「……度し難い。ですが」
ひょい、と再度黒いボールが投げられる
「ランドロスさん、こいつは」
が、アズマを地面に下ろした豊穣の王は、気にするなとばかりに馬上で腕を振るい、そのボールを弾き飛ばした
カチリという起動音と共にやはりというかランドロスの姿はボールへと呑み込まれ……
『ブルホォォス!』
『どろるるるぁっ!』
編み込まれたタヅナのキズナは引き裂けない!
ブリザポスの口元へと回るタヅナが光を放ったかと思うと、半ば赤い光によってボールへと吸い込まれていた筈のランドロスの姿は馬上へと戻っていた
「え……え?」
『ぽに?』
そうか、とアズマは頷く。複数のポケモンが合体する……異例の事かと言われるとそうでもない。進化するとコイルが増えるレアコイル達等、複数で一体のポケモンとなる例は存在する
が、だ。此処まで互いに自我を持ち、かつ任意で人馬一体を解除して元に戻れるなど通常のポケモンには例がない。父の資料によれば元々イッシュ伝説にあるゼクロムとレシラムは一匹のドラゴンから分かたれたとされるから似たような事は起きるかもしれないが……
だから、一体だが1匹ではない。その特殊性が、それを実現するタヅナが、1匹のポケモンを必ず捕えるボールの力を無効化した
そう、つまり!
「今のランドロスさん達を、捕まえる事は出来ない!」
『どるるるらぁっ!』
アズマの横で、大きな嘶きと共に王はその腕を組んだ
「しかしならば、その合体を維持しきれぬほどに弱らせてしまえば良いだけの事
ミライドン!」
『ギャァス!』
機械竜が吠え、エンジンのような意匠を持つ後ろ足からエネルギーを放出し始める
「皆は下がって!ランドロスさん!」
周囲の人々を逃がそうとして、アズマは漸く、異変に気がついた
そう、最初から……何だか可笑しかったのだ。ともっこが復活したことではない。それも可笑しいが、まだ納得や理解のしようがある
その伝承のともっこさまが来たら、祭りも盛り上がるだろう
だが、だ。ほんの少しの間とはいえイベルタルが現れ、これだけ戦って……人々が全く逃げ惑わないのは流石に変だ
『……がお』
抱えられていたオーガポンが、何かに気が付いたように空を見る。どてらから、ぽろっとアズマがあげた出店のお面が転げ落ちた
「さぁ、やるのです!イナズマドライブ」
仮面を浮かせているプラズマ団の男、控える3匹、稲妻を迸らせて浮き上がるミライドン。困惑気味で、けれども従うスグリ。そして……
『……がお゛っ!』
オーガポンが、身を捩って吠えた
空に、何かが浮いている。まるで円形の黒い仮面を被った大きなモモンの実のようで、けれども桃というにはあまりにも毒々しい色
『モ モ ワ ロ ウ!』
「キビキビー!」
「ランドロスさん!ブリザポス!」
咄嗟に、アズマは白馬の背に飛び乗る。意図を理解してくれたのか、足元から氷の柱を産んで白馬が宙へと身を踊らせた
その直後、ついさっきまでアズマが居た場所へ向けて、数人の村人が殺到し、氷に頭をぶつけて頭にオシャレに付けていた仮面を落としていた
「んなっ!これは」
『モモモ……』
思わず、アズマは空の桃を見る。その瞬間桃型の殻が開き、中から種のようなポケモンが顔を見せたかと思うと、殻から何かが打ち込まれた
「っがっ!?」
『ホォス!』
『どるらぁっ!』
ブリザポスが一緒に氷の足場に乗せていた仮面を前足で跳ね上げ、ランドロスが顔に被る
顔を覆うブリザポスの氷、ランドロスとオーガポンが被るお面が謎の紫の物体を弾くが……防護の無いアズマの口にだけ、それは入り込んだ。
甘ったるい香り。まるでモモンのよう
それは軽く舌に触れただけでもう咀嚼して呑み込まなければいけないような気持ちになる、柔らかな舌触りの餅だった
『ぽに!?』
「っ!でも、な!」
アズマの心臓、ドクン!と鼓動するそこがほの昏いオーラを放つ。幼き日のアズマが呑み込み、今もオーラの原因となっているイベルタルの羽根が、餅の毒素を破壊する
ぺっ!とアズマは呑み込むことを強要されそうだった餅を氷上へと吐き捨てた
『モゲゲッ!?』
驚いたように、ポケモンは殻に籠もって背を向け、ふよふよと逃亡を謀る
『がお゛っ!』
オーガポンがランドロスの腕の中で吠え、追おうとするが……空は飛べない
「先は!」
『どるぅ』
意図を組み、豊穣王は馬上で唸ると手を掲げた。その拳に、氷が纏われていく。フリーズ演舞、今では定期的にカンムリ神殿で行われ、良い見世物になっている舞踏で使われる、一世一代の大技。そう、その名を
「『ブリザードランス』!」
稲妻を纏って空を突進してくる機械竜へと一閃のランスチャージ。氷の槍がすれ違いざまに、機械竜を凍て付かせた
『グア、ギャ……』
ミライドンは強力なポケモンだ。恐らくは鋼/ドラゴンタイプで体内のエンジンからのエネルギーで相応に電気タイプも扱える、ブリジュラスのようなポケモンだろう。ならば効果抜群とはいかないが……だからといって伝説のポケモンと呼ぶべき域に足を踏み入れているかどうかのポケモンが耐えられる程に豊穣の王の切札は弱くはない
竜の表面は完全に凍て付き、落ちないようにかブリザポスが氷注を産み出して支えている
ならば後はあの謎のポケモンと、スグリ、そしてプラズマ団の……
「何を無様な。何をしているのです、ミライドン」
カン、と。杖が打ち鳴らされた。
『ミラクルルルルゥゥギャァァォッ!』
戒めの氷の中を打ち砕くべく、未来の機関が躍動する!
凍てついたミライドンが、凍ったまま吠える。体内のハドロンエンジンが杖に仕込まれたテラス結晶の力で臨界駆動し、あるかもしれない未来に満ちる稲妻の世界を上書きする
「っ!?エレキフィールド!?いや、それを超えて……」
バキン、と。迸るエネルギーに耐えきれずに氷が砕け散る
「それに、これは」
『どるるるぅ』
警戒するようにランドロスが唸る前で、アンテナのような鋼の角の間に溢れる稲妻が、揺らめく電角を形作った
そうして、稲妻に満ちる世界に、氷の楔を引きちぎった機械竜が悠然とその身を揺らして浮遊する
アズマは唇を噛んだ
「ミライドンじゃ、ない」
いや、違う。ミライドンという名で呼ばれているのだから、この個体はミライドンだ。だが、アズマの脳裏には、『実在するかもしれない』と父の資料に書かれたとある空想のポケモンの名が浮かんでいた
紫と黄色の稲妻の角、同じ色のエネルギーで膨らんだ喉や長い尾を持ち、まるでレックウザのように空を舞う紫の機械竜
有り得ないが実在するかもしれないパラドックスを秘めたそのポケモンの名は
「テツノオロチ!」
『ギャァァス!』
有り得ない伝説とされたポケモンの名を叫ぶアズマの前で、実在を証明したテツノオロチが、頭にナンジャモが見せたのと同じ電球の結晶を高く掲げて咆哮した
『……がお』
アズマの背で、迸る力に気圧されたのかディアンシーがバッグの底に身を鎮めるのを感じる
「ランドロスさん!ねっさのあらしを!」
『どるぅほぉぉす!』
が、流石は神馬一体の豊穣王、臆することなくアズマの指示を受けつけ、熱い砂塵を含む砂漠の風を思わせる突風を吹かせる。鋼/ドラゴンはアズマの勘違いだったが、電気タイプなのは見せつけられた。ならば対抗しようはある!
だが、再度杖が鳴る
『ミラギャァス』
その瞬間、ミライドンの頭の結晶が杖に取り付けられた翠の仮面と共鳴するかのように光り輝き……
ガギン!という音と共に、ミライドン周囲に貼られたバリアに砂塵嵐は全て防がれた
「っ!?あの謎のバリア……まさか、不思議な守り!?でも!」
アズマは同じ現象をTVで見たことがあった。時折出てくるトレーナーが扱うポケモン……ヌケニンが非常に体力がないが効果でない技を全て
が、そう思うアズマの前で砂嵐を貫いて飛び込んでくるミライドンの頭には、花のような結晶が燦然と煌めいていた
「っ!お面の力でテラスタイプを変えた!?」
ぎりっ、とアズマは奥歯を噛み締める。ならば、だ。4つのお面に合わせて……ミライドン本来の電気タイプと合わせて5タイプ。それだけのタイプに、あの杖の思うがままにミライドンはタイプを変えられることになる。そして、更には同じく杖の力か、効果抜群以外を受け付けない不思議な守りすら展開されている。5つのタイプ……電気、水、炎、岩、そして草に同時に効果抜群の技タイプなんて無い
いや、アズマの脳裏にはテラスタルの化身?と題された父の資料、そこに描かれていた謎の円盤を背負う蜘蛛として想像されたポケモンから放たれるテラスタイプそのものとされるステラエネルギーなる仮想タイプの技が浮かんでいる。が、そんなパラドックスとされるポケモンが実在するなら実在するかもしれないと仮定されていただけの謎のタイプの技なんて使いようがない。そもそも、仮称テラクラスターなその技しかそのタイプの技は無いだろう、と推測されていたし、撃つ手段はないだろう
つまり、今のアズマ達に、ミライドンの守りを打ち破る手段はない。あるとすれば、プラズマ団の男の杖を何とかする強引な手段だが、とアズマは地上を見下ろした
恐らくは洗脳を受けたのだろう、キタカミの里の人々がちょっと妙にキビキビした動き?で此方を見つつ、男を守るように陣を組んでいる。そして……
何匹かの鳥ポケモンがボールから放たれた。襲う気なのだろう。男の横で、逃げたはずのモモのポケモンが勝ち誇るように浮かんでいた
『ぼがお゛っ!』
『モゲゲ、モモモー!』
完全に煽っている。飛び降りようとするオーガポンをランドロスと共に抑えながら、アズマはそのポケモンを睨みつけた
その瞬間、下から赤い光が放たれる
「ギル!『まもる』!」
男に捕獲されたガチグマが放つ強烈な光の一撃だ。咄嗟にアズマは相棒のニダンギルに守らせるが……防ぎきれるような力では無かったのだろう、『まもる』の緑色のエネルギーはみるみるうちにヒビ割れて……
『(これですわ!)』
バッグから顔を出したディアンシーが桃色のダイヤを投げる。オーラを纏うそれは、ニダンギルに当たるとオーラのヒビを埋め、光を受け切らせた
「アズマ氏アズマ氏、大変な」
「っ!そうだナンジャモさん!明るい奴を!」
「りょりょ!貴方の目玉に……エレキネット!じゃなく『フラッシュ』!」
何とか片付いたのだろう、サザンドラが近づいてきた瞬間、アズマは叫んでいた
「ランドロスさん!勝つために、今は」
『どるるるらぁっ!』