣先を向ける。

 

「――――だが、俺とて意地がある」

 

 その男にしては珍しい語気の強め方。人間らしさを表に出した声色。

 決して偽りのものではない。確かで、屈強さを窺わせる意志を感じる。

 

「むかつくんだよ、お前」

 

 心底気に入らない。

 彼は今、聖者でも賢者でもなく。たった一人の人間として、モードレッドに向き合っていた。口調はそれ故、本来の彼らしい声色へと変わった。自らをむき出しにしている。

 人間らしい理屈の薄い苛つきをモードレッドへと向ける。

 

「――奇遇だな、火々乃。オレも、お前をみるといつもむかついた」

 

 モードレッドもまた。火々乃晃平に苛つきを見せる。

 

「なんでだろうな。最初あったときは、そうでもなかったんだが」

「…………」

 

 火々乃晃平は思い当たる節がない、と言う。

 しかし、モードレッドは少し思い当たる節はある。

 

 ――――俺は、何処にでもいる誰かの笑顔が見たいんだ。

 

 そういう男の顔が、ある人に被るのだ。だからこそ、―――。いいや、似てはいない。似ていいはずがない。あの人は―――人のまま、王になったのだから。似ているのは願いだけ。

 

「いや、簡単な話か」

 

 論理的考えれば、分かる話だった。火々乃晃平が人間的苛つくとしたら一つとしか考えられまい。自分では―――たどり着けなかったもの。()()()()と悟らざるを得なかったもの。きっとそれが彼女――モードレッドなのだろう。

 

 

 ――――だから気に入らない。

 

 アーサー王と火々乃晃平が似ていることを。

 

 男の成れなかったものに無自覚になっている少女が。

 

「「テメェが気に入らねぇ―――」」

 

 どちらも哀しいほど、愛した者に似ているのだから。

 お互いの口から笑いが漏れる。

 

 

「いくぞ、叛逆の―――いや、誇りある円卓の騎士よ」

「かかってこいよ。極東の武士(もののふ)。お前の矜持、みせてみろ!」

 

 

 ――――――Last-Sword or Death

 

 

 ばん、とモードレッドは踏み込む。

 

 サーヴァントの身体能力生かし、弾丸もかくやという速度で飛び込んでくる。

 

 狙いは突き。胸を狙い、直線的にして点の攻撃。

 今は身体がアルテミット・ワンの身体ではあると言っても、元人間では防げる余地はない。―――それが、普通の人間ならば。

 

「―――はぁっ」

 

 かん、と軽い金属音。

 

「なっ」

「――ふ、そう驚くな。日本って国は修羅の国でね。殺人術の宝庫ぶりは世界随一だ」

 

 火々乃晃平はモードレッド渾身の突きを日本刀の()()()で止めて見せた。脇下に刃を置いてまるで刀をぬく一歩手前の状態で受けたのだ。

 完全に衝撃を殺し、逃がした。

 

 そして、片足を上げ膝で王剣の腹を蹴り逸らし、モードレッドへ刃を滑らせ肉迫する。

 

 モードレッドは腕を引いて何とかつばぜり合いに持ち込んだ。

 

 だが、火々乃晃平の肉迫は止まらず飛び片膝蹴りの要領でモードレッドの腹を蹴った。

 

「―――ぐぅ、このッ」

 

 腹を蹴られ後ろに少し下がるが、無理矢理身体を前に出して剣から片手を離し、正拳突きのようにして火々乃晃平の腹を殴りつけた。

 

「ぬぅ――」

 

 これには、堪らず、といった表情で火々乃は後ろによろけ下がった。

 それは紛れもない隙。

 それを見逃すモードレッドではなく、追撃に王剣を振りかぶる―――。

 

 ――それもまた隙である。

 大ぶりを誘うために、あえて引いたのだ。

 

 火々乃は、一気に踏み込みながら体勢を低くし滑空するようにして、胴を斬りつけた。

 

「が―――、おらぁッ」

「ち、浅かったッ――――ぐぉ」

 

 放ったはいいが、浅く。モードレッドの胴からは、軽いかすり傷、少しの出血。

 モードレッドはくるりと身体を回すようにして回避。火々乃は貫胴を放った故、身体はモードレッドのすぐ側にある。

 回避を利用し回転しながら剣を横向きで放つ―――ちょうど、火々乃の背中を切りつける形となった。ぶしゃ、と血が噴き出る。

 しかし、致命傷には至らず。

 彼も又、速く走り抜けようとしたことで傷は辛うじて致命傷には至らなかった。

 

 転がり出るように、火々乃は距離をとる。

 

 ――彼が、モードレッドへ視点を動かせば―――目の前で振りかぶっている。

 

「――――ッ」

 

 悪寒に身体を任せ、襲い来る殺気に反射的に腕を差し出す。

 

「なに――っ!?」

 

 これに驚いたのは、モードレッド。この状況で、避けるではなく剣に手を差し出すようなことをすれば。

 

 ぐしゃ。

 

「ぐっ――――、おおオオオ――!」

「てめ、腕を犠牲にしてっ――ッ」

 

 当然―――手はひしゃげる。

 

片腕腕を犠牲にして、剣を逸らさせる。

 

 そして――――

 

「お前の腕、いただくぜ――!」

 

 片手で持った刀を横に持ち、平行に移動させる―――モードレッドの振り下ろした両腕を貫いた。

 

「ああああああ、ぐぅああああ!!」

 

 唯貫いただけではなく。刃を無理矢理動き回し、モードレッドの腕の筋肉を破断させ、使い物にさせなくする。

 

 モードレッドの手から剣が離され、火々乃の壊れた腕に沿うように下にからんと音を立てて落ちた。

 

 しかし、それは痛み故でも、物理的に持てなくなったでもない。

 自ら剣を手放し、片手は壊れてしまったが、もう片手はただ刀が貫通しただけに治めた。刀が己の腕を貫きぐちゃぐちゃにされる前に、片腕を逃がしたのだ。

 

 そして、落ちた王剣をもう一度生き残った片手で持ち―――。

 

「―――いてぇじゃねえか、これお返しな!」

 

 どしゅ、と火々乃の腹に突き刺した。

 にやり、とモードレッドに勝利の確信故か笑みが浮かぶが―――すぐに消える。

 

「――んじゃぁ、これもお返しだな」

 

 ニヤリ、と火々乃は笑い、モードレッドの腕から刀を引き抜き、腹へと突き刺した。

 

「ごほっ―――」

 

 お互いに血を吐き出しながら、思いっきり得物を引き抜く。

 

 引き抜けたと同時に、どしゃり、と仰向けに倒れる。

 

 ぜぇ、ぜぇ、と荒く息をしながら。びちゃりびちゃり、と血を落としながら。

 

 ―――立ち上がる。

 

 その光景を見たリリスは、理解できないものを見せられていると感じた。いや、理解出来ないのではない。理解が追いつかないのだ。

 

 何故。何故。何故。

 あれらは倒れない。終わってしまえば楽だ。そのはずだ。なのに―――何故?

 

 疑問はふくれ、止まらない。

 

 そもそも、何故戦えている!戦いになっている!?もはや、リリスとしての身体は機能を十全に発揮できていない!神話礼装を得たサーヴァントに勝てる道理はない!なのに何故!

 

 ―――何が、彼をそこまで戦わせられる……!?

 

「ふ、ふふふふ、ははははは!!」

「はは、アハハハハハ――!!」

 

 血だらけ、満身創痍、お互い片腕の機能は喪失。

 なのに、笑っている。侮蔑ではない、何かがそれをさせている。

 ある種の狂気だ。

 

 ――――何故、笑っていられる!?

 

 死にかけだ。もはや、死んでいる!死にながら戦っている!

 死は絶望だ。それは、変わらぬ。それ以外ない!

 ――ああ、だが何故。

 この二人は、死を直前にして笑っていられるのか。

 

 神話礼装の負担は凄まじい。その上、あの手負い。常識外の痛みに襲われているはずだ。失神していてもおかしくはない。

 しかし、あのサーヴァントは倒れない。

 眼孔はお互いを見つめ合っている。笑みを浮かべて。

 

 リリスは、自身の疑問に全く回答が出ないことに恐れを抱き――――それ以上に、焦燥感に苛まれた。

 

 ――日々乃晃平の言う人とは、何を持って。

 

「―――お前達は、何故!死という、絶望の前で笑っていられる!何故、戦う―――!!」

 

 それは、もう悲鳴に近いものだった。理解しようと悩み抜いたが故の叫びだった。

 それを聞いた二人は、笑って、リリスの疑問に同時に答えた。

 

「「死んでも―――譲れねぇモンがあるからだ!」」

「―――――――それは」

「負けるわけには、いかねぇ。オレが倒れたら、マスターが死んじまうじゃねぇか。―――それだけは、ごめんだね。――お前はどうなんだ、ヒビノ」

「けほっ………、俺も、負けたくねぇ。俺ぁ、あの時みたいに―――もう見捨てねぇ、もう見失わねぇ、もう、目の前だけでも失わねぇ!そう、アイツに約束したんだ。お前が生きた意味があったって!

 他の誰もが、忘れても。俺だけは―――お前を、覚えておこう。それが、アイツへの、自分が救えなかったものへ、せめてもの救いだと信じている!そこには、誰の隔たりもねぇ!」

 

 ――――――――ああ、そうか。

 

 リリスは、この瞬間。大きな疑問の波が晴れていくのを感じた。

 

 モードレッドは、激情のまま訴える、ヒビノを見て笑う。嘲りではなく、敬愛故に。

 

「ハハハっ―――ああ、なるほどな。やっとテメェを、理解できたぜ。ヒビノ、お前にも、あるんだな……譲れねぇモン(たった一つの望み)が。今なら好きになりそうだ」

「は、ぬかせよモードレッド。どうせ、その首が胴体から離れたら、って言葉付きだろ?俺も、お前じゃじゃ馬ぶりは好きになれねぇ」

「ふふ、違いない。俺もお前みたいな馬鹿はごめんだ」

「……お前に馬鹿ってよばれたくないんだけど」

「―――あん?なんか言ったか」

 

 ――たった一つの望み。譲れぬモノ。

 

 これは、血を血で洗う、泥仕合そのものだった。汚さの目立つモノだと言うのに。

 

 ―――醜いはずの闘争なのに。

 

 ―――――――――なんて、それは美しい。

 

「じゃ、お互いもう現界だろ?―――次で、決着と行こうぜ。モードレッド」

「――いいぜ。勝つのは、オレだけど」

「いや、俺だね」

 

 二人は中央で向き合って立った。踏み込み剣を振り抜けば届く距離。

 

 ごそごそ、と火々乃は懐から一枚のコインをだす。

 

「コイツを弾いて、地面に落ちたらってヤツでどうだ?」

「いいんじゃねぇか?となると、純粋に得物を速く振り抜いた方が勝ちって訳か」

「おう、じゃ。行くぜ―――」

 

 チン、と空中に高くコインを跳ね上げる。

 モードレッドは王剣を前に、剣先の延長が相手ののど元になるように構える。

 対して、火々乃は、居合いの構えをとった。足はどっしりと腰を落ち着かせる型をとる。

 

「テメェと逢えてよかったよ。次があんなら……そうだな。今度は、こんな形じゃなくて共に戦ってみたいね」

「お前とか……それは、まあ、悪くねぇな。マスターとしてなら、お前は悪くない」

 

 コインは、極点を取った。

 ならば―――重力に引かれて、落ち始める。

 

 決着も又。

 

「――俺は、俺の譲れねぇもののために」

 

「――オレは、オレの譲れねぇもののために」

 

 

 カチーン。

 

 

「「死んでゆけ――――!」」

 

 

 両者は叫びながら同時に走り出す――。

 

この形式において身体をより速く前進させた方の勝ちが決まる。

 

 速かったのは―――火々乃晃平の刀。

 

 モードレッドの顔面を横に真っ二つにするように振るわれる――。

 

「―――取った!!」

 

 吸い込まれるように――モードレッドの顔面に吸い込まれていき―――

 

 がきん。

 

 それは、なんの音か。金属の音だとは分かる。では――どうして。

 

 モードレッドへ吸い込まれるように放たれた刀―――それはモードレッドの頭を真っ二つにはしなかった。精々、()()()()()()程度。

 

「―――――なんと」

 

 火々乃晃平の口から驚愕の声がこぼれ落ちた。

 なぜなら―――モードレッドは、刀を。その強靱なあごをもって―――――――――()()()()()()()のだ。

 

「――、ぅおおおおおおお――――!!」

 

 口の刃を怒声と共に吐き出して―――一気に火々乃の元へと踏み込んだ。

 

 ―――モードレッドは、腕を突き出す。放たれるのは超速の突き。

 

 刀を振り抜いた火々乃にはよけれない。よける手段はもうない。ちらり、と目を――リリスの方にむけると―――そこには、白い槍だけが残っている。

 そして、その槍も又。役目を果たしたかのように消えた。

 死を、恐怖し、生を知るコトのなかった、生への妄執を持った影は倒れたのだ。それは、彼が、ひとえに満足したということだろう。

 

 

 それをみて、男は穏やかに笑う。

 ――ああ、救えたか。

 彼にとっての勝ちは、もう得た。

 

 ずん、と銀色の輝かしい王剣が、火々乃晃平の胸の中央―――心臓を、貫いた。

 

「―――――――オレの、勝ちだ」

「――――ああ、そして。俺の敗北だ」

 

 どちゃり、と火々乃は仰向けに。モードレッドも、勢いを殺せず一緒に覆うように倒れ込んだ。

 

「……ひどいな。死人に鞭打つような、こと、するかね?」

「……ご、ふは、もう、身体がうごかねぇ。悪い。どけそうにない」

 

 お互いに全力を超えた戦闘だった。全てを消費して戦った。

 

 モードレッドも、神話礼装の負荷が凄まじく、霊基はずたぼろ、しんでないほうがおかしいくらいだ。

 同時に、火々乃晃平の身体も現界だった。意識がいつ死んでもおかしくない。

 

 ――しかし、まだ。火々乃はやりのこした事がある。

 

「――セイバー!」

 

 エリカは、槍の間を抜けるようにして近寄ってきた。近寄って、モードレッドのそばに座った。

 

「……マスターか―――なあ、マスター?……オレは、お前の騎士に――」

「うん、うん――!かっこよかったよ、セイバー!」

 

 エリカはこぼれる涙をぬぐいながら、セイバーに答えた。

 

「そうか………そりゃ、よかった―――」

 

 その言葉を最後に、ふわりと虚空に身体がほどけた。

 

 ――円卓の騎士モードレッドは、その屈強な護る意志を抱いた少女は、騎士として意義を果たし、満足げに消えていった。

 

 ごごごご、と世界が振動する。

 

 何であれ、彼女は火々乃晃平を倒した。

 故に、彼の心象世界も崩壊が進みはじめる。

 

「このままだと、お前は―――ムーンセルに、俺ごと消去されるだろう」

 

 満身創痍でも在りながら。勝手に約束したことを護るために。彼は責務を果たす。

 

「もはや、外界は浄化処理がされている。あのモンスターに切られた時点で、浄化は始まっていた」

「……私は、死ぬってこと、ですよね?――覚悟は、でき」

「まあ、この固有結界が完全に崩壊すればな。だが―――勝者が。俺という人類悪に勝った、有一の人間が死んで終わるなど、ちゃんちゃらおかしいコトがあって堪るか!勝者には、美酒が約束されていると言うモノ!勝者だけが、歴史を書き足せる!」

 

 ――――セイバーに、勝手に約束した男が一人。

 

「あの少女の君への『献身』に答えるとも!――エリカ!」

「は、はい!」

「君に、君にこれからを生きる覚悟はあるかァァ!」

「――――はい!」

「いい返事だ!では―――行くがいい。お前ならば、この世界の先でもしたたかに生きれるだろう。―――生きるがいい(誇るがいい)、君は、俺を、人類悪を倒したのだから!」

 

 悪戯っぽく笑って、手を点に向い振り上げた。そらには―――地球、太陽、月がある。

 

「―――元気でな」

 

 セイバーとの決闘をする前の準備とは、彼女を地上に送り届ける準備をしていたのだ。こんな自己満足に付き合わせてしまったのだから、当然といえば当然なのだが。

 

 光が、エリカへと集まっていく。

 

「はい―――――ありがとう、ございます――!」

 

 火々乃は、その感謝には、手を振って答えた。

 

 光が一際強くなり―――彼女はログアウトを果たした。

 

 ぎぎぎ、ばこん、と音と共に崩壊の音色は強くなっていく。あと、数秒もすれば――完全に崩壊するだろう。

 

「俺も、目を―――覚ますか。まだ、俺には――」

 

 男は瞼を閉じる。

 

 意識が、落ちてく感覚。

 

 黒く塗りつぶされていく。

 

 酷い喪失感に揺らされて。

 

 ――――完全に塗りつぶされる瞬間に。

 

 ライダーの笑顔が、やけに眩しく――思い出された。

 

 




やっと本編おわったぞ。思えばクソ長かった。

皆さんは楽しめましたか?

楽しんでいただけたなら、これ以上無い幸福です。

では、後日談をもって、EXTRA編完結とさせていただきます。
読んでくださってありがとうございました。
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