「兄ちゃん?」
「ショウブ、あの道の先に謎のジャケットを羽織った男が見えるな?」
「見えるけど、それがどうしたんだぜダッセー兄ちゃん」
「悪い奴等の一員だ」
その言葉に、少年が固まった
「ホントかよ、ダッセー兄ちゃん」
「ああ、本当だ
おれと同行しているポケモン……見ただろ?」
と、アズマは足元をピョンピョンと飛んで付いてくる桃色のダイヤを抱くポケモンを目で指す
「珍しいポケモンだよな。ダッセー兄ちゃんなのにすげーなと思った」
「あのジャケットを羽織った奴等に襲われてるところを通りがかって、成り行きで同行することになった」
「……なるほどな。それで、オレサマには何をして欲しいんだ?」
「……共に戦って欲しい」
「良いぜ、未来のチャンピオン様が、一緒に悪の組織をぶっ飛ばしてやる」
少年が、一つのボールを握り込む
見覚えがある、ちょっと赤い面に傷の入ったモンスターボール。確かあれは……ゲコガシラのものだっただろうか
「……姫」
自由意思に任せる、けれども必要ならばと、アズマは腰のポーチから、一つのボールを取り出して起動する。ヒールボール、内部に薬品……というか香水を嵌め込み、捕らえたポケモンを癒す、が特徴のボールだが、性能は低い。そろそろ認めてくれたかとボールを投げた際、ギリギリまで入って傷を癒し飛び出すなり逃げていくポケモンだって居たりと割とデメリットも大きいからか、トレーナーにはあまり人気はない。ボール毎にポケモンを出す際の電磁波の描くエフェクトは異なり、シンプルな基礎ボールシリーズとは違って見映えのする可愛らしいものになっているからトリマーやコンテスト出場者等からは人気なのだが。甲乙付けがたい二人から勝者を決める時、最後にものを言ったのはボールの種類だった大会もあったとか
『(……嫌ですわ)』
「そうか
なら、姫。悪いけれども、暫くバッグに隠れてくれるか?
誤魔化せるなら、その方が良い」
「空きはあんのかよにーちゃん」
「あるよ。ポケモン達が実に喜んでたから、つい持ち出した菓子式の薬を全部置いてきた」
「そんなもんあんのか」
「ホウエン特産のポロック亜種だな。ポフィンは美味しいんだけれども混ぜ物が多すぎて薬にはならないお菓子にしかならないし
その点かなり木の実率の高いポロックならば、作り方によっては原料の効果を残せる。なんで美味しくて体力回復出来るオボンポロックとか持ち歩いてたんだよ。ケース毎さ
カロスじゃミアレでしか売ってないからケース持っててもって、嵩張るケース毎置いてくれば小さなポケモン一匹なら入るさ」
『(しょうがありませんわね、許しますわ)』
ディアンシーをバッグに入れ、口を閉めては不安がらせるだろうからあくまでも上から布を被せるだけにする
そうして、少し歩くことで、ジャケット男の近くまで辿り着く
やはりというか、アズマからすれば見覚えはない男……と、その、影に隠れていた少女だ。だが、やっぱり見覚えがあるジャケットだった
……ジャケット以外は、ごく普通の格好。ジャケットを脱がれたら、単なる旅人の兄妹だと、アズマはすれ違っても何も思わないだろう。いや、追い掛けて来られていても、接触されなければ向かう町が同じなんだなと納得してしまうかもしれない。その程度には、悪の組織という感覚はない
……だが
「そこの少年」
男の方が、言葉をアズマに投げ掛ける
「はい。何でしょう」
「……貴方のポケモンに用があるのです。見せてはくれませんか?」
慇懃に、男……ラフな服装の上にジャケットを羽織った、気弱そうなメガネの青年はそう告げる
「いきなりそう言われても、何故という」
「実は、ポケモン占いをやっていまして」
「お断りします
占いは、あまり信じない質なので。未来予知は、まあ、信じますけれどもね」
……実際に、ポケモンの技の中にあるのだし
「いえいえ、是非やらせて下さいよ」
「損は、ない」
青年に合わせるように、背後の少女も続ける
「……それは、貴女方にとって、だろう
ラ・ヴィ団」
アズマのその声と共に、背後のバッグの中で、小さなポケモンが頭を抱える感触が、その背に伝わってきた
「……ゴース?」
「ダッセー、兄ちゃん?」
姿を消して背後から近付こうとしていたのだろうか。ガスのような姿の、丸い玉のようなポケモン……ゴースが、その気に圧されたのか、姿を見せ、固まっている
「何、してるの?」
「人を、驚かそうとしたんだろう?」
呟く少女に、静かに、抑えて、ポケットの下でボールを握り込み、アズマはそう答えた
「人を襲うなんて、悪いゴースだな」
「どうして、姿が……」
「何でも、おれは真っ黒いオーラを持ってるらしいからな
それが、怖かったんだろう」
「……」
男達は、何も応えない
僅かな沈黙。誤魔化しに走り、アズマ達を見逃すか。それとも、このまま行くか。向こうにも、考えがあるのだろう
そして……
「ゴース、昏い少年に『したでなめる』!痺れさせれば此方のものです」
結果は、交戦
……だけれども。だからこそ。アズマは、ショウブに最初から警戒を促していたのだ
「ゲッコウガ!」
『コウ、ガッ!』
アズマの背後に、水で作られた手裏剣が降り注ぐ。それは見える範囲ではポケモン不在故か油断していたのだろう。回避の意思すら間に合わずにガス状の体に突き刺さり、はぜた
そして、一匹の青い……まるでニンジャのようなすらりとしたガマが、アズマとショウブの前に降り立った。カロス地方のほぼ固有種だが、全地方的にとても有名な、それこそ最近の映画を見た人間ならば知らぬものは居ないだろうスター。セレナ関連で実在が確認されたあの伝説のポケモンと、今年の少年トレーナー人気を二分したと雑誌に特集まで組まれたポケモン。ゲッコウガである。既に、ショウブの手であの日のゲコガシラは進化を遂げていた
「サザ、行けるな」
アズマも、握り込んでおいたボールを投げ、モノズを出す
「悪いな、悪い奴等。オレサマとゲッコウガが片付けてやるぜ」
「おれとサザ、よりもこの少年とゲッコウガは強いかもしれないな。やる気か?大人しく捕まる気は……」
「行って」
少女が、静かにボールを投げる。捕まる気は無いと、アズマ達には見えた
「……アブソル?」
見えたのは、白いすらりとした影。災いを察知すると言われるポケモン、アブソル
「一匹かよ。それでオレサマに勝てると思ってんの?」
「十分」
「言うじゃん。そう思うよな、ダッセー兄ちゃん」
ショウブの言葉に、アズマは……頷かなかった
アブソルの姿を見た瞬間から、漠然とした危機感があったから
そうしてそれは、直ぐに……現実のものとなる
青年側が、懐から何かを取り出す
それは、アズマがビオラから貰った日時計の欠片に酷似して、けれども何か違う石
『(お母様の)』
「姫、危ないから隠れていて欲しい」
『(ピンクダイヤですわ、どうして)』
「まっ、関係なんて」
「ショウブ、油断はするなよ」
眼前で、青年は後方の少女へとピンクダイヤを投げ渡す
その瞬間、アズマの右手に痛みが走った
……何かが、腕に残った水晶と共鳴している?
また、あのメガロポリスへの転移が起きるのか。身構えるアズマの前で、少女は手を翳す
その左腕に、線の細い少女にはあまりにも似つかわしくない、非常にゴツい腕輪が見えた
色は漆黒。人工物らしく、一部には赤いコードや金属光沢が見て取れる
「ギルぅぅっ!あの腕輪を壊せぇっ!」
幾ら悪の組織だろうとはいえ、あまり人間に向けて攻撃をさせたくはない。その縛り……ポケモントレーナーであれば大半の人間が当たり前の事として心に留めてもいないだろう常識を破り、焦燥感に駆られてアズマはそう叫ぶ
その声に、待ってましたとばかりにヒトツキが飛び出す
だが、それは遅すぎた
「メガ、ウェーブ」
ヒトツキが動く前に、少女の腕輪と、ピンクダイヤが反応する。ゼルネアスのオーラを受けて精製される宝石、それは生命のオーラの塊そのものである。それは、腕輪に取り付けられた増幅装置と反応、一つのシンカを発揮する
「ゲッコウガ!『みずしゅりけん』!」
エネルギーが、はぜた。ピンクダイヤのエネルギーは、薄い桃色の波となってアブソルを包み込み、余波でヒトツキが延ばした影を、そして水手裏剣すらも吹き飛ばし
晴れたとき、アブソルは最早普通のアブソルでは無かった
メガウェーブバングル
分類:だいじなもの
ラ・ヴィ団の一部メンバーに与えられている黒くてゴツい腕輪。メガウェーブを放ち、自身のポケモンをメガシンカさせる効果を持つ
通常のメガリングに比べて、機械そのもの負担が大きく定期的に整備をしなければ壊れてしまう脆弱性、大きさによる取り回しの悪さ、起動に際して生命波動の籠った石が必要である、暴走に近い状態となる為メガシンカ中のポケモンは補助技を使用出来ない(補助技の命令を無視して適当に覚えている攻撃技を適当に目についた相手に放つ。しっかり相手を命じていれば対象はそれに従う。全補助技構成の場合悪あがきする)事等が劣る
逆に、バングルから波動を放ち強引にメガシンカさせる事から、共鳴が必要なくメガストーン無しでのメガシンカ及び同時メガシンカが可能、波動増幅によりオーラを纏いメガシンカ中常に能力上昇、半分暴走に近く絆を無視してメガシンカ可能等の利点を持つ
総合すると、素養があるポケモンであれば強引に暴走メガシンカさせられるものの、ポケモンへの負担が大きいメリットデメリット共に大きいメガシンカシステムであると言える