光源の近くまで辿り着く
何時間歩いただろうか、暗闇で感覚がない
途中、真性の暗闇故に壁らしきものにぶつかって気を手放してしまった事もあり、正確な時間はもう分からない
空腹等での把握も、何よりも息苦しさで誤魔化されてしまって良く分からない。けれども、流石に栄養失調等で倒れる程の時間は歩いていない……はずだ。息苦しさに負けて空気のせいか不味い水以外のものを口にしていないのに、耐えられなくはないから
途中、ポケモンらしきものにもぶつかった。だが、しかし……見えなかったから無視せざるを得なかった。直ぐに逃げていったし
そうして今、アズマは光源である巨大なタワーの近くに立っていた
「……メガロポリス」
思わずそう口にしたくなるような、場所であった
巨大なタワーを中心とした大都市。それが、この世界であった。歩く感覚は何も変わらずに来た。そしてそれは光の中で見ると、固められた道路であった。つまり、時たま家にぶつかりながらずっと道路を歩いてきた事になる
道行く人……らしきものは良くわからない。問答無用で襲われることは無く、寧ろ何か話しかけてきてくれた者も居たのだが、言葉が通じない
そして何より、その顔は人間のものではない。機械人と言われたら信じてしまうだろう
「アローラ」
唐突にそんな声が響いた
「……アローラ」
暫く考え、アズマは思い出す。そういえば、カロスから離れてはいるけれどもそんな挨拶をする地方があったなと
「ここは、アローラ地方なのか?」
「此処は、ウルトラメガロポリス。光を奪われた世界だ」
「光を、奪われた……
では、あのタワーは」
「最後の光」
『マヒナペーア!』
そんな咆哮と共に、タワー頂上から巨大な……敢えて言うならば巨大なズバットが飛び去って行くのが見えた
「ルナアーラ様……」
「ルナアーラ」
ルナアーラ。アズマも一応聞いたことはある。父の資料にあったアローラ地方の伝説に一応出てくるポケモン。父が、アローラはカプ神信仰が強すぎて太陽と月の獣についての伝承が無さすぎる、このままでは学会で発表するものが無い……遠いが現地に飛ぶしかないか……と頭を抱えていたのを覚えている。つまり、ほぼ何も知らない
「あなたは?」
意を決して、アズマは問い掛けた
「アナタは」
「おれは、アズマ。アズマ・ナンテン。カロス地方のポケモントレーナーです
気が付いたら、この世界に迷いこんでいて」
「何か、声は?」
「……シカリ、と」
パン、とその謎の存在は手を叩く
「アナタは、かがやきさまに呼ばれた……」
「かがやきさま?というか、そもそも此方の質問には答えて貰えないのですか」
カシャリ、と音がする
機械人のような顔が取れ、その下から肌色こそ青くて別物だが、造形自体は人間に近い顔が現れる
「……マスク、だったのか」
「光の無いこのメガロポリスで生きていく為に、必要だった」
言って、その青肌人間は咳き込む。アズマのように
どうやら、空気が毒なのは原住民も変わらないらしい
「ワタシは、ある人から光溢れる世界の話を聞いた
彼は、ナンとかと言っていた」
「……それで?」
「ワタシは、彼から光溢れる世界語を学んだ。他の皆は、覚えていない」
……悪い人達では、なかったようだ
単純に、言語が違っただけ
「ワタシたちは、待っていた
かがやきさまを取り戻してくれる者が、光溢れる世界から現れるのを
さあ、メガロポリスに光を取り戻してくれ!かがやきさまに選ばれた、トレーナーよ!」
「分かるかぁっ!」
思わず、アズマは叫んでいた
アズマには、選ばれた記憶など無い。苦しげな鳴き声を聞いた気がした次にはっと気がついた時には、この世界に立っていただけ
「……いや、ひょっとしてこれか?」
ふと気が付き取り出したのは桃色の水晶。ヒャッコクの日時計の一部だという、そう言えば売ってたなーなお土産。一般的に市販されているものよりは随分と大きい欠片ではあるが、差と言えばその程度
「……わからない」
「はあ、分からないのは此方だ。これじゃあ何ともしようがない」
一年前のあの日、最終兵器の起動に合わせて日時計は輝いていたと、アズマは聞いたことがある。ならばかがやきさまという良く分からない存在がそれを求めたのも……分かる気はする
「まあ、やるだけやってみる。それで、何処に行けば」
男は、静かにタワーの上を指し示した