「大丈夫か?」
少し落ち着き、アズマは近くで今も震えているポケモン……ディアンシーに声をかけた
『っ!メレー』
「……普通に話してくれないか?」
『(けど、怖いんですの)』
「……そんなにか?」
少なくとも、少しは信頼してくれないのか、とアズマは思った。だが、意に反し、コクコクとディアンシーは頷く
『モノッ!』
肯定するように、モノズも鳴く
更には、当たり前だろう?とばかりにヒトツキまでもがくるくると回った
「……そうだったのか……」
アズマは、肩を落とす
『(一度襲われていなければ、あの方達の元に逃げ込もうと思う程でしたわ)』
「そんなにかよ!」
『(普通のポケモンならば、勇敢にも挑むか、それとも逃げ出すかしますわ)』
「酷くないか……」
『(捕まったらいっかんの終わりとしか思えませんわ)』
「……そりゃ、ヤヤコマが捕まらない訳だ……」
はぁ、とアズマは息を吐く
この話を聞く限り、まともにポケモンを捕獲するのは無理そうだ。ポケモン図鑑を手に入れて完成させる……というのにも憧れた事はあるが、捕まらなければ恐らくどうしようもない
全種にマスターボールでも投げれれば兎も角、そこまで捕まりたくないと思われてしまえば、どれだけのボールを投げようともポケモンは普通のボールからは出ていってしまうだろう
『(そんなに落ち込まれると……)』
「いや、大丈夫だ」
『モノッ!』
励ますように、モノズが鳴いた
10分後、モノズを通してディアンシーにポロックを渡し、アズマ達は歩き出した
目指すは、ハクダンの森を抜けた先、ハクダンシティ。そしてそこにある、ハクダンシティジムだ
考えてみれば、ジムバッジが多いというのはそれはそれで有利になる。一部の場所はその危険性故に封鎖されていたりするのだが、多くのジムバッジを持った優秀なトレーナーであれば、その実力を認めて通してくれたりもするのだから、あの謎のポケモンについて追うにしても、バッジを集める事に意味は十分あるのだ。父だって、調査で各所を飛び回る際に、実力の証明として6つ程のバッジを得ていたはずだ
……それに何より、アズマ自身が挑戦してみたいのだ。ポケモンジム、そしてその先に待つポケモンリーグに
『(何で、そんなオーラを持っているんですの?)』
後ろを付いてきたディアンシーが、そうテレパシーする
……結局、ディアンシーの捕獲はしないと決めた。捕獲した方があのジャケット達相手には安全ではあるかもしれないが、本ポケモンがアズマに対して怯えるのに、無理にという気は起きなかったのだ
「分からない。ただ、昔はそんな事無かったはずなんだけどな」
『(いつ、怯えられるようになったんですの?)』
「死にかけてから。こいつと……」
とん、と出したままのヒトツキに触れる
「ギルと出会ったあの日から」
『(死にかけ……その日に、何があったんですの……)』
その問いに、僅かにアズマは考えを巡らせる
そう、確かあの日は……
「家の地下にあるオブジェの欠片を、飲みこんだ……気がする」
ふと思い出したのは、ずっと忘れていたそんな事。万病に効くと言われつつも、痛みを伴うからと服用禁止されていたはずの、……父が代々護ってきたと言っていたオブジェの事
覚えていたのは、熱でぼんやりする頭で、地下室に現れたヒトツキに誘われ……
そして、生命力を吸いとられた事くらいだ。そうして、アズマは何日か生死の境をさ迷った
だがしかし、ヒトツキは病の活力も同時に吸いとっていたようで、熱が引くと今までが嘘のように、アズマの体は健康的になったのだ
その印象があまりにも強くて、ずっと忘れていた
思い出したのは何故だろう。あのオブジェが桃色の水晶が使われていて、ディアンシーのダイヤに似た色だったから……だろうか
そう、恐らくあの時から、アズマは怯えられるようになったのだ。長らく接してきたトリミアンや執事のポケモン達は今更態度を変えることは無く、結果として10歳まで気付くことはなかったのだろうが、理由がもしもあるとすればそれ
『(オブジェ、ですの?)』
「そう。自分は3000年前の王族の子孫だって強く自負してた父さんが、このオブジェの守護こそが、このナンテン家の使命だって言っていたオブジェ
どんな病も治るけれどもとても痛い、そんな漢方の凄い版みたいなものだって」
『(……そんなものがあるんですの)』
「家に伝わるお伽噺が本当かどうかは、知らないけどさ
……見に行きたいか?」
『(恐らく、ゼルネアスとは関係ありませんもの。別に良いですわ)』
「じゃあ、ゼルネアスを何で探しているんだ?」
ディアンシーは黙りこくる。その歩みも止まる
合わせるように、一度アズマも立ち止まった
『(メレシー達多くのポケモンは地下に一つの国を作ってるんですの。それが)』
「ダイヤモンド王国」
そう、アズマも思い出していた。幻のディアンシーを題材とした絵本、ダイヤモンドのお姫さまの事を
『(王国ではあまりません、鉱国ですわ。ですが、一年前……未曾有の事故が起こって、鉱国を支える聖なるダイヤが砕けてしまったのですの)』
……未曾有の事故
アズマも、それを知っている。あのセレナさんによって防がれたとされる、フレア団の最大の悪業
……最終兵器の起動未遂
未遂とはいえ、放たれかかった最終兵器のエネルギーは多くの傷跡をカロスに残した
大切なダイヤモンドが砕けるくらい、十分有り得ることだろう
『(聖なるダイヤを作れるのは、ゼルネアスのフェアリーオーラを受けた王族だけですの
聖なるダイヤが壊れたままでは、鉱国はダイヤのエネルギーを失って衰退してしまいますわ)』
「だから、ゼルネアスを探すのか……」
そう、絵本ではお姫さまが一人前になるにはゼルネアスのフェアリーオーラを受けて特別なダイヤを作れるようになる必要があるとかいう理由になっていたが、ディアンシーの言葉は絵本と似たような感じだった
「暫く、一緒に来るか?」
暫くして、アズマはそう問う
アズマが追う謎のポケモン。もしかしたら、というのは一つあるのだ。それはアーボック等に近い姿とされ、あのヘルガーみたいな姿とは似ていないけれども、あのカルムさんも言っていたしひょっとしたら、というもの
カロス伝説で僅かに語られる……Z、ジガルデ
他に手掛かりは無いのだから、賭けてみても良いかもしれない可能性
ならば、それを追う中で、きっと伝説にある他のポケモン……即ち、ゼルネアスとイベルタルに関しても調べることになるだろうから
『(……怖い、ですけど信頼は出来そうですわね)』
ぴょん、と少し急ぎ、ディアンシーがアズマの前に出てくる
『(……ゼルネアスを見つける旅の間、わたくしのナイトになりませんこと?)』
小さな手を一杯に伸ばし、ディアンシーはそう言った
ヒトツキが、アズマの手に布を絡め、自身を握らせる
……その意図は、アズマにとってはとても分かりやすい事
「ええ、姫。喜んで」
ならば乗ろう
芝居がかった動きで、まるでお伽噺で騎士が姫に対してするように、剣がわりにヒトツキを捧げ持ち、ひざまずいてアズマは答えた