『ぽっににー』
『レッレッカー!』
「お、おれだっ!げほっ!?寒っ!?」
頭の上で歌うオーガポン、礼賛……ではなく唱和する空飛ぶイベルタル。そして歌おうとして、吸い込んだ空の空気の冷たさにむせるスグリ。空の旅は中々のカオスの様相を呈していた
「はいスグリ君、喉は暖めて」
アズマが渡すのはモーモーミルクの缶。じっくり弱火で膝の上で生きたカイロになってくれているゾロアに暖めて貰ったものだ。……結局火炎放射なのでほんの少し缶が変形したが気にしない
「ご、ごめんだべアズマさん」
後ろに乗る少年が頭を下げた
ちなみにだが、ナンジャモは居ない。横でイベルタルが速度を落としているから平行して飛べているサザンドラに跨がって手を振っている
「オーガポン、楽しい?」
『ぽに!』
案外アズマ以外に馴れないイベルタルだが、オーガポンは別らしい。紅の鳥が軽く首を回してアズマを見れば、頭の上で鬼が手をぶんぶんした
と、その時
『イガレッカ!』
突如として、イベルタルが空中で宙返りする。しがみつけずにオーガポン、そしてスグリが振り落とされ……
「ベル、どうした!?」
違和感を覚えながらギリギリ首元の灰色の毛に掴まれたアズマも、背を蹴って宙を舞った
『オーガポン、スグリ君!』
右手で唖然とした鬼を掴んで胸元に抱え、握った左手のボールで一緒に落ちていくゾロアをボール内に回収。そのまま更に空けた右手でスグリの手を掴んで……その瞬間、轟音と閃光が轟いた
「っ!?」
降り注ぐ、巨大な雷撃。自然のものとは思えぬ稲妻が天からアズマ達を明確に狙うように迸る
『グレッカ!ガッッレェッ!』
その稲妻への傘となるように、限界まで翼を拡げきったイベルタルが空へ舞う。その背に、雷撃は直撃の軌道を描いて炸裂した
「っ!ベル!」
思わずボールを翳すが、ボールへと戻す光はイベルタルにはね除けられる。ということはだ、本当に意図して、イベルタルは雷への傘となったのだ。自分自身飛行タイプ、雷は苦手だと、分かっていたろうに
『イガッ!レェッ!』
鳴き声は幾らでも聞いてきた。だがその大半は……メガライボルトすらも圧倒する力を振るう際のもの。苦悶と呼べそうな苦しげな鳴き声など、アズマは初めて聞いた
「……っ!」
地面タイプなり何なり、雷を逸らせそうなポケモンが居れば手伝ってやりたい。が、アズマの手持ちにそんな都合の良いポケモンは居ない
「出でよ、閃き豆電球!キミの出番だ!」
が、今はアズマ一人ではない。落ちていくアズマ等を見て事情を把握したのだろうナンジャモが、己の手持ちのモンスターボールと、オーブを掲げた
ボールから飛び出してくるのは、一羽のすらりとした流線型のフォルムの鳥ポケモン。頭に豆電球のようなクリスタルを生やしたタイカイデンだ
雷混じりの嵐に向けて寧ろ電力に変えるために突っ込んでいくと言われる電気に強い鳥は、更に雷適性を上げるテラスタルと共にイベルタルへと突っ込む!そして、共に雷を受けて威力を分散させ……
『カ、キュ』
『ガルレッカ……』
雷撃が消え去ると共に結晶が砕けて墜落するタイカイデン、ぐらりと体勢を大きく崩すイベルタル
「タイカイデン、大丈夫!?」
「ベル!」
落ち行くアズマの叫びに気が付いたのか、イベルタルの姿が空から掻き消えた。そして一瞬後、空から居なくなった筈なのに荒れ地にはくっきりと残っていた巨鳥の影から紅の身体が飛び出してくる
便利使いされている『ゴーストダイブ』だ。影に潜って急激に高度を下げきることで、アズマやスグリを追い抜いたのだ
『イ、イガレッカ!』
が、雷撃の苦しみは消えてないだろう。アズマ、そしてスグリをその案外柔らかな背で拾い上げながら、苦しげにイベルタルは鳴く。そして首横を落ちていく鳥ポケモンの影を眼で追い、足の鉤爪に引っ掻けた
「おおー、お手柄だよイベルタル氏!」
萌え袖ではボールからの光の狙いを決めきれなかったのだろう。イベルタルがタイカイデンを掴んでくれたのを機に一撃耐えるという偉業を追えた鳥ポケモンを戻してやりつつ、ナンジャモが告げた
「な、何だったんだべ……?」
『がお……』
完全に怯えてアズマの腕の中に収まってイベルタルの首元の灰の毛にくるまり完全防御を始めるオーガポン
イベルタルに残る少しの焦げ傷に、落ちる寸前にディアンシーが中から閉めてくれていたバッグから出したスプレー状の薬を吹き付けながら、アズマは天を、そしてもしかしたらと鬼が山の山頂を見据える
が、何も見えない。イベルタルが揺らぐとか尋常な火力じゃない。ナンジャモのハラバリーが痛みを電気に変えてテラスタルし雷を撃ったところで微動だにしないだろうに。ラ・ヴィ団がメガウェーブで暴走させたメガライボルトの一撃すら、あれは越えていたろう
「分からない。ゼクロム……うん、無い」
Nの気配も無いし、何よりあの黒竜ならあの一撃を放てそうだがやる訳無い
「ボルトロス、或いはサンダーが居るなら空にもっと黒々とした雨雲が見える筈。ライコウやレジエレキなんかなら、山に特別な稲光が閃いていた筈」
が、どちらもない。少し山頂が紫に輝いていたがあれはてらす池だろう。ライコウが居たような痕跡ではない
「まあ、速い癖に場所を移動したがらないレジエレキなんて居たら遺跡があるからすぐ分かるし、山を軽く見て回った限りライコウの足跡も無かった」
となると、とアズマは首を傾げる
「あんなの、伝説のポケモンだと思うけれど……何者だろう」
その時、脳裏に閃くのは一つの仮説。だがそれをアズマは振り切った
「コードさんのミライドンじゃあるまいし」
ミライドンは確かに強いだろう。が、傷付いたあのポケモンがあれだけの雷を撃つのか?そもそも理由無くないか?開けて貰う時間すら惜しいとばかりにかごを引き裂いてでも貰った瞬間にサンドイッチを一心不乱に貪り食う鋼竜がその下手人であるとは思えないのだ
そうして、辿り着くのは祭の主な会場であるキタカミセンター。が、お祭りを楽しみにしていたはずのオーガポンはというと、着くなりお面を被ってナンジャモと手を繋いでしまった
「おれじゃ、駄目なの……?」
「スグリ君、おれでも駄目っぽいし、多分落ちなかったナンジャモさんが良いんだ」
『が、がお……』
周囲をキョロキョロ。完全にまた雷が降ってくることを恐れているようで、可哀想になる
と、とりあえずとばかりに二人と一匹にもりんご飴を買って、アズマは薄暗くなり始めた夕方の空を見上げた
「ああ、君達か」
と、そんなアズマに話しかけてくる、青い猿の仮面
その声に聞き覚えがあった
「あ、トリオさんですか」
「お面をした方が良い。その良く分からない子のように」
と、オーガポンをポケモンだとまでは思わないのか、或いは祭は無礼講だと意図的に無視してくれているのか。鬼と追わない青年に有り難う御座いますと内心で礼を言って、アズマはキタカミセンターの敷地に対して店舗が少なすぎて少しまばらにも見える屋台を見渡す
……他の縁日では定番のお面屋の屋台は、全員お面をしてるのが普通なオモテ祭には無かった
「お面をしたくても、売って、ない」
「お、おれは……持ってる」
と、オーガポンとお揃いの仮面を着けてスグリ。何処と無く誇らしげで、アズマは良かったねと柔らかく笑うしか無かった
「……あ。イッシュの祭を基準にして言ってしまった……」
頭を抱えるマシマシラ仮面
「ま、まあ。スグリ君のお祖父さんに仮面お願いしてますし、明日からはちゃんと被りますよ」
と、アズマはぱたぱた手を振った
カロス地方でも一週間くらい続くリーグ戦なり、ヒャッコクシティでの大きな祭なり、エイセツ雪まつりなり何日もに渡るものはある
ガラルなら年一で全員一斉に挑戦を始めるシステムのリーグは言うに及ばず、今のフリーズ村の祭もかなりの期間やる筈だ。流石に週に一本くらいしか電車が来ないとかそんなオチは無くなったが、何日もやらないとフリーズ村の祭に来れる人少なすぎるということで規模拡大したらしい。繁盛していて喜ばしい事だ
が、それと同じでオモテ祭も何日も続くのだ。規模は大きくないが、期間は大きい一大祭だ
「なら良いのですが……」
ちらっと、仮面のプラズマ団はお面の下からアズマを見た
「ん?どうしましたトリオさん?
後、コードさんを知りませんか?」
「いえ、彼は良く知りませんが……
折角我等プラズマ団が今年は用意した鬼退治フェス、やっては行きませんか?」
『が、がおー』
やはり、鬼退治という言葉は嫌いなのだろう、オーガポンが怯えながら威嚇する
「おっと、何事?まあ、気が向けば」
そう言って、プラズマ団はセンターの上の方、鬼退治フェス受付へと歩いていった
「じゃアズマ氏、ボクやってこようかな、フェス」
アズマ氏はライドポケモン出せないでしょ?と横のナンジャモが手を挙げる
『ぽぽに!?』
びくっと緑の小さな影が震えて
「うん、何よりボクが得点王になって村人は鬼退治が出来ないことを証明するのだー
どやっ!ウケると思わない?」
『ぽに!』
ほっとしたように軽く跳び跳ねた
雪村 オウカ(伝説のポケモン系V)『何だか……ヨがフリーズ村の祭りのために準備している間に自称犬が呼ばれているであるな……行けるなら今頃出てきてるのである……』
おうさまのおうまは
-
冷たいニンジンぱっくぱく
-
黒いニンジンむっしゃむしゃ
-
ダイ木の実を鍋でコットコト