ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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vs.ストーンエッジ

「有り難う御座いました、アイリスさん」 

 『モノノッ!』 

 そして約2週間後、アズマは楽しげな紺色の女の子へ向けて頭を下げていた

 

 「うんうん!元々筋はスッゴい良いから、ホントすぐに覚えられたね!」

 「はい!」

 『キバァ!』

 と、少女のキバゴがアズマを鼓舞するように小さな手を上げて鳴いた

 

 「キバゴも、有り難う」

 『モノノッ!』

 と、アズマの足元でモノズが鳴く。この2週間ほど、モノズとアズマはアイリスに弟子入りしてソウリュウの民……ドラゴンポケモンと生きるイッシュの民の心得などを学んでいた

 

 「じゃ、さいごの試練しようか!」

 と、少女がボールを構える

 「行こうか、サザ!」

 『ノノッ!』

 それに合わせてアズマも足下のモノズを呼び……その瞬間、流石に限界とばかりにぼふっという軽い音と共に天空に巨大な赤き翼が拡がった。イベルタルである

 

 「……ベル、もう少し大人しくしててくれ。お前が出てくると試験にならない。後で一緒に飛ぼう、だから頼むよ」

 と、アズマはごめんなと勝手に出てきた赤き伝説の翼をボールに収める。そして、モノズとともに少女に今一度向き直った

 

 「じゃあ……」

 「心を一つに!やってみてー!」

 『キバァ!』

 「ああ、行くぞサザ!」

 

 その瞬間、キバゴが大地から沢山の岩角を生やす。それは不規則……いや、規則的に同じ数生えては砕けることを繰り返している

 「技を使って良いのは一回だけだよー!さぁ、さぁ!沢山こわしてみてー」

 

 そう、それが最終試験の内容であった。謂わば技での的当て。トレーナーの的確な指示とポケモンの技コントロールが合わさらなければ、周期的に生えては消える岩角を壊せはしないだろう

 「……サザ、息を吸って……

 今!『竜星群』!」

 最後の試練に対して、アズマが選んだのは一緒に特訓させられたドラゴンタイプの奥義であった

 

 正直なところ、測ってみたところ奥義とはいえ威力そのものはZ技『アルティメットドラゴンバーン』の方が高い。だが……奥義と呼ばれるだけの力はある

 

 無理矢理Z技で広範囲を凪ぎ払うのではなく、天から降り注ぐ竜星で沢山の的を狙い撃てという話だろう

 相棒(ポケモン)を信じて、ドラゴンタイプエネルギーの星を落とす瞬間にモノズが狙えそうな視界の範囲に多数の岩角が出てくるだろうタイミングを測って指示しろと、そういう試験なのだとアズマは理解した

 

 そして、その想いに応えてモノズの口に数秒かけて溜まったエネルギーが天へと打ち出され、7つに分裂して降り注ぐ!

 それはモノズの前に現れた5つの岩を破壊し、背後に現れた2つを逸れて軽く大地を抉った

 

 「お疲れ様、サザ。お前は良く頑張ったよ

 でも、ちょっと指示タイミング間違えたな、ごめん」

 もっと上手くやれば全弾命中も狙えたろう。そうアズマは自省する

 

 『ノノッ!』

 気にするなとばかりにふかふかの頭をアズマの右足に擦り付けるモノズ。その頭を撫でて……

 「うわ、すっごーい!おじーちゃんからごーかくもらった時、5発になって3つ当たればいいよーって言われたのに!」

 「あれ、そうなんですか?」

 眼をぱちくりさせるアズマ

 横では何だかアピールでもしたいのか見守るNのゼクロムが流星群の名に相応しく50発くらいの竜星を降り注がせているのだが……威力が桁違いすぎて、もう参考どころではない。ミアレシティ辺りまでなら出掛けることがあるのか空中にサイコパワーでニャオニクス師匠が的を作りそこを貫くだけだから良いが、地面に当たれば大惨事だろう

 規格外なあれと比べれば、随分とショボい結果にはなるのだが、それでも基準は越えられているらしい

 

 「……やったな、サザ」

 ぐっ、と斜め下に拳を突き出すアズマ。モノズがとん、とそれに頭の一角を合わせた

 

 「ごーかーく!おめでとー!」

 パチパチと鳴る拍手。褐色の少女アイリスばかりでなく、翼のような腕を打ち合わせてゼクロムや……Nも軽く拍手をしてくれる

 それが照れ臭いのか、モノズがボールの中へと逃げ込んだ

 「あはは、そんな気にするなよサザ。お前は良くやってくれてるんだから」

 逃げたものは仕方ない、アズマはカリカリとボールの表面を指先で擦りながら笑った

 

 「……改めて、有り難う御座いましたアイリスさん、Nさん」

 「うん、たのしかったー!じゃーまたねー!」

 「君の運命に興味は尽きないこれはいずれまた交わる線の公式

 けれど今は一時」

 『ババリッシュ!』

 分かりにくいが、つまりは一旦アイリスと共にイッシュチャンピオンであるアデクの元へ……イッシュ地方へ戻るという事

 

 「ゼクロムさん、いずれまた。もっと強くなって再会したその時は、手合わせとか、お願いします」

 尻尾のエンジンを光らせ応えるゼクロムの背に乗り、緑の髪の青年は少女を連れ飛び去っていった

 

 「さて」

 それを見送り、アズマはふぅと息を吐く

 「これからどうするかなぁ……」

 『にゃにゃおにっ』

 最早アズマを怖がらなくなったニャオニクスがすぐ近くでその濃い青の尻尾をフリフリするのをほっこり眺めながらアズマが思い描くのは此処カロスの地図。そして脳内で自分の旅路を書き出していく

 

 「本来のルートのジムバッジ獲得の旅だとフクジさんコルニさんと選んだ場合順路的に次は…ショウヨウジム、岩タイプのザクロさんか……」

 あ、ダメだとアズマはその思考を中断する

 「今フレア団事件の慰霊祭だからあのジム休業中だ。普通にミアレシティから旅するならそのうち開くんだろうけど……」

 アズマが目を落とすのは赤き伝説がカタカタ鳴らすボール

 「飛んでいきたいよな、ベル

 となると、幾らなんでも祭の最中だから早すぎるし……何時かはベルと一緒に最終兵器跡地を見に行きたいけど……」

 あの最終兵器の下には、恐らくグラードンが眠っている。3000年前、AZはカイオーガとの激突の果てにホウエンを去ったゲンシグラードンの力を使い、あの装置を起動したのだろうから。纏うオーラの質からアズマはそう推察している

 「下手に刺激したらグラードンが目覚めちゃいそうだし、更なる混乱が起きそうだから慎重にならないとな、ベル」

 

 『にゃにゃお!』

 主張の激しい野生のニャオニクスの声に、アズマは顔を上げた 

 「ニャオニクス師匠?」

 『にゃお!』

 とんとんと二足歩行の猫が立派な尻尾で地面を叩く

 「姫、何言ってるか分かる?」

 言われてバッグから顔を出すのはずっとそこで見守っていた桃色ダイヤのポケモン、ディアンシー

 『(桃色、緑、光……らしいですわ)』

 『にゃう!』

 「桃色の場所に、緑の光って事かな?」

 『にゃおにゃ!』

 そうだそうだとばかりに振られる尻尾

 

 「桃色となると……ヒャッコクシティの日時計?そこに緑の光……

 そうか!あのジガルデ!」

 ラ・ヴィ団だ黒水晶のポケモンだである程度薄れていた当初の目的を思い出してアズマは叫んだ


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