「どうだった、スグリ君?」
公民館の一室。アズマはナンジャモから電波を借りて色々と確認しながら、ドアを遠慮がちにノックした少年を招いて問い掛けた
「あ、ドア開けてくれて有り難うな、ハラバリー」
寝る時は別々。だが作業するような大きな机のある部屋は一個だけ貸して貰えたのでナンジャモと一緒だ。なので扉の前でぶよぶよとしていた電気蛙が小さな手で扉を押してくれていたのに礼を言い、アズマはりんご飴を投げる
『モノ!』
その棒の先を咥えたモノズが、ひょいと蛙の口に向けて本体を差し出した
「じいちゃん、明日の朝会ってくれるって」
「そうか、有り難うね
これで少しは色々と話が進展しそうだ」
これで、お面職人すら何も知らなかったら……と、アズマは少し前の管理人兼村長の態度を思い出す
あのポケモン……仮面の鬼の為にと交渉しようとはしたものの、余所者は泥棒ですかの一点張りで仮面をポケモンに返すために渡してくれどころか、見せてくれという事すらとりつくしまも無く却下してきたあの態度。あれを崩すのは一筋縄ではいかないだろう
それに、緑色の仮面の今の持ち主も全く手掛かりがない。割と手詰まりだったのだ
「おれ、役に立ってる……?」
「勿論。誇って……ってほど、おれが偉くないか。でも間違いなく君は偉いよ」
それに、とアズマはホロキャスターを見た
「君は何か真っ当に人気だし?」
「わやじゃ?」
「ボクは無関係だからねアズマ氏!」
言われて苦笑しながら、アズマはホログラムの画面を叩いた
「アズマさん、何それ」
「あ、これ?ホロキャスターっていうカロスではメジャーな通信ツール」
「アズマ氏のことだから最新型でお高いんでしょう?」
合いの手を入れるナンジャモに軽く頷く
「去年モデルですね」
「わー意外。最新型かと」
「いや、一年ごとに買い換えてどうするんですか。幼馴染の登録とかは全部昔の機種から引き継ぎですけどこいつ容量2TBでメタグロスに踏まれても軽い傷で済むってオーバースペックモデルですよ?」
二人の目が点になった
「わやじゃ?にてら?」
「あ、馬鹿みたいな容量って思えば良いよ
そういえばスグリ君は持ってないの?」
「ロトムスマホ、ねーちゃんが反対することもあって持たせてくれなくて」
「お姉さんが居るんだ」
「ねーちゃん、横暴だから」
言われ、でも少し危ういからアングラなものに嵌まって大事になりそうって不安は分かるなとアズマは曖昧に笑う
「まあ、それは良いかな。スグリ君は、ネットの海でも結構大人気だよ」
「じゃ?」
「ほら、言ったろ?ナンジャモさんが動画上げるって。その反応とか見てたんだけど、そこに映る君は可愛いって評判なんだ」
と、アズマはとりあえずといったように画面を操作して幾つかの動画を開く
が、それを言われた少年は少し俯いてしまう
「……っと、姫は最初の動画から可愛い可愛い人気だから……」
更に言及しなかったからか机の下でローラースケートでくるくる回るディアンシーにまで足を叩かれ、アズマは顔をしかめて補足した
「可愛い……おれ、可愛いだけ……?」
「初期の印象だからね。ってか、おれなんて酷いよ?」
と、アズマは笑いながらさっき見た掲示板の己の顔がサムネイルになっているナンジャモ絡みの掲示板のスレッドを思い出していた
「平均的なん民
全盛期のなん民伝説を事実だと知らしめた男
ナン虐の化身
ドオーの擬人化
キタカミドオー
って感じで、散々に遊ばれてたよ。いやナンジャモさん、何でおれドオー扱いなんですかあれ」
ちなみにだが、ドオーとはヌオーの親戚とされる主にパルデア地方で確認されるポケモンだ。ぬぼーっとした何も考えてなさそうな大きな顔が一部で人気のサンショウウオのようなポケモンで、毒のある大きな棘を背中から出せるのがヌオーとの大きな差別化点
「あはは、ボクのジムにチャレンジする人の大半に対しては、このハラバリーを使うから
この子ってばちゃーんと対策したドオーに対しては何一つ打つ手がないんだよねー」
ぶにっとした電気蛙に抱き付きながら、ナンジャモは告げた
「んで、ドオー氏=このナンジャモを苦戦させて負かす相手の象徴!って事で、皆みょーに好きなんだよね、ドオー」
「いやドオーに完封されるってそれで良いんですか」
「ん?ボクってばジムリーダーだし?
そこそこ有名な話を聞いてハラバリーにぜーったい負けないようにドオーを捕まえてきて、残るボクのポケモンにも勝てるような状況を作れるって対策を取れるなら、6つ目くらいまでのバッジならもうあげちゃってオッケー!って判断かな?」
言われ、アズマはそういやそうだと頷いた
相手はジムリーダーだ。寧ろ勝つよりも本来はそういったチャレンジャーの資質と実力を見極めるのが仕事。負けて良いというか、ある程度合格の相手には負けてあげるべきなのだ
「あ、勿論ハラバリー対策だけしたからって勝てるほどボクは甘くないけど
アズマ氏にスグリ氏、パルデアに来たら是非宜しくねー!」
あ、と差し出された萌え袖に目線が行くスグリを、アズマは少しだけほっこりと眺めていた
そして翌朝、アズマの前には公民館に尋ねてきたお面職人が居た
ナンジャモは……早起きだ。アズマが起きた時には既に機材を見ていて、ショートスリーパーだからと笑っていた
「お面職人の方ですよね?」
「孫を見てくださっているようで。しかし何の用ですかな?」
言われ、少しの緊張を頭を机の下ですりすりしてくるモノズでほぐしつつ、アズマは老人の目を見て告げた
「鬼の伝承について、何か知りませんか?」
「知らんの。知っておるのはあの看板の話のみ」
が、その瞬間、目が泳いだのをアズマは見逃さなかった
「……仮面を付けてきて」
と、ボールを撫でるアズマ。これでちゃんと伝わるかは未知数だが、賢くて言葉すら時折話すこの子ならと信じてアズマは天井に当たらない程度に加減してボールを投げた
『ぽになの!』
果たして、ボールから飛び出してくるのは、インパクト重視か大きめに再現したお面を被ったあの星の瞳の緑鬼
勿論本物ではなく、ゾロアのイリュージョンだ。割と何でも出来てアズマ自身アークの手の広さには驚いている
「その仮面、オーガポンさま!?
驚愕の表情で固まるお面職人に、アズマはやっぱり知ってましたねと強い視線を向けた
「出会ったことがあるだけです。こいつ自身はゾロアのイリュージョンてすよ」
『騙されたなのー!』
ぽん!とすぐに姿を戻すゾロア。物欲しげにアズマの指先を舐める姿に朝御飯あるからこれだけだよ、と金平糖を3粒ほど指先に乗せれば、指ごとしゃぶられる
そんな黒い小狐の頭を撫でつつ、アズマは改めて墓穴を掘った老人を見据えた
「オーガポンさま。言質は取りました。おれも父も、伝承の鬼の名前を知らなかった。いえこの村の殆どの人が知らないでしょう
それを知っているということは、あなたはおれ達の知らないことを伝承している。違いますか?」
「……違う」
「違いません。そもそもスグリ君からして可笑しかった……のはまあ、伝承の強い鬼への憧れで済みますが、あの子を『オーガポンさま』と呼ぶのは知らない人の憧れでは済みません
教えてくれませんか、そのオーガポン自身のためにも」
「分かり申した
姿を真似られるということは、オーガポンさまに出会ったという事……まだ、この辺りに居られたのですな」
「りんご飴を喜んでたり、祭りを気にしてましたよ」
「そうですか……では、話さない訳にもいきますまい」
老人は閉めた公民館の部屋の扉を見る
「しかし、今から話すことはこの村にとってあまり良い話ではありません。他言無用で」
『ロア!』
肩に乗ったゾロアに吠えられ、アズマは老人の声を遮った
「待ってくれませんか。スグリ君にも」
「あの子には
「あの子は特別であること、強くある事に対して結構な思い入れを持っています。まだ早いって遠ざけていたら、何処かで溜め込みすぎて爆発してしまいかねません」
「うんうん、ボクから見ても、遠ざければ遠ざけたで危ないタイプ。自分が知らされなかったからって、知れるだけ強くなんなきゃって暴走させるくらいなら、最初から教えるのも手かな?
触れさせなきゃ怖さも分からないし成長しないよ?ボクむかーしのネット黒歴史とか探せば転がってるけど、だからなん民の皆の者が着いてきてくれる今のボクがあるし」
「なので、どうせもう関わりを持ってしまったんです。伝えてやってください」
アズマはナンジャモの横で深々と頭を下げた
このままではスグリの切り札がカミッチュじゃなくなってしまうっチュ……
メガヤンマがエース降格とか由々しき事態ヤンマ……これじゃ勝てないヤンマ……
このままではスグリの切り札がオオタチ翔平、通称オオタチサンになってしまう……
スグリ君に求める未来は
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クロスグリ君
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待っててなおれだけの鬼さま……
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ナンジャモ…エレキン越えっから…
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鬼さま鬼さま鬼さま鬼さま鬼さま
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覚醒