Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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殺戮戟情Ⅲ:ヒビノという男

 

 

 轟音と、目映い閃光と、爆風がエリアを染めた。

 

「アハハハハハハっ! 生きてますかぁ? 生きてますよねぇ? ふふ、ますたぁー?」

 

 と、キャスターは愉快げに言っている。媚びるような、甘えたような声なのに――どこか、寒気を感じる。サーチ&デストロイな殺気が伝わってくるからだろうか。

 

 ―――咄嗟に、木に施していた仕掛け――材質を変質・変換して硬化したシェルターを作る――を利用して、ヒビノは何とか生き残った。

 

 そこに居続ければ当然見つかるので――他の倒れた、木の陰に移動した。

 

 ―――予想以上だ。

 

 窮鼠猫を噛む、という諺があるように。

 

 追い詰めれば、何らかのアクションを起こすとは予測していたが―――対城宝具級が雨のように降ってきたぞ……。/ おうふ……流石は、妖精の女王。やっと本気ってわけだ。

 

 視線の先には、キャスター。口元には、蠱惑的な笑みを浮かべているも―――寒々しいものを感じる。

 

「『妖精よ、集え。笑え。嘲笑え。汝らの声をもって地を歪ませよ』」

 

 何やら、キャスターが呟き始めた。

 地面が隆起し始め―――、岩人形が形成される。ゴーレム、とは少し違う。何せ、核を必要としていないのだから。

 

 恐らく神代の言語だと思う。端から聞いても全くわからない。――――オレは、魔術には疎いんだ。/ へぇ、あのロット王がねぇ。

 

 ……オレにだって不得意はある。で、勝ち目は?/ ―――キャスターの足を見ろ。

 

 

 ヒビノは、キャスターの足を見る。

 

 

 キャスターの左足―――正確には左腿には、赤い線が入っている。

 

 黒鍵で付けられた傷が、治っていないのだ。それに、左上腕の焦げ跡――自分事焼き払った一撃が治っていない。

 

 ―――それは、おかしい。

 

 彼女、モルガンには―――至高の、いや、最強の護りを保持している。

 

 『全て失われるべき妖精郷(アヴァロン)』を持っている、筈。その宝具は展開すれば、六次元までの攻撃を完全にシャットアウトできる、という能力の他に、持っているだけで体を治癒できるという効果を持っていた。

 故に、彼女が傷ついたまま、ということは―――『全て失われるべき妖精郷(アヴァロン)』を持っていないか、何らかの理由で使え無いかである。

 

 

 ………。/ それが、勝算につながる。もっとも、罠の可能性もあるが。

 

 傷がつくのは分かった。だが……、今度はどうするのか。

 

 キャスターをちらりと見やれば、大量の泥岩人形に囲まれている。なにやら、指示をしているようだ。

 

 ―――まずいな。いくら『剪る』概念を持っていたところで、コンクリートには勝てないぞ。

 

 刀は、所詮刀でしかない。 ビームが出せる聖剣ではないのだ。

 

 今のヒビノは、魔力を真っ当精製できない。頑張っても礼装を機能させるくらいにしか使える生命力がない。

 

 もうカツカツもいいところで、先ほどの殺陣も、魔力、魔術を一切使っていない――人間の身体能力だけで戦っていた。

 

 無理をし過ぎたのか、左足は少し痺れている。ロット王の戦闘経験―――憑依技術とはいえ、ただの人間でそれをするには負担が強力だ。

 

 魔力を使わない技術として、分割思考というものがある―――思考を仮想的に分割し、複数の思考を同時に行う技術。それの一部を火々乃晃平の人格を引き留めてくのに使っている。

 魂には、魂と魄というものがあり、魂こそが火々乃晃平としてのものであり、魄がロット王としてのものである。

 ヒビノは、自意識の反転でロット王の意識を呼び出し、自分の人格は仮想に閉じ込めると言う方法を使ったのだ。

 

 かつて、彼の心象に居着いていたアウナスから学んだ技術である。

 

 ―――目するべきは、キャスターの行動か。

 

 キャスターの使った魔術は、妖精魔術と呼ばれるモノ。物体を組み上げ、それに妖精を溶かし入れて操る。

 しかも、彼女が指令をくだすのは真性の妖精である。

 

 自意識が薄いタイプだと思われるが―――厄介なことこの上ない。簡単に言えば、大量の魔術師を雇って探させているようなものだ。

 

 ―――妖精を惚けさせていた神酒の効果が切れたのだ。

 

 

 モルガンは、ブリテンの主として島の加護を得ている。―――彼女は衛士(センチネル)であり、迷宮は彼女の領土である。

 

 ならば―――此処こそは、掌ではないにせよ、胃袋の中だ。

 

 彼女は、ヒビノを自分の食べ物と認識し胃液を分泌したのだ。

 

 

 ヒビノは、影を渡るように疾駆する。泥人形は、この際無視である。

 

 さて、どうする。/ ……彼女は、今完全に、慢心した。王には慢心が付きものだが―――そこを狙わせて貰う。だが……ロット王。お前がそうとうのリスクを負う。

 

 ……………、自意識の崩壊か?/ いや、融合だ。俺の起源は『器』。それを基板として心象世界は構成されている。発動、すれば―――。

 

 

 彼の言いたいことは、ロット王には分かっている。

 

 『器』という起源は、許容と変容を差している。

 

 型に溶けた金属をそそぐのと同じ。注がれたものを自分の形に変化させる、というもの。それは―――究極の受容であり、究極の侵食だった。

 

 ロット王の魂でそれを展開すれば―――当然のごとく、火々乃の魂と喰らい合うことになる。

 

 つまり、魂魄が完全に融合するとは―――ロット王でも、火々乃晃平でもないナニカになることを差していた。

 

 

 ………お前こそ、いいのか。/ あん?

 

 オレの―――/ いいんだ。俺は―――火々乃晃平ですら、無いんだから/ なんだって……?

 

 

 彼は、ロット王に告げた。

 

 自分は、お前の助けたいという求めに応じ体を貸し出した。だが、ロット王は相当に疲弊、魂は摩耗していた。故に主人格を火々乃晃平というモデルを参考に形成した、と。

 

 月の裏―――BBの領域に落ちた際に、記憶をごっそり奪われてしまい、火々乃晃平として存在することになったのだ。

 

 

 / だから、問題無い。俺は、元より残滓。いずれ、消えていたモノ。火々乃晃平だったもの。火々乃晃平なら、こうしただろうというソレにすぎない。

 

 そうか……彼女は、それを?/ 知るはずもない。だが、お前が懸念するものはない。彼女は―――お前の混じった、ヒビノコウヘイという男を好いているのだから。

 

 

 ―――なら、心象使わぬ理由はない。むしろ、使うべきだ。

 

 

 そうロット王は決断した。

 

 

 使うのは良い。だが、問題は魔力だ。

 固有結界を開くのに相応の、維持するのにも魔力がいる。―――現状では、開くこともむりだ。

 

 

 モルガンの私兵は、既に動き出し―――あたりを燃やし、砕き、凍結させていく。

 

 

 ――――とっておきの当てがある、と火々乃はいった。

 

 

***

 

 

 

 モルガンの迷宮、第一層で―――それはあった。

 

 夥しい数の折り鶴が一斉に飛び立つ。

 

 ―――さながら、虹を描くように。

 

 

 向う先は―――己が主の元に。

 

 

 

***

 

 

 ―――それの接近に気づいたのは、モルガンだった。

 

 彼女は、この迷宮の主故に当然だ。

 

 向ってくる数の膨大さに、少しあっけにとられた。

 

 

 何かはわからない。いや、知っている―――。

 

 

 モルガンが思考を巡らせていると。

 

 

 だんっ、と音がする。

 

 

 それは、泥人形をヒビノコウヘイが踏み越えた音。

 

 高く、高く跳躍し―――彼の背後から、彼を覆うように飛び出す虹の塊。

 

 それが、夥しい数の折り鶴と知っていたのは、ヒビノだけだった。

 

 

「なにを―――」

「この術式は、こう言う使い方もあるんだよ!」

 

 

 折り鶴から光がにじみ―――ヒビノの体に取り込まれていく。魔力が、込めた者、己が魔術の行使者に返還されていく。

 

 

「―――祈りを、救いを指し示そう! それは、遍くを救う理想郷!」

 

 

 モルガンに飛び込むように、彼は空中を駆ける。

 

 彼女の顔には、驚愕が張付いている。

 

 咄嗟の防御すら、出来ていない。

 

 なれば―――彼の勝利は、確定した。

 

 

「開け―――!『紅華水月摩天楼』ッッ!!」

 

 

 ―――――景色が、一変した。

 

 

***

 

 

 大地には赤く花が咲き乱れている。赤い大地。咲いているのは、彼岸花。

 

 空は暗く夜のよう。闇は深く、星々が煌めいている。

 

 浮かぶ半月と、半地球。ここは異界の地であると、モルガンに知らしめていた。

 

「――――――地球ですらない。いや、地球人の心象では、ない。それこそ、神だけが持ち得る視点そのもの」

「流石、神代の巫女か。そこまで、読み解くとはな」

 

 キャスターが、その声に振り向く。

 

 

 当然、視線の先には、ヒビノがいた。

 

 

「ここでなら―――お前の支配する力は発揮されない。なにぶん、セラフの再現世界でもなく、地上でもない」

「――――――、っ」

 

 

 キャスターは、ヒビノに向って魔力弾を放とうとしたが――あっけなく、不発に終わった。

 

 

「……不発? まさか―――」

「ここは、影の月。妖精魔術は使え無いし―――お前達の魔術基盤そのものが作用しない。どうやら―――本体が、そう設定したらしい。この固有結界の中では、物理現象だけが作用する。自然現象は、全て―――俺の手の内である」

 

 彼の言う、物理現象は――神秘の関わらない行動のみだ。

 

 オドこそ限りなく満ちている、というのにソレを使わせない。支配権にして支配圏はヒビノだけのものとなっているのだ。

 

 

「………つまり、私はこの持ち込めた槍しか使え無い……と、いうことですか」

「ああ、表のゴーレムもどきも―――お前が隔離された時点で崩れ落ちる」

「ち―――こんな隠し球を持っているだなんて想定外です。ただの固有結界ならまだしも、侵食固有結界だなんて……!」

「……? お前、俺の記憶見たんじゃなかったのか? それとも、見なかったのか?」

「――――っ、ホンットに腹正しい人ですね!! 今の問いに答える気はありません!」

 

 彼の記憶を見ていたら、固有結界を知っており、ここまでの動揺を引きだせ無かっただろう。

 彼女が、ヒビノの記憶を閲覧しなかったのは、ひとえに彼に怒られたからである。

 それを推測した上でキャスターに問いかけているのだから、いやらしいったらない。

 

 一見逆転したように思えるが―――彼女は、まだ顕在。

 

 そして、その手には槍が握られている。

 

 

 英霊と人間の差は、まだあるのだ。

 

 しかし、それはヒビノにとって想定のうち。

 

 驚き、動揺した今こそ―――起死回生のチャンスなのだから。

 

 

「じゃあ、ステージは変わったけど。―――行くぞ、モルガン……!」

「―――はっ」

 

 

 たかが、自分をこんなところに閉じ込めたところでなんになるのか。

 

 キャスターの所感は、それだった。

 

 

 開かれた瞬間こそ、驚きはしたが―――原因がわかればたいした驚異ではない。

 

 

 彼女の槍に陰りができるわけではないからだ。

 

 

 しかし、彼女は、やはり動揺していたのだ。

 どれだけ、気にしていないふりをしようと、ヒビノの目からは明らか。そも――自分の誇る能力を半分以上剥奪されて、動揺しない方がおかしいのだから。

 

 ヒビノは、彼女の動きを予測する。

 

 なまじ英霊と対決する時点で、勝つ方法など―――相手の読みを先回りするしかない。

 

 全力で跳躍をすれば―――閃光がごとく。それが、英霊のスピードだ。

 

 ――だから、予測するしかない。

 

 

 ―――ロット王の戦闘経験、ヒビノコウヘイの戦闘理論がかみ合っていく。

 

 

 ヒビノに思い当たるのは―――彼女のパターン。特に、動揺の見られる彼女は、その特定の型にたよる。

 

 思い起こすは―――対セイバー戦Ⅰ、対セイバー戦Ⅱ、そして――オレとの戦闘。

 

 始めはいつだって――――!

 

 ヒビノは、上からの衝撃に構えた。

 

 

 ぎゅんっ、と放たれるキャスターの()()()()()()()()()()

 

 それを、真正面から受け止めて逸らす。

 

 

 ―――かかった! とヒビノは笑う。

 

 

 二撃目は、突きと払いの組み合わせ。

 

 突きは体を反らして躱し、払いは重心を大きく下げて、回避する。

 

 三撃目は、下から掬い上げるように放たれる突き。

 

 左足に限界まで力を込め――バネのように、弾くように飛び退き回避し、右足を思いっきり突き出し、地面を蹴って――――肉迫する。

 

 もはや、ここまでくればヒビノの領域であった。

 

 狙うは、心臓か? 否、それは回避される。

 

 ―――未来視は、まだ残っている。

 

 

 だが、それは―――彼女に死に直結する場合にだけ見えているものだとヒビノは―――さきの一戦で導いた。

 

 

 ならば、死にはしない一撃をたたき込む。

 

 彼女は―――規格外の能力を持っているが、それでも――人間だ。

 

 人と同じ構造をしているなら―――。

 

 ヒビノは、自分の持っていた刀を遠くに投げ捨てる。わざわざ、キャスターに目で追わせるために。

 

 

「――――え?」

 

 

 掛かったときには、もう遅い。

 

 数本、髪を引き抜き、固定する。

 

 それを、針として―――キャスターの足、それも内股の在る点目掛けて―――突き刺す!

 

「いっッ―――な」

 

 何を、と言いかけるキャスターの声すら速く。

 

 二本目は、キャスターに体当たりするように、左肩口に突き刺す。

 

「あぁっっ!――――このっ」

 

 腕で、頬がひっつきそうなほど近くにいるヒビノを払おうとするが―――。

 

「な、なんで―――腕がっ、うごかなっ……!」

 

 くるり、と彼女の背後にまわり―――背骨の近くを針で刺しこんだ。

 

 

「ああああああッッッ――――!」

 

 

 キャスターを襲うのは激痛。死にはしないが、死にそうな程にいたい。

 しかし、その激痛をおさえ―――背後のヒビノを槍の柄で腹を打ち抜いて吹っ飛ばした。

 

 

「うぐぅぅぅぅッッ――!!! なにを、何をしたの! マスターッッ!!」

 

 キャスターは、憎らしげにつり上げた目でヒビノを見る。

 ごろごろ、と転がってゆっくりと立ち上がったヒビノは、キャスターの激情のこもった問いにこう言った。

 

「経穴をついて、経絡を断った。気―――生命力に直結する場所を突いた。お前の腕が上手く動かないのは―――そのパスが壊れたからだ。足が動かないのも、パスを壊したからだ。体を思うようにねじれないのは、その神経回路を断ったからだ」

 

 常人ならば、この時点で全く動けなく―――いや、下手したら死ぬのだが……流石は英雄か。彼女は、激痛を感じてなお動いていた。

 

 しかし、スピードは大きく落ちている。それこそ、体勢を直すのがやっとだと言うくらいに。

 

「はぁ……はぁ………かふっ……」

 

 息を切らして、口から、彼女は血を吐いた。

 

 彼女は、英霊。

 

 故に、まだ、死にはいたらない。

 

 ―――腕を砕こうが。

 

 ―――足をもごうが。

 

 ―――死んだ方がましだという激痛が襲おうが。

 

 ―――霊核を砕くまで、彼女は、死ねない。

 

 

 ゆらり、ゆらり。

 

 

 幻影、陽炎のように―――彼は、短刀を拾い上げてモルガンへと近づいていく。

 

 彼の固有結界は燃費が悪い。

 

 もう、限界だった。息をきらしてはいないものの、頭がゆであがるような気分を味わっていた。思考が白濁していく。

 額を切ったらしく、片目に血が流れ込んで視界は、赤い。

 

 血の赤が、汗でにじんでいく。

 

 ―――この機会を逃すわけにはいかない。

 

 やがて、ヒビノはキャスターの前に立った。

 

 キャスターが槍で払いを仕掛けるが―――彼はひらりとよけ、彼女の右腕を掴み――短刀をぐさりと突き刺す。

 

 からん、と彼女の槍は地面に落ちた。

 

「――――いッッ」

 

 刀を口にくわえ、両手で彼女の腕を封じる。

 

 足を払い、キャスターをヒビノは押し倒す。

 

 

 彼女の抵抗なぞなんのその。

 

 

 キャスターの両腕を彼女自身の頭に交差するようにして拘束する。

 

 

 彼女の落とした槍を拾い上げ――――両腕を突き刺した。

 

 

「――――――――――!!」

 

 

 絶叫。耳にしみる絶叫。

 

 痛みを耐え、目に涙をながし、唇を震わせるキャスターにヒビノは、軽い劣情を覚えた。

 

 被虐的な顔を、もっと歪めさせたくなる。

 

 ―――本来の目的を、忘れてはならない。

 

 

 はぁ、はぁ、はぁ。

 

 獣のような吐息が、お互いの意識が溶け合うような錯覚をもたらす。荒々しくて、切なげな呼吸。

 

 彼女に、もう抵抗は望めない。反抗心をカイタイした。崩れそうな程、不安定。

 

 では、ここからが、本番だ。

 

 

 ―――既に、固有結界は溶けた。

 

 残ったのは、地面に縫い止められたキャスターと。

 

 彼女に馬乗りになっているヒビノだけ。

 

 彼は、口にくわえた刀を手に構える。

 

 切っ先は彼女の胸の中心―――霊核。

 

 

 彼は刀を、振り下ろした。

 

 

 

 ざしゅっ、と肉を裂く音がする。

 

 

 ぐちゅり、と彼女の血が溢れてくる。

 

 

「―――――――オレの、勝ちだ。キャスター」

「私の、負け、です」

 

 

 霊核には、刺さなかった。

 

 いや、させなかった。

 

 キャスターは、赤く、興奮した顔で彼をみて―――顔を青くした。

 

 

***

 

 

 

「――――――――――」

 

 

 キャスターは、自分を刺して、涙する男を初めて見た。

 

 

「どう、して……泣いて、いるのですか?」

 

 

 愉しんでくれた筈だ。私は、愉しかった。

 

 彼も笑っていたのに。この全力の殺し合いを。

 

 ―――なのに、どうして、そんなに悲しそうな顔をしているのか。

 

 ―――こんな自分を、受け入れてくれたのでは、ないのか。

 

 

「ばか、やろう」

 

 彼の、黒い目が私を射貫く。

 

 意志の強い眼差し―――頭の何処かによぎる似た誰かの顔。

 

 何を、思ったのか、槍を引っこ抜いて私の腕を解放する。

 

 おまけに私の体の半身を起こさせて、抱きしめてきた。

 

 ……すこし、温かい。

 

 ―――変な、気分だ。

 

 あんなにも興奮した殺し合い。

 

 いくつもの激しい感情が競り合って、気持ちよかったのに。

 

 今は、すごく……むなしくて。切なくて。

 

 胸の奥が、締め付けられるような気分なのに、気持ちよくない。

 

 

 

「つらいなら、つらいって言えば、よかったんだ。いやなら、いやだって言えばよかったんだ」

「―――私は、ブリテンの呪いの巫女で、妖精の女王で」

「うるさい、しるか」

 

 

 ………少し、あっけにとられてしまった。

 

 

「お前は、どうしようもなく人間だ。―――神じゃない。妖精の女王だとかしったことか。お前は、怪物なんかじゃない」

 

 

 

 

「…………私は、殺しました。知っているでしょう………夫を、死なせました」

 

 

 彼の言葉を、否定するために。気づいたら、そんなことを言っていた。

 

 まるで、懺悔でもするかのように。

 

 勝手に体から言葉がこぼれ落ちていく。

 

 

「………ガウェインを、死に追いやった」

 

 

「………ガレスを、死なせた」

 

 

「………ガヘリスだって、死に追いやった」

 

 

「……………アグラグェインも、駒にして使い潰した」

 

 

「………モードレッドだって、私が、殺した!」

 

 

 そうだ。私は、怪物(魔女)

 わるいことをして、火にくべられなくてはならない罪人。

 

 ――――救われてはならない、愚かしい、ふしだらな魔女。

 

 

「………アーサー王だって、私がっ」

「――――お前は、怖いんだな」

 

 

 強く私を抱きしめて、彼はそう言った。

 

 

「――――――――安心しろ、モルガン」

 

 

 その二の句に私は、生娘のように体を震わせて恐怖した。

 何もかも見通すような目で、私を見てくる。

 心の中を覗かれているようで―――、でも、不思議と怖くなくて。

 

 

 

 

「――――――オレは、お前を赦さない(愛している)

 

 

「――――オレの子を殺したことも、死に追いやったことも…………絶対に、赦さない」

 

 

「でも、それ以上に―――――――お前が、お前を責めることを、赦さない」

 

 

 

 

 ―――本当に、酷い人。

 

 

 こんなにも、簡単に私の心を攫ってしまう………ずるい、人。

 

 

 なんて、愛おしい。

 

 

 ふと、空を見上げれば―――下弦の月が私をも降ろしていた。

 

 

 




ヒビノコウヘイの精神性は火々乃晃平が、初めての殺人――つまりは親殺しをする前そのものです。
 明確に、彼と火々乃晃平は違うと言えます。




さて、次回は岸波(鬼畜)のSG暴きだぞぅ!
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