ダクソかブラボとダンまちのクロス流行れ   作:鷲羽ユスラ

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「酔うてしがなき灰色の鳥よ 後編」を統合したので削除して投稿してます。
混乱の元になるような事をして申し訳ないです。これっきりになると思うのでご容赦を。


供饌、空転、暗がりの王

『……あ』

『……えっ!?』

『む、アイズか』

『……ここにいたんだ。アスカ』

『ヴァ、ヴァレンシュタインさん!?』

『……えっと。君、は……久しぶり、かな?』

『あの、その、えっと!?』

『……落ち着け、ベル。無闇に騒ぐな』

『で、でもぉ!?』

『……とりあえず口を閉じていろ。話は私がする。

 それで、アイズ。どうかしたのか。見た所、我らを探していたようだが』

『……ベル達が、危ない事に巻き込まれてるかもって、ギルドの受付の人に、言われて……エイナ、さんって人』

『エ、エイナさんが!?』

『……ベル』

『すみませんっ!?』

『全く……だが、大方読めた。サポーター、リリルカ・アーデの【ファミリア】の事だな。

 そちらについては問題ない。既に方をつけてある』

『そう、なの?』

『ああ。救援には感謝しよう。礼を言う』

『うん……』

『……』

『……アスカ、あの……』

『……ここでは、場所が悪いな』

『え?』

『ベルと話したいのだろう? だが、ここはダンジョンだ。歓談には無縁に過ぎる。

 日を改めて地上で会おう。その時は、引き摺ってでもベルを連れて来る。それでいいか?』

『……うん、それでいいよ』

『だそうだ。覚悟を決める事だな、ベル』

『え!? あの、えぇっ!?』

 

 それは、ダンジョンの中で交わされた約束。

 

 

 

 

 数日前、アスカと約束を交わしたアイズは上機嫌で歩いていた。

 颯爽と歩く背筋はスラリと伸び、風が吹くと金色の髪が戯れる。街行く人々はアイズの人形のような静謐で端正な顔立ちに見惚れていたが、その心中では小さな幼女(アイズ)が鼻歌を歌うくらいご機嫌だった。

 約束は正午、場所は万神殿(パンテオン)、ギルド本部。

 お互いの【ファミリア】の関係や冒険者としての立場を考慮して、居ても不審のない場所を選んでいる。その代わり長時間話す事はできないが、それでもアイズは嬉しかった。

 

 やっとベルと話せる。やっとあの時の事を謝れる。

 それからできれば、もっと話したい。白兎のような少年の顔を思い出して、少女は目元を優しく和らげる。ふと、心の中で変なポーズを繰り返していた仮面巨人が、ぐっと親指を立てたような気がした。

 

 アイズがギルド本部につくと、冒険者の姿がほとんどないロビーでアスカが待っていた。

 その小さな、けれど絶対に逃さないという妙な圧力を感じる手で、ベルの首根っこを掴みながら。

 

「来たか、アイズ」

「うん……えっと、どうした、の?」

「この期に及んで逃げようとしたので捕まえている。全く、根性のない」

「だ、だってぇ……」

 

 床に座らされて半分泣きそうになっているベルの姿は情けない。アスカが手を放せば今にも逃げ出しそうな兎の姿に、アイズはシュンと俯く。

 

「……やっぱり、私のこと、怖い……?」

「へ!?」

「だって、また、逃げようとするし……私、やっぱり、怖いんだね……」

「そ、そんな事はないです! ヴァ、ヴァレンシュタインさんは全然怖くなくて、むしろびっくりするくらい綺麗な人だと思ってて!? 逃げ回ってたのはどんな顔して会えばいいか分からなくて、何話していいかも頭から飛んじゃって、気付いたら体が動いてて!?

 だから貴方が、ヴァレンシュタインさんが怖いとか全然、全然ないです!」

「……そう、なんだ……」

「は、はい!」

「よかった……」

 

 顔を上げるアイズは、ほころぶように小さく微笑む。それを見たベルはかあっと耳まで赤くなって床に突っ伏した。

 それからアスカの取り成しで場を改めた二人は謝罪と感謝のやり取りを行った。主にベルが赤い顔で慌てふためいてそれをアイズがくすりと笑う、ほのぼのとした雰囲気で話が進む。

 するとベルが戦い方をアスカに教わっているというところに差し掛かった。考え込む素振りを見せるアイズを眺め、灰髪の幼女は古鐘の声を擦り鳴らす。

 

「アイズ。貴公が良ければ、ベルに戦い方を教えてやってくれないか」

「え……?」

「えぇっ!?」

 

 「アスカさん!?」と仰天するベルを無視して、銀の瞳がアイズを映す。そこにあるのは小さな期待。珍しいアスカの様子に驚きながら、その理由をアイズは尋ねた。

 

「どうして、私に?」

「私のやり方には色がない。基本は教えられても、その先を示す事は出来ない。

 だから貴公、アイズ・ヴァレンシュタイン。貴公が道を示してやってくれないか。

 貴公の辿る剣の道。それこそがきっと、ベル・クラネルの先にある。私はそう、思っている」

「……」

 

 軽く顎を引いて逡巡する様子を見せるアイズ。あわあわと少女と幼女を交互に見るベルは、一杯一杯で事態を見守る事しか出来ない。

 少しの間考えていたアイズは、やがて顔を上げ、ベルを見つめてゆっくりと頷いた。

 

「……うん、いいよ。私がベルに、教えてみる」

「感謝する。アイズ」

「うん……その代わり、一つ、いいかな?」

「何だ?」

「アスカがベルに、教えてるところ――見せてほしい」

 

 少年から幼女に視線を移すアイズの金の瞳には、強さを求める炎が灯り。

 

「いいだろう。貴公がそれを望むなら」

 

 全てを銀の半眼に収めるアスカは、少年の行く末を灯火とする。

 

「……え、うそ……ほんとに決まっちゃった……?」

 

 そしてベルは。灰髪の幼女と金の少女の間で固まり、現実を受け入れられず呆然としていた。

 そんな彼にため息をついたアスカの魔の手が伸びるまで、後少し。

 

 

 

 

 迷宮都市オラリオは巨大な市壁で囲まれている。

 それは千年前、オラリオが築かれた際、外ではなく内からの防衛を目的に建てられた最後の盾の名残であり、今なおその役目を全うし続ける巨大な市壁だ。

 堅牢な市壁は最上部に胸壁が建ち並んでおり、そこに人がいたとしても摩天楼(バベル)以外から知る事は出来ないだろう。

 その市壁の北西、天辺に結ばれた通路の上でベルは大の字になって伸びていた。

 アイズとの訓練の後、アスカの稽古を受けた結果である。

 

「……頃合いか。今日の鍛錬はここまでとする」

「……」

 

 白み始めた空を見上げ、古鐘の声は擦り鳴らされた。疲労困憊で意識が飛んでいるベルを一瞥して、アスカは武装をソウルに溶かし振り返る。

 そこには、真剣な瞳で彼らを見つめるアイズの姿があった。

 

「……もう、おしまい?」

「ああ。貴公との訓練における疲労も加味して、ここまでだ。これ以上は後に差し支える」

「……」

 

 金色の視線を下に向けて、アイズは考え込んでいるようだ。真剣さを保つ美貌には、どこか困惑が浮かんでいる。

 その意図を察したアスカはベルにエストを振りかけ、アイズの前に近寄った。

 

「何も、特別なものを見出だせない。そういった顔をしているな、貴公」

「……えっと」

「隠す必要はない。貴公の目的など、初めから察している」

 

 (ささや)くようにアスカが言うと、アイズはバツが悪そうに視線を逸らした。表情に乏しい顔とは裏腹に、アイズの体は人差し指同士を突付き合って罪悪感を表している。

 それを眺めるアスカは爪先立ちで背伸びをして、そっとアイズに耳打ちした。

 

「貴公がそれを望むなら、私の持つ力の一端を見せてやろう」

「!」

「いずれベルにも見せるつもりだったものだ。ならばこの限られた鍛錬の先、いつしか見せる時が来る。それを待つが良い」

「……」

「話は以上だ。ベルは、任せる。私は先に戻らせてもらおう」

 

 言うだけ言ってアスカは立ち去る。トコトコと遠ざかる灰髪を見送って、アイズはベルに視線を移した。

 そこではまだ、ベルが目を覚まさずにぐったりと伸びている。

 

「……ちょっと、だけ……」

 

 意味もなく周りをきょろきょろ見渡して誰もいない事を確認したアイズは、倒れるベルの姿勢を正して、頭を優しく自分の膝に乗せた。

 そして雪のように白い髪を、そっと撫でる。

 

「……ふふ」

 

 金の少女が白兎を膝に微笑む光景に、優しい風が駆け抜けていった。

 

 

 

 

「うわっ!? きゅ、急に火が強く!? ……あれ、熱くない……?」

「……リリルカか。何をしている」

「ア、アスカ様!? いつの間にここに来たのですか!?」

 

 アスカが『市壁外縁』に設置した篝火から『廃教会』へ転送すると、寝間着姿のリリルカが居た。

 呆気に取られた表情で腰を抜かして魔石灯でこちらを照らしてくるリリルカを助け起こし、アスカは簡潔に説明する。

 

「ここに篝火があるだろう」

「え、あ、はい」

「全ての篝火は繋がっている」

「はぁ」

「その繋がりを辿り、私はここに転送してきた」

「……転送?」

「端的に言えば、一瞬の移動だ」

「…………まぁたアスカ様がとんでもない事をやって常識をぶっ壊してくれやがりましたよ……リリへの嫌がらせじゃないでしょうねこれ」

 

 朧気ながら本質を理解し、リリルカは盛大に顔を顰めた。距離という意味の消滅、運搬という概念を打ち壊す力。転送というまるで馴染まない言葉の意味を不幸にも理解してしまったリリルカは、さっさと思考を切り替えてアスカに尋ねる。

 

「それで、その転送というのはリリにも使えるのですか? もしそうであればあらゆる意味でダンジョン探索が楽になるのですが」

「いや……試してみなければ分からないが、おそらくは無理だろう」

「そうなんですか?」

「先例がある。力のある魔術師(メイジ)だったが、原理を紐解いても使用できなかった。

 篝火は不死の故郷。故郷の恩恵を授かるのなら、やはり不死でなければならないのだろう」

「……不死?」

「ああ。貴公にはまだ説明していなかったか。丁度良い、ベルへの口止めも含め、私について少し話しておこう」

 

 それからリリルカは疲れ気味のベルが帰ってくるまで、こんこんと“灰”、そして火の時代について説明された。

 戻ったベルが「どうしたのリリ!?」と心配するくらいやつれたリリルカは、想像以上にやべー奴だったアスカがやらかしそうな未来を想像して、「あはは、もうどうにでもなーれ☆」と投げやりになっていた。

 

 

 

 

 端から見れば、ベルの一日は実に過酷である。

 早朝、日も出ぬ時間からアイズとアスカの訓練を受ける。

 朝から昼にかけてダンジョンに潜り、正午に小休止。

 そのまま夕方まで探索に精を出し、ギルドで換金した後はエイナとの授業。

 これまで以上に厳しくなった授業にヘロヘロになりながら帰宅。

 夕食を食べ、明日の準備を終えたら早めの就寝だ。

 これを一週間、【ロキ・ファミリア】の遠征まで続ける事になるベルは、果たして無事でいられるのか。それを神のみぞ知ると言えば、神々に大爆笑されるだろう。

 

 では、アスカは一日をどう過ごしているのだろう。

 基本はベルと同じだ。少年の行く末を見たいと願う“灰”は、まるで軽鴨(カルガモ)のようにベルの後ろに付き従う。

 早朝の訓練は言わずもがな、ダンジョンでも戦う兎のような少年の後ろには大抵灰髪の姿がある。

 だがそれは、いつもではない。アスカには不死ゆえに得た『使命』があるからだ。

 

 第一の使命は『ベル・クラネル』。不死の幼女にとって、彼そのものが使命に等しい。

 第二の使命は『隻眼の竜の討滅』。まだ果たされてはいない。今は伏し、機が熟すを待つ。

 第三の使命は『ウラノスの約定』。彼の大神より与えられし、使命の一つ。興味は薄く、ただ果たすのみ。

 そして第四、最後の使命。それはきっと、“灰”がこの時代に現れた理由。

 この分かたれた世界が、“灰”を必要とした。それ故に最後の、だが真なる不死の使命なのだ。

 

 大袈裟な話だが、この『使命』故にアスカがいつもベルの側にいる事はない。ベルの側にいる()()がない時、アスカは『使命』のために動く。

 アイズの訓練二日目、午前中で探索を切り上げたアスカはベル達と別れ、ダンジョン内を放浪する。現れるモンスターは《レイピア》で魔石ごと貫き、『ドロップアイテム』だけ回収して奥へと進み、やがて袋小路の『ルーム』に辿り着いたアスカを待っていたのは一人の魔道士だった。

 

「来たか。時間通りだな、我が師よ」

「そういう貴公は早いな。我が弟子よ」

 

 待っていたのは、リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 都市最強の魔道士にして、新参新米の魔術師である。

 

 

 

 

 『魔術師(メイジ)』と『魔術師(ソーサラー)』は明確に違う職業だ。

 字面は同じでも、火の時代の後と前に生まれた両者は根本的に異なっている。

 『メイジ』は『魔導職人』だ。特殊な効果を発揮する『マジックアイテム』や魔道士の杖を製作する等、魔法関係の品を扱う者たちを総称して魔術師(メイジ)と呼ぶ。それは火の時代、ヴィンハイムに存在した『魔法鍛冶』達に近い。

 対し『ソーサラー』は、現代の魔道士をより探求者の方向に特化した存在だ。ソウルの深淵に近づかんとする火の時代の魔術師(ソーサラー)は、時に倫理すらかなぐり捨て貪欲に知識を吸収し、魔術を探求し続けていた。

 魔道士とは方向性が違うだろう。彼らもまた知を追うが、他方冒険者であるが故に、それは力の一種、迷宮(ダンジョン)に挑むための手段なのだ。

 

 故に新米魔術師となったリヴェリアは、『魔術師(メイジ)』ではなく『魔術師(ソーサラー)』である。それもかつての魔術師ではなく、アスカのような不死、あるいは冒険者に近い魔術を手段とする者だ。

 アスカとしては探求者の側面を歩んで欲しいのだが、それは我儘というものだろう。所詮彼女らは『契約』により師弟関係を結んだだけの二人。

 『契約』の条件だけが彼女らを縛る。その一つとして継続的な師事を約束したアスカは、リヴェリアの魔術行使を一通り観察していた。

 

 最も基礎的な魔術である【ソウルの矢】と上位魔術の【強いソウルの矢】。

 初歩的な応用魔術の【ソウルの太矢】と上位魔術の【強いソウルの太矢】。

 ファランの魔術であり、最も名の知られる使い勝手の良い【ファランの短矢】。

 魔術剣士のために開発された【ソウルの大剣】とそれにファラン独自の調整を施した【ファランの速剣】。

 同じく剣術を修めた魔術師に愛用される【魔力の武器】と【魔力の盾】。

 ヴィンハイムの竜の学院において密かにあった裏の魔術である【隠密】と【音送り】。

 

 以上がリヴェリアに課題として渡していた『魔術のスクロール』の内容だ。毎日の師事を行えない都合上、独学で行える範囲を押し付け、もとい課題としていたのである。

 

「威力は上々、詠唱精度も良し。非の打ち所のない魔術行使だ。

 この様子では近く、私の教えられる事も無くなりそうだな」

「いや、まだまだ理解し切れない理論が多い。先達がいなければここまで物にはなっていないさ。

 お前には教えて貰いたい事が山ほどある。悪いが付き合ってもらうぞ、我が師よ」

「構わない。時間の許す限りは、貴公の探求に付き合おう。我が弟子よ」

「恩に着る」

 

 師と弟子と呼び合う関係にどこか楽しげな雰囲気を振りまくリヴェリアは、素早い詠唱を紡いで【強いソウルの太矢】を撃つ。

 すぐさま放たれた青白いソウルの光は、今まさに産まれようとしていた『ダンジョン・リザード』を壁ごと粉砕した。

 深い蜘蛛の巣状の亀裂を残す【強いソウルの太矢】の威力をアスカは賞賛する。

 

「素晴らしい。もう一端の魔術師を名乗っても良いな。貴公はやはり、最適だ。

 となれば難点(ネック)は、やはり『記憶スロット』か。これを選んだのも、それが理由だろう?」

「ああ。威力と精神力(マインド)効率を突き詰めれば【強いソウルの太矢】が最も扱いやすい。

 だがそれは、『記憶スロット』が一つしかない都合上でもある。いくら破格の効果を持つとはいえ、容量が少な過ぎる。

 これでは利用できる範囲も高が知れている。どうにかならんものか……」

「ふむ。どうにかは出来るが、それは条件に含まれんな」

「ふっ、だろうとは思っていた」

 

 リヴェリアは軽やかな笑みを口元に描いて、アスカを見遣る。壁の破壊痕を見分する灰髪の小人族(パルゥム)は、いつもと変わらぬ半眼の無表情だ。

 Lv.(レベル)6であり都市最強の魔道士と謳われ、王族妖精(ハイエルフ)の身の上でもあるリヴェリアをアスカはまるで特別扱いしない。それがどこか嬉しくて、リヴェリアはアスカとの一時を楽しんでいた。

 身分への囚われを否定する彼女にとって、ありのままの幼女は得難い存在なのだから。

 そう思っていると、ふと銀色の瞳と視線が合う。少し顔を傾けるリヴェリアに、アスカは左手を差し出した。

 小さな手のひらに、青白い光が収束する。

 

「だが、私にそれは有益だ。だから貴公に、『記憶スロット』を増やす術を教えよう」

 

 そう言って手のひらに現れたのは、いくつかの異なる形状をした指輪だった。屈んでそれを見るリヴェリアは、顎に手を当てて首を傾げる。

 

「ふむ……『マジックアイテム』の類か、これは? 何やら奇妙な魔力を感じるな」

「それに近い物と言っておこう。これらは特別な力を秘めた指輪。火の時代において特殊な効果を持つ装飾は、みな指輪の形を取っていた。

 これらもそうだ。『記憶スロット』を増やす、単純だが強力な効果を持った指輪である」

「成程、【ステイタス】補助効果のある装身具(アクセサリー)のようなものか。

 ……使ってみても構わないか? 貴重な物だろう、不躾である事も自覚している。

 それでも、この身で確かめたい。これは、私の知らない『未知』だ」

「いいだろう。欲しければくれてやる。貴公の身を以て、確かめてみろ」

「感謝する、我が師よ」

 

 丁寧に礼を尽くし、リヴェリアは恭しく指輪を受け取る。

 【白教の司祭の指輪】【暗月の指輪】【南の司祭の指輪】【聖女の指輪】【深みの指輪】。

 片手の指を全て埋める数の指輪は、合計で『記憶スロット』を八つ追加する。一つ装備する度に記憶の回廊が深まっていく感覚を覚えながら、リヴェリアは五つの指輪を右手に嵌めた。

 

「……これで、『記憶スロット』は九か……今ならば、()()()。その確信がある」

「そうか。ならば我が弟子よ、語りたまえ。

 自らの【魔法】を『記憶スロット』に刻み、その業を示すがいい」

「――」

 

 古鐘の声に感応するように、リヴェリアの足元から魔法円(マジック・サークル)が展開される。

 【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ。二つ名の由来はその魔法にあり。

 『詠唱連結』。彼女にのみ許された魔法特性。詠唱を繋ぎ合わせることで魔法を変容させ、威力を上げる。

 攻撃、防御、回復。三種の魔法に三段階の階位。都合九種の魔法を使うが故に、【九魔姫(ナイン・ヘル)】と謳われる。

 

 攻撃魔法第一階位【ウィン・フィンブルヴェトル】。

 攻撃魔法第二階位【レア・ラーヴァテイン】。

 攻撃魔法第三階位【ヴァース・ヴィンドヘイム】。

 

 その内、攻撃魔法に属する三段階を()()()()()()リヴェリアは発動させた。

 正確には発動待機。発動直前まで詠唱し、待機し、次には破棄して新たな魔法を構築する。

 それらを僅か十秒足らず。魔道士の常識を完全に打ち砕く破格すら超えた『無詠唱』。

 世界最強魔道士の魔法を火の時代の魔術師として使用したリヴェリアは、最後の魔法を破棄し、急速に消費した精神力(マインド)に立ち眩みを起こして片膝をついた。

 

「くっ……予想していた通り、精神力(マインド)の消費が著しい……だが、()()()ぞ……!

 私の魔法の()()()()……! これまで到達し得なかった『未知』と『高み』を、初めてこの眼に映し得た……!

 ああ、これは、何という――甘美な、代え難い情動の表れか――!」

「流石だな、リヴェリア。だが貴公、酔っているぞ」

「ああ――ふふふっ。分かっているさ。すぐに醒ます、醒ますとも……」

 

 知らず弧を描いていた唇に触れ、額まで手を伸ばすリヴェリアは、乱れたソウルの流れを整える。

 ソウル酔いは(ソウル)の乱れ。揺らぐが故に逸脱し、見えざるものを瞳に(とら)う。

 醒ましたければ、内を見よ。記憶の廊こそ戻る道。心失くさば、二度とは帰れぬ。

 そう教わったリヴェリアは、記憶を見つめ、自分自身を取り戻す。酔いの鎮まる感覚はアスカの行いで覚えている。それを辿り、戻ったリヴェリアは、紅潮していた頬も熱を引いていた。

 

「……この感覚はどうにも慣れんな。あるべきものを、あるべきでない姿に戻しているようだ。

 いや……そう感じるからこそ、私はソウルに酔うのだろうな」

「そうだ。そしてそれこそが、才の証。せいぜい囚われないようにする事だ。貴公が言葉も解さぬようになるのは、私とて困る」

「……そうはなりたくないな。私はまだ、未だ手のかかるあの娘を見放すつもりはない」

「その意気だ、リヴェリア。それで――何を見て、何を知った?

 貴公が魔術を学ぶ条件、私の知らぬ『未知』の打破を、果たしてもらおう」

 

 凍える太陽のような銀の半眼がリヴェリアを捉える。下から見上げてくる灰髪の小人族(パルゥム)を見返し、妖精(エルフ)の王族は培った知識と経験から先の出来事を分析する。

 

「……まず言えるのは、『記憶スロット』に登録した魔法は極めて速攻性に優れるという事だ。

 『無詠唱』。それがもたらす利点は超長文詠唱に近づく程大きくなる。

 また安定性にも優れている。流石に『魔力暴発(イグニス・ファトゥス)』がなくなるわけではないが、従来に比べれば驚くほど制御しやすい。

 代わりに、汎用性と拡張性を失う。『記憶スロット』に登録された魔法は常に一定の効果を発動する。逆に言えば一定の効果しか生み出せず、調整が利かない。

 お前を見る限り出来なくはないのだろうが、効果を上げるにしろ下げるにしろ、かなりの訓練を必要とするだろう。少なくとも今の私には出来ん。

 総評としては、『記憶スロット』は【魔法】を【魔術】に落とし込む。自由度を犠牲に安定的、いや()()()魔法行使能力を得る。

 これはそういった、革新的だが可能性に乏しい術と位置づけるべきだ」

 

 ここでリヴェリアの言う可能性とは、『記憶スロット』のもたらす変化の事ではない。

 本来魔法とは、魔法種族(マジックユーザー)や精霊のみが扱う力。それを開花させるには、『神の恩恵(ファルナ)』により可能性を引き出す必要がある。

 それはその者ただ一人が持ち得る唯一(オリジナル)。他に類似せぬ、神々すら見通せない下界の『未知』。

 だが『記憶スロット』に限って言えば、それはない。『記憶スロット』は今ある魔法を型に嵌めて安易に扱う術、即ち可能性への挑戦を捨て、既存の安寧を貪る行為に他ならないからだ。

 初めは神々も満面の笑みで迎え入れるだろう。だがすぐに飽き果てる。『記憶スロット』に頼り切りの者に可能性はなく、神々の望む『未知』もまたない。

 それを見抜いたリヴェリアは、『記憶スロット』を答えではなく手段とすべきだと考えた。より高みへ至るための手段であり、安寧に停滞する事はあってはならないと、『神時代』最初の魔術師は判断したのである。

 

「……成程な。有用性は多大にあれど、特筆すべきものがない。いや、特質と呼ぶべきものが生まれない。貴公はそう考えるわけか」

「ああ。これはあくまで手段、あるいは補助として利用すべきだ。頼り過ぎてはいけない。

 これにのみ寄りかかれば、『魔術師』としては大成しても『魔道士』の芽が腐り落ちる。

 教えるのなら、十分な注意が必要だ。少なくとも私が教授する時は、そうするだろう」

「ふむ。分かった。参考にしよう。

 それで、リヴェリア。他に気がついた事はあるか?」

「そうだな……魔法によって使用する『記憶スロット』の容量が違う。これについてお前は何か知っているか?」

「それは詠唱の長さに関係している。相応の記憶領域を求められるが故の違いだ」

「成程……『記憶スロット』に刻む魔法は吟味すべき、という事か。これは後で考えるとしよう。

 さて、我が師よ。まだ時間はあるな? あまり教えを乞う機会を得られない身の上だ、出来る事はやっておきたい」

「いいだろう。何をやりたい?」

「まずは短時間で『記憶スロット』に魔法を刻む効率的な方法だが――」

 

 仄暗いダンジョンの中で師と弟子の交流は続く。

 後に最初の魔術師として名を馳せるリヴェリアは、今はまだ、新米の赤子であった。

 

 

 

 

「――以上が、リヴェリアと交わした師事の全てだ」

 

 迷宮都市(オラリオ)の北西、廃墟が立ち並ぶ街外れの居住区。

 その中の目立たない場所にある入念に封鎖された廃屋敷の地下で、“灰”はフェルズと会っていた。

 目的は【魔術】の教授。ヘスティアの許可を取り、リヴェリア相手に経験を積んだ“灰”は深夜、フェルズの魔工房(アトリエ)に赴いている。

 

「助かるよ、“灰”。特に【九魔姫(ナイン・ヘル)】直々の魔術考察は非常に参考になる。

 如何に永く生きているとはいえ、この分野では赤子も同然だ。愚者(フェルズ)の名の通り、出来るだけ先達に学びたいのさ」

 

 襤褸衣(ぼろぎぬ)のような黒フードの奥でカラカラと骨の鳴る音がする。白骨の体しか持たないフェルズは、おそらく笑っているのだろう。

 それにほとんど興味を持たない“灰”は、『魔術のスクロール』を取り出してフェルズに渡した。

 

「では貴公も、基礎から魔術を学ぶがいい。私は奥の空き部屋で霧を張っておく。試し撃ちがしたければ来い」

「ああ、分かった。既に竜の二相を聞き及んでる身だ、自力で使えるようになってみせるさ。

 ……それにしても、霧か。君のそれは本当に不可思議だ。世界を断つなんて、そうそう起こり得る事じゃないだろうに」

「そうでもない。類稀なる力、尋常ではないソウルの持ち主は、そのソウルによって次元を歪ませる。

 私のソウルも、もはや尋常のそれではない。故に力を行使すれば、自ずと次元は断たれ、世界は霧に分かたれる。

 それだけの事だ。最も、私以外に霧を形作る人間など、この時代で眼にした事はないがな」

「そうか……ソウル、ソウルか……それもまた研究意欲をそそられる……なあ、“灰”。私にもソウル酔いを醒ます方法を教えてくれ。

 才があるとは思っていないが、もしかしたら研究の途中に酔うかもしれない。だからきっと、必要だ。

 ……それに何より、酔っ払いの魔術師(メイジ)なんて、目も当てられないだろう?」

 

 黒ローブの奥から白骨の頭蓋を晒して、楽しげにフェルズは笑う。それを見据え、一つ瞬いた“灰”は、どうでも良さそうにソウル酔いの醒まし方を教えるのだった。

 

 

 

 

 灰色の岩石で構成されたダンジョン『中層』の一角では、剣戟の音が鳴り響いていた。

 片や激しい戦闘で(のこぎり)のように刃の(こぼ)れた大剣を握るのは、獰猛な牛頭のモンスター、『ミノタウロス』。

 両角を折られ、片目すら潰された牛頭人体の怪物は、全身に負った傷と引き換えに『知性』を得たと云うように、粗雑だが確かな『技』で大剣を振るう。

 片や不動を保つのは、たくましい体躯の獣人。軽装の、だが間違っても軽いとは言えない分厚い装甲で限られた箇所を覆う、2(メドル)を超える筋骨隆々の大男。

 【猛者(もうじゃ)】。『最強』にして『頂天』。都市唯一のLv.(レベル)7、オッタルである。

 武骨な面差しの猪人(ボアズ)は片手の装甲で大剣を受け止める。()()()()

 小動(こゆるぎ)もしない異常な『耐久』補正で攻撃を止めたオッタルは、同じく大剣を振りかぶり、ミノタウロスに叩きつける。

 加減された、しかし仮借なき一撃。防御ごと斬断され深い斬り傷を負うモンスターは痛苦の咆哮を轟かせ、怒りを目に戦いを学ぶ。

 

 そう、ダンジョン『中層』の一角では、剣戟の音が()()()()()()()

 今は、無音だ。周囲に数多の武装を突き刺し、鋭い眼差しで唯一の出入口を睨むオッタルの息遣いすら聞こえぬ無音。

 戦い、調教したミノタウロスは、『マジックアイテム』で眠らされ大型カーゴに詰められている。

 

 オッタルは自らの主神より『使命』を与えられている。

 それは美の女神が執着している少年の、因縁を断ち切る事。

 少年の白い魂。美神の眼を焼く程に輝く、純粋で透明な光。それを淀ませる原因を、過去を乗り越える事で克服させるためだ。

 そのためにオッタルはミノタウロスを鍛えた。未だ至っていない少年の器を、冒険者へ昇華させる――あるいは女神の寵愛を戴くための、洗礼として。

 

「……」

 

 ()()()。しかしだ。オッタルが鍛えた『ミノタウロス』は、これで()()()である。

 前二体は、もういない。加減を誤って潰したのではない――()()()()()()

 

 二度もオッタルに不覚を強いながら、その影すらも掴ませぬ何者かによって。

 

「……」

 

 一度目は、何十体も抜選し、これはと思ったミノタウロスを鍛えていた時。

 オッタルをして身が竦むほどの、汚泥の大海に飲み込まれたかのような凄まじい殺気に気を取られた一瞬、()()()()()()()()()()魔法の結晶に牛頭は貫かれた。

 

 二度目は、更なる抜選を繰り返し、ようやく目に適った個体を苛烈に鍛え上げた後。

 何者かの妨害を察したオッタルが、かつて一人遠征を敢行した際の、深層を歩く気構えで警戒していた時。

 背後に気配を感じ、僅かな時間で数十に及ぶ剣戟を閃かせ、気配が消えた頃には怪物の首は呆気なく両断されていた。

 

 そして、三度目。もはや猶予はない。幸運にも見出した一頭を限界以上に虐げ鍛え、間に合わせるために完成させた。

 殺させるわけにはいかない。これ以上の遅延は、課せられた『使命』の失敗と同義。

 オッタルは彼の女神の名を穢すまいと、全霊を以て臨んでいた。

 

「……」

 

 『敵』は、おそらくすぐにも現れる。

 一度目は地上の深夜だった。二度目もまた、翌日の深夜。

 策略(ブラフ)の可能性もあるが、オッタルの勘がそれはないと断じていた。

 敵は、必ず現れる。まるで三度目が通じないと知っているかのように、必ずオッタルの前に立ち(はだ)かる。

 そう確信する猪人(ボアズ)は、ピクリと頭の猪耳を動かし、突き刺した武器の一つを手に取った。

 黒色の大剣。オッタルでなければ特大剣とも呼べる肉厚の重刃を握り、2(メドル)を超える偉丈夫(いじょうふ)は構える。

 立ち込める霧。唯一の出入口を塞ぐ色のない濃霧。

 

 ――そこから滲み出るように。小さな、小さな灰色の“不死”が、【猛者(おうじゃ)】の戦場に踏み入った。

 

 

 

 

 現れたのは、灰髪の小人族(パルゥム)だった。

 オッタルはその存在を知っている。

 曰く、『あの子の後をついて回る何か』『白い輝きに惹かれた誘蛾』。

 関心がなさそうに呟く敬愛する女神の言葉を、オッタルははっきりと覚えている。

 奴が()()()。奴に()()()()()

 油断なく大剣を構える猪の獣人は、灰髪の間に漂う暗い銀の半眼と相対し、確信する。

 女神が口にした『魂の色が見えない者』。

 二度に渡りミノタウロスを抹殺した『妨害者』。

 オッタルが一瞬の隙を晒す程の『殺意の源』。

 それら全てが、目の前の老木のような存在感を放つ小人族(パルゥム)と重合する。

 奴は――『敵』だ。

 オッタルが全ての意識を切り替え、万全の態勢で戦闘に臨むに、それ以上はいらなかった。

 

 対し、灰髪の小人族(パルゥム)は。

 両手のひらを小さく開き、瞬間現れた武装を掴む。

 それは異形の頭骨。巨大で元が何かも分からぬ、異形の骸骨の半身が縫い止められた十字槍。

 かつて公爵の娘、眠りを守る騎士が用いた《狂王の磔》を、()()手にした“灰”は。

 ただ歩き、ただ武器を垂れ下げ。

 ただ――凍てついた太陽のような銀の瞳の奥底に。オッタルの姿を(とら)えていた。

 

 

 

 

 先に動いたのは――【猛者(おうじゃ)】だ。

 緊迫した空気を物ともせず、人混みを歩くが如く距離を詰める“灰”は、容易くオッタルの『死線』を超えた。

 故に、一閃。

 小手調べ、などとは露ほども思わない。一撃で仕留めんとする大剛斬が音を置き去りに灰髪に迫る。

 それを、“灰”は。受ける事も避ける事もせず。

 大剣は呆気なく、“灰”の右肩から太腿まで斬り裂いた。

 

「――」

 

 オッタルに微塵の動揺もない。致命傷を叩き込まれながら、“灰”が転じたのは“攻撃”。

 左右から迫りくる《狂王の磔》はオッタルの剣速と同じだ。同レベルの『敏捷』から繰り出される死神の鋏。

 防御を捨て、相打ち覚悟で放たれた同じレベルの攻撃。ならば本来、それを防ぐ道理などない。

 だが、『完全防御』。読み切っていたオッタルは柄と手甲で難なく防ぐ。

 

(重い――)

 

 内心では斧槍の一撃の重さに眼を瞠りつつも、オッタルは次の一撃に備えている。

 当然だ、これ程の異形の武器、異骨より発せられる尋常ならざる気配。まともな武装であるべくもない。

 両側の異形の骸骨が蠢く。暗い眼窩に妖しい光を宿し、存在しない喉から『咆哮』を上げる。

 オッタルの『耐久』補正を超えて身を軋ませ、数十(セルチ)後退させる程の大咆哮。左右から襲いかかる異形の声に、オッタルは眼差しを削り、強引に大剣を振り払った。

 大一閃。剣圧で周囲の壁が罅割れる程の一撃を“灰”は磔で弾き、だが吹き飛ばされる。

 十(メドル)程度の間を空けて着地し、再び対峙する両者。

 オッタルは大剣を正眼に構え、冷静に敵を分析していた。

 

特殊武装(スペリオルズ)……呪道具(カースウェポン)……いや、そのどれとも違う。

 あの武器の仔細は分からん。だがあれは、()()()()()()武器だ。油断は出来ん……)

 

 そこまで考えて、厳つい武人の相貌に亀裂が刻まれる。

 油断は出来ない? 何を馬鹿な事を。今の剣合で何を見ていた。自分(おまえ)の眼は節穴かとオッタルは己を叱咤する。

 『敵』はまだ、全容どころか片鱗すら見せていない。格上か格下か、それさえも分からない。

 手応えがない。気配がない。戦意もなく、ただそこに居る。

 目の前の敵はまさしく闇で、正しく闇だ。見よ、正面から背に届くほどの斬傷を負いながら意に介さず立つ姿を。

 血は流れず、臓物も零れぬ。人の形をしていながら、明確に生命から逸脱した灰髪を睥睨するオッタルは、ここに来て一切の余念を捨てた。

 (たお)す。否、()()。刀身が熱を持つ程に柄を強く握り、顔の横に刃を置いて構える。

 『絶殺』を掲げた姿勢。それは引き絞られた巨大弓(バリスタ)にも、山をも砕く『小さき巨人』にも見えた。

 それを見た“灰”は。腕を交差し、深く屈み、翅のように二本の《狂王の磔》を構える。

 

 全ての音が消えた一瞬。互いの眼光のみが行き交った。

 そして、瞬間――大激突。

 地を砕き、流星の如く突進した“灰”の両斧槍が迫る。

 オッタルは歯を食い縛り、渾身の一撃を以て迎撃する。

 轟き渡る金属音。周囲の岩が、壁が、天井が砕ける程の大残響。

 『頂天』がぶつかり合う刹那の中、オッタルは確かに見た。

 その小さな体よりも遥かに長い――《イザリスの杖》を()()()、“灰”の姿を。

 

「――【ソウルの大澱】」

 

 その瞬間、オッタルの眼前で拮抗する“灰”の姿が(よど)みに塗れる。

 【ソウルの大澱】。永きに渡り深みに沈み、溜まった暗いソウルの大澱を放つ闇術。それは時に、深みから這い出る湿り人たちに憑依するという。

 ならば、“灰”が纏えぬ道理などない。灰髪は深みのソウルに染まり、溢れ、人によく似た巨大な大澱となってオッタルを強襲する。

 初見の【魔法】。警報を鳴らす危機感。触れてはならぬと全身の毛が逆立つ。

 それら全てを噛み締め、全霊で大剣を振り抜いた。

 二本の斧槍を弾き、三連撃。縦横に両断し、真向から叩き潰し、深みより現れた大澱を力のみで霧散させる。

 その直後。

 オッタルの頭上には、三本目の《狂王の磔》を振り下ろす、“灰”の姿があった。

 

「――」

 

 武人は瞠目する。

 大剣は地面に叩きつけた直後。姿勢は最悪、防ぐ余地無し。

 一瞬の後を幻視する。異形の頭骨より生える三日月のような角が、獣人の頭を叩き割る幻覚。

 敗北する。『頂天』が、『最強』が、オッタルが負ける。

 

「――ォォオオオオォッッッ!!!」

 

 ()()()()()

 全ての意識を集中し、オッタルは吼えた。

 ここでの敗北は許されない。

 それは彼の女神の威光()に泥を塗る。

 あの方より課せられし『使命』を、果たせないも同義!

 ならばオッタルが敗れるなどありえない。あってはならない。

 ()()()()()()

 

 咆哮と共にオッタルの全身の筋肉が膨張する。正真正銘、死力を尽くした斬り上げ。

 断裂の痛みを発する肉体など無視し、軋みを上げる骨など切り捨て、ただ眼前の『敵』を打ち砕く。

 それに全てを懸けた大剛撃が《狂王の磔》とぶつかり合い。

 

 刹那の拮抗。

 打ち勝ったのは、オッタルの大剣だった。

 

「――」

 

 《狂王の磔》は弾き飛ばされ、『敵』は胸の中程から頭まで斬り裂かれた。

 空中を飛ぶ頭の半分。衝撃で何処かにぶつかるのを待つまでもなく、半固形の血溜まりに成り下がる。

 それが壁の染みになった後、残った小人族(パルゥム)の体が天井に叩きつけられ、地に落ちた。

 動く気配はない。呼吸も、心音も発していない。

 『敵』は、完全に死んでいた。

 

「……」

 

 残心するオッタルは、己を戒める。

 熱くなり過ぎた。何を滾っているのだ、己は。

 オッタルがここに在る目的は女神の『使命』がため。

 それ以外は全て雑事。意に介す必要のない事柄のはずだ。

 なのに今、オッタルは確かに――()()()()()()

 青い。見た目には分からぬ苦笑を緩く描く。

 血振りをし、大剣を納め、灰髪の死体を暫し眺める。去来する空虚さを抑え、少し俯き、オッタルは背を向ける。

 

 そこには。()()()()()()()()()()()()()、ミノタウロスの死体があった。

 

「――!?」

 

 その時。その時こそ、オッタルは真に驚愕した。

 背後で何かが蠢いている。土を削り、立ち上がる音がする。

 武人は視線のみを背後に投げ――両断に近い傷を負い、頭の半分が欠けながらも。

 何一つ、変わらないと云うように。そこには灰髪の小人族(パルゥム)が、立っていた。

 

「……」

 

 死ぬべきでない怪物(もの)が死に、死んでいた筈の死体(もの)が立ち上がる。

 その異常な光景をオッタルは認識し――そして全てを理解する。

 直後湧き上がったのは、岩漿(マグマ)のように燃え滾った怒りだった。

 

「……」

 

 “灰”は意に介さない。用は済んだと言わんばかりに背を向け、歩き去っていく。

 その無防備な背に、オッタルは大剣を投げた。音を裂く剛剣は灰髪を貫き、胴体の大部分を四散させ、倒れさせる。

 悲鳴はなかった。だが今度こそ、死んだ。

 ざらりと灰と化していく『敵』の姿を、オッタルは最後まで眼に灼きつける。

 

 ――最初から、仕組まれていたのだ。

 一体目のミノタウロスを狙撃された時から。二体目のミノタウロスを屠られた時から。

 オッタルが『敵』との対峙を決意する過程、そして今の戦いの流れの全て。

 死を幻視したあの瞬間、オッタルの意識は全て『敵』に向いていた。

 一度も感情を映さなかったあの眼に――凍てついた太陽のような銀の瞳に、囚われていた。

 オッタルは、()()()()()()()

 

「――ッッッ!!!」

 

 ドゴンッッ!! とオッタルが壁を叩きつける。破砕というレベルを超え、新たな道を築く程に岩壁は砕き抜かれ、天井や床まで余波が達する。

 バラバラと降り注ぐ破片。それを避けもせず、灰の一粒まで消え去った痕を睨み続ける。

 

「……この屈辱。必ず返すぞ」

 

 憤怒を刻む武人の双眸には、瞋恚(しんい)の炎が燃えていた。

 

 

 

 

 アイズの訓練開始から五日目。

 この日アスカは午前中をリリルカの師事に使っていた。

 教えているのは火の時代の道具(アイテム)の使い方。

 アスカは不死であり、手に入れたアイテムの名前、用途、由来をソウルからある程度把握できるが、リリルカにそれは出来ない。

 だから一つ一つ教える必要があり、そのために今日の探索は休止して貰っていた。

 

「うっ……アスカ様、この根っこのような物はなんですか? ひどく臭うんですけど」

「『干からびた根』だ。強い臭気を放つが、その分強い薬効を持っている。口にすれば長く体力を回復するだろう」

「なるほど……効果はあるのでしょうが、このままだとあまり口にしたくないですね。例えば磨り潰したり、薬の原料にした場合はどうなるんでしょう?」

「知らん。現物を持ってくればソウルから読み取れるだろうが、そういった事はやっていない。貴公が試す他なかろう」

「うーん……低級の回復薬(ポーション)に混ぜ込んでみますか。味は……きっとひどくなるんでしょうけれど」

 

 思いついた事をリリルカは一覧表(リスト)に書き記す。

 アスカの教えは午前中だけだ。試したり組み合わせたりするのは後でいい。

 

「それにしても、火や雷、魔力が閉じ込められた壺に精神力(マインド)を回復させる効果のある草、鍛冶師泣かせの装備を修復する金属粉、塗る事で付与魔法(エンチャント)代わりになる松脂やら何やら……

 火の時代の道具(アイテム)は本当に多彩ですね。これは骨が折れそうです」

「私からすればこちら側の道具も大概だ。特に『マジックアイテム』は効果・効能が多岐に渡る。目につく物は買い込んでいるが、把握は面倒だな」

「ああ、道理で『底なしの木箱』にガラクタばかり入ってたんですね……お互い、考えることが同じなんて、因果ですねぇ」

 

 「こんな収集癖はリリには流石にありませんが」と側に置いてある木箱から『ゴミクズ』を取り出す。何のひねりもなく、ただのゴミクズだ。

 なぜこんな物が入っているかというと、なんと「売っていたから買った」らしい。売る方も大概だが買う方も頭の螺子が外れている。つまりアスカの事であった。

 何に使うかと聞けば、特に使い道もないらしい。せいぜい殺した敵の死体に添えたり口の臭い蛇に食わせたりするくらいだと言っていた。何を言っているのか分からないのはリリルカだけだろうか。

 「侵入者とて不死、同胞ならば通す礼儀がある」とアスカは語っていたが、ゴミクズを添えたりあの忌々しい糞団子を投げつけるのは礼儀ではない。それは冒涜の類であるとリリルカは冷めた目で見ていた。

 アスカの身の上、火の時代と不死の話を聞いた時も思ったが、不死という連中はどうもおかしい。不死となった時、人として当たり前の欲求を失い、戦いばかりが娯楽になるからだろうとアスカは言うが、それ以前の問題な気がする。

 ……いや。故郷を追われ、人の世に帰れず、亡者となるまで戦い続ける運命を考えれば、それも致し方ない話であるかもしれない。文字通り遠い世界の出来事でしかないアスカの語りに、リリルカはそれ以上、同情や憐憫を重ねるのを止めた。

 

 

 

 

 午後はベルとアイズの訓練に参加する。

 一通りの説明を終え、試行錯誤するリリルカを置いてアスカは『市壁外縁』に転送した。

 市壁内部を登る四角い螺旋階段。その一室に設けられた篝火に現れたアスカは、そのまま胸壁が並ぶ市壁の天辺を歩く。

 ややあって、見えてきたのは訓練に励む少年と少女。隙を見つけ、あるいは晒し先導する【剣姫(アイズ)】に、拙い技で少年(ベル)は必死に食らいついていた。

 

「……」

 

 暫し、アスカはそれを眺める。

 『技』と『駆け引き』。それは【ステイタス】によらぬ、冒険者自身が得なければならない『力』を扱う術だ。

 『技』は技術。(セルチ)、あるいは(ミリン)単位の精密な動作。弾き、受け流し、避けては斬る。極めれば一撃の元に怪物(モンスター)を屠る『必殺』に成り得る、弱者が強者に立ち向かうための術。

 『駆け引き』とは立ち回り。自身に有利になる動き、あるいは敵を不利に貶める算段。隙を作らせ急所を突く、隙を見せては反撃(カウンター)を狙う。『知性』故の読み合い、未来を競う騙し合いは、刹那の一瞬に明暗を分ける。

 どちらも覚えのあるやり方だ。アスカは、己がまだ“灰”の呼び名しかなかった頃を思い出す。

 

 棄てられた神の都『アノール・ロンド』。古くより王に仕える銀騎士達が守り、巨人兵、ガーゴイル、雷のレッサーデーモンどもが侵入者を(ことごと)く討つ。

 それを凌ぎ、太陽の王女へ至る道に、彼の四騎士の長と処刑者は待っていた。

 竜狩りオーンスタイン。処刑者スモウ。

 王女を殺すべく侵入を果たした“灰”を竜狩りの騎士は幾度も貫き、残忍な処刑者は何度でも叩き潰した。

 雷光の如く敏捷に優れたオーンスタインと、重厚な戦車のように全てを轢き潰すスモウ。

 奴ら二人の連携を崩すには、死を積み重ねた先にある埒外の『駆け引き』が必要だった。

 

 鉄の生まれる地を見出し、莫大な富と繁栄を築いた鉄の古王、その在りし日の記憶。

 アーロンに教えを乞うた騎士達の守る回廊の果てには、陽光を背に鎮座する騎士アーロンが在った。

 血を吸う妖刀、異様の剣技。尋常ではないソウルを求めてやって来た“灰”が遭遇したのは、尋常ならざる卓越した技巧の持ち主だ。

 残光すら見えぬ刃が“灰”を斬り裂いた。攻撃は全て避けられ、あるいは受け流され、千の屍を積んでなお掠り傷すら与えられない。

 “灰”を貫いて血を吸った妖刀は暗い血の妖刀となり、闇より生まれた故に闇への抵抗力を持たない“灰”を塵となる程に斬り捨てた。

 斬られ、斬られ、ただ斬られ続ける。途方もない死の螺旋が積もり、それはほんの僅かずつ、“灰”の『技』を磨いていった。

 

 あの日々を繰り返したからこそ、今の“灰”はここにある。何度でも死に、死に続け、そして最後に奴らを死に至らしめた。竜狩りは斃れ、処刑者は敗北し、異邦の騎士は自刃した。

 “灰”の前に立ちはだかった、火の時代の英雄達。それに比べれば少年と少女は、器はあれど至っていない。

 アイズは雛だ。いずれ現れるだろう英雄の雛。まだ成長の余地があり、飛躍の先がある。

 ベルは卵だ。何になるかも分からない生まれぬ卵。殻を破らぬ限り、何者にもなれない。

 彼ら彼女らの進む先に、何があるのか。ベル・クラネルを尊ぶアスカは、それを見るために共に在った。

 

「精が出るな。随分と扱いてやったように見える」

「あ……アスカ」

 

 一区切りついた所でアスカが声をかける。第一級冒険者の感覚で居るのが分かっていたアイズは、さらりと黄金色の髪を風に流して振り向いた。

 

「ベルの調子はどうだ? そろそろ何か掴んだか」

「……もう少し、かな。あと何歩か踏み込めれば、物になると思う」

「そうか。では、頃合いだな」

「?」

 

 何か頷く幼女にアイズが疑問符を浮かべるも、アスカは気にせずトコトコとベルに近寄る。膝に手をついて肩で息をしている少年に「少し休んでおけ」と言い、アイズと向き合う。

 

「アイズ。私は貴公と約束したな。この鍛錬の中で、私の持つ力の一端を見せてやると」

「……!」

「今がその時だ。ベル、貴公も良く見ておけ。

 古い時代より伝えられる“ソウルの業”。自らのソウルを武器と為す、かつての英雄達が振るった業を」

 

 灰髪の小人族(パルゥム)が虚空に右手を伸ばす。

 同時に、彼らの周りには霧が立ち込めた。

 空を隠し、陽の光を遮る、球形に展開された濃霧。アイズが驚いていると、少女の金の瞳に青白い光が反射した。

 小さな手に集まるソウルの光。集い、形を為し、現れたのは――折れた直剣。

 半ばより折れ鍔もなく、見るも見窄(みすぼ)らしい、闇色の刃。

 柄より零れ、刃先に滴る闇が、垂れた地面を汚染する。その光景にぞわり、と肌を逆立てたアイズが、警戒を込めて声を発した。

 

「…………それは、何?」

「私が最も信を置く武器。()()()()。その一振り。

 これより見せる業に名は無い。そこに到れる者が、自ずと扱った剣技。

 故に見せるのならば。私のソウルと同質であるこの刃こそ、()()()()

「――!」

 

 どろり、と刃の闇が蠢く。

 ソウルすらも染め上げる闇が、柄より、刀身より溢れ――折れた刃の先へ伸びていく。

 形成される闇。ぬらりと空を斬り、現れる実体無き直剣(つるぎ)

 それは、自らのソウルを刃に這わせ纏う。英雄の到りし“ソウルの業”だった。

 

「……」

 

 アイズは何も話さない。眉間を狭め、汗を流し、無意識に剣を構えている。

 ()()。アイズの心の大半を占めているのはその感情だ。

 アスカが怖い。“灰”が怖い。あの悍ましい悪意を煮詰めたかのような刃が怖い。

 僅か数(メドル)。それはアスカの間合いだ。()()()()、斬られる。抵抗も許されず。

 アスカがそれをするか、ではない。それを幻視する程に恐怖の感情が湧き上がっているのだ。

 闇に浸したかのような長衣。

 灰髪を纏める、半分に割れた王冠のような髪留め。

 凍てついた太陽のような銀の半眼。

 それらにただ、闇を刃と化した折れた一振りが添えられている。

 ただそれだけなのに、そこに在るのがまるで恐怖の化身に見える。

 何人に相対し、何人を許さず、何人の全てを殺し尽くした――怪物(ばけもの)に見える。

 

「どうした。アイズ」

 

 ぞぶり、と耳朶に染み込む古鐘の音。擦り切れた幼女の声に、はっとアイズは意識を戻す。

 気付けば、浅い呼吸を繰り返していた。恐怖に呑まれようとしていた。

 小さく、何度も頭を振ってその恐怖を外へ追い出す。そしてアスカのそれと類似した魔法の事を、声に絞り出した。

 

「…………それは、付与魔法(エンチャント)……?」

「似て非なるものだ。これはソウルの武器、ソウルの刃。属性はあれど、根本が異なる」

 

 言ってアスカは、左腕だけに防具をつける。肌の露出の無い手甲、それに覆われた前腕の内側を闇の刃で斬り裂いた。

 金属に()()、弾かれる刃。手甲に瑕疵はない。だが手甲が消えた後、腕に残されていたのは――浅い()()()だった。

 

「――!?」

「これが、この業の本質だ。火の時代の戦いとは(ソウル)の削り合い。如何に堅牢な鎧を纏おうと、この業の前には意味を為さない。

 肉体はソウルを縛り、ソウルは肉体を縛る。肉体の傷はソウルの傷となり、その逆もまた然りだ。

 この業はソウルを削る。実体が無い故に鎧では防げず、攻撃を完全に断つ盾か、肉体の外に命を持たねば防げない」

「……それが、竜だとしても?」

「そうだ。元より火の時代とはそういう場所だ。人も、竜も、神であれその本質は(ソウル)を懸けた殺し合い。下水のネズミとて初歩の初歩だが、この業を扱い獲物を狩る。

 それを極めた者が辿り着く境地こそ、刃の結実。自らのソウルを武器と為す、敵を(りく)すという誓い。

 それがこの、名も無き、有り触れた、不変の“ソウルの業”である」

 

 柄を胸に寄せ、騎士の誓いのように闇の刃を天に衝く。幼い顔の半分が刃に隠れ、長い睫毛の下の暗い右眼に、一瞬だけ火の輪が灯ったようにアイズには見えた。

 

「……その業。私にも、使える?」

 

 右手を振り、闇の刃を振り捨てたアスカに【剣姫(けんき)】は問う。その眼に宿るのは、黒い炎。在りし日の決意と覚悟の先に、少女は巨大な『竜』を見ている。

 

「さてな。いずれ辿り着く、と言いたいが、存外貴公らはソウルに馴染まない。

 私が教えれば可能性はあるだろうが、教えた事はないし、教えるつもりもない」

「教えて、くれないの?」

「見せるだけだと言った筈だが?」

「……いじわる」

「何とでも言うがいい。少なくとも貴公には、まだ早い。私はそう考える」

「……」

 

 不服、を全面に出すアイズ。足元で心の中の幼女(アイズ)が『貴方を詐欺罪と期待損失罪で訴えます!』と書かれた旗をブンブン振っていた。渡したのは仮面巨人である。

 “灰”のソウルに毒されつつある少女(アイズ)幼女(アスカ)は完全に無視した。そしてずっと無言だったベルへ近づいていく。

 

(……?)

 

 その時、アイズは違和感を覚えた。

 ベルは怯えている。Lv.(レベル)6の、数多の死線を潜り抜けたアイズでさえ恐怖の感情が大半を占めたのだ。小兎のような少年には酷な環境だっただろう。

 だが、それだけではない気がする。何か、言葉に出来ないが――初めてではない。そんな感じがしたのだ。

 それも「はっ!?」と意識を取り戻して「怖がってごめんなさいっ!?」と何度もアスカに謝るベルの姿で霧散した。何だったんだろう、とアイズは首を傾げたが、その思考はアスカの声に打ち切られる。

 

「さて。折角だ、もう一つ、見せておきたい物がある」

「! “ソウルの、業”?」

「いや。特別な物ではないし、技とも呼べぬ代物だ。だが知っていて損はない。少なくともベルはな」

「ぼ、僕?」

 

 名指しで指定されたベルが驚くも、アスカは無視して武器を構える。ベルに向けられる折れた直剣、それに戸惑う少年に、古鐘の声は落とされた。

 

「ベル。かかってこい」

「え、でも……」

「全力で構わない。今の貴公に出来る全てを、私にぶつけてみろ」

「……分かった。行きます、アスカさん」

 

 困惑を捨て、ベルは構える。かつて評価した日から大分マシになった構え。霧に囲まれた市壁の天辺で、少年は腰を落とし、疾駆する。

 まだまだ拙い『技』。一人前には及ばぬ『駆け引き』。愚直に突進する少年の武器を、アスカは見つめ。

 ベルが肉薄した刹那。折れた刃は振り抜かれ、ベルの《短刀》を撃ち払った。

 

「え――」

 

 その衝撃に耐えきれず、少年の手から《短刀》が弾け飛び、霧にぶつかって地面に落ちる。

 ベルは、尻もちをついていた。腰を地面に落とした、完全なる無防備な姿勢。そこへ刃の先を向け、アスカは滔々と語る。

 

「『パリィ』。受け流しと同義だが、それを以て敵に隙を晒させる。

 技とは言えない。敵の攻撃、敵の獲物を全力で撃ち払っているに過ぎないのだから。だが、命を懸けた戦闘の最中。これを成功させれば、『致命の一撃』すら狙えるだろう」

 

 刃を下げて、片手でベルを助け起こす。同時に、周囲を覆っていた霧が消えていく。

 

「ベル。これは『賭け』だ。『技』でも、『駆け引き』でもない。命を賭した逆転の術。失敗すれば、貴公は死ぬ。

 だからこそ、これを覚えておくがいい。貴公に足りないものが、これにはある」

 

 晴れゆく濃霧。現れる世界。いつしか空は朱色に染まり、地平線の彼方に太陽が沈んでいく。

 

「これは『無謀』ではない。『自棄』でもない。命を拾うために、あえて苦境に飛び込む『意志』だ。

 忘れるな、ベル。常に前を見続けろ」

 

 夕焼けに灰髪が燃え上がる。左の肌を照らされ、右の体を闇に隠す。それはまるで、光と闇の化身のようで。

 

「先の見えぬ闇に、一歩を踏み出す。それこそを人は――『勇気』と呼ぶ」

 

 少年は初めて。家族(アスカ)の事を、神様みたいに綺麗だと思った。

 

 

 

 

 その後も訓練が続き、太陽が沈んで夜も更けた頃。

 ベル、アスカ、アイズ。そして――ヘスティアの四人が、裏通りを歩いていた。

 一度軽食を取りに都市に戻った所、たまたまヘスティアがバイトしているジャガ丸くん店に行ってしまい、なし崩しに一緒になったからだ。

 この時アスカはヘスティアに「なんでヴァレン某との訓練を止めないんだー!」と怒られたがどこ吹く風である。ベルのためになる、そう判断すれば主神(ヘスティア)の神意などどうでも良かった。

 手を繋ぐベルとヘスティアのやり取りを横目に、アスカは暗い夜道を歩く。

 街灯はない。いや、道幅のある裏通りの、端に並ぶ魔石街灯は破壊されている。

 人工の光の消えた真の夜。既に意識を切り替えているアイズと同様、灰髪の小人族(パルゥム)は暗い銀眼を鋭く削る。

 僅かな猶予。それが過ぎ去った時、現れたのは暗色の防具に身を包む、バイザーを被った猫人(キャットピープル)の男だった。

 トンッ、と軽い音が鳴る。石畳を蹴る猫人(キャットピープル)の踏み込み。

 ベルを狙い、ベルの反応を振り切った男の獲物、槍の穂先を防いだのは、神速で《デスペレート》を振り抜いたアイズと、虚空より現れたアスカの《スピア》だった。

 

「――ッッ!?」

「!?」

「――」

 

 弾き飛ばされる猫人(キャットピープル)の男。金の双眸を吊り上げるアイズ。無言で《スピア》を構えるアスカ。

 一者と二者は一瞬の無音を交差させ――激突。

 少年と女神を置き去りにする、凄まじい剣戟の応酬が繰り広げられた。

 

「お、おいおいおいっ!?」

 

 背後で女神(ヘスティア)の叫びが聞こえる。

 関係はない。アスカは、“灰”は経験のみを積み重ねた熟達の動きで《スピア》を操り、猫人(キャットピープル)の男を追い込んでいく。

 向こうは一名、こちらは二枚。アイズと“灰”は協力の経験もある。連携し、『駆け引き』を重ね、『技』を以て襲撃者の退路を断つ。

 

「――ッ! 手前(てめえ)……!」

 

 想定以上の早さで追い込まれたのか、男は忌々しそうに顔を歪め“灰”を睨んだ。常人ならばそれだけで意識を消し飛ばされる殺気の槍。それを風のように無視し、“灰”は必殺の隙を狙う。

 頭上から四つの影が襲いかかって来たのは、その時だった。

 

「アイズさん!? アスカさん!?」

 

 ベルの叫びが裏路地に響く。アイズと“灰”が動くのは同時だ。

 “灰”が眼前の猫人(キャットピープル)を抑え、アイズが空からの強襲に対応する。剣、鎚、槍、斧。閃く四つの得物を、【剣姫(けんき)】は三日月型の斬閃でまとめて弾いた。

 空中で弾かれたものの、応えた様子もなく降り立つのは四人の小人族(パルゥム)猫人(キャットピープル)の男と同じ暗色の装備で揃えた襲撃者を“灰”は見据え、距離を取る。

 黒衣の五人と二人の“戦姫(せんき)”。数の有利は覆され、“灰”の苦手とする多対一になりかねない状況。

 それに臨み、“灰”は《パイク》を消して左手に《ハルパー》を持ち。隣に立つアイズに囁いた。

 

「アイズ。あの四人の小人族(パルゥム)を頼む。少しでいい、その間に()()()()

「……分かった」

 

 頷き、不壊剣(デスペレート)を構える【剣姫(けんき)】。わざと聞こえる限限(ぎりぎり)の声量で口にした“灰”の言葉は、犬歯を剥く猫人(キャットピープル)の殺意を膨れ上がらせた。

 襲撃者との間に走る緊張の密度が上がり、弾け、再びの激突。

 アスカに敵意が向かぬよう剣の結界を張って四人の小人族(パルゥム)の足止めをするアイズの側を駆け抜け、“灰”は猫人(キャットピープル)の男と刃を交わした。

 

「すぐに片付けるだと? (くそ)女が、調子に乗るんじゃねえ」

「……」

 

 “灰”は答えない。殺意を滾らせる男の激情など知った事ではない。

 ただ、その方が()()()()()()経験則で判断した。交差する襲撃者の槍と《ハルパー》。幾度か散る火花に隠れ、“灰”はちらりと背後を見遣る。

 そこでは、“灰”の尊ぶ少年と家族である女神に、新たな四人の黒衣が襲いかかっていた。

 

「――余所見している暇があるのか? 死ね、(くそ)女」

 

 刹那。猫人(キャットピープル)の音を置き去りにする槍が“灰”の体を貫き。

 “灰”が()()()、小さな手のひらが男の顔を掴むのは、同時だった。

 

「!?」

 

 白い指の間から見える猫人(キャットピープル)の眼が驚愕に見開かれる。

 だが、遅い。もはや無意味だ。風に踊る灰髪の間から、()()()()()銀の右眼が覗く。

 その銀が、闇に染まり。火の輪が男の眼に映り。

 

「――【()()】」

 

 男の顔を掴んだまま燃え上がる手のひらから、妖しい紅い光が閃いた。

 そして、直後。()()()()()()()()()()猫人(キャットピープル)の男は()()()()

 

「……」

 

 体を貫いた槍を“灰”は引き抜く。猫人(キャットピープル)はされるがままだ。

 そのまま《ハルパー》を《呪術の火》に切り替えた“灰”は、両手に炎を灯し、呟く。

 

「三体抑えろ。順次、方をつける」

「……」

 

 命じるだけ命じて、疾走。ついで(はし)った残影が、四人の連携に苦戦し、剣の結界維持を強いられるアイズに()()()する。

 

「――なっ!?」

「何のつもりだ!?」

 

 驚愕を叫ぶ小人族(パルゥム)達。猫人(キャットピープル)が予想外に乱入し、四人の連携が僅かに崩れる。

 その一瞬。()()()()()()動いた“灰”が、槍を持つ小人族(パルゥム)の顔を掴み。

 右眼の火の輪と、紅い光が妖しく燃えて、槍の小人族(パルゥム)も沈黙する。

 それからは掃討戦だ。一人欠け、連携が完全に崩れた小人族(パルゥム)達にアイズ、猫人(キャットピープル)の男、槍の小人族(パルゥム)が襲いかかり、“灰”が頭を掴み、右眼を見せて【魅了】する。

 戦闘は、もう終わっていた。最後の一人を【魅了】した“灰”は、武器を納めアイズに伝える。

 

「終わりだ。剣を納めろ、アイズ」

「…………何を、したの……?」

「【魅了】した」

「――!?」

 

 端的に告げられた事実に、アイズは真性の驚愕で瞠目する。それを他所に、“灰”は上質な紙を取り出し、さらさらと共通言語(コイネー)を連ねていく。

 十秒程立ち、書き終わった“灰”は丁寧に紙を畳んで豪奢な封筒に入れて封をし、猫人(キャットピープル)の男に渡した。

 

「貴公らの飼い主に渡してこい。それと、あの連中を回収して行け」

「……」

 

 猫人(キャットピープル)は無言のまま、屋根伝いに消えていった。四人の小人族(パルゥム)もベルに倒された黒衣を回収し、去っていく。

 そして、“灰”は。都市の中心に聳え立つ、夜に在りてなお雄大な摩天楼(バベル)を見上げ。

 

()()()()()()()()()

 

 そう、暗い言葉を落とし。戸惑う少女に「何でもない」と手を振って、“灰”は、アスカは少年と女神の下へ歩いていった。

 

 

 

 

 アイズとの訓練、六日目。

 この日、アスカはベルの探索の連れ添いを休み、とある工房にやって来ていた。

 都市北西のメインストリート。そこに並ぶ大規模商店の一角にある、【ヘファイストス・ファミリア】支店の工房である。

 店に備え付けられた小規模の『鍛冶師』の城。そこで燃えるような紅髪を首筋で纏めた隻眼の女神は、椅子に座って手元を見つめていた。

 

「我が主神の命により参上した。私に何用か、神ヘファイストス」

「……」

 

 最低限の礼節を保って工房に入室したアスカに、ヘファイストスは答えない。無言のまま、手に抱く『楔石の原盤』を眺めている。

 アスカは待った。今日一日は時間がある。このまま日の暮れるまでここに居ても構わない。

 気の長い不死は、生真面目にヘファイストスの返答を待ち続ける。

 

「ねえ、貴方」

 

 やがて。

 数分か一時間か、時を数えず待ち続けたアスカに、ヘファイストスは声をかけた。

 

「貴方は“これ”を、神々の鍛冶素材って、そう言ったわよね?」

「ああ。その通りだ」

「……けれど、私は“これ”を知らない。他の鍛冶神だって、きっと分からない。“これ”は天界にだって、存在し得なかった物だから」

 

 『楔石の原盤』を顔の近くに寄せて、ヘファイストスは呟く。黒い岩のような、力を秘めた金属のようなそれを見つめ、鍛冶の女神は茫洋と言葉を紡ぐ。

 

「ねえ、貴方。変な事を言ってもいいかしら?」

「何だ?」

「……“これ”はね、“火”に()りたがってる。どう見ても燃える物じゃないし、おかしな事を言っている自覚はあるのだけど――“これ”を作った(ひと)は、きっと“火”を望んで、“これ”に託したのよ」

「――ほう」

 

 そこで。

 初めてアスカは、“灰”はヘファイストスを眼に映した。

 それは興味ではなく、値踏み。これまでただ、主神(ヘスティア)神友(しんゆう)という位置付けでしかなかった鍛冶の女神(ヘファイストス)に対する、利用価値の有無を視る眼。

 “灰”にとって予想外の、だが不死であるならば確実に興味を引くであろう言葉の続きを幼女は促す。

 

「それで、貴公はどうするつもりだ?」

「……分からない。“火”に生りたがってるというのは分かる、けれどその方法が分からない。

 だから貴方を呼んだのよ。“これ”を私の下まで運んできたのは貴方だから、きっと何かを知っているんじゃないかって、そう思ったの」

「ふむ。残念だが、答えそのものは私は持たないだろう」

 

 だが、と。アスカは続ける。右手を差し出し、ソウルを灯す。

 収束する青白い光。此処ではない何処かを見遣るヘファイストスの瞳に、暗い、光を持たない“火”が揺らめいた。

 

「それは……?」

「『人の種火』。火の時代が過ぎ去った後、光無き闇の時代に見出された火。

 正確には火ではない。これの本質は、人間性だ。どろりとしてなまあたたかい、優しい人間性の塊。それが『人の種火』である」

「種火……」

「そうだ。私の知る鍛冶技術には、高度な鍛冶と呼ばれるものがある。

 それは特別な“火”を用いた、『変質強化』。武器の性質そのものを変え、新たなる力を込める鍛冶の業。

 『楔石の原盤』が火を求めるというのなら、おそらくそれ以外にはない。

 それは、『種火』に()りたいのだ」

「『種火』……そう、そうね。“これ”は、『種火』。その原料。(作り手)が願ったのは、新たなる『種火』。

 “これ”は、そう()れなかった哀れな遺品なのね。だから、貴方が持っていた。だから、私の手に渡った。

 ――私は“これ”を、『種火』にしなければならない」

 

 何処か虚空に話しかけるように呟くヘファイストスは、気付いているだろうか。

 『楔石の原盤』を見つめる己の心が、かつて火の時代にあった名も無き鍛冶神と感応し、同化していることに。

 “灰”にとっては、どうでもいい。それが利益になるのなら、神の一柱程度、安い代償だ。

 

「良いだろう。私が手を貸そう。

 先導は任せる。貴公の指針が、それを『種火』とする道筋になる。それにはきっと、貴公の鍛冶の腕が必要だ」

「ええ、分かってる……ねえ、貴方。まずはどうすればいいかしら?」

「そうだな。まずは、原盤のソウルを視るべきだろう。私が補助する。その眼を見開き、視るがいい」

 

 アスカは眼を閉じ、暗い光を集わせる。

 異質な光、火防女の献身、小人の狂王の暗い業。

 それを躊躇いなく、ヘファイストスに用い――「火の時代」と「神時代」の、人と神による鍛冶が始まる。

 炉に火が灯り、鉄床(アンビル)を叩く音色が響く。

 やがて。それの全てが止まった後。

 遥か分かたれた時代の果てに、一つの『種火』が産声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷い種火

武器の変質強化を行うための種火

 

名も無き鍛冶の神は死の間際

楔石の原盤を作り、遺志を刻んだ

火の女神ヘファイストスの手に渡り

感応したのは、必然だったのだろう

 

「不壊」「吸収」「神秘」

三種の貴石を使った変質強化が可能となる

 

 

 

 

人の種火

武器の変質強化を行うための種火

 

闇の時代が訪れ、だが人はなお火を求めた

結果生まれたのは、光を生じぬ生あたたかな揺らぎ

それは火を模した、どろりと蠢く人間性だという

 

「深淵」「邪教」「呪詛」

三種の貴石を使った変質強化が可能となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オッタルは迷宮を彷徨(さまよ)っていた。

 三度目の敗北、身を焼く屈辱から数日。武人の目に叶うミノタウロスは現れない。

 もはや時間はなかった。ダンジョンの壁より現れる産まれたてのミノタウロスすら抜選し、オッタルは愚直に『使命』を果たさんとする。

 諦めなどしない。オッタルにとって、あの御方は全てだ。あの御方のためならば命を(なげう)つ覚悟があり、それはとうの昔に終えていた。

 武人は探し続ける。愚直に、ただ愚直に。己にはそれしか出来ないのだと言わんばかりに、ミノタウロスに会うては値踏みし、これでは駄目だと屠る。

 

「……」

 

 常に増して厳つい眼差しに、失敗の二文字はない。刻一刻と迫る制限時間(タイムリミット)、女神の失望が頭を過ぎるも、最後まで諦めるつもりはなかった。

 

「……む」

 

 それが幸を呼んだのかは分からない。中層を歩く2(メドル)を超える武人は、異質な気配に脚を止める。

 ズシン、ズシンと床を罅割る音。薄暗い通路の奥から重い跫音(きょうおん)を響かせ、現れたのは――巨大な頭蓋を被ったかのような『ミノタウロス』だった。

 

「亜種……いや、変異種か……?」

 

 オッタルは呟く。

 他のミノタウロス同様、猛々しい筋肉に覆われた巨躯。巨大な大斧の天然武器(ネイチャーウェポン)を両手で持つ姿の威圧感は同種とは思えぬ程逸している。

 

『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』

「……」

 

 下級冒険者ならば動けなくなる程の咆哮。微塵も動じず、ゆらりと片腕を上げるオッタル。

 振り上げられた大戦斧を、武人は片腕で受け止める。

 

「――!」

 

 そのまま握り、大斧ごと持ち上げてオッタルはミノタウロスを投げ捨てた。怪物の巨躯が一瞬浮かび、ドゴンドゴンと音を立てて転がる。

 

「……」

 

 立ち上がろうとするミノタウロスを前にオッタルは考える。

 上々だ。『奴』に殺された三匹を加味しても、それらの上を行く程に上々。

 だが、亜種と思しき出で立ち。何よりその力は、ともすれば――

 

「……いや。迷っている暇はないか」

 

 呟いて、武人は武器を周囲にばらまく。

 ミノタウロスの得物はそのままでいい。加減したとは言えオッタルの『力』に耐えたあれならば、十分。故にここから戦いを以て、怪物に『知性』を叩き込む。

 

(……加減は出来ません。フレイヤ様)

 

 一言、懺悔をするようにオッタルは心中口にした。それは、あるいは()()()()になるやもしれぬと、そう考えたが故に。

 少年の洗礼は、過酷なものとなる。

 少年の()()は、類を見ないものとなる。

 だがそれでも。あの御方の寵愛を受けると言うのなら。

 超えてみせろ。武人は大剣を握り、咆哮を上げるミノタウロスに叩きつけた。

 




最近、【要人】【不死】【亡者】【化身】【狂王】【狩人】【修羅】【黒鳥】【例外】の九人で構成された【フロム・ファミリア】が篝火を囲んで意味深な会話をしているだけの妄想が頭の中でぐるぐるしてる。
ただそれだけなので別に新しいのを書くとかそういうのではないんだけど。

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