Chapter 2 計算監獄
ぼやけた視界が刻まれることのない物語を瞳に映し出す。
拾われる理由などありはしない。
いずれ消えるのが道理の物語。
それを望まぬ、許せぬと言うならば。
ならば、ならばこそ、死力を尽すがいい。
―――その先に届くものあるだろう。
***
――――女の話をしよう。
着替えた時から、女は衆目を集めていた。
虫も殺せない可憐さで、女は男を管理する。
節度のある生活を! なるほどそいつは聞こえがいい。
無駄のない人生を! いかにもそいつは素晴らしい。
待っているのは計算監獄。無垢なるものこそ残酷だ。
眉目秀麗、品行方正。なのにどうしてこうなった?
***
ぎゅんと体が飛ばされ、桜の樹の前まで飛ばされる。
何とか、目的を達成することに成功した。
結果的にキャスターへの裏切りとなるが、これも俺の願いのためだ。致し方ない。
「大丈夫ですかっ? ああ、よかった……!」
そういって近づいてきたのはキャスターだった。奥にはこちらを心配そうにみる二人の姿。
まあ、彼らと違って俺だけ干渉されその場に残されたのだ。モニターも恐らく出来なかっただろうことが彼らと会話でわかった。
キャスターがこちらの無事を確かめるため体のあちこちを見ている。一切の邪念は感じられず、純粋に心配しているようだった。少し、心が痛む。
―――だが、こいつは俺の正当なサーヴァントではない。騙されてはならない。
BBの言っていた言葉が頭の中に思い出される。
『128基のサーヴァントのいずれにも該当しないサーヴァントをどこからか連れ添っていて……』
128基のいずれでもないサーヴァント……では、コイツは何故。
疑念は深く刻まれほころぶことはない。
――――記憶さえ戻ったなら。
***
BBはAIに過ぎない。あれは暴走、というより狂っているというのが生徒会の出した答えだった。
遠坂は生徒会の副会長になった。彼女の能力の高さは迷宮で味わった。その力が加わるとあらば頼もしいことこの上ない。
しかし、これからの話をしていた所に外部からの回線介入が起こった。
―――妙な音楽とともに視界がジャックされた。
BBチャンネルとか描かれたなにか。テレビ番組風の何か。
自分の手足も体もなく、完全に視界・聴覚だけ奪われたようだ。
そこで行われたのはコメディ的な解説。誰に向けられたものかは一目瞭然であるが――面白いので黙っておく。
岸波の面白い解答やら、それを聞いたBBの動揺を悟られまいと隠す仕草とかぼー、と見ていると“今回のセンチネルの紹介で~す!”などといってBBは指示棒を振った。
ファンシーな演出とともに、ぼふ、とでたのは褐色系女子。なんて言うかエジプトを感じますね。
『今度のボスはエキゾチック&アカデミック! 知的な白衣とおでこが光る、絶壁/つるつるのスレンダービューティー! そう、彼女こそアトラス院の誇る、地上最後のホムンクルス! ラニ=Ⅷさんです!』
アトラス院―――魔術協会の三大部門の一つ。
別名で巨人の穴倉とも呼ばれている錬金術師集団。計測と蓄積の化け物どもの巣。
――エジプトじゃねぇか。
俺達からすれば厄ネタの倉庫でもある。
BBのバカっぽい解説を聞き流す。
少女を中核とした
**
物語は流転し続ける。
**
迷宮はより深く。表にも似た構造。
耳に届く美声―――。
白いセイバーは、風だとか言っていたが。
ラニは王子力とやらを測定するためだけに迷宮を改造するといって引きこもってしまった。
なので、マイルームへと戻ってキャスターと話をして時間を潰すことにした。
こいつは信頼出来ないが、それだけだ。あの心配した顔を信じるとしよう。
「………ホントに酷い雑音。セイバーは風のささやきとか言っていましたが、これはどう聞いても人為的な音。歌っているのは確かでしょう」
岸波が走り去っていってから、そんなことをキャスターがいってきた。眉を不快そうに歪めて言っているので、あまりいい唄とは思っていないようだ。
「音痴にも程があるでしょう……! 聞いているだけで苛立ちます! 誰に向けてもいない歌など雑音に決まっているでしょうに、あのトカゲは判っていません!」
そう俺に熱弁した。キャスターは唄にかんして譲れないものがあると見た。ていうか何故俺に言うのか?
「あー、うん。わかるわかる。ありゃ、唄を理解してないよなー」
「………なんですか、そのあからさまな棒読みは。――――いいでしょう。本物を知らなければ、裁定のしようが無いのは道理ですから!」
やたらと熱を上げるキャスターを裏切る生徒会からの通信。呼び出しである。
キャスターの顔は、ガラにも無く熱弁した恥ずかしさと披露できない残念さで出来ていた。
「……後で機会があったら聞くから。そんな顔しないでくれ」
なんか俺が悪い感じになるから。
***
肯定されたり、却下されたりする岸波を見ながら俺はため息をつく。
蓄積と統計に基づいたものにしては少し―――妙、というか雑念が交ざっている。まあ、十中八九SGのせいだろうが。
壁の前で相対した岸波とラニ。
凜からはラニの言葉を否定し続けるように岸波は言われていた。
『迷宮に矯正プログラムを付加した理由は何だ!』
岸波がそう質問する。
するとラニは首を傾げて答えた。
『理由、ですか……? 言うまでもありません。貴方には私に出会う資格が無かったからです。人間には無駄が多い。それでは人間のためにはなりません。私が正しい教育を施すのです』
人間のために無駄をそぐ。にしては、ラニの矯正プログラムには一貫性がなかった。
まるで――自分の望む誰かになって欲しい。そんな印象がうかがえるような問いが数あった。誰も望んでない押しつけがましい教育方針。
断固反対すべきである。
『私はつねずね思っていました。白野さんは才能の無駄遣いをしていると。だから私が鍛えるのです。すべては白野さんのためです。教育ママ…….いえ、教育後輩と呼ばれることも恐れません』
『そんなの望んでない!』
結局は彼女の願望である。押しつけられるものにとってはいかんせん反発したくなる。
『……望んでいない筈がありません。あれこそワンランク上の貴方です。参考になったでしょう?』
『ならない!』
『……。参考にはなりませんでしたが。ですが反省はしたはずです。こうすれば良かったのだ、と』
『全くしていない!』
お前の欲望が混じってる時点で参考にはならんと思うんじゃが。
『………そんな筈は、ないのです。私は客観的な統計に基づき、白野さんのライフスタイルを矯正しました。より優れた人間の在り方に。それが否定される筈がない。だって気持ちが良かったでしょう?』
『ぜんぜんよくはない!』
正しい回答を続けられる事に興奮を覚えるのはわからんでもない。クイズ番組とか見ていると出た問題とそれにたいする自分の解答が当たっていたら嬉しくなるもんだし。
――昔の俺に似ているのかもしれん。人は判らなくても、そう言った愉しさは理解できた。
つまり、ラニはそれを愉しみとして考えている筈だ。
『……ありえません。私のプログラムは完璧です。すべては貴方より優れた人間に慣れる為のもの』
優れた管理をするだけ、とは言うが―――理想像にすぎないものを押しつける理由にはならない。
しかし、その心には確かな人間性が宿っているのだろう。愉しみを理解しているのが何よりの証明である。
岸波は跳躍し、ラニのSGを暴いて見せた。
そのSGの名は――。
『――管理願望』
誰かを管理したい。支配願望より厄介な代物だ。
アトラス院のホムンクルスらしいとも言えるのだが――かなり計測魔ぶりでなくてはその願望にはたどりつけまい。
―――そこが俺と似ているのかもしれない。俺はそうしなくては未知が溢れているという事実に押しつぶされていた。未知に恐怖を抱くのは当然で仕方なく、そこでのうのうと生きられる人間の気味の悪さときたら。
***
ラニのSG1のあと一日はさんで、地下に潜った俺達の前には大きな扉が立ちふさがっていた。
岸波が扉の前まで行くと―――アナウンスが聞こえてきた。声の主はラニである。
『ミスター白野。貴方には自由になって頂きます。余分なものはカットです』
そのものいいに何故かいやな予感がした。むしろ悪寒にちかい。
岸波は何を言っているのかわからないみたいな顔をしているが。
『わかりませんか。服です。この階層に入りたいのなら、まず服を脱いでください』
………………。
酷い沈黙と悪寒が俺達を襲った。
なにいってんだこいつ!?
『気が合うなラニ! 余も上着ぐらいは脱ぐものではないか、とつね日頃思って――――――む、ゴホン、なんでもない。なぜだラニ。我が奏者を剥くなどその発想の起点をつまびらかに語るが良い!』
そのあと、サーヴァントの服がどうたらなんやら。
なんらかの手助けがしたいとかうんとか。
―――で、結局下着だけ残すという折衷案。
全自動脱衣式オープンロックと名付けられた扉。
―――ごくり。
あ、別にちょっと卑猥なことに使えるかなとか思ってませんよ? ホントダヨ? 世の健全男子による男子の為だから!
レオはその様に大爆笑し、凜は岸波の行動を撮るべくRECをすでに仕掛けているようだ。
岸波がいたたまれないが。
ぐずぐずしていると、ラニは礼装を一個外すという条件で許してくれた。
ちっ。
**
突然、岸波が思い悩むように道中で止まったりしていたものの、特に危険なこともなく無事に最後の扉まで歩いて行った。
来たるのは三度目の扉。
二度目の扉で、岸波は持っている礼装を全て取り上げられていたが、今回はさて。
『ついに三つ目の扉だな!』
と白いセイバーはやや興奮気味に言う。そんなセイバーの様子とは反対に岸波の顔色は優れない。“猛烈に嫌な予感がする!”というかのような顔をしていた。
礼装を奪ったのなら――今度は半裸になれろでも言うのだろうか。
三度目の扉――三度目の正直という言葉があるように、大抵の物事は三度目に本質が現れるものである。
ラニのSGもそれに関係している―――今度はどんなことを要求するのか、ちょっと興味ありますね。
『お疲れ様でした。私が何を要求するのか、口にするまでもありませんね』
―――つまり、脱げ、ってことですね!
『………もう外せる礼装はない。余分な装備はどこにもない』
おっと、岸波とぼけましたね。まあ、次の要求が判った以上避けようとするのは当然かもしれないが。さすがに全裸はアレかも知れないが、服を脱ぐぐらい問題はないだろう。
『おとぼけは通じません。この先に通りたければ速やかに脱ぐのです』
『ははは、やはりそう来ましたね。いいじゃないですか、服を脱ぐぐらい。裸になれとまでは言っていないんですから』
ラニの催促に、レオの笑い声。そしてRECを起動し、岸波のあられもない姿を撮ろうとしているだろう遠坂。
―――観念して下着姿を晒すがいい! BBに高く売りつけられる!
俺もまた、遠見の水晶に追加したスクショ機能を起動させる。
岸波は“進退ここに極まった”とばかりの顔をして―――。
『いえ、洋服はそのままで結構です。ただのヌードに興味はありません』
『まことか!?』
『
―――――――――――――――え?
今、ラニが下着だけって。え?
なんだって―――え? 下着?
「下着だけ……いい趣味をお持ちのようですね、ラニさんは」
なにやらキャスターが感心したように頷いているが―――下着だけはないのでは?
『貴方に残された最後の倫理の砦。この世でもっとも理解に苦しむ常識。これを破壊するのが
錬金術師ってなんだっけ?
『
あ、アトラスってなんだっけェェェェェ!?
―――――――これ、理解したらダメなヤツだわ(直感)
『アトラス院はいっちゃってるッス。あいつら未来に生きてるな』
――――そんな未来は全力で阻止するわ! そんな人理認めません!
“では、わたしはこれで”とラニは言って通信を切った。
―――岸波がんば。
「シャットダウン」
「ああっ! そんな……マスター! どういうことですか! これから面白くなってきそうだったのに!」
抗議さいてくるキャスターをいなしつつ、岸波の健闘を祈るのだった。
*
見事、岸波はラニのSGを抜き出した。そのあと、赤いランサーに襲われたようだが……無事に切り抜けていた。
『宝具すらつかえないくせに』
そうランサーに言われた岸波はうつむくばかりだった。
だが痛い所を突かれたのは岸波だけではない。俺もだった。
―――このキャスターの真名。
正直、真名自体は―――もう予測がついている。だが、だからこそわからない。何故彼女が自分のサーヴァントとなっているのか。
俺をどう利用する気なのか。なんのために。そんな疑問ばかりが積み重なっていく。答えがまだ出そうにないことがわかっていても止められない思考のループ。
そんな思考のループを止めたのは、キャスターの問いかけだった。
「――――真名。お聞きにならないのですか、マスター?」
そんな問い。ランサーの言葉で思わず眉をひそめたところを見られてしまったのだろう。今まで聞くことのなかった疑問が改めてキャスターの脳裏をよぎったに違いない。
「お前に言う気がない。違うか? 俺は、お前から真名を告げる時が来るまで待つさ」
「……………」
「宝具は使えるんだろう? セイバーは経験値がリセットされていた――マスターは真名を思い出せない。対してガウェインはリセットされず、真名と宝具も問題ない。では、お前は? ―――簡単な話だ。お前、キャスターは宝具を問題なく使え、真名を忘れたわけでもない」
単純に明かす気が無い。
BBからの証言から、キャスターが嘘をついているのは明白。
わからないのは、唯一つ。
「―――お前は何が目的だ、キャスター? お前は何をしようとしている?」
直接疑問をぶつけ、様子を見る。
キャスターは震え、胸の奥を掴むようにして――まるで、胸から這い出そうになるものを必至でおさえているような表情をした。
「……………そ、れは――――」
ち。
どうしても言えない理由があると見た。葛藤がみたいワケじゃないんだ、こっちは。それにその
―――BBに取引を仕掛けて正解だった。
「……無理して言う必要は無い。真名と一緒に打ち明けてくれる日を待つ」
「………ごめんなさい」
「構わん。大して気にしていない」
この世界に明日など来ないが。
―――キャスターの真名はもう判っている。
ドルイドの魔術師。神代に生きた魔女。
ドルイドとはヨーロッパの各地で伝承が散見される森の賢者である――源流はケルト、アイルランドの伝承が元とされている。
神代の魔女といえば――ギリシャ、コルキスのメディアや鷹の魔女とかが思い当たるが……恐らく違う。神代の終りは五世紀ごろ。
紀元前2500年前から神々の衰退は約束された原因は――ギルガメッシュ。
まあ、それはとかく。
つまり、神代の魔女は――紀元前から五世紀までの間での魔女を指すのだ。
史実では男だったが実際は女だったという可能性は今回排除する。面倒だし。
そして何よりも――真名に近づく一因になったのは、あのセイバー戦で見せた巧みな棒術だ。
いくらセイバーの戦闘技能が極端に落ちているとは言え、キャスターの棒術に押し巻けるとは考えづらい。
マトリクスを確認してキャスターの情報を見たところ筋力はCだった。
そして―――俺の不意打ちをよけれたこと。
俺はキャスターの援護の声を受けて―――完全な不意打ち、それもこちらから目を離した瞬間を縫うように短刀を飛ばした。
あの状況でよけれるとしたら高い直感能力を持つサーヴァントぐらいである。あるいは―――
正直断定にはまだ遠いがもはやここまで来れば該当するものは少ない。
最後のキーワードには―――■■■■だ。余りにも特徴がありすぎる。キリスト教などにも組み込まれたものだが、元を辿れば――ケルト圏のものである。
以上より、彼女の真名は――――だと予測する。
火「なるほどねぇ」
ラ「何がナルホド!? 結局明かす気ないじゃない...! すごく気になるんだけど!」
火「おちつけ、ライダー。いつかキャスターが明かす時まで待て。つーかここまで言っちゃったら勘のいい人は気づいちゃうよ」
ラ「ぐぬぬぬぬぬ...! マスター、後で教えて?」
火「断る。おもしろくないだろソレ」
***
【クラス】 :キャスター
【マスター】 :火々乃晃平
【真名】 :■■■■
【属性】 :混沌・悪
【キーワード】 :■■■■
:■■■■■■■
:■■■■
【ステータス】 :筋力C 耐久D+ 俊敏C+ 魔力A+ 幸運C 宝具EX
【クラススキル】 :陣地作成B 道具作成C
【スキル】 :高速神言A ■■■C ■■EX