ポケットモンスター &Z   作:雨在新人

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vsゲンガー

そうして、アズマは直ぐに青年に追い付く

 謎のアブソルによる追撃は特には無かった。ショウブとゲッコウガ、そしてフライゴンはしっかりと戦えているようだった。それは、別にアズマもそう心配はしていない。正直な所、現状自分よりも上のトレーナーである事なんて、アズマには分かりきっていた事だから

 焦る足は何時もより早く、追う者へと手をかける

 

 「待てよ、ポケモンハンター」

 「犯罪者であるかのような」

 「いや、犯罪者だろ。姫を返せ」

 「貴方のポケモンでも無いはずでは?」

 「それもそう

 けれども、おれの依頼主なんだ。離れられると此方が規約違反になってしまう」

 青年は、ディアンシーを手に抱えたまま逃走を計っていた。ボールでの捕獲は、何故かは知らないが特に狙ってはいないようだ。どんなポケモンでも逃がさない究極のマスターボールがあるならば当の昔に使っているだろうからそれは持っていないとして、高性能のボール、特に強引な捕獲を可能とするハイパーボール(その販売自体が基本的には強いトレーナー相手にしか認められていない)も無いのだろう。戦わずしても、ハイパーボールを持っている事自体が強いトレーナーの証、それを信じて捕まるポケモンは多い

 ……いや、とはいえアズマのように嫌われていれば、そのハイパーボールもモンスターボールとそう変わらず、まともに捕まえられないのかもしれないが

 

 「ゴース!」

 「サザ、撃て!」

 アズマの頭の横を、黒い波動が駆け抜ける

 『あくのはどう』である。青年がなりふり構わずトレーナーを狙ってくることは分かりきっていた。一度、追い込まれてもいない状態にも構わずそれをさせようとしていたのだから

 ……その辺りの禁忌は、フレア団は徹底していたらしい。元が元だけに、フレア団、アクア団、マグマ団はトレーナー狙いをする団員はほぼ居なかったとか。逆にロケット団では追い詰められるとトレーナー狙いが横行していたというのを、何処かの番組でやっていた事をアズマは覚えている

 

 「返して貰えないか?」

 更に近付きながら、アズマはそう問い掛ける

 恐らくは、答はノーだろうと思いつつ。此処ではいそうですかと返してしまうくらいなら、そもそも襲ってこないだろう

 いや、実は持ってる手持ちはゴース一体で、戦闘は妹なのかもしれないあの少女の謎アブソル頼み、ハクダンの森でやりあった二人のジャケットから聞いたアズマの戦力(ポケモン)ならばあの一体で蹂躙出来ると踏んで行動していたのかもしれない。フライゴンがアズマを探してきてくれておらず、ショウブと会っていなければ、その推測は全くもって正しかった。それならば、自身は弱く、追い込まれたらあっさり返す可能性も無くはないのだが……

 「返す訳がないでしょう?」

 「そのうち、ジュンサーさんが駆け付けてくる。この辺りに旅の人が居ないってことは、巻き込まれないように、そして止めれる人を呼ぶ為に、ヒヨクシティへ向かったって事だ

 その前に……」

 「その前に、目的を果たして撤退するまで」

 「ギル、『まもる』!」

 咄嗟に、アズマはそう叫ぶ

 

 だが、ほぼあらゆる技を防ぐはずの緑色の防壁は意味を為さず、ヒトツキの体は吹き飛ばされる

 「うぐっ」

 その刀身で浅く二の腕を切り裂かれながら、何とかアズマはその体を受け止めた

 「『シャドーパンチ』……」

 ぼんやりと、アズマは食らったのであろうその技の名前を呟く

 『シャドーパンチ』。数少ない『まもる』を無視出来る技である。原理としてはとても簡単。『まもる』のフィールドは使ったポケモンの周囲全体に広がり、すべての技のエネルギーを弾く。故に動けず何もしていなければ単なる一時しのぎながらほぼ無敵の防御技として知られるのだが……逆に言えば、そのフィールドを通らなければ技のエネルギーは弾かれない。そして、『まもる』自体は光は通す

 故に、だ。影を伝い、相手ポケモン自身の体……影が掛かったその場所、つまりは『まもる』のフィールド内から放たれる技は通してしまうという訳だ。そして、シャドーパンチは影に紛れて殴る技、なのだが、一部のポケモンは、影を通し、影の中からシャドーパンチを撃ち込むという芸当を見せる。というか、ベトベター系統以外のポケモンは影を通して撃ってくる。だからこそ、その一撃は防げない

 そうして、アズマの前に一匹のポケモンが立ち塞がる。不気味なようなけれども愛嬌のある姿から、割と女の子にも人気のあるアイドル級のポケモン。されども、その実力から一線級のトレーナーでも愛用する人間が多い……(アズマの家の老執事等もその一人だ)身近な手足に、割と幅広で顔と一体化した胴の剽軽(ひょうきん)な姿のゴーストタイプの代表とも言えるポケモン。ゴースを連れているなら、居ても可笑しくなかったその最終進化系

 ゲンガーが、青年の前に忽然と姿を現していた

 

 「ゲンガー、か」

 「ええ。昏い少年、貴方にゲンガーは倒せない」

 青年はそう嘯く

 無理は無い。ゲンガーとはゴース系統の最終進化系。その種としての実力はそれはもう折り紙つきだ。執事の連れている同種は謎の黒と緑のポケモンにはなすすべ無く倒されていたが、あんなものは例外も例外。基本的にはとても強力なポケモンだということは、アズマは身に染みて知っている

 「……そうとも、限らないぜ?」

 だが、アズマはその言葉に対して、不敵に笑う。あまり似合わないが、捕まっているディアンシーに、安心しろというように、無理に不敵さを取り繕う

 「そんな未進化のポケモンで、ですか」

 「信じてるからな。ギルなら、勝てる

 ゲンガーは強い。確かに強い

 けれども……」

 一瞬、モノズから目を逸らさせるためにわざとモノズは呼ばない

 ふらふらと、アズマの手からヒトツキが浮かび上がる

 「素早く、強く、スタミナが無い

 他の強豪に比べれば、幾らか御しやすい」

 ヒトツキが耐えてくれた事から、それも分かる

 幾らゲンガーとしては苦手な方らしい拳を使った一撃とはいえ、ヒトツキ……つまりはゴーストタイプのエネルギーが良く効くはずのゴーストタイプのポケモンを倒しきれなかった程度の実力。決して侮って良い訳ではない。けれども、あのゲンガー自体は、そう恐れるものでもない

 少なくとも、アズマの知る執事のゲンガーは、もっと強かった。更には、当時執事のゲンガーにアズマとヒトツキは勝てなかったが、今は違う。モノズが居る

 ゴーストタイプのエネルギーに対して耐性を持ち、悪タイプのあくのはどうはゲンガーに対しては抜群の効果を発揮する

 

 こっそりと、ポケットからひとつの石を落とす。黒く輝く悪タイプのエネルギーの結晶、ジュエルという奴である

 モノズはアズマの影に隠れるように駆け寄り、その石を口に加える

 

 「……どうした?未進化のゴーストタイプなんかに、負けるのが怖いのか?」

 アズマの口をついて出るのは挑発の言葉。正直な話、有利な点は幾つもあるが、それでも尚ゲンガーが強いポケモンである事自体は疑いようがない。やるならば、一撃で仕留める必要があるだろう

 「毒も効かないし、な」

 毒タイプエネルギーは鋼タイプには無効化される事で、更に煽る

 狙いはひとつ。ゲンガーの性質を使ってこさせる事。正直な話、ゲンガーは丸っこい姿からは想像もつかない程に速い。『シャドーボール』の撃ち逃げ戦法でも狙われた日にはどうしようもないだろう。この辺りの木々の影の中にも潜まれ、ヒトツキ達はまともに狙えないまま翻弄される

 だから、狙いを絞らせる。倒しに来させる

 「何より、自慢のパンチを耐えられるんだから、お笑い草だ」

 更にアズマはまだ煽る。さあ来いよ、此処までバカにされて良いのか?と

 自分で言っていて、笑えてくるが。何が自慢のパンチだ。カイリキーじゃないんだから、パンチが自慢の訳がない。ゲンガーはそんなポケモンではない。いや、頭に紅のハチマキを巻き、伝統的にポケモントレーナーから三色パンチと呼ばれる技を駆使して並み居るポケモンと殴りあった格闘家ゲンガーなんてポケモンをリーグ中継で見たことはあるのだが……

 

 「ゲンガー、潰して差し上げろ、その思い上がりを!」

 そうして、その狙いはあっさりと実る。拍子抜けするほどに

 ゲンガーがヒトツキへと迫り、そうして姿を消す

 ……それを待っていた、とアズマは動く

 煽った理由はとても簡単。ゲンガーは影に潜むことが出来る。影に潜まれた状態ではほとんどの攻撃が当たらない。影は地面を殴っても殴れない。地面を抉っても変形した地面に残るだけ。引きずり出す事もほぼ出来ない。確実に勝つ為に、それを行う事を狙わせた

 ……実に、それはもう実に簡単なロジック

 「ギル、おれに……『かげうち』!」

 だが、此処に例外が存在する。影に潜んでいるならば、潜まれた影自体を操れば良い、それだけの話。そして何より、『かげうち』により、影はエネルギーを纏い、実体を持つ

 つまりだ。『かげうち』や『シャドークロー』といった自分の影を操る技を使えるポケモンの影に潜ませれば、ゲンガーの場所は一点に絞れる。影を実体化させるのだから、当然影の迎撃として攻撃も可能でダメージも通るはずだ

 「『あくのはどう』、撃てぇっ!」

 モノズの射線から右横に飛び退きつつ、アズマは叫ぶ

 「っ、ゲンガー!」

 「遅い!今さら逃げられるものか!」

 そうして、ヒトツキの放った影を、その中に潜むゲンガーを、アズマの放つオーラとジュエル、二つの悪のエネルギーを受けた波動の砲撃が、粉々に打ち砕いた

 波動はそのまま木々の頂点を掠めるように空へと撃ち上がり……

 後には、目を回し、影に隠れきれなくなったゲンガーだけが残った




まもる(&Z版)
あらゆる技のエネルギーを跳ね返すエネルギーフィールドを纏い殆どの攻撃を防ぐ。相手の影を通して移動しフィールド内部で殴り付けるゴーストタイプのシャドーパンチ、同様のロジックで攻撃するゴーストダイブ、相手の未来座標に攻撃を元々置いておく未来予知、発動前まで周囲の時を戻す時の咆哮、フィールドのある空間そのものをねじ曲げて何処かへ消し去る亜空切断、反転世界からフィールド内に攻撃するシャドーダイブ、空間をフィールド内に繋げる異次元ホールや異次元ラッシュ、相手にフィールドを解かせてから殴り付けるフェイント等は防げない。また、伝説級のポケモンであれば跳ね返しきれない莫大なエネルギーで強引にフィールドをぶち破る事もある。カロス地方での使い手はほぼ居ないが、Z技とは伝説ポケモンの力を借りて放つ一撃である為、Z技も伝説ポケモンの技と同一の性質を持つ

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