「捕まえたぜ少年」
アズマの首を掴み、筋肉ジャケットはそう勝利宣言した
トレーナーを抑えられ、ヒトツキ達の動きが止まる
「おっと、動くなよポケモン達。動けば少年の首がポキッと行くぜ」
……苦しい。痛い
だけれども、大丈夫だ。耐えられない痛みじゃない。喉は苦しいけれども、そんなの……昔咳していた時とあまり変わらない
苦しみならば、アズマは大分慣れている。それは自慢する事では、確かに無いけれども、意味の無い事でも、勿論無い。少なくとも、怪しい光で頭が混乱するよりも、痛みで冴えている方が、耐えられる痛みである限りは何でもやり易いのだから
「ギル……良い、逃げろ!」
出す指示は逃走。勝利条件はこのジャケット達をポケモンバトルで倒すことなんかじゃないのだそもそも。ディアンシーを、その力を悪用するだろう者達から護ること。ならば、逃げるが勝ちという事も十分にある
いくら何でも、ディアンシーを見失ってしまえばそこまで酷いことにはならないだろうし
そんな甘いことを、アズマは考えていた
『(大丈夫なんですの?)』
頭に響くのはテレパシー
「良いから行け!」
そう、アズマは叫ぶが……
「おっと、幾ら少年を傷付ければ逃げたポケモンが出てくるのかやる気か、少年?」
ズバットの牙が、アズマの頬を浅く傷付けた
ヒトツキは動かない
「……捕らえたら、ディアンシーをどうする気だ……」
「ディアンシーはゼルネアスに出会う為に、地上に現れると言われています」
答えたのは、科学者風の方であった
「ディアンシーには、我等の悲願、ゼルネアスの為のレーダーとなって貰うのですよ」
『(嫌ですわ!)』
ディアンシーの声が脳内に響く
……当然だ。恐らく彼等は何らかの理由で伝説のポケモン、ゼルネアスを得ようとしている。ゼルネアスに対して何をするか分からないというのに、ゼルネアスの元まで彼等を案内するという悪事の片棒を担ぎたいポケモンなんて居ないだろう
普通ならば、従うわけもない。トレーナーとして認めないから、ボールにだってそうそう入らない。……ポケモン側から出られるように出来ていないというマスターボールでも無い限り
……だが、警戒に越したことは無い。ボール工場が
「従わなければ?」
「従わせるまでです。幾らでも方法はあるので、ね」
ズバットの牙が、アズマの首筋を軽く刺した
……甘かったのは、此方か
アズマはすこしずつ薄れ行く意識の中で考える
悪の組織と、報告書で書かれるような存在を甘く見ていた。人間に対しては、そうそう非道な事はしないと、勝手にその良心に期待していた
……そんな事は、あるわけがないのに
そんな良心を持つならば、人間を非道な扱いが出来ないならば、どうしてポケモンという人間の大切な友達に対して、実験体や無理矢理の発電装置扱い等という非道が出来るだろう。ポケモンと違って人間は自分に似ているから無理?そんな虫の良い考えを持つ者ばかりでは有り得ない
……どくん
心臓が跳ねる
ならば、そう
……止めなければ。その野望を……破壊、しなければ
「何をやっているのです!」
「んなっ!」
ジャケット達がざわめく
どうしてか、筋肉の方のジャケットは、アズマの首を離していて、手を引っ込めていた
『(ひっ!)』
ディアンシーの怯える声が響く
……酷いな。助けようとしたのに
そんな、少しらしくない事をアズマは考え……
「サザ、『あくのはどう』」
冷静に、指令を出す
『モノッ!』
指令を受け、モノズの口に黒い悪のオーラが集まっていく
……明らかに大きい。モノズが撃てる限界を大きく越えている
「なんだってんだ!」
『モォォッ、ノォォォッ!』
放たれた波動は、モノズ自身すら越える大きさとなって、地上のズルッグ……そして、空のズバットすらも巻き込んだ
「……まだ、やるか?」
「くっ。何をしたかは知りませんが、そのオーラ……
どうやら、切り札を隠していたようですね。見誤りましたか」
木に叩き付けられ、ぐったりとしたズバットをボールに戻しながら、科学者風のジャケットは呟く
「一度引きますよ」
「ずっと引いておけ」
「んな訳にはいかねぇんだ、またな、少年」
言うと、そそくさとジャケット達は逃げていった
流石は大人。まだ成長期のアズマが追いかけて、間に合う速度ではない
「けほっ、ギル、サザ、お疲れ様」
軽く咳をして、アズマは