「ゲッコウガ!?」
その存在に、ふらつきながら立ち上がったアズマはそう叫んだ
ゲッコウガが居ることそのものは可笑しくはない。可笑しいのは、そのゲッコウガが
言ってはアレな話ではあるのだが、普通のアブソルとゲンガーであれば、同等の練習をしてきたならばゲンガーの方が数段強いはずだ。更には、ゲッコウガは水/悪タイプのポケモン、悪タイプのアブソルに対しては有利に戦えるはず。幾ら謎の変化を遂げていたとして、一方的にやられることはないだろうと、アズマは皮算用していたのだ
だが、現実はそうではなかった。ゲッコウガですら、あのアブソルにはまともにダメージを与えられずに気を失った
「……ライ」
ふらつきながら、一匹のポケモンがアズマの前に降り立つ。借り物のフライゴンだ。長年の相棒はウインディだが、フライゴンとて執事と長い間旅をしてきた歴戦のポケモン、アブソルとの相性はゲッコウガより悪くとも、実力はそれを加味しても負けるものではない。それでも、ふらついている。キズついている
「にぃちゃん、つえーぞこいつ!」
「そう、みたいだな……」
呟くアズマの右手で、突き刺さったまま取れなくなってしまった黒水晶が、鈍い光を放った
『(どうするんですの?)』
「やるしかないだろ、ギル?」
アズマの声に、当然、とでも言いたげに頬を布で撫で、ヒトツキがその左腕に絡み付く
「にぃちゃん?」
「ライ、サザ、そしてショウブ
時間を稼げるか?」
「何する気なんだ、にぃちゃん」
「切り札さ。おれの生命の波動をヒトツキに吸わせて、『せいなるつるぎ』を叩き込む
それで勝てなきゃ、もうお手上げ」
聖なる剣とまで呼ばれる技は格闘タイプエネルギーに分類されている。悪タイプであるはずのアブソルには効果は抜群だ。今のヒトツキでは、ヒトツキ種の特徴として行う吸命でアズマの生命を吸いとらなければまともに放つことすら出来ないほどの強力な技、当てられれば勝負は決まるだろう。逆に言えば、当てなければいけない。素早いアブソルに自在に当てられるかというと否や。フォローがなければ当たらないだろう
そう、行動指針を決める
「行こうぜ、リザードン!」
ショウブも、もう一体のポケモン……リザードンに指示を出す
そうして、行動を開始しようとして……
「『ふぶき』、おねがい」
『ソルッ!』
死神のような冷たい冷気が、アズマの頬を撫で上げた
「ギル!」
咄嗟にアズマが頼るのは、やはりというかヒトツキ。一番共に歩んできた期間が長いパートナー
その意図を受け、掲げたアズマの左手で、アズマごと皆を庇うようにヒトツキが緑のオーラを放つ。『まもる』、である
以心伝心。最早叫ぶだけで意図は伝わる。皆を、他のポケモン達を、守るために盾となる
「にぃちゃん!」
「大丈夫、の……」
はずだ、と言い切る事は、出来なかった
ヒトツキが布を腕から離し、その柄を振ってアズマを撥ね飛ばしたから
「っと」
何とか倒れかかる体のバランスを取り体勢を立て直したアズマの眼前で、基本的にはどんな攻撃も防ぐはずの緑色の壁が砕け散る
アブソルが羽根のような羽毛を震わせて放った冷気はそのままヒトツキを巻き込み……後には、一本の剣を閉じ込めたアズマの背丈を越える大きさの氷像だけが残った
「あいつと……同じ」
呆然と、アズマは呟く
似たような現象は見たことがある。そう、それを見掛けてからまだ一月も経っていない気がする。謎の緑のポケモンの放った、1000本はあるのではないかというオーラの矢。あれは当たり前の事のように、技のエネルギーを遮断する特殊なエネルギーであるはずの『まもる』の防壁を砕いてきた。対『まもる』用に編み出されたという特殊な技でも無いだろうに、異様なオーラで押し通した。それと同じ現象
「どうすんだ、にーちゃん!」
ショウブの叫びにも、アズマは答えられなかった
切り札としようとしていたヒトツキは、氷の中に閉じ込められた。ボールに戻せば、と回収用のボールの光を当てるも、氷の表面が鏡面化しているのか光は弾かれる。溶かすにしても、火力は相当必要で、溶かしてもそもそも戦えない可能性もある。アズマの計画はあっさり潰えた
かといって、『まもる』でヒトツキが盾になってくれなければ、皆凍っていた可能性はあるので間違った選択ではない。ヒトツキが守ってくれたその時間で、倒す
アズマはそう結論付け、アブソルを睨む
『ソルッ!』
「もう一度」
アブソルを連れた少女の声が響く前に、そのポケモンは血走った赤い目で頷いた
「……どうする?」
「やるしかない!リザードン、『だいもんじ』で跳ね返せ!」
ショウブの言葉を受け、火竜が下ろした頭の前で腕を交差
アブソルが全身を震わせ冷気を放ったその瞬間、頭を突き出して火弾を放つ!
『だいもんじ』。激突すると文字通り大の形を描くように炎が燃え広がる、炎タイプでも有数の強力な技だ
「いっけぇぇぇっ!」
……だが
その火弾すらも、タイプ相性的には有利なはずのアブソルの冷気に押し返され……放った当ポケモンの眼前で炸裂する
「リザードン!」
炎の中から、傷つきながらも火竜は健在な姿を見せる
……とはいえ、一度も有効打を与えられていないのは確か
「逆転勝利だ、私を離せ」
勢い付いたのか、アズマが縛っておいたジャケットがそうふざけたことまで言う始末
さあ、どうする……
と、唇を噛んだアズマは、小さなポケモンが酷く怯えている事に気が付いた
「……姫」
『(……怖い、暗い、痛い、痛い、痛い、痛い
憎い、憎い、憎い、憎い……)』
「姫、どうしたんだ」
ぼんやりとアズマの脳裏に流れ込んでくるテレパシーは、酷く暗く歪なもの。おおよそ、普通ではない
『(命の波動が……暴走している
お願い、ですの)』
「何を」
『(ピンクダイヤモンドは命のダイヤモンド。ゼルネアスの力に近いものですわ
だから、それによってダイヤモンド鉱国は栄えるんですの)』
「その石が、あのアブソルを苦しめている、と?」
アズマの視界に映るのは、桃色の石を受けて、様々に光を放つ少女の腕にはあまりにも大きすぎる腕輪。恐らくは、増幅装置なのだろう
『(お願いですわ!過剰すぎる命の波動で、あのままでは……)』
「分かった
姫、ならば……おれは何をすれば良い」
『(そんなの、分かりませんわ!)』
「おい!」
突然の丸投げに、思わずアズマは声を荒げる
『(でも、止められるとしたら
あなたしか思い付きませんの!その昏い命のオーラしか!)』
イガレッカ!と、脳裏にとても恐ろしい鳴き声が響き渡った
そんな気が、アズマにはした
それだけで、今のアズマにとっては十分だった
「……姫。ピンクダイヤモンドを作ってくれないか。紛い物で良い」
『(全然長く持ちませんわよ。それに……自分のポケモンにも同じことをさせるというなら許しませんわ)』
その時、アズマの脳裏に浮かぶのはあの幼い日のルカリオ。あのルカリオは、理性的な目をしていた。そして、その全力をもって、アズマという挑戦者を叩き潰した。あれが、あのジムの求めた強さの基準だったのだろうか。アズマにとって重要な事は一つ。命の波動による変化そのものではなく、あのジャケットの少女の腕にある装置による変化が、ポケモンに大きな負荷をかけるだけということ。あのルカリオは、自然体だった
「オーラが通りやすいピンクダイヤなら、それで良い。あのアブソルを救うために、頼む」
『(……信じますわよ)』
「任せろ」
「『ふぶき』!」
そんな会話を引き裂いて、少女が叫ぶ
三度放たれた冷気は、今度こそヒトツキに止められることはなく……
後方に控えるディアンシーへと手を伸ばす
「早く!」
『(どうなっても知りませんわよ!)』
そんなアズマを庇うように、フライゴンとモノズが眼前に立ちはだかり……
そうして、全ては凍り付いた
「ライ……サザ……
悪い、有り難う」
産み出されたのは、一つの氷像
けれども、アズマの全身を氷付けにするはずだったろう冷気は、氷が苦手なはずなフライゴンの壁により減衰し、下半身を凍らせるに留まった
そうして、伸ばしたことで凍らなかったその右手に、しっかりと二つのダイヤを握りこむ
「ショウブ、リザードン、受けとれ!」
そうして、投擲
手首のスナップ……モンスターボールを華麗に投げられるようにという練習で鍛えられたそれを使うには黒水晶が邪魔で、腕全体を使い石を投げ渡す
そのアズマの右手で、黒水晶が強い光を放った
「にぃちゃん!?」
「やるしかない。命の波動に耐えられるのは、お前たちしか居ない」
投げ渡したダイヤモンドと腕の合間に七色の光が走り、繋がる。腕の黒水晶を中継し、二つのダイヤモンドが結ばれる
「叫べ、ショウブ!リザードンと君はきっと強い。出来るはずだ
限界を越えた命の波動。進化を越えたシンカ……」
「煩い……。『ストーンエッジ』」
アブソルの周囲に飛礫が舞い、一斉に残されたまともに動ける人員……即ち、ショウブを狙う
唯一動ける火竜は、トレーナーを庇うように、本来であれば避けるべき石の雨に飛び込み……
「「その名……メガシンカァァッ!」」
七色の光が、弾け飛んだ
アズマ「メガストーンとキーストーンは作った」
伝説がまだ居ないせいで主人公がインフレに取り残されかけている……
次回 激突!メガウェーブvsメガシンカ