Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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クライマックスは、近い。


殺戮戟情:反転衝動

 

 キャスターのSG2を入手して一日たった。

 

 迷宮の奥へ進んだのは、いいのだが。

 

「参ったわね。まさか、一回も姿を現さないなんて。こっちには時間もないってのにっ」

 

 凜の言う通り、キャスターはあれからずっと出てこない。何度もこちらから迷宮に訪れたというのに。

 姿を現すことはなかった。

 

 エネミーこそ、いないもの、こう出てこないだけで完全に手詰まりだ。

 

 いや、正確には―――手は、在るのだ。

 

「頼みの綱は、ずっと寝たきりだし―――サクラ。アイツの様子はどう?」

「……はい。まだ、眠ったままです」

 

 ヒビノは、あれ以降ずっと眠っている。一応、息はあるようだが起きる気配はない。

 

「彼が起きる可能性はもう………。それに縦しんば動けたとしても―――そのまま蒸発するでしょう」

 

 桜が言わんとしていることはわかる。

 

 彼女が言うには、すでに彼は死んでいるの同じ――むしろ、なぜ身体がまだセラフに残っているのか分からないほどリソースを奪われているらしい。

 

 身体が、残っているのなら復活の目処はある。

 

 しかし、彼はリソース――生命エネルギーが生産できないらしい。

 

 なにせ、()()がないのだ。

 

 桜が、メディカルチェックをした際に判明したのだ。

 

 少なくとも、一週間前から心臓を無くしたらしい。

 

 心臓は、生命エネルギーの創出点。それが、ない以上復活は見込めない。

 

 

「すみません、会長。……今の彼女は、ミスター・ヒビノを殺す、と脅しても出てこないでしょう。我々では、もう」

 

 

 ―――大丈夫だ。

 

 無意味だろうと、自分は出来ることをするだけだ。

 

 

***

 

 

 

 ――――目が、覚めた。

 

 酷く、頭が重い。

 

 身体は、重い。

 

 起きたはいいが、これでは、死に体だ。

 

「……目が、覚めましたか?」

 

 身体を起こそうとすると、不意に、そう声を掛けられた。

 

 ……なんだか、幸薄そうな少女がこちらをのぞき込んでいた。

 

 ―――誰だろう?

 

「えっと……、そうですよね。覚えていませんよね」

 

 肩ほどで切りそろえられた黒髪に赤いカチューシャをつけた少女――ふむ? 記憶のどこかにかすったような。

 

「……その、あの、赤い髪のサーヴァントが私を殺そうとした、時に」

 

 おどおど、とこちらの様子を窺うように彼女はそういった。

 

 ああ。そう言えば、助けたような気がする。

 

 確か、名前ももたないNPCだとか。

 

「……で、その君がずっと?」

 

 看病していてくれたのか。

 

「はい」

「それは……すまない。ありがとう。オレは、もう大丈夫だから。もう行っていいよ」

 

 おそらく、誰かに見てて、とでも言われたのだろう。NPCは自発的な行動が出来ないらしいし。

 

「―――――あの!」

 

 ベッドから立って、ふらつきながらも――扉にたどり着いた時に、声を掛けられた。

 

「私の、リソース使ってくれませんかっ!」

 

 彼女は、そう提案してきた。

 

 それは、甘美な響きを伴っていた。

 

 ―――他人から、リソースを奪うことは可能だ。

 

 最も、まっとうな方法ではないが。

 

 例えば――吸血。

 

 NPCでも―――素体もとが年頃の女だけに。

 

 そののど元が――。

 

 ごくり、と喉がなる。

 

 今、自分は――――どうしようもなく、乾いている。

 

 それを飲んだなら―――。

 

「っ――――」

 

 力の限りで壁に頭をぶつける。

 

「――――い、てぇ……」

 

 頭を軽く振る。

 

 まったく、自分の節操のなさには呆れてくる。

 

「せっかくだが、わりぃ……。ソイツは――生徒会の奴等のために取っといてくれ」

「――――――それは、どうして」

 

 少女は、そう口にする。

 今にも消え入りそうな声色で。

 

「貴方は、リソースを必要と、している筈です。生徒会のマスター達がそういっていました。……私はNPCです。このまま、ムーンセルに消されるより、貴方に使って貰ったほうが―――!」

「それ以上は、言うな少女」

 

 命を使ってくれとか、言われても。そこまで、たいそうな人間じゃない。

 

「お前のような、無辜の命を奪ってまで足掻こうとは思わん。少々、今にもぼろっと腕とか落ちそうだが―――オレさえ、我さえあれば、十分」

 

 ふらついた身体をただし、見栄を張る。

 

「――――それに、君みたいな可愛い子を犠牲にしたとあっちゃあ……かっこわるいじゃないか」

 

 女より先に逝ってしまうようなロクデナシでも、それくらいの道理はわきまえている。

 

 “じゃあな……。達者で生きてくれ”、そう言って、保健室を出た。

 

 

***

 

 

 ヒビノが去り、残された少女は。

 

 

「やっぱり……貴方は、あなたなのですね。……本当に、ずるい人。私、馬鹿みたい」

 

 

 ヒビノが見たならば―――まるで、キャスターみたいな笑い方をする、と言うだろう。

 似ても似つかぬ姿なのに―――余りにも、微笑むその在り方が、似ていた。

 

 曰く。モルガンには九の人格があると聞く。

 

 曰く。彼女の――湖の貴婦人はいくつもの、側面がある。

 

 

 彼女の黒髪が、一瞬、金色になった。

 

 意識の投影。

 

 モルガンの内側で―――ずっとその、人であればこそ得られた幸せを、羨ましく思った少女がいた。

 

「私を選んでくれたら……エクスカリバーくらい貸してあげたのに」

 

 誰にも、語られぬ物語。

 

「――――幸せに、してあげてね。愛しい、名もなき人」

 

 彼女は、残影に過ぎず。

 

 だが、その夢は誰のモノでもなく。

 

 ―――――たとえ、泡と消える、定めだったとしても。

 

 金色の貴婦人は、星の内海に溶けていく。

 

 

***

 

 

 まだ、本調子ではない。

 

 ―――ずきずきと頭が、痛む。

 

 頭の中をアリに噛まれているようだ。

 

 意識は鈍重だが、消えるよかまし。

 

 マイルームに置いておいた短刀――刃渡りは18、そりは2。

 

 火々乃晃平の、全霊を尽した礼装。

 

 “剪る”という概念を付加した礼装だ。

 

 ―――全部、想定していたってことか。

 

 わざわざ、ベッドしたに置いとくとか――エロ本扱いじゃないか。

 

 キャスターに―――ひいてはヴォーティガーンに気づかれないようにするため。

 

 “おれたち”では、救えない、か。

 

 “おれら”以外なら救えるんだな。

 

『―――譲るなよ』

 

 そんな言葉を想い出す。

 

 ―――ああ、それでも。

 

 今夜だけは、譲れない。

 

 

***

 

 

 最後のSGは目処がついている。

 

 キャスターが待ち構えているだろう場所に、歩いて行く。

 道はなく。ただ、木々が生い茂った――一つの世界。階層ごと、この世界になっているらしい。

 

 空には――下弦の月。

 

 少し、曇っている。

 

 雨が、降っていた―――それこそ、誰かが泣いていそうな、ほっそりとした雨脚。――肌寒い。

 

 細い、明かりが。今は、心強い。

 

 あの子の前でこそ、見栄を張れたものだが―――死の恐怖は健在だ。

 

 心臓はない/心臓は付け足した。

 

 それは、ばくばくとなっている。こめかみがぎちぎちいっている。

 

 唇が、乾くから舌で湿らせる。

 

 ――――気配を、一身に探る。

 

 

 近くには――嗚呼、岸波が今日も探索しているらしい。

 

 思えば、彼には世話になった。

 

 でも、今夜は譲れないんだ。

 

 無視して――彼女の事だ。表では分からない仕掛けをどっかに仕掛けているのかも。

 

 いや、単純に、出て来る気がないのか。

 

 

 妙に、開けた中心で。

 

 ちょうどいい岩があったから座った。

 

 ―――まずは、上弦の月。少女を示す。それは、恋。

 

 次は、満月。母を示す。それは、愛。

 

 最後は――下弦の月。魔女を示す。それは、狂愛。

 

 

 今夜の彼女は、狂っている。

 

 狂っていれば、失っても傷つかないから。

 

 言い訳、したいんだ。

 

 オレの知る彼女は、まじめな(ひと)だ。慎み深く、賢い女だった。だから、馬鹿みたいに、まじめに罪を全部背負ってしまって。

 

 ―――――誰かのせいにすれば、よかったのに。

 

 森の奥。初めて見た時から―――一目惚れだった。

 

 太陽が、彼女を照らす。それだけで、輝かしさが何倍にも増したように思えた。彼女だけ彩が違ったんだ。……結局、どこかで、こじれてしまって。

 一番、大切な言葉を言えなかった。

 

 わりぃな。俺よ。

 

 オレの慚愧に付き合わせてしまって。

 

 ああ、そうだ。俺が言う通り、自害させとけば、こんなことにはならなかったろう。

 

 

 右手に宿る令呪をみる。

 

 ――――――――――いやになる。

 

 亡霊になって、ここまで来て。

 

 

 しかも、ここまで俺からはお膳立て。

 

 

 ―――なっさけねぇ。

 

 

 だが、感謝しよう。

 

 

 もう一度、空を見る。しとしと、降りしきる雨の中で。

 

 

 ――――――嗚呼、なんて。綺麗な、月。

 

 

 それを、眺めて―――どれくらいたったのか。

 

 ―――どくん。

 

 

 心臓が跳ね上がった。

 温度が変わった。摂氏0.2程度の違いであっても、俺には分かる。

 

 来たんだ、彼女が。

 

 

「――――――今日は、いい月夜だ。ニホンってとこじゃかぐや姫でも降りてきそうな夜って例えるらしい」

 

 

 ―――オレの、愛した女。

 

 

 幽鬼のような目。理解出来ないというかのような目。

 

「…………どうして、きたのです? 貴方にはもう興味はありません――――さっさと消えなさい」

「どうして、か。――――決まってるだろ? お前との合瀬をするためだ」

 

 購買から買ってきた神酒のコルク栓を引っこ抜く。

 

「どうだい、モルガン? お前、酒癖は悪いけど嫌いじゃ……」

 

 小口に酒を汲もうとしたら。

 

 光弾が―――酒瓶を撃ち抜いた。

 アルコールと甘い匂いが広がる。

 

「ひでぇな、オイ」

「………貴方と酒を酌み交わす? ―――馬鹿を言わないで。貴方はもう用済み。私の気が変わらないうちに―――消えなさい」

 

 

 消えろか。

 

 女の姿を見れば―――。

 

 やはり、オレには蔑みの目を向けてくる。

 

 だが――猫を被る気なら、もうちょっと隠せばいい。

 

 

 本当に、オレのことが嫌いなら。

 

 

 オレの前にも出てこなかった。

 

 それどころか、話す間もなく殺してたろう。

 

 ――――ホントに愛いヤツよ。

 

 オレは、知ってるぜ。お前の生前を。

 

 そんな甘っちょろい女じゃねぇのさ。仕掛けるなら徹底的。一切の抵抗を赦さない。えげつないったらありゃしない。えぐい戦法ばっかり使う女をよ。

 

 わざわざ、警告するためだけに出張ってきやがった。

 

 

 ―――――――可愛いだろ、コイツ。

 

 

 …………じゃあ、そろそろ。

 

 

 いや、でも―――最後なんだ、もう少し。彼女を愉しみたい。

 

 片手に短刀をはべらして、くるりと回す。

 

 曲刀を使うのは、初めてだが―――なんていい物を新調してくれたんだ。

 

 これだけの名刀とあらば、眺めているだけで気分が高揚する。

 

 チン、と鯉口をならしてしまう。

 

 

「なあ、キャスター。一つだけ、聞いていいか?」

「……………何かしら?」

「俺との、旅路。つってもたいした場所にはいけて――それは、昔からか」

「…………何を言ってるの?」

「―――――最期だから、聞いて起きたかったんだ。なあ、俺との旅路は楽しかったかい?」

 

 “そうですね。最期なら”、一興だろうと女は口を開いた。

 

「愉しかったですよ。その無様さ、身勝手さ、劣悪さ。ええ、どれも浅ましくて、愉しみがいがあって」

「…………そうか。楽しかったか」

 

 髪を濡らす雨も、いつもはうっとうしいのに。

 

 今は、いとおしい。

 

「気が済んだなら帰りなさい。もう、マスターは不要です。あの校舎で、震えていなさい」

 

 さっきから、命令形ばかりだ。

 

 そういや、強いヤツが、好きなんだっけ。

 

「―――あーあ」

 

 オレは、ついぞしることはなかった。

 

 

 ずっと見たかった、その笑顔が。

 

 こっちでは、それはもうずっと。

 

 意地悪げで、悪戯っぽくて、子供っぽくて、大人みたいに責任を一人で背負い込んで。

 

 現代の大人は都合よく責任放り投げるヤツが多いってのに、たいそうなこって。

 

 でも、よ。

 

 コイツがあんな笑顔を見せれたのは―――オレじゃなかったからだ。

 

 意地を張らなくて済んだんだ。

 

 

 ただの色ボケじゃねぇ。

 

 

 品を知っている。

 

 愛を知っている。

 

 恋を知った。

 

 おうおう。オレが愛すにたる美しい女だ。

 

 

 ―――――――是が、オレの、俺達の最期の夜だ。

 

 

 かしゃん、と。

 

 

 細く美しい刀を取り出す。

 

 

 逆手でもって、胸の前で一文字に構える。

 

 

「…………なんの、まねですか」

 

 

 モルガンの震えた、乾いた声。

 

 ―――――どくん。

 

「まさか、私と戦う、とでもいうつもり? ――――正気?」

 

 たぶん、さっきの金属音を聞いて、岸波たちは来て―――是を見ているだろう。

 

 一応、手を出すなと雰囲気は出しておく。

 

「お前に、正気がどうとか言われたくない」

 

 ――――この夜は、譲れない。

 

 ああ、でも。

 

 この女に事実だけは、突きつけておこう。

 

「―――それに、興奮しただろう?」

「っ――――――――――!」

 

 高揚した顔。自慰にでもふけっているように顔を切なく惚けさせている。

 

 誰が見ても、発情している。

 

 

「イメージしたな? オレをその手で、殺す瞬間を」

「―――――――さい」

 

 

 ぎり、と歯を鳴らす音が聞こえる。

 

 ―――ああ、それが答え。

 

 たまらなく嬉しい。それは、彼女が自分を大切だと思ってくれた証なのだから。

 

「―――気持ちよかったか?」

「うるさいッ!」

 

 今にも飛びかかってきそうな、激情。

 

 されど、その感情に彼女自身困惑している。――――気にしていない筈の男に、何故そんな激情を向けたのかがわからないといったように。

 

「……ずっと、お前は、オレとそうなりたかったんだ。破綻した、でも、いとおしさを感じる―――そんな関係に」

 

 倒錯的で。背徳的で。不道徳溢れる関係。

 

 アーサー物語は、清廉な騎士だから――有名になったのでない。その中の人間らしさが大衆には面白かったのだ。

 理想が、現実にかき消される様を愉しんだのだ。

 

 

 じゃあ、そろそろ。名残惜しいけど、頃合いだ。

 

「さあ、殺し合おうキャスター」

 

 刀を構える腕――その肘下にもう一方の腕を置き、固定する。

 これで、重い一撃を何度かそらせよう。

 

「貴方に、私が―――殺せると? ただの人間でしかない貴方が――」

「オレは、嘘を言った事なんて一度も無い。寸部の違いもなく。お前を殺す」

「あは、あははははははははっ! ――――とんだ、馬鹿もいたものね」

「―――我が証明は、ここに在らず。全て(誓いは)湖の底に(彼女の元に)。今宵は――オレの世界。オレの殺人戟を味わって貰う」

「…………まだ――」

「くどい。―――魔術回路、起動」

 

 みしみし、と音を立てて身体が悲鳴を挙げる。

 

 たったこれだけで壊れてしまいそう。

 

「―――――――はっ。そんなに殺されたいっていうなら……ええ、その誘い、ノってあげます」

 

 彼女は琥珀の槍を生み出した。それを構える。

 

「愉しませて、くれるんでしょう? ―――私より、先にイかないでくださいね、下僕」

「ああ、お前こそ。はしたなくイってくれるなよ」

 

 身体が、震える。

 

 吐き気がするほど、高揚する。

 

 なのに、血液は―――凍ってしまいそうなほど、冷たくて。

 

「嗚呼、お前と殺し合えるだなんて、夢みたいだ」

「―――――――ふふふ、私も」

 

 端からみれば、逢瀬で誘い合うように見えているかも知れない。

 

 

「「―――じゃあ、殺し合おう」」

 

 

 ―――――――今宵、二つの影が踊り狂う。

 

 

 

 




それを後ろで見守る岸波君の心情や如何に。
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