ここは人理継続保証機関フィニス・カルデア。
魔術王ソロモンの企みにより焼却された人類の歴史。
それを復元し未来を取り戻す人理修復の旅・レイシフトを続ける、平凡な少年にして人類最後のマスター・藤丸立香。
そのパートナーにして、さる英霊をその身に宿しシールダーのデミ・サーヴァントとなった少女、マシュ・キリエライト。
人理焼却の要として聖杯と72の魔神達が送り込まれた、世界各地の歴史の転換期となる時代『特異点』。
そこを彼らは巡り、常に血が凍るような恐ろしい戦いを、時には胸躍るような冒険と出会いを繰り返し、人理修復のための聖杯探索任務『グランドオーダー』をこなしてきた。
敵は強大、謎は深淵。戦力はいくらあっても足りることはない。カルデアの英霊召喚システムによって、人の歴史と
これはそんな彼らの日々から切り取られた物語、その一幕である。
今日も今日とて立香とマシュは、居合わせたとあるサーヴァントと共にシミュレーターで仮装エネミーを相手に戦闘訓練を行い、その連携を鍛えていた。
「マシュ!大丈夫か!?」
「問題ありません先輩!まだまだいけます!」
彼らが今対峙するのは一体の大型エネミー。二人で大型の注意を引き付けている隙に、残るもう一人には雑魚を先に蹴散らしてもらい、最後に総員でぼてくりこかす手筈になっていた。
「
よく通るソプラノの声に似つかわしくない裂帛の気合。次いでドスゥン!と響き渡る重い打撃音。
最後の雑魚エネミーの体がくずおれ、肉体を構成する魔力が結合力を失い、光の塵になって宙に溶ける。
掃討を終えた援軍が今、マシュに攻撃をいなされながらじりじり体力を削られていた大型の鼻っ面に迫撃する!
「
眉間に轟然と叩き込まれた右拳のラッシュに怯み、たたらを踏んで退く大型。強襲者もまた攻撃の反動に逆らわず後ろに跳び、味方の方へ合流する。
「りっくん!マシュちゃん!お待たせしました!さぁ、ノーコンティニューでクリアーですよ!」
歩み寄るのは一人の女。
パールホワイトの肌艶めく黄金比率の肢体が纏うは、煌びやかな装身具に象牙色のキトン。ゆったりしつつその瑞々しい肌に吸い付き、たわわな実りと瀟洒なくびれが織りなす蠱惑的な曲線を浮き彫りにする。
上品なミュールに包まれたたおやかな爪先は静々と歩を刻み、その足音と歩調までもが耳から染み入ってくるような色気を宿していた。
顔の上半分は
空いている左手で被り物を脱ぎ去ると、露わになるのはライトシルバーの双眸がはまる傾国絶世の美貌。吸い込まれるような透明感を湛えたジェットブラックの柳髪は後頭部のバレッタで纏められ、磨き抜かれたキューティクルが生み出す
この世の全ての富をかき集めてもつり合わない至高の宝石のような、完全無欠の女がそこにいた。
「「パンドラさん!!」」
立香とマシュも頼もしげに彼女に微笑みかける。
「はぁ~い! いつもニコニコ
彼女こそアサシンのサーヴァント、パンドラ。かつて神々の手により泥から生み出され、ありとあらゆる美徳と悪徳を詰め込まれ、一つの時代を終わらせるために地上に全ての災いを解き放った、究極の妻にして至高の災媛。
ティタン神族随一の賢者への意趣返しとして生み出された
脱いだ甕の口に空の左手を突っ込むパンドラ。するとどうなっているのか、甕は手首から先を飲み込んだまま、小揺るぎもせず左腕に固定され、巨大な鉄のグローブと化した。
「頼むぞ二人とも!」
「はい!行きましょうパンドラさん!」
「はいさ御覧に入れますよ、アテナ様仕込みの腕っぷし!」
蓋の
「ドララララァ!」
またも繰り出される右手のラッシュが大型を牽制する。白く輝く細腕一本でどうやってこんな威力を出すのか、そう疑わずにはいられない大きさと速さで打撃音が連なる。慣性の法則を無視しているかのような早撃ちだ。
それでも当たり所次第では耐え切れなくはないと判断した大型は、より重い痛打を繰り出すが明らかにパンドラよりは足の遅いマシュを狙う。間合いに入るか入らないかの距離をウロチョロされていた先ほどとは違う。腕を振るえば余裕で届く。ガードの上から叩き潰してやろうと振り返る。その瞬間にかつてない剛撃が横薙ぎに片足を打ち据え、派手に体勢を崩される。何をされたのか全く分からず、同じ一撃を横っ面に入れられてようやく理解した。パンドラが連打を繰り出す間、死んだように沈黙していた左の砲丸だ。頭にまとわりつく鈍痛と目眩を振り払い体を起こそうとした所で、今度は地面に付いた腕が二人がかりのフルパワーに再度なぎ倒され、遂に馬鹿げた衝撃のからくりが目に映る。
魔力放出だ。甕の口から吐き出されるジェットエンジンの様な魔力の爆発、それがあの破壊的な推進力の正体。おそらくは右の高速連打にも応用されているのだろう。しかし分析が反撃に活かされる暇もなく、つんのめった大型の顎をマシュの盾がかち上げた。
「今だ『霊子譲渡』!パンドラ、宝具頼んだ!!」
「パアァァァンドライバァ―――――ッ! オメガッスパァアアアアキンッ!」
魔力を漲らせ、パンドラが吼える。甕から抜いた左手が、今度は鎖を手繰って高速で甕を振り回す。新体操か演武の早回しでも見ているかの様な光景。風切り音を上げ、回転軸を目まぐるしく変えながら、周囲の空間から『何か』を『掬い取っていく』甕。無くなった『何か』が、さらに外周の空間から補充されるかの様に流れ込み、またそれが甕に溜っていく。その間に右手の蓋には、彼女が自分で噛み切った指先が血の魔法陣を描き込む。
そして準備が整ったのか、手繰り寄せた甕に勢いよく蓋を閉め、抱えたまま体をひねり腰だめに振りかぶるパンドラ。蓋に描かれた血文字の魔法陣が不気味に赤く輝く。
「天地覆いし不徳と災厄、救いもほんの一摘み…余さず召しませ!『
真名開放。声高らかに蓋を開け放つパンドラ。左手で突き出した甕の口には蓋より剥がれた魔法陣がシールの様に貼り付いて密封している。その力場に接触し、魔力同士の反発で悍ましい色のスパークを放ちながら甕の内へ押し戻される、そんな蠢く『何か』を垣間見る大型。しかしそれも一瞬、魔法陣が決壊し黒い汚濁の奔流が大型に高速で殺到。着弾と同時に飛び散るどころか蛇のように細く長く伸びて体に絡みつき、全身の皮膚から肉へ骨へと染み込み潜り込んでいく。大型の体の中心からあふれ出すように全身を駆け巡る、意識が飛びそうな吐き気・悪寒・激痛、脱力感。思考は焦燥と恐慌に蝕まれまともに働かず、音と光がどこまでも遠い。
全身の皮膚から感触が消えうせ、自分が今立っているのか否かも覚束ない。
「決めろマシュ!全力で叩き込め!」
「これでっ…倒れて!!」
そしてマシュの渾身の振り降ろしが動けなくなった大型の頭蓋を粉砕し、完全に沈黙させた。
「ふぃ~、予想以上に魔力使っちゃいましたよ。訓練用の敵だなんて侮ってたら堅いこと堅いこと…お二人ともごめんなさいな?もうちょっと遅れたら令呪使わせちゃうとこだったんじゃないですか?」
「いえ、期待以上に早くてびっくりしました。それにしても魔力放出ってやっぱり強力ですね…スピードにもパワーにも応用が利いて凄く便利だと思います」
「使い所考えないとすぐバテちゃいますけどね。りっくんの負担だって多少はありますし。その点マシュちゃんはりっくんの体にとっても優しいマスター思いのいいサーヴァントだと思いますよ?」
「そうだね。いつもありがとうマシュ」
「そ、そんな!?こちらこそありがとうございます…デミ・サーヴァントの身で、恐縮です…」
訓練を終えてリフレッシュした後に一緒に夕飯を食べることにした三人。くつろいでいても今日の戦闘についての振り返りは忘れない。
「でもりっくんもゴールデンくんやレオニダスくんと鍛えてるだけあって、生身の人間としてはかなり強まって来てますね?もう2・3年したら、平均的な
「ぶろんず…ぼーん?」
「ええ、
「マジかスゴイな古代人」
「それに2・3年で到達できそうと見込まれている先輩も大概なのでは…」
当時の『人間』の想像を絶するクオリティに呆然とする立香とマシュ。
「これでもかなり質の落ちた第三世代だったんですよ?第二世代の『
「セミみたいだな…」
「第一世代の『
「まるでエルフ…」
神代やべえと戦慄する立香。
「ヘシオドス著『仕事と日』にある、ティタン神王クロノスの時代に存在した
「不備があったなら一種族成立するまで量産する前に気付こうよゼウス…」
ふこうなこどもをふやさないで、というペットの避妊・去勢手術を呼びかけるキャッチコピーが頭をよぎる立香。
「マシュちゃんは物知りさんですねぇ(なでなで)。それでパンドラさんと旦那様の馴れ初めがあって、さらに大洪水という二度目のリセットを経て生まれたのが、現代の人類の祖先『
「あ、あいあんに…れじぇんど?」
「パンドラさんと旦那様の子達ですから皆基本精力的な働き者ですよ♪垂れ流される大地の恵みに胡坐をかいてニート三昧だった黄金族・白銀族・青銅族…メンドいですね、まとめて
「れあめたる…」
「特に神の
「なにその
「そう、あの頃はいつだって
譲れぬ願いに奇跡が共鳴し、選ばれしソルジャーたちが大いなる力を信じ闘う、そんな時代だったのかもしれない。
「あれ?でもどうしてパンドラさんは神話のあの箱、じゃなくて甕を開いてまで青銅族を滅ぼそうとしたのですか?男性しかおらず、不老不死でもなかった。新しく創造しない限り寿命で自然消滅したはずでは?」
「…言われてみればそうだな。神様達は何を焦っていたんだ?」
それを聞いてパンドラは苦笑しつつ答えた。
「すぐに滅ぼさないとオリュンポスの天下がなくなっちゃうかもしれなかったんですよ。パンドラさんの旦那様たるエピメテウス様の姉君、プロメティス御義姉様の計略によって」
「えっ!?待ってください!プロメティス…プロメテウスではなく!?人類に失われた炎を再びもたらした文明の守護者は、女神だったんですか!?」
「あらま、御義姉様ってば現代じゃ男神って伝わってるんですか?プッざまぁ(笑)。ンンッ…まぁそれはともかく、当時は、ティタノマキアの戦火も鎮まってだんだん繁殖によって多様性の増えて来た生物達に、もっと個性的な能力を持たせてキャラ立ちさせてあげようってプロジェクトが神々の間で進められてまして。プロメティス様とエピメテウス様は、そのプロジェクトチームの実行メンバーだったんですよ」
ティタノマキアでいち早くオリュンポス側の勝利を予見して寝返ったため、ティタン神族敗北後も敵として
「二人…じゃなかった、二柱は人類にどんな能力を授けてくれたのかな?」
「記録では、エピメテウスさんが無計画に他の生物に能力を与え過ぎて、人間に与える分の能力がなくなってしまい、結局何も授けなかった、とありますね」
「えっそんな!?」
「今じゃあそんな風に伝わってるんですね~…」
「あ…やっぱり、本当は違ったんですか?パンドラさん」
「そりゃそうですよ…今も昔もみーんな旦那様の事、『先見の明が無い愚者』だって嗤いますけどね!『
「ご、ごめんなさいパンドラさん、不躾な事を言ってしまって…」
「ふぅ…いえいえ、こちらこそすいません、話がそれました…えーと実際は青銅族をどうしたか、でしたよね。何も授けなかったんじゃなくて、もうちょっと後で授ける予定だったと言いますか…何も入ってない…『これから何でも詰め込める』ような…そんな『目一杯大きな空っぽの器』こそを、授けたんですよ」
「それって…いわゆる『無限の可能性』みたいなやつってこと!?うわあかっこいい!太っ腹だなぁ!」
無邪気に感心する立香に複雑な表情でパンドラは答える。
「ええ、まあ…大盤振舞ではありますよね。オリュンポスの神々を倒させて、そのかわりに神の権能を担わせようなんて」
「え…?」
そう、プロメティスは青銅族をオリュンポス打倒の新勢力に仕立て上げようと画策していたのだ。ゼウス達を軍門に降した暁には、彼らの
「そしていよいよ御義姉様も計画を本格的に推し進め始めました。それが人と神の区別をはっきりさせるために催された犠牲式、『牛の部位、人と神でどう分け合うか?』のエピソードです。部位の切り分けを御義姉様が引き受けたわけですが、ゼウス様もホネとラードを選ばされた時の御義姉様の裏工作がよっぽど業腹だったみたいですよ?しかもしてやられた相手はいつもヒィヒィ言わす側だった女なわけで。プッ(失)」
「もしかして、それで後世では同じ男に騙されたって事にしたのかな?つまんない意地だなぁ…」
「…あれ?でも待ってください。神ゼウスは神々の取り分には不滅の象徴たる腐らない『骨』、人間の取り分には滅びを暗示する腐りゆく『肉』をそれぞれ割り当てるべきと最初から決めていて、プロメティスさんの偽装も最初から見破ってらしたんですよね?」
「ええ、そうですよ。というか御義姉様が騙そうとしたのってそもそもゼウス様じゃありませんし」
「え…?じゃあ一体誰の事を…あっ!」
何かに気付いた様子のマシュを見て、ニィッと口の端を吊り上げるパンドラ。
「そうです。御義姉様が謀ったのは上前をハネた方ではなくハネられた方…青銅族の嫉妬心です」
人類の取り分である美味なる肉と工業素材に利用できる便利な革。しかしプロメティスの偽装工作によって乱暴で短絡的な青銅族たちの眼には、それらは酷くみすぼらしい物に見えていたのだ。それに対して神々が選んだのは、見るからに食欲をそそる宝石の様に美しい脂が差した肉塊(の張りぼて)。
『あれにはその残りカスにしか過ぎない俺達の取り分とは、比べ物にならない価値があるに違いない!』
プロメティスにまんまとそう思考誘導された青銅族は、彼女の期待通り神々への不満と反感を募らせ、あわや一触即発の状態に。
「そして神ゼウスがこの事件の罰として青銅族から没収した火を、プロメティスさんが再度盗み出して与え、今度こそその罪で捕らえられたわけですね。このエピソードってもしかして…」
「ええ、人類に神相手の戦争の準備を整えさせないために文明の原動力を封印したわけです。まあ御義姉様は割と以前から、ゼウス様に神のトップとか任せてらんないってファイナルアンサー出してたっぽいんですよね。パンドラさんの女子力の師匠が一柱・
「あ、はい。神ゼウスの額を割って生まれて来た、というお話ですよね。それに先立って、女神アテナを身籠っていた、当時の妻だったティタン神族の女神メティスを、神ゼウスは水滴に変えて呑み込んでしまったとか」
「ゼウスマジ
「確かにろくでもない話なんですが、一応彼の体内で一体化しつつも生きているそうですよ先輩。女神メティスは知恵を司る神格だったため、いざという時に体の中から神ゼウスに的確な助言を与え、プロメティスさんの偽装工作を見抜けたのもそのおかげだったそうです」
「呑み込んだ理由もまたろくでもない話だったんですけどね?子供が生まれて自分より優秀だったら神王の座から蹴落とされるかもしれないなんて、自分がかつて打倒した御父上クロノス様のやらかしと同じ理由だったんですから。まあクロノス様もそのまた御父上たるウラノス様相手にパイプカット下剋上かましてます。展開がテンプレ化しつつあってゼウス様も何とかしたかったんでしょうが…伴侶ごと子供飲んじゃうのはクロノス様だって流石にやってませんよ?キュクロプス様達やヘカトンケイル様達をガイア様のお腹に戻してあげただけのウラノス様が、ある意味一番マシだったのかも知れませんね」
「なるほどなぁ。代を重ねるごとに酷くなってる。なのに子供は作る、と」
「『子供が生まれたなら世代交代を受け入れてその成長を見守ってあげればいいのに…』そう思っていた御義姉様にはゼウス様の所業はひどく不実で歪に見えたのでしょうね。家の甕に保管されている世界全ての悪徳を見張る度に思い出すのは、それらの代わりにタルタロスに押し込められ、あるいは他の罰を受け続ける同胞の方々のこと…まともにやり合っても勝ち目がないからティタノマキアの際一抜けしたとはいえ、同胞への親愛を捨てたわけではなかった御義姉様が、旦那様と一緒に魔改造した青銅族を率いてオリュンポスマキアを起こそうと思うのにそう時間はかからなかったんでしょうね…」
「情に篤い所のある女神さまだったんだね…」
「そもそもよく思ってないオリュンポスに寝返れたのも、弟である旦那様を守りたい一心だったそうですよ?で、主犯として彼女がパクられ、クーデターは未遂に終わったものの、神の力の一端たる
エピメテウスのもとに、プロメティスとオリンポスが和睦した記念に作られた新型人類試作第一号の機能テストという虚偽の名目で送り付けられたパンドラは、彼の妻となってからは、その庇護のもと世界一周ハネムーンと称して各地を放浪しながら、オリュンポスに逆心を抱く青銅族一人一人の心を魅了して回った。彼女には二つの使命があった。一つ目が
粗悪な人類の返り血でこれ以上世界を汚染しないための、自律式大量殺戮
『う…あァ…い…ぎッ…あぐ…あああああああああッ…!!!』
『なっ…おいやめろ!しっかりしろパンドラ!寄るなっ近づくなっ!俺の家内に何しようってんだ!』
『うゥ…駄目…いけません…貴方…エピメテウス様…お逃げになって…』
『やめろ…やめろぉぉ…嫌だパンドラぁ!死ぬんじゃねえエエエエエエエエ!!!』
『そんな…!?いけません!これは…世界を覆う絶望に侵され同化した、無数の人類の悪性…
『なおさら退けるかバッキャロォ!俺なんかより遥かに賢いくせにッ…ふざけんなよ…そんなの神でもないお前じゃ絶対助からねぇだろうが!?』
『もう…いいのです。
『ふざけんな!じゃあ今お前の眼から!全身から流れるものは何だ!世界一周の旅も終わって…我が家に帰って…あの甕が目と鼻の先にありながら!俺とお前で始めたあの日々は何だ!お前が来て!こうなるまでの!無駄で!嘘で!お前の使命に何の関係も無くて!泣く程迷って苦しんで!でも引き伸ばし続けた!』
『っ!!…ふふ…お恥ずか…しい……ご存知…でしたのね…』
『優しくて…暖かで…永遠さえくすむ鮮やかさの!俺とお前の時間は…何、だったんだよォ…!』
『う…ぐすっ…ごめんなさい…ごめんなさいあなた…でも本当のわたくしは…どうしようもなく愚かで…わがままなんです…暴いてはいけないもの程、暴きたくてたまらなくなって…そうして何もかも台無しにしておいて…それでもあなたにだけは笑って…安らかに生きていていてほしいの…』
『何が愚かだ…わがままだ…やっぱりまだ遠慮してんじゃねえか…無駄知恵ばっか廻らせやがって…その笑ってる俺の隣には…きっとお前はいないんだろ!?俺の女房ならもっと欲張れよ…自分も込みで幸せ願えよ…俺は願うぞ…オリュンポスが…姉上が…誰が馬鹿だと嗤おうが絶対割り切らん!今日も明日も明後日も…お前の飯を腹いっぱい食って…”ごちそうさま”ってお前に言うんだ!!!』
『あぁ…嬉しい……旦那様…それなら…どうか…パンドラのお願い…聞いてくださいますか…?』
「その時パンドラさんは、こほん…わたくしは、思い知りました…旦那様が、どれほどわたくしを愛して下さっているのかを。太陽より眩く、月光より狂おしく、炎雷より激しく、風や水より透明で、この世の何より揺るぎない、宇宙さえ霞む巨大な思い。それがわたくしという女ただ一人に注がれて溢れ出し、過去、現在、未来さえ…わたくしに繋がる時空の全てが、あの方の慈しみで満たされていく歓喜。其は
「パンドラさん…」
「というか開けちゃう前からゾッコンっぽいんですけど?」
どこか眩しい物を見るような眼差しのマシュ。対して立香はチョロインを見るような目を向けている。
「あ、いや、し、仕方ないじゃないですか!青銅族を一人一人魅惑して回らなきゃいけなかったから、盛りのついた連中に手籠めにされそうになったことなんて百や二百じゃ足りませんし!そのたびに律儀に嫌な顔一つせず守ってくれて、こっちの心配までしてくれる殿方を好くなって方がおかしくありません!?」
「ああ…うん、そうだねゴメンゴメン」
「それに、旦那様はいつもわたくしの料理を本当に美味しそうに召し上がられて…子供の様に無邪気に笑って、口一杯に頬張りながら、いつも朗らかに『おかわり!』って…でもそれだけじゃなくて、一口一口を噛みしめるように味わって、今日はあの食材を使ったんだね~とか、この具や味付けがこんなふうに美味しい~とか、あの調理法を試したの~とか、こんなに手間暇かけてくれてありがとう~とかとかとかとかとかぁ~えへふひひ…♡ すっごい詳しくて丁寧な感想が毎回毎回返って来て、ご飯の終わり時にはもう、心もお腹も一杯で…(///」
「うわー、ごちそうさまー…」
「そういえばエピメテウスさん、『解析』が大得意な方だという話でしたね…」
赤いマントのシェフと話が合いそうだ。
「ンンッ…話を戻します(照)。そしてパンドラさんは、旦那様の無限もかくやなその愛をたっぷんたっぷん流し込んでもらいましてですね、むふっ☆」
「たっぷん!?その擬音の意味は!?」
「落ち着いてマシュ!?」
「あ、ちなみに私の肉体にはアフロディーテ様発案・ゼウス様採用・ヘパイストス様作成の、相思相愛な
「何そのトンデモ神器!?てかエロスとかいうな!」
「パンドラさん、手で作ったハートの位置が微妙に低いです…なぜ胸元ではなく腹部なのでしょう!?」
「でもってその魔力で、
「露骨すぎだよパンドラさん!」
「あ…あわわわわ(///」(ぷしゅ~)
免疫のない二人の慌てぶりに、先ほどイジられた溜飲を下げるパンドラ。
「こうして夫婦死別の危機を乗り越えたパンドラさんとエピメテウス様は、可愛い一人娘ピュラーちゃんに恵まれ、涙の結婚式とか大洪水とかを経て、その子供達が新たなる人類として地上に栄えるのを見守りつつ幸せに暮らしましたとさ。パン・パン♪」
(パンドラだけにか!?)
(エピメテウスさんのくだりで若干素に戻っていたのに、もうすっかり普段のキャラを被り直しています…恐ろしい人…!)
「…ってあれ、一人娘?パンドラさんとエピメテウスさんは他にお子さんいなかったの?どうやってギリシャ人増えていったんだ?」
「う゛…あ~、やっぱりそこ引っかかります?実は今のギリシャ人の大元の父親になるデュカリオンくんは、ぶっちゃけ
「え、ええ~?…何そのパラドックス…」
「本当です、辻褄が合いません…」
「ハ~イ時間切れ。ネタバレしますよ?答えは『オリュンポスの神々に頼んでパンドラさんみたいな女の人間の体を自分用に作ってもらい、魂だけそこに入って弟である旦那様と子作りした』でした!うぐぐぐぐあンの
「何その超展開!?予想できるわけないじゃん!つーかプロメティスさんは弟ラヴだったの!?」
「兄妹や姉弟なんてカプ、神様連中にとってみればもはやタブーにもならないんですよね。マザー○ァックでもドーター○ァックでもビースト○ァックでも強姦でもNTRでも、人類がやれば目くじら立てるくせして、自分たちは平気な顔してやらかすんです」
「オリュンポスさいていだ!」
「所で、オリュンポスは何故プロメティスさんにそのような便宜をわざわざ図ったのでしょう?」
「それがですね…ゼウス様脅すネタ持ってたりとかもあるんですけどその辺はこの際省きますね?とにかくパンドラさんと旦那様の『世界を汚さず青銅族一掃』の功績が認められて、オリュンポスが『願いがあるなら叶えたげるから言ってみそ』っつーから、『わたくしは旦那様ととっくにラブラブハッピー天元突破なので、これから生まれる子供に末永い幸せを』って頼んだんですよ。そしたら『あ、そう。じゃあ君らの子供が次の人類として栄えて良いよ』って話になって、万事めでたし大団円!…となる所に横槍ブッ込んで来やがったのが御義姉様だったんです…」
”エピーとあんたの子供ですって?他者に勇気と元気を与える不屈の優しさとそ・れ・な・り・の?スペックならまだしも、『他者を欺く好奇心』とか?『誰彼構わず惑わす色香』とか?『気に入らない奴はぶちのめす冷酷さ』とか?『ムダに危険なもの創り出す器用さ』とか?そういうのも併せ持って生まれて来るわねその子。でも『智慧』は?『問題起きたら収拾付ける素早い思考力』はあるのかしら!あんたやその生みの親達にその辺期待しても大丈夫?そんな子達ばかりが地上に溢れたら幸福な繁栄どころか地上の平穏だって望むべくもないわねぇ~。ふぅ、仕方ないわね、わたっわたたたわた、私も!エピーとの間に1人子供を作ってあげるから!あんたとエピーの子供と夫婦にして、その子供達を栄えさせましょう(ポッ)”
「…とかお告げ飛ばしてきやがったんですよあんのクソインテリがぁぁぁああああああ!!しかも旦那様も!」
”さすが姉上だ!そこまで俺とパンドラの子供の幸せを考えてくれていたなんて…グスッ…やっぱすげえよ姉上は…俺とは頭の出来が全然違う!姉上の言うことはいつだって冴えてる!言う通りにすれば間違いはない!俺からも頼むよゼウス!姉上の意向をどうか汲んでほしい!”
”や、やだエピーったら誉め過ぎよ…あなただっていつも私の要望通りにいい仕事してくれてたじゃない。生物達に私の考案した能力を与える仕事の時はもちろん、ティタノマキアの時だって、あなたが権能で私の『智慧』をさらに強化してくれたから、いち早く趨勢を見越して身の振り方を決断出来たんだもの…”
「もおおおおおおおぅ!愛しの旦那様があそこまでシスコンだったとか!あの時初めて知りましたよッッ!!」
「…そういえばエピメテウスさんは、他の兄弟に『力を取られた』からティタノマキアで大して活躍できなかった、と言われていますが…本当は『自分以外の味方に力を与えて強くする』神様だったんですね!」
「そうか!パンドラさんが青銅族の怨嗟を完全浄化出来たのも…」
「はい、ご明察です。旦那様のその権能と、ヘルメス様仕込みの魔術の素養、そして
「もしかして神ゼウスもそこまで見通しておられたのでは?」
「あ~ないない。ないですよ絶対。基本
「あー…」
「と、ところで、プロメティスさんが身ごもってデュカリオンさんを産むまで…いえ、産んでからピュラーさんと結婚できるようになるまで、母子の生活基盤は…」
「えぇえそうですよぉ~パンドラさんとぉ~エピメテウス様のぉ~スッウィイ~トホォォォムでしたともッッッ(怒)!」
”ちょっとパンドラさん?夕べのスープ味付けがくどくなくて?”
”まあパンドラさん!こんなに埃がたまってましてよ!”
”もうパンドラさん…あんな所に荷物を転がしていたらピュラーちゃんが躓いちゃうでしょう?”
”あらあらパンドラさん!今日は雨だって先日伝えたでしょう!?早く洗濯物を取り込みなさいな!”
”知っていたならなぜすぐに言ってくれないのか、ですって?あのねえパンドラさん、あなたが自分で気づいてこそ意味があるのよ?あなたを信じていつ気付くか見届けていたんじゃないの。まあ今回『も』?私の期待のし過ぎだったようだけど?次から頑張りなさいね”
「ウッッッッゼェエエ~~~~~~~~~ッ!!!!何なんですかあのインケンヒステリー略してインテリ(笑)!エピメテウス様やピュラーちゃんやデュカリオンくんの前じゃ、『とても物知りで落ち着いた、でもちょっとだけ不器用でむしろそこが手伝ってあげたくなる優しいお母様』の猫被っちゃって!裏じゃわたくしと二人っきりになった時だけ狙いすましたように些細な手落ちを吊し上げてネチネチネチネチネチネチネチネチ…!!!ピュラーちゃんの出産前後はあんなに親身に家事とか代わって優しくしてくれて正直見直してたのに…二人が生まれてからは手のひら返したように…完ッ全に騙されました!御義姉様のクソ外道オオオオオオオオオオオオ!!!!」(だんだんだんだん!)
「落ち着いてくださいパンドラさん!?」
「ハァ…ハァ…そう…ですね…すいません、熱くなりすぎました。ガイア様も『ちょっと落ち着け』と囁いている気がします」
「エピメテウスさんに言っちゃえば良かったんじゃない?」
「ええ…もちろん一度耐えかねて言ったことはあるんですけど、旦那様が御義姉様を問い質す時、全幅の信愛を傾けていた私達二人の板挟みになって、とてもとてもとぉ~っっっても辛そうな顔をなさっていたんです…それからは正直気が引けて…まあそれは御義姉様も同じだったみたいで、頻度そのものは減りましたね。でも画期的な
「よ、夜の!?」
「それ以上いけない!」
「まあそれはともかく!パンドラさんにとって
「うん…ありがとう!」
「心強いです、パンドラさん!」
「さあ、まずはこのA定食を造ったシェフのレシピを盗みに行きましょう!毎日の元気は美味しいご飯から!腹が減ってはレイシフトは出来ません!」
そう言って綺麗に平らげた食器を持って厨房に突貫するパンドラ。大食いのサーヴァントも多いこのカルデアを支える、別の意味でも頼もしい仲間になりそうだ。そんなことを考えながら立香とマシュはその背中を見送っていた。
パンドラ
クラス:アサシン
属性:混沌・悪・人
性別:女
身長:2m
体重:70㎏
ステータス:筋力B 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運A 宝具A
所持スキル
『
『魔力放出』(EX)を主軸に『天性の肉体(美)』(A)・『黄金律(妻)』(B)・『直感(女)』(C)・『戦闘続行(姑)』(D)・『神性(婚)』(E)が統合されており、夫への愛が昂ると魔力で運動性能が強化される。性交による魔力供給という技術の源流となった、人類が持つ魔術回路のオリジナルモデルの一つ。別名
『女房』という呼称が『旦那一筋!』みたいな響きで気に入っている。
『魔性の詐術』(A)
偸盗神が吹き込んだ、目的のために神をも欺き世の理さえ捩じ曲げる気概と実行力、即ち『殺し屋もしくは魔術使いの要訣たる才能』。体系化されている魔術なら、あらゆる系統を理解・学習・行使可能。特に生前取った杵柄から呪術系とは相性がいい。
『
これによりアサシンとキャスターのクラススキルを取得している。
『世帯構築(母)』(B)
キャスタークラスの『陣地作成』と『道具作成』が変性・統合されたスキル。日々成長する我が子を護り育てるため培われた、家族という集団での衣食住に必要な設備と道具を用意する能力。料理や
『警戒解除』(B)
アサシンクラスの『気配遮断』に『魔性の詐術』が作用し変質したスキル。『受け取るな』と言われていた自分を夫に受け取らせ、禁断の甕を開け放った逸話の具現。敵意を打ち消し、存在を気取らせないのではなく敵だと思わせない。
『老婆心』(A+++)(※自己申告)
ギリシャ神話における人類の始祖・ピュラーの母親であり、即ち自分こそ現代人類全てのおばあちゃん的存在であるという自負。BBA呼びに不動の精神耐性を持ち、エピメテウスにエロスぞっこんなためどんなイケメンの魅了も完全無効…らしい。
宝具:『
強固な鎖で封を施されたサッカーボール大の丸い鉄甕。
実はゼウスの雷霆・ポセイドンの三叉槍・ハデスの隠形兜と同じキュクロプス三兄弟謹製の神器。
ティタノマキアの敗戦捕虜となったティタン神族へのタルタロス収監措置に伴い、本来タルタロスが一括管理していた
これはプロメティスがオリュンポスに助力した功の見返りとして、同族達の虜囚環境が少しでも改善されるよう、ゼウスに情状酌量を嘆願したためであり、その後の甕の管理もプロメティスに一任されていたが、パンドラの一件を経てパンドラの宝具として英霊の座に登録された。
基本はこの世全ての災いを封じ得る強度を利用して、
また、甕は蓋を閉めずに振り回していると、世界に拡散している災いが虫取り網で絡めとられるように内部に溜っていく。この災いを呪術攻撃に転用し、バズーカの様に敵へと撃ち込むのがとっておきの使用法。一旦この攻撃モーションに入ると、隙が大きい上に甕の中身を一度どこかに全部捨てなければ、グローブに再使用した時に自分が災いを浴びる羽目になるので、戦術の幅的に濫用は出来ない。
全ステータスをワンランクダウンさせ、相手の体力が少ないほど多くのバフが解除され、デバフがかかるようになっている。ただし甕内部の
ポケモン風に言えば、みねうちが超威力が高くなって強化解除と弱体化と状態異常をいっぺんにありったけ敵にくらわせられる様になったもの。通常の聖杯戦争なら
副次効果として、この甕に災いを『掬い取られた』空間では、一時的に幸運にプラス補正がかかる。例えば寝る時に天井から吊るしてシーリングファンの様に回しておくと、安眠による体力回復・傷病治癒・解毒・解呪効果が増進される。
英霊の場合、霊体化して直接中に入ることで『
キャラクター
炊事・掃除・洗濯・裁縫・貞操防衛の護身体術まで何でもござれな、アテナの薫陶を受けた肝っ玉母ちゃん。それでいて起床・送迎・入浴・就寝まで行き届いた嫁の心尽くしや、思いもよらない絶好機で炸裂する茶目っ気・恥じらい・大胆さ等、男を手懐け惑わせる手管も忘れていないが、夫以外に本気で使う気はない。
巨体だったと謳われるティタン神族の妻としてデザインされたため、夫の胃袋を満たし続けた体力とタフネスは半端ではなく、ケツァル・コアトルをしのぐ長身。
人類相手ならばどんな聖者も豪傑も雷帝も
エピメテウスのイメージは擦り切れる前の、すみれ色の髪の少女一人だけの『正義の味方』。権能を『強化』だったと独自解釈するうちにそれ以外考えられなくなりました。
ちなみにプロメティスのイメージはあかいあくまで、パンドラのテンションは某這いよる混沌+ブロッサム先生のイメージ。
この弟、依代召喚で実装されないかな。